再び

◆第20話

 明日の弐号機の機体連動試験に向けて準備が進められている。
 技術部の職員は、使徒戦からこちらずっとフル活動で動き回っている。彼らの努力の結果、明日の試験は問題なく実行出来そうである。
 ……そうすると、問題はアスカの方である。
 ネガティブなスパイラルに陥っていなければいいのだが……帰りに様子を見に行こうと思う。もし、大丈夫なようなら、食事にでも誘ってそのまま遊び回って、帰ったら即ベッドに直行にさせてしまおう。
 疲れ切ってしまうのは、シンクロテストにはマイナスだが、スパイラルに陥るよりはずっと良い。
 愚痴の一つや二つは言われるだろうがリツコも分かってくれるだろう。


 で、ネルフ本部からの帰りアスカのマンションに寄ったのだが、インターホンでアスカを呼びだしてもアスカは出なかった。
(留守かしら?)
 どこかへ出かけたのだろうか?
 と言うことは、少なくとも外出出来るだけの安定性はあると言うことだろうか?それなら、今のところは大丈夫と言うことか、そう結論づけアスカのマンションを後にした。


 翌日、アスカを迎えにマンションにやって来たが……留守だった。
「おかしいわね?」
 携帯をアスカに付いているガードにかける。
「アスカは今どこにいるの?」
『一昨日帰宅してから一歩も外に出ていません』
「……は?」
 ドアノブを捻ってみると、簡単に開いてしまった。
「うそ」
 この意味するところは、非常に拙い。
 慌ててアスカの寝室に入ると、アスカはベッドの上に蹲っていた。
「……行くの?」
「ええ、」
「行きたくない」
「ここでこうしていたって何も始まらないわよ?」
 アスカは答えない。
「お母さんのことが怖いの?」
「……この前話したでしょ?」
「ええ、アスカは賢いから、どういう事なのか分かってはいるでしょ?」
「分かってる?分かっててもどうしようもないことだってあるわよ」
 今度はミサトが黙る番だった。
「ママはアタシを受け入れてくれるはず、今までだって受け入れてくれたんだから。でも、もしかしたら……そんな風に思ってしまったら、もう頭から離れなくなっちゃたの」
 リツコの言っていたとおりになってしまった。
 メンタルな部分が強く影響するシンクロにこのまま臨んでしまえば、本来失敗するはずのないシンクロが失敗するかも知れない。
 そうなれば全て終わりである。……いったい、どうしたらいいのだろう?
「もし、万が一、お母さんから拒否されても、アスカの価値が消え去るわけじゃないのよ?私やシンジ君、レイ。誰にとってもアスカは大切な存在よ?」
 そう言った言葉は今のアスカの場合は効果を持たないようだ。今、アスカが直面しているのは、もっと根深い問題だから、
(なんて、言ったらいいの?)
「……アスカ、」
「アスカ、貴女はどうしたいの?」
 ミサが窮していると、リツコがそんなことを言いながら部屋に入ってきた。
「リツコ!」
「任せておくつもりだったけれど、上手く行かなかったようね」
「アスカ、もう一度聞きたいけれど、貴女はどうしたいの?」
 顔をぐっと、息が直接かかるくらいアスカに近づけて尋ねる。
 それに対してアスカは顔を背けてしまった。
「……そう。分かったわ、なら、貴女はもう弐号機に乗らなくて良いわ」
 リツコの言葉にはミサトも吃驚させられた。
「今、フィフスチルドレン選出の作業が進められている。必ずしも弐号機にアスカが乗る必要もなくなったと言う事ね」
 アスカの目が大きく開かれる。
「私は弐号機のパーソナルデーターの書き換えの準備をしなければいけないから、これで帰るわね」
「待って!!」
 くるりと背を向けて立ち去ろうとするリツコを悲鳴に近いような声で呼び止める。
「何?」
「……アタシが、アタシが乗るわよ!アタシ以外がママとシンクロするだなんて絶対に許せない!!」
「分かったわ。直ぐに支度して」
 こうして、リツコの行動でやっとアスカは動き出すことができた。


