再び

◆第10話

「…1尉……葛城1尉…」
「…ほえ?」
 ミサトが目を覚ますと目の前にレイの紅い瞳があった。
「あら、レイ…おはよ」
「…おはようございます」
「起こしてくれたのね、ありがとね」
「いえ…」
 レイはお礼を言われてどこか少し嬉しげのようである。
 一緒に部屋を出て台所に向かうと既に食卓の上には料理が並んでいた。
「あんら、今日も美味しそうね…あ、シンちゃんおはよ」
 シンジの存在よりもご飯の存在の方が先に来たと言うことにシンジは苦笑しながらも挨拶を返す。
「じゃあ、早速頂きます」
「「頂きます」」
 そして、今日も美味しく朝食を食べ終わった頃に、インターホンが鳴った。
「あ、僕が出ます。は〜〜い!」
 シンジが玄関の方に駆けていった。
「ん〜、こんな時間に誰かしら?」
 誰なのか気になったミサトはレイを連れて玄関に向かうと、シンジとヒカリが話をしているのが目に入った。
「あら、」
「あ………おはようございます……」
 シンジへの物はなくなったがミサトへの物は存在する。
「あ、綾波さんも、おはよう」
 レイはぺこりを頭を下げる。
「あ、これ…授業のノートのコピー、勉強するには必要だと思うから持ってきたわ」
「あ、ありがとう…」
「綾波さんの分も、これ…」
 レイはペコリと頭を下げて、ノートのコピーを受け取った。
「あの…その、洞木さん…良かったら今度何かお礼をさせてもらえないかな?」
 その言葉にヒカリは少し驚いたような表情を浮かべる。
「あのさ…大したことはできないけど…して貰いっぱなしじゃ悪いし…」
 ヒカリはゆっくりと微笑みを浮かべた。
「うん、そのときを楽しみにさせて貰うわね…じゃあ、私はもう学校に行かないといけないから」
「うん、じゃあまたね」
(シンジ君が許したって事を感じたのね……私はそれを感じるのは無理でしょうけど……いえ、このことでは、感じるわけにはいかないわね……)


 ミサトは今日の事務処理を終わらせてこれからの作戦について又考えていた。
 事務処理に関しては日向が優秀であるため随分サポートして貰っている…それ故に、こうやってじっくりとこれからのことを考える時間があると言うことでもあり、その点では随分感謝している。
 先の作戦の時に纏めて貰った流用できそうな物のリストを見る…前回の作戦では結局使用しなかったが、これからを考える上では何か活用できるかもしれない…活用できなければ忙しい中纏めて貰った日向達には申し訳ないが、そうだとしても損はない事であるし、駄目もと的なことではあるが、
「………」
 この次の使徒は何も分からない停電の中で襲来した…あのときミサトは加持と一緒にエレベーターの中に閉じ込められていて何もしていない…更にほとんどこの使徒に関しては情報が残っていなかった。一応、国連軍などの形だけの報告書には目を通しはしたが、形が分かる程度で、その程度では役に立つとは思えない。停電の状況下では、自分は何も指示を下すことは出来ないであろうし、全く同じ状況ではないので殲滅できるかどうか…最悪無事にシンジ達がエヴァに搭乗できるかどうかすら分からない…前回のミサトのようにエレベーターに閉じ込められた状態だったらと思うとぞっとする。
「…運に頼るしかないか…」
 眉間にしわを寄せる…偶然的な要素が大きすぎる。ミサトの権限では何も具体的な対策を立てられない。部長級の会議で警備の増強などを提案することも出来るが、具体的な事例がない時点でそれは出来ない…ただでさえ疑われているのに、更に命取りにもなりかねない…
「…不自由ね…」
 作戦部長と言う作戦に関することのみ大きな権限を与えられている役職…だが、それ以外に関しては殆ど何も権限がないと言って良い…今ミサトがしたいことをするには余りにも不自由かもしれない。


