松葉杖をついて退院し、半ば無理矢理職務に復帰した。 次の使徒が来るって言うのに病院で寝ているわけにはいかない。 執務室に日向を呼びだした。 「葛城さん、大丈夫でしたか?」 「ええ、もう大丈夫よ、それよりも、私がいない間のことを教えてくれるかしら?」 「はい、大きな変化と言うことはないとも言えるかもしれませんが、明日、弐号機の起動試験が行われます。初号機と零号機は明々後日に起動試験と機体連動実験が行われます。」 「・・・そう、もうすぐ戦力が揃うわね、チルドレン同士の顔合わせは?」 「今日行う予定です。色々とあってのびていましたので、」 「私も立ち会うわ」 「わかりました。1時に第4会議室です」 「そう、」 「これが、いままでに会ったことや報告書を纏めておきましたので目を通しておいてください。」 「わかったわ」 シンジ・レイとアスカ・・・今の段階では、反発しかしえないであろう・・・ (・・・どうしたらいいのかしら?) とりあえず、アスカの方に事前に会って何か言っておいた方がいいと思いアスカに会いに行くことにした。 アスカが泊まっているホテルに迎えに行くことも併せて向かう。 なかなか運転しずらかったが・・・ ホテルの駐車場に車を止めて、中に入りエレベーターでアスカの部屋に向かった。 「アスカ、ちょっと良いかしら?」 「あ、え!?ミサト?アンタ大丈夫なわけ?」 「ええ、あけてもらえるかしら?」 「わかったわ」 アスカがドアを開けて現れるが、ミサトが松葉杖をついているのを見てびっくりする。 「・・・いったい何のようよ??」 わざわざ松葉杖をついてまでくるとはいったい何があったのかと言う顔をしている。 「ちょっと話があるのよ、」 中に入って、座って話をする。 「今日、シンジ君やレイと会うことは聞いてるわね」 「ええ、聞いてるわよ、このアタシが名誉の負傷したのに見舞いの一つもしにこない二人ね」 「二人はアスカのこと知らないからね、それに、ネルフの方でも色々と会って、延び延びになってしまってたのよ」 苦笑しながら返す。 「まあ良いわ、で?」 「ええ、二人のことを事前に教えておいた方がいいと思って言いに来たの」 「そなの?」 「ええ・・・二人とも色々と訳ありだから、何も知らないと腹が立ってしまうでしょうからね」 「どんなことなわけ?」 「まず、ファーストチルドレンのレイからだけど・・・レイは、エヴァ開発のために小さな時からずっと本部の中にいて、ある意味実験動物のように扱われてきたわ・・・その間、極限られた者としか関わることもなかったから、かなり人見知りをするようになってしまっているの・・・」 アスカは少し複雑な表情を浮かべている。 「最近は漸く一般社会にも触れられるようにもなってきたけれど、なかなか溶け込めていないわ」 「・・・」 「おそらく、初対面の状態でレイがアスカに対して心を開くことはあり得ないと思うわ」 「・・・・・そう、」 どこか、素っ気のない返事が返ってくるが、ミサトはこれで良いと感じた。 「それで、もう一人・・・サードチルドレンのシンジ君のことだけど・・・」 シンジのことはどう言えばいいのだろうか? 下手に言えばアスカのプライドをいたずらに刺激するだけであるし、言わなければ衝突は目に見えている・・・ 「・・・シンジ君は・・・はっきりと言えば、たんの素人よ」 「素人?」 「ええ・・・素人、ほとんど何も知らない・・・何も知らないのに突然呼び出されて、半ば無理矢理エヴァに乗せられたのよ」 「なによそれ?司令の息子なんでしょ」 そう、その通りであるのだが・・・ミサトの言うことも事実である。 