「さっきの話、ホントなの?」
 リツコを助手席に載せて本部に向けて走らせながら尋ねる。
「さぁ、どうかしらね?」
「……へ?」
「渚カヲルという人物は、マギが調べても全く該当する者はいなかったわ。でも、今までのことから言えば、ミサトの話してくれたことは本当でしょうからね」
 又思い切ったことをしたものである。しかし、そのおかげでアスカを動かすことができたのだから、感謝しなければいけない。
 渚カヲル……委員会が直接送り込んできたチルドレンであり同時に第拾七使徒でもあった。あの時、アスカがシンクロ出来なくなったからだったが、今回はどうなるのだろうか?
 あの時ゼーレがどういう目的で、送り込んできたのか今一分からないが、カヲルが最後の使徒である以上、何か動いてくるのは間違いないだろう。
「……最後の使徒をゼーレ自ら送り込んでくるってどういう事だと思う?」
 リツコに聞いてみることにした。
「その事ね。いくつか目的があったんでしょうけれど、少なくともインパクトは起こらない。ネルフが始末すると見ていたんでしょうね」
 それでシンジが更に追いつめられてしまった。あるいはそれも目的だったのだろうか?


 三人がネルフ本部に到着すると直ぐに試験の最終準備が進められる。
 アスカはプラグスーツに着替え、実験ケージ上部から弐号機を見下ろしているが、その顔には鬼気迫るものがあった。
 ひょっとしたらキョウコに拒絶されるかもしれないと言う恐怖と不安。そして、そうならなかったとしても、今アスカが乗ることを拒絶すれば、どこの馬の骨とも知らない奴にキョウコを取られてしまう。それでは結局同じである。あのキョウコがアスカではなく、人形を取ったように……
 乗るしかない、乗って必ずキョウコとシンクロしなければならない。そんなことを考えているのかもしれない。
「……アスカは強いわね」
 横でモニターに映るアスカの様子を見ていたリツコがポツリとつぶやいた。
「私もあのくらい強さがあれば……」
 それに続いた呟きは何とか聞き取れるかどうかと言った程度の呟きだったが、その呟きはリツコは立ち向かえていないと言うことなのだろうか、
 しかし、そんなことを考えている間にも機体連動試験は始まってしまった。
「アスカ、良いかしら?」
『……良いわよ、』
「許容域内ですが、パルスがどれも不安定です」
 マヤの報告にリツコは少し考えるような仕草をしたが、続行を命じた。長引かせて又不安を膨らませてもいけないと言うことからかもしれない。
(……私のせいで賭けになっちゃった……)
 この試験はまるで博打のようなものである。かと言って、あの時どうすれば良かったのかはわからないのだが、
 今、ミサトにできることは上手く行くことを願う事だけだった。
 その祈りが届いたのか、単に必然だったのか、試験は順調に過程が進んでいく。しかし、決定的な瞬間が近付くに連れて緊張が増していく。
 つばをごくりと飲み込んだ音がやけに大きく感じる。
 そして、遂にシンクロの瞬間。「ママ!アタシを受け入れて!!」そんなアスカの叫びが聞こえたような気がした。
 その直後、画面に表示されていた数値やグラフが一気に跳ね上がった。
「何が起こったの?」
「シンクロ成功です!シンクロ率は……95%前後で振動しています!」
「95%ぉ!!?」
 リツコがゆっくりと息を吐き出す。
「どうやら、いい目が出たようね。それも、とびっきりいい目が」


 弐号機から降りてきたアスカはとびっきりの笑顔を浮かべていた。
「どぉ〜ミサト、見たでしょ?」
「ええ、凄かったわ。おめでとうアスカ」
「ありがと、この後まだ調整とかあるらしいけど、それ終わったら送ってってくれる?」
「ええ、勿論お安い御用よ♪」
「それにしても凄いシンクロ率だったわね」
 高いシンクロ率はそのまま戦力のUPに繋がる。それはそのまま生き残れる可能性を上げることになる。 
「調整でもうちょっとはシンクロ率上がるだろうけど、そうしたら100%も目前ね。どんな使徒が現れたって、アタシがママと一緒に倒してやるわよ」
 こんなシンクロ率は前回のゼルエル戦の時の異常なシンクロ率以外では見たことがない。
 エヴァの中に母親がいると言うことを認識するだけでこんなにも変わるものなのか……零号機は分からないが、初号機の中にユイがいると言うことをシンジが知ったならば同じようになるかも知れない。
(でも、博打はしたくないわね……)
 シンジとユイの間にミサトが知らない何かがあったのかも知れないし、うかつなことはすべきではない。他に手が無くなったとき、それが必要になったときにしよう。あるいは、リツコがちょっと漏らしていたようにスパイラルに陥る前にさっさとシンクロさせてしまうと言う手もあるかも知れないが、
(ま、今考える事じゃないか)