 数日後、ミサトは日向を連れて浅間山に来ていた。
「深度1800」
「もう限界ですよ!」
「壊れたらウチで弁償します。後700お願いします」
「…分かりました」
 観測機はパーツを軋ませながら更に深くへと潜っていく。
(…もうすぐ使徒とぶつかる…)
「深度1850」
「反応がありました、分析開始します!」
 直ぐに反応が消える
「大破しました」
「どう?」
「ぎりぎりですが間に合いました。パターン青です。」
「…そう、」
 所長の方を振り返える。
「以後、この件に関する一切の指揮権はネルフが取ります。尚、過去24時間の一切の情報を封鎖します。ご協力お願いします」
 ミサトが一般職員を退室させると日向は直ぐに映像などの分析に掛かった。
「…葛城さん、これを」
 モニターには使徒の幼体らしきものが映っていた。
(同じね)
「……どうしますか?」
「殲滅する方法を考えないとね…早速本部に連絡を取りましょう」


 早速、殲滅作戦の概要を司令部に上申し、10分少々した後に回答が来た。
「葛城さん、殲滅作戦の具体案を纏め準備するようにとの指示です。現在本部の作戦局が総出で作戦に関して検討を行っています」
「私は本部に大至急戻るわ、日向君はここお願い」
「はい」


 本部に戻り作戦部の会議に参加する。
「現在までにまとまっている案は?」
「これです」
 ミサトはさっと書類に目を通した。
「D型装備を使って潜行した上での殲滅作戦がいくつかと言ったところね」
「はい」
「…私は火口の中、使徒の直ぐそばにNN爆雷を複数個投下して同時に爆発させることで、殲滅しようと考えているんだけれどどうかしら?」
「「「「「え?」」」」」
「確かに、浅間山は噴火することになるでしょう。麓の町への被害も深刻になるかもしれないわ…でも、もし万が一弐号機を失うようなことになれば、その被害は、浅間山どころか富士山の噴火よりも遙かに大きいわ」
「「「「………」」」」
「まあ、この作戦案は、司令の許可に日本政府の承認が必要でしょうけど…」
「……良い作戦ではないでしょうか?失敗してもエヴァは3機とも残っている。使徒を直接殲滅すればいいだけ、リスクを評価するとしたら十分な作戦だと思います。」
 誰が言ったのか、その言葉で会議はこれを第1案とすることに決定した。


 ミサトは碇と冬月の前でじっと二人が作戦案を読む終わるを待っている。
「…これが作戦案か?」
「はい、ほぼ全会一致で支持された作戦案になります」
 じっとミサトの目を見据えてくる…はっきり言ってやっぱり怖い。それが、確かめているだけなのか、疑っているのか…あるいはすでに…なのか分からないと言う部分も更に恐怖を深めている一因でもある。
「…反対する理由はない、だが、これはネルフの権限だけでは実行できない、それは分かっているな」
「は、はい」
「日本政府の決断を待つ…第1案と第2案…余裕があるのならば第3案までを実行する準備をしておけ」
「はい」


 浅間山が見える別の山に発令車などが集められている。
 そこにヘリでミサトを始めとするネルフ本部の作戦部のメンバーとシンジとアスカの二人のチルドレンがやって来た。
 上空には初号機と弐号機を載せた2機のウィングキャリアーが飛んでいる。
 そして、同時に多数のNN兵器を搭載した戦自と空自の爆撃機や特殊な輸送機なども……
「さて…吉と出るか凶と出るか…」
 ミサトはそう呟いた後、発令車に乗り込んだ。


