再び

◆第25話

 箱根の山越えは、時間的に夜になってしまうため、食料や飲料水、懐中電灯等必要そうな物を揃えた。
 いけるところまでタクシーで行き、そこからミサトの車がおいてあるところまでなので、完全な山越えというわけではないが、骨であることは間違いない。道から外れ山の中を歩く。
「ここからが大変だけれど頑張って」
「はい」
「それと……」
 予備の拳銃とマガジンを取り出してヒカリに渡す。
「……拳銃?」
「もしかしたら必要になるかも知れないから持っていて」
「……はい、」
 念のためではあるが、何事もないことを祈るしかない。
 この山には既にかなりの部隊が配置されている。もし出くわしてしまったら、ヒカリに渡した拳銃など何の役にも立たない……
 山道をすこし早足で歩きながら、ミサトが今こうしている理由を話し始めた。
 歴史をさかのぼったなどと言った話をすると当然のように面食らったような顔をされたが、それは最初の方だけで途中からむしろ積極的にあれこれと聞いてくるようになってきた。
 それはミサトの話を信じてくれたと言うことで、嬉しくもあり、またその内容だけにヒカリには済まなく思えた。
「鈴原君は片足を失ったけれど、ある意味それだけで済むはずだった」
「……それは分かりませんよ。だって、私がこうなったのはその時のことなんですから……」
「それもそうね。でも、そうは言っても、今の洞木さんと同じになるだけでしょう?」
「……」
「……」
「その世界で、私と鈴原の関係はどうだったんですか?」
「残念ながら私は知らないわ。今と違って、洞木さんとの直接の接点はまるで持っていなかったから……けれど、鈴原君のお見舞いには良く来ていたし、お弁当も持ってきていたらしいわ」
 ヒカリは少し目を伏せ「そうですか」と返してきた。
「逆に3人が学校に通っていたから、アスカと友達になったのはもっと早くてアスカは親友だって言っていたわね」
 その3人、その時は2人が学校に通えなくなった理由はまさにそのところであり、ヒカリは少し顔をしかめた。
「でも、レイとは殆ど接点を持っていなかったみたいだし、シンジ君との距離ももって離れていたと思う」
「……単純じゃないんですね」
「そうね。こう言ったことをまとめて、良かった悪かったって言っても、あまり意味はないのでしょうね……ただ、一つ一つの事をちゃんと受け止めて、そして、最後には私の大切な人たちに笑っていてほしい」
「私は、その中に入っていますか?」
「……それは、単なる贖罪、罪悪感からなのかも知れない。けれど、洞木さんにも笑っていてほしいわね」
「そうなってほしいですね」
「ええ、本当に」
 二人で笑みを浮かべあい、ミサトの理由についての話は終わった。
 次はこれからのことを話す。まずはと言うことで、どんなことができるのかと聞いてみると、ヒカリは少し考えてから、どこか申し訳なさげに答えた。
「私ができることなんか、エヴァの力を引き出すことはできるかもしれませんけれど、他はATフィールドで自分の身を守れるくらいで、たいしたことはないです……」
 ヒカリはそれはそれほどでもないと思っているようだが、確かに使徒の力を使ってエヴァの力を引き出すというのは、エヴァがなければ無力に等しいけれど、うまく生かすことができれば、その能力は今まさに求めている能力の一つになるかも知れない。
「ちょうど良いわね……後は、何としてもたどり着かなくちゃ」
「ちょうど良い?」
「ええ、最終的にエヴァ対エヴァの戦いになる。そのときに、相手が予想もしなかったカードを増やすことができれば、おもしろい展開にできるかもしれないわ」
「そんなものなんですか?」
「ええ、きっとね」

 
 丸い月が西に傾いた頃、ようやくミサトの車までたどり着くことができた。
 途中、ニアミスをしそうになり、息を潜めて……と言うことがあったりもしたが、何とか無事に山越えをすることができた。
「……やっとですね」
「ええ、お疲れ様。ここからは早いわよ、さ、乗って」
「はい」
 車のキーを回しエンジンをかけ、アクセルを踏んで走らせる。
 このまま何もなければ、20分もあればネルフ本部の駐車場に到着出来るだろう。
 

 そして予定通りに20分ほどでネルフ本部に到着した。
 これから何をするのか、ここに来るまでに考えたり話したりして決めた。
 まず、ヒカリはシンジやアスカと会い、二人に自分のことを説明する。一方でミサトは碇と冬月の二人に会い、ヒカリを戦力として考えることを申請し、また同時にヒカリの身の安全を保証させる。
 同時にするのは碇と冬月の計画についての牽制でもある。
 リツコが言った様にインパクトが不発に終わった理由が、前の使徒がまだ生きているからだったとしたら、ヒカリの存在を知れば抹殺・実行に動くかも知れないが、シンジやアスカ、レイなどと再会した後に実行すれば、どんな理由付けをしたとしても三人からの猛反発はさけられない。
 しかし、その前に一つしなければいけないことがある。
「こんな時に一体どこに行っていたの?その上、こんな所に呼び出……洞木さん?」
 リツコを駐車場に呼び出したのだ。何か事を起こす前に、この事についてのリツコの全面的な協力を取り付けなければいけない。
「ええ、洞木さんを迎えに行っていたわ……そして、迎えに行った理由は、本人の口から話して貰った方が良いわね」
「……教えて頂戴」
「はい」
 ヒカリがリツコにその理由を伝えるとリツコは納得顔で「なるほどね」とつぶやいた。
 そして、どうするべきか考え始める……結論は1分もかからずに出た。
「所詮仮説でしかないのだけれど……良いわ。協力しましょう」
「ありがとう」
 これで、考えたことが実行できる。