 ミサトは執務室に戻り軽く事務処理を済ませ、次の使徒戦での作戦を考えることにした。
 今回アスカのシンクロ率が跳ね上がったことで戦力が随分変わった。
 詳しい情報はまだ分からないが、シンクロ率から推定した戦力はかなりのものである。
 しかし、かといって……あの使徒の情報はあまりに少なすぎる。
 下手に動いて裏目に出ては拙いが、何かしら動かないわけにはいかない。困ったものである。 
 ふと気付くとそろそろアスカを送っていく時間である。
(そうだ、加持君に愚痴でも聞いて貰うか)
 加持に一本連絡を入れてから執務室を出た。


 アスカを送っていった後、待ち合わせ場所で待っていると、連絡を入れたとおりの時間に待ち人が現れた。
「やあ」
「来てくれてありがと。乗って」
 待ち合わせ場所で加持を拾い車を走らせる。
「聞いたよ、アスカ上手く行ったんだって?」
「ええ、リツコのおかげでね」
「そうか、」
「これで戦力は上がったけれど、次の使徒は、だからって簡単にいくのかどうかさっぱり分からない奴なのよ……」
「聞こうか?」
「ううん。前に話した以上のことはあの使徒については何も分からないわ」
「……そっか、一本良いか?」
「ええ、どうぞ」
 加持は一本煙草を取り出して火を付け紫煙を燻らせ始めた。
「そうだな。贅沢な悩みなのかもな」
「え?贅沢?」
「ああ、本当は使徒との戦いって言うものは相手がどんな姿をしているのか、能力を持っているのかさっぱり分からない戦いなんだろ?今の葛城の状態が特殊なだけで」
「……ええ、」
 前回、使徒との戦いは新しい使徒がでるたびに全くの手探りで突き進むしかなかった。今までの使徒から手に入れられた情報が殆ど役に立たない。そんなことばかりだった。
「なら、使徒について良くわからないならそれで良いじゃないか、本来の姿に戻っただけだろ?」
 そうかも知れない。
 銜えていた煙草を灰皿に押しつけ、ゆっくりと紫煙を吐いてから言葉を吐いた。
「悪いことばっかり見えているからってそればっかり見る必要はないさ、今見えていなくても必ず希望はある」
「……そうね」
 その通りだ。やれる限るの事をしてみよう。


 何日か経ったある日、アスカが話があると言って執務室に会いに来た。
「アスカがここに来るなんて珍しいわね」
「ちょっと微妙な話だからね」
「ま、聞きましょう。幸い今は時間もあるし、コーヒーいる?」
「そうね。頂戴」
 リツコのお下がりのコーヒーメーカーによって淹れられたコーヒーをアスカに渡す。
「ありがと。……美味しいわね」
「どうも。リツコのお下がりなんだけどね」
「なるほど、ミサトが作るものとは思えないわけだわ」
「あんか言った?」
「な〜んにも、で、話なんだけど」
 急に真面目な顔になる。
「ええ、何?」
「弐号機にはアタシのママがいたけど、初号機にはシンジのママが、零号機にはレイのママ、参号機にはヒカリのママがいたんじゃないの?」
 その質問だったか……初号機にユイがいることは間違いない。参号機は知らないが多分そうだろう。零号機がどうなのかは、ミサトにはちょっと分からない。
「そうね。初号機にはシンジ君のお母さんがいるし、参号機には洞木さんのお母さんがいたと思うわ。零号機も多分そうなんじゃないかしら?」
「やっぱりか……」
 軽く天井を仰ぐ、
「ねぇミサト。3人に知らせちゃ拙いのかな?」
 アスカ自身がキョウコの存在を知ることができて良かったと思っているからこその事場だったのだろう。けれど、アスカもスパイラルに陥ってしまったように、単純に知らせればいいと言うものでもないと言うことも知っているからこそミサトに聞きに来たのだろう。
「そうね。シンジ君に知らせるには、司令の許可がいるでしょうね」
「あ、そっか、」
「私はシンジ君と家族だけれど、親子の間に首突っ込むからにはその後どうなるのかって事までキチンと考えないとね」
「そうね……さりげなくあいつのママのこと聞いてみたけど、殆ど何も覚えてないって言ってたけど、それがどういう事なのか分からないのよね」
「レイはレイでもっと色々とあるだろうし、そもそもエヴァについてはレイの方が私よりも詳しいことが多いから、既に知っているかも知れないわね」
 そうすると残っているのはヒカリである。ヒカリが母親のことで悩んだりしても、もう参号機はないのだから、少なくとも戦力的な影響は受けない。
 けれど、シンジの場合とは又違って、既に参号機・ヒカリの母親は消えてしまっているのである。二度母親を失う思いをさせるだけに終わってしまえば、辛いだけかも知れない。しかし、何かあるとしたら、真実を知った方が良いのだろうか?……それは人により事情により違うだろが、ヒカリの場合はどうなのだろう?
「私の方で調べておくわ。本当のことは話せなくても、何か彼女のための情報が見付かるかも知れないし」
「そうね。頑張って良いものさがしてきてね」
「ええ」