「・・・何でなのかは私にはわからないわ・・・でも、シンジ君はもう何年も司令とはあっていなかったし・・・突然、呼び出され、無理矢理乗せられた・・・今だって、好きこのんで乗ってるんじゃないわ・・・乗るしかないから乗っているのよ・・・・」 「何よそれ!ふざけてんの!?」 「違うわ、確かに、アスカにとっては腹立たしいことでしょうけど・・・例えば、目的・・・誰かや何かを救うためとか、自分の地位や名誉のため何かに戦うというのも目的になるかもしれないわ・・・でも、」 「は?・・・そんなの自分のためにきまってんじゃないのよ」 「・・・確かにそうね。でも、自分の地位とか名誉に興味がなくて・・・しかも、その歩んできた人生で良いことなんか何一つ無くて・・・戦ってまで守りたい・・なんて思う物や人がいない子だったらどう思うかしら?」 「え?」 アスカは固まってしまった。 確かに、自分の地位や名誉などの興味のない人間がいることは知っているし、想像できる。しかし・・・その上に、守るべきものがなければ、確かにすすんで戦う理由というものが思いつかない。 「・・・・そんなの人類の命運がかかってるのよ、守るべきものがあろうがなかろうが進んで戦うのが当然でしょ!」 「・・そうね・・・でも、この世界自体を守るべきものととらえていなければどうかしら・・・?」 「・・・・」 「でも、それでは困る。だから、そんな子には、進んで戦ってもらわなければならない・・・・それが本当に進んで戦っていると言えるかしら?」 「・・・言えないわね・・・」 「・・・それが、今のシンジ君なのよ、」 アスカは眉間にしわを寄せて何事か考えているようだ。 うまくいったのであろうか?それならばいいが・・・ 「そろそろ行きましょうか?」 アスカは腕組みをしながら黙って立ち上がり、ミサトも松葉杖をつきながら部屋を後にした。 ミサトが運転する様を、アスカはいろんな意味ではらはらとしながら見守っていたが、結局何事もなく本部に到着した。 二人で通路を通って、会議室に向かった。 会議室にはいると既にシンジとレイ、そのほか、日向やリツコ・マヤなどが集まっていた。 「遅いわよ、」 「ごめん、少しアスカと話してて遅くなったわ」 アスカは二人に複雑な視線を向けた。 二人も、アスカに目を向けてくる。 「早速だけど紹介するわ、この子が、惣流アスカラングレーよ」 アスカが一歩前にでる。 「そして、碇シンジ君と綾波レイよ」 「これから宜しくね」 どこか複雑な表情を浮かべたまま挨拶をする。 「うん・・こちらこそ宜しく」 「ええ、」 アスカがレイに視線を向けるとレイは軽く頭を下げただけだった。 (まあ・・仕方ないわね・・・) 話を聞いていたからか、アスカは複雑な表情を浮かべるだけで終わった。 「さ、顔合わせも終わったし、これから食堂で何か一緒に食べない?おごるわよん♪」 ミサトの発案で、職員食堂で日向を加えた5人が食事をとることになった。 それから、30分後、日向とミサトが間にはいることで二人とアスカとの間に壁を作らずに話を持たせていけるようになっていた。 この状態で、直接会話がそれなりに弾むようになれば、3人の関係は良いものになっていくだろう。 「葛城さん、そろそろ会議の時間ですけど・・・」 「あ、そう・・」 確かに時計を見ると会議の時間が近い、 「私たちは会議に行くけど、貴方達はどうする?何か頼むんだったら、私につけておいてもらってかまわないけど」 「じゃあ、まだ、少し話してるわ、ちょっと聞きたいこともできたし」 「そう、じゃあ、又ね」 「はい、頑張ってきてください」 ミサトと日向は、席を立って、会議室に向かった。 夕方にミサトは帰宅した。 「ただいま〜」 「あ、お帰りなさい。」 「あれからどうだった?」 「ええ、惣流さんっていい人ですね。」 初めての接触でいい人発言がでた。 何かかなり良好な関係になっていきそうである。 