 ヒカリ、リツコと別れ、総司令執務室にやってきた。
 扉の前に立ち、「葛城一佐です」と言うと、ゆっくりと扉が開いた。
 部屋の奥で二人が待ちかまえている……ミサトは深呼吸をしてから執務室に足を踏み入れた。
「今日は報告とお願いがあってきました」
「そうか、それは昨日君が行方を眩ましたことと何か関係があるのかね?」
「はい、まさに関係あります」
「では聞かせて貰おう。昨日は随分大変だった……それに見合う話であることを願うよ」
 冬月の皮肉を流して、早速「……フォースチルドレン、洞木ヒカリの事です」と切り出した。
 予想外のものだったのだろう驚いたようだったが、そのまま続きを求めて来た。
「彼女はレイに似た存在になっています」
 何について言っているのか、二人とミサトではレイについて知っていることが異なる。二人はその意味するところを考えていたが、「バルディエルか?」と碇が確認の問いを発してきた。
「はい、あの使徒戦の最中に洞木さん自身にも同化されていたようです……最も、彼女が彼女であることを変えられるほどではなかったようですが」
「……非常に興味深いな。それで、その彼女を本部に連れ戻して何をするつもりかね?」
「使徒としての力は一部しか使えませんが、エヴァを介在させることができれば、一つの戦力して数えられる可能性があります」
「ふむ……フィフスチルドレンと似た様なことか、しかし、エヴァは余っていないな」
「はい、しかし、何か方法があるかも知れません。直ぐにそれを調べたいのですが……その前に、終わった後彼女が彼女として、社会的にも生きていける保証をお願いします」
 リツコの仮説が正しければ、ヒカリが生きている限りインパクトを引き起こすことはできない。その通りならばそれは計画の放棄を意味することになる。二人は直ぐに答えを返さなかったが、暫くして碇が口を開いた。
「それをしても意味はないだろう……我々に保証を義務づける物はない。だが、できうる範囲で動こう」
「……ありがとうございます」
「しかし、そうなるとエヴァを使ったテストは、やっかいだな」
「赤木博士や伊吹一尉だけなら問題は抑えられるだろうが、そうもいかんかもしれんな……まあ、我々が気にすることではない。人選や口実を含め好きにしたまえ」
「はっ、ありがとうございます」


 冬月が言ったとおり、確かにエヴァは余っていない。
 初号機の方は、リリスをベースにしている以上、渚カヲル同様にアダムの子であるバルディエルではシンクロはできないだろう。できるのは弐号機だけだが、そのシンクロ率は100%、果たしてこれ以上何を引き出せるのだろうか……改めて考えていると、本当に効果があるのか不安になってきてしまた。
 とは言え、やってみないことには何があるのかわからないし、予期しなかった何かが得られるかもしれない。
 待機室に顔を出すと、三人が向き合って話をしている最中だった。
「あ……」
「司令達は、洞木さんが社会的にも生きていける様に動いてくれると言ってくれたわ」
「……そうですか、」
 保証を取ると言っていたが、保証ではなく動くと言うことだけだった。それをその通りに伝えたミサト……ヒカリはそれからどれだけの情報を引き出せたかは分からないが、少し微妙な表情を浮かべた。
「ヒカリが戻ってきてくれたことは嬉しいけど、どうするわけ?」
「アスカにも協力して貰って弐号機を使って洞木さんに何ができるのか、何をすれば、戦力として数えられるのかをこれから調べるつもりよ……関わる職員はリツコ達極少数にしたいから、それほどの数のテストはできないけれど」
「どのくらいかかりますか?」
「1時間か2時間はかかると思うけれど、その前に洞木さんはいくつか診断を受けて貰うわ」
「その前に綾波さんに会ってきても良いですか?」
「ええ、レイも喜ぶと思うわ、行ってきてあげて」
「はい」
「あ、僕も行くよ」
 ヒカリとシンジがが待機室を出て行き、ミサトとアスカの二人が残った。
「話は聞いたわよね?」
「ええ、驚いたけれどね」
「どう思う?」
「どう思うかねぇ、正直ピンとこないわ。だって、どう見たってヒカリでしかない……いえ、違うわね。アタシが知っているヒカリははじめからそうだった。なら、その正体がどうあったってアタシ達は友達よ」
「そうね」
 アスカにそういう風にとってもらえてよかった。
「そりゃさすがに、他の使徒みたいに暴れ回られちゃ困るけど、そうじゃないでしょ?」
「ええ、洞木さんは、立派に人だからね」
「なら問題なし、で今のうちにアタシがしておくことはないの?」
「……そうね。リツコ達と一緒に考えましょ」


 準備については他の職員も行ったこともあって、結構早くに終えることができた。
 今は、具体的にどんなことを試すのかをリツコ・マヤと話し合っている。
 アスカの代わりにヒカリが搭乗すると言う基本的な物から、二人同時搭乗、さらには外部からシンクロと言う物まで案が並んだ。外からと言うのは前回のカヲルが弐号機を乗っ取ったときのことからミサトが思い付いた物であるが、もしこれができるのなら、上手くすれば量産機を乗っ取れるかも知れない。