 まずはミサトの権限でヒカリの母親についての情報を調べてみようとしたが、案の定殆ど調べることができなかった。
 そこでリツコにお願いして調べて貰うことにして、ミサトは作戦案の詰めをすることにした。
 作戦案は上手い手が思いつかないなら初心に戻ってATフィールドの中和と火力の集中を基本に据えた正攻法にすることにした。
 ATフィールドの中和距離はシンクロ率が圧倒的に高くなった弐号機が一番広い。もし、その弐号機に生態融合されたら?と言う考えは今は捨て置き、弐号機を中心にして初号機と零号機の二機でバックアップ。
 エヴァには直接の戦闘は避けさせ、支援兵器からの火力が集中出来るポイントに誘導し、一斉攻撃。以前ほどの火力は今の第3新東京市には無いが、エヴァ用のポジトロンライフルやスナイパーライフルを改造して載せた自走砲を配置することで補う。丁度ヤシマ作戦の時の改造と反対である。
 既にポイントも選定され、シミュレーションの訓練にも取り入れて貰う事になっているので、あとは不測の事態に備えるだけではあるが、今回はその不測の事態こそが問題なのである。
 できることと言えば安全な距離をとって近づけさせない。襲いかかってくる使徒に向けて砲撃を行い矛先をそらせる。エヴァに防御用の装備を持たせる。そんな感じのことぐらいだろうか?
 他に何か出来ることはないものか……と考えていると、早速リツコから電話がかかってきた。
『頼まれたものをメールで送っておいたわ』
「早いわね。ありがと」
『チルドレン選出の時に纏めたものを送っただけよ。それで、彼女に話す事自体は別に構わないと思うけれどのは、特にシンジ君には伝わらないように注意しなさいよ』
「分かっているわ、又あんな事になるのはごめんだからね」
『勿論よ』
「それじゃ、又ね」
『ええ、』
 早速メールを受信して添付されていた物を読む。
…………
…………
 ヒカリの母親もゲヒルンの職員であったがその地位は低いものであった。しかし、母子ともに受けた適性試験により適性が確認され、夫と共に本部に転勤となった。
 2011年7月、娘のノゾミを庇って車に跳ねられ、直ぐに病院に搬送されたが死亡。
 碇の命により直ぐに遺体が回収され、魂のサルベージをされた。分析の結果候補順位第3位として保存され、参号機起動前に参号機のコアに移された。
 纏めてみるとそんな感じで、ヒカリと母子関係についての報告も併せて記載されている。
 そして、他の姉妹であるノゾミとコダマについては、二人とも適正は確認されているが、適齢期から外れることからチルドレンの候補としては不的確と判断されたとも追記されていた。このあたりはリツコが追加してくれたものかも知れない。
 良い情報として提供出来るものはなかったが、話すなんて事とてもできないと言うことなかった。 なら、そのままヒカリに見せてしまっても良いかも知れない。
 さて……今は実際にこの事を話すべきだとも思っているが本当にそうなのだろうか?
 正直な話、これを見ただけでは話した方が絶対に良いなどと言うことを断言出来るはずもない。
(偽善、なのかもね)
 だが、それも又良いかもしれない。本来このようなことになる必要はなかったのに、ミサトのせいでヒカリにとって歴史も変わってしまった。それはミサトの犯した行為なのだから、これを知ったヒカリがどんな態度を取ろうとも、受け入れよう。
(……今日は遅いから明日ね。朝一に行くか、)