 やがてすっかり準備が整い、後は作戦の開始を待つだけになった。
「準備は出来たわね」
「はい、」
「では、作戦を開始して、」
「了解」
 火口に多数の耐熱容器に入れられたNN兵器が沈められていく、
 何か、妙な動きがないかモニターに目を走らす。
「…特に、何もないわね…」
 暫くして、使徒が発見された地点に到達する。
「…いないですね」
「対流が早いようですね」
「ええ…大丈夫?」
「耐圧も耐熱も未だ大丈夫です」
「そう、じゃあ、そのまま続けて」
 以前の弐号機を直接沈めているときと違い、耐えられなくても失うものはない…とはいえ、それで、使徒が倒せるのか……
 どんどん深度が大きくなっていくに連れて車内に緊張が走ってくる。それは、やはりミサトも同じであり、今まで以上に異常がないか各モニターに目をやっている。
「まもなく予測ポイントです」
「余裕は?」
「まだ、若干は…」
「そう、」
「でました!反応ありました!」
「あと50の位置です」
 うっすらと映った反応がだんだん鮮明になっていく。
「カウント開始します。10、9、8」
(これで倒せればいいけれど…)
 カウントダウンの声が響く、そして0と言う声と共に全てのモニターが消え、次の瞬間大きな衝撃が襲ってきた。予想していた衝撃よりも大きかったのかミサトはバランスを崩してしりもちをついてしまった。
「いつつつ、どうなったの?」
 打ってしまった場所をさすりながら立ち上がり、状況を尋ねる。
「復旧まで暫く待ってください」
 やがてモニターが復旧し、映像が映し出される。
 モニターには浅間山の山体上部が吹き飛び、膨大な量の土砂が巻き上げられ巨大な茸雲を作っているのが映った。そして、更に膨大な量のマグマが吹き上がる。
「どう?」
「未だ…何とも、」
 無数の火山弾などが飛んでくるが、初号機と弐号機がATフィールドによって弾いている。
「パターンブルー!!反応ありました!!!」
 日向のその声で一気に緊張が高まる。
「シンジ君!アスカ!気をつけて!!」
 マグマの中から半身を失った芋虫のようにも見える使徒が現れた。
「攻撃して!!」
 配置されていた兵器が使徒に向かって火を噴く、使徒はATフィールドを展開しそれを防ぐ、その間に初号機と弐号機はこちらの山を駆け下り炎を上げ続ける浅間山を駆け上がる。火口から雪崩れ落ちてくる溶岩流や土砂、降り注ぐ火山弾などをATフィールドで防ぎつつ使徒に接近する。
 中和距離まではいると初号機がATフィールドを中和し、弐号機が一機にソニックグレイブを振りかぶり飛びかかる。ATフィールドを失ったことで初号機に溶岩流や火山弾が襲いかかり、モニターに映るシンジの顔がゆがむ。そして、次の瞬間弐号機が振り下ろしたソニックグレイブが手負いの使徒をまっぷたつにした。
 使徒がゆっくりと崩れ、溶岩流に飲み込まれていった。
「パターンブルー消滅しました!!」
「よっしゃぁ!!」


 帰りのヘリの中で、ミサトはシンジとアスカにジュースを渡した。
「はい、御苦労様、」
「どう〜ミサト!わかった?」
「ええ、凄かったわ、さすがアスカね。シンジ君も頑張ったし、本当にありがとう」
 二人はそれぞれ笑みを浮かべる。


 本部に戻ったミサトは早速被害などの報告を受けた。
 被害は、浅間山の大噴火に伴う物が殆どで、近くの都市が火山灰や火山弾、火砕流などで被害を受けているが、既に避難が完了していたことから、大きな人的被害はでていないとのことである。
「この程度で済んで御の字かもしれないわね」
(でも…よく考えたら…どちらの方が被害が大きかったのかしら??前回は、被害らしき被害はでていなかったとは言え、A−17の発令のこともある。今回は民間人に死者こそ出ていないけれど、物的な損害は結構な物ね、噴火はしばらくは続くし…)
「ま、いっか…で、今夜中に提出する必要がある書類は?」
「はい、これです」
 今その事を考えても仕方がないことだと思い声を掛けたミサトは日向から書類の束を渡され、早速その処理にかかった。