「そう、それは良かったわ」 「ところで・・・ミサトさん、体の方は大丈夫なんですか?」 「ええ、大丈夫よ、こんな程度なんでもないわよ」 「そうですか・・・夕飯出来てますよ、食べますか?」 「ええ、頂くわ♪」 3機の実験や試験もうまく行き、ミサトの傷も癒え、後は使徒襲来の日を待つだけとなった。 そして、使徒襲来当日、ミサトは執務室で作戦のつめをしていた。 レイを本部の守備として残し、シンジとアスカを出撃させて史実通りに撃破されたところで、NN爆雷を投下する。 これに関しては、万が一の備えとして、準備して貰った。 大きな流れはこれで良い・・後は小さなところをチェックしている。 特に、二人のチルドレンに関するものには入念に入れる。 1時間ほどして、警報が鳴り使徒の襲来が告げられた。 「・・・さて、行きましょうか、」 迎撃戦をするために初号機と弐号機は第3新東京市を離れる。 今、高速道路をミサト達が乗る発令車が走行している。 ミサトはモニター上に映し出されているマップをじっと見ていた。 「葛城1尉、あと15分で作戦ポイントに到着します。」 「そう、準備は怠らないようにね。万が一を考え、極力周囲に民家やシェルターがないところで戦わないとね」 「わかっています。ただ・・・足がつくほどに浅いとはいえ、海上では十分にエヴァの戦力が発揮されないところもありますから、微妙なラインではありますね。」 「相手の動きも水の抵抗である程度押さえられるわ・・・状況を見て、いつでも海岸まで引けるような戦い方が必要ね。」 「そうですね。」 やがて、作戦ポイントに到着し、2機のエヴァを中心に支援兵器が展開された。 「いい、目標に対しては、まずは弐号機が先行して攻撃を掛ける。それを初号機がバックアップする形よ。但し、決して踏み込みすぎないこと、いいわね」 『さっすが、ミサト、わかってるじゃない♪』 『わかりました』 「目標、まもなく海面にでます。」 「来るわよ!」 そしてモニターに使徒の姿が現れ、ほぼ同時に弐号機が飛びだしていく。 それに少し遅れて初号機がパレットガンで使徒を攻撃して弐号機を援護するが、弾はATフィールドによって弾かれている。 弐号機はソニックグレイブの間合いにはいるとATフィールドを中和し、そのまま跳躍して上半身だけ水面に出している使徒に向かってソニックグレイブを振り下ろし、一刀両断にした。 (アスカ・・シンジ君、ごめんなさい) 「よっしゃぁ!」 ミサトは、心の中で謝りつつ、アスカを油断させるという意味も含めて大げさにガッツポーズをする。 『どうミサト?これがアタシの実力ってもんよ、もう、このアタシがいたら使徒なんて』 『え?』 「なに!?」 分裂した使徒がそれぞれで一個の使徒になる。 『どしたの?』 「アスカ!後ろ!」 『え?きゃああ!!』 弐号機は再生した使徒に攻撃を受け吹っ飛び、そのまま初号機にぶつかって重なり合って倒れる。 すぐさま両機は起きあがって反撃するが、使徒は受けたダメージを瞬く間に修復してしまう。 『何よこれ!!』 『き、きかない!』 「・・・」 そして、暫くの戦いの後、両機はそれぞれ沈黙させられることになった。 「両機沈黙!反応なし!!」 「すぐに作戦指揮権の委譲の許可を申請して!!各部隊は、両機の回収と時間稼ぎを!!」 「「「了解!!」」」 その後は、史実通りに事は進んだ。 ミサトは帰りの道中、これからの展開を考え、それをうまく進めていくために具体的にどうするかと言うことを考え、又確認していた。 (・・うまく行くと良いけど・・・いえ、行かなくてはいけないわね・・・) 「まもなく到着します」 「そう、ご苦労様、」 「いえ」 窓の外の光景には既に第3新東京市が入っていた。