 朝食の味から判断するに、今日はレイが朝食を一人で用意してくれたようである。
「あれ?今日はレイが一人で用意してくれたの?」
「はい」
 シンジがちょっと弱ったなぁという態度をとっていることからすると、シンジが寝坊したためにレイが一人で作ることになったと言っただろうか、
 なんだか久し振りにミサトの中のからかい虫が頭を擡げてきた。
「ふ〜ん。でも、レイがこれだけ美味しい朝御飯が作れるんだから、将来の旦那さんお寝坊さんになっちゃうかもね」
「うん。確かに、ってミサトさん何を言わせるんですか!?」
「あんら、私は別にシンちゃんのことだとは言ってないわよ〜」
 ここでとぼけてみるとシンジが紅くなって必死に抗議し始めた。
「で、でも!?」
「ふ〜ん、そっか、やっぱり、シンちゃんは将来レイをお嫁さんにするつもりなのねぇ〜」
「あ、ああああ、あ」
 恥ずかしさからからだろうか、ちゃんとした言葉を紡ぐことができなくなってしまった。
「ねぇ、レイ。シンちゃんがレイをお嫁さんにしたいんですって、良かったわね」 
 一方のレイは紅くなって俯いてしまうだけだった。
 実際、仲はゆっくりと進んでいるのだろうが、こう言ったところは全然変わらない二人であった。


 久し振りに二人をからかいたい放題からかえたので、上機嫌で家を出ることができたのだが、流石にそのままここを訪れるという事はできなかった。
 ヒカリに見せるために添付された資料をプリントアウトして持ってきた。勿論機密事項なので、本当はこんな事をしてはいけないのだが、ヒカリに見せるためにはこうするのが一番であろうから、
 ドアの前でゆっくり深呼吸をしてからノックした。
「はい、どうぞ」
 ドアを開けて、中に入る。
「あ、葛城さん」
「今日は話があってきたの」
「何の話ですか?」
「貴女のお母さんのことよ」
「お母さんの?」
「ええ、」
「普通なら、ここでお母さんのことを知りたい?って聞くのかも知れないけれど、そう聞く事自体責任逃れのような気がするから、」
 鞄からプリントアウトした資料を取り出してヒカリに渡した。
「はい、」
「……4年前に妹を庇って命を落としました。そのお母さんがどうかしたんですか?」
「読めば分かるわ」
 ヒカリは少し考える素振りをした後、資料を受け取って読み始めた。
 読んでいる途中何度も驚いていた。
 ずっと前、組織もネルフの前身のゲヒルンであるときから、母子、更に言えば父親や姉妹もその管理下に置かれていたそう言ったことが書かれているのだから……
「やっぱり」
 その呟きは、ひょっとしたら参号機のコアになっていたと言うことなのかも知れない。ヒカリはシンクロをしていたのだし、更に言えば、あの様な状態でヒカリは無事だったと言うことにも関係しているのかも知れない。
 そう言えば、結局話して貰っていないが、前に話があるとも言っていたが、この事だったのかも知れない。……なら、疑いがこの資料で確信に変わったと言うことか、
 全部読み終え資料を台の上に置いた。
「どうして、これを私に?」
「切っ掛けは、アスカね。本当は極秘だったっんだけれど、色々とあってエヴァぁのコアの話をアスカにしたの、そうしたら昨日みんなに知らせちゃ拙いのかなって言ってきたのよ……それでね」
「そうですか、」
「洞木さんがどう取っても構わないわ。ただ、この事は、家族以外には絶対に話さないで。漏れたときは、保証出来ないわ」
 ヒカリはその言葉には何も返さなかった。
「それじゃ、私はこれで行くわね」
 すっと立ち上がり、病室を出ようとしたところでヒカリから呼び止められた。
「……本当のことを教えてくれて、ありがとうございます」
 感謝されるべき事ではないのだが、そう取って貰えたのならそれは好ましいことだろう。
「そう。それじゃあ、又ね」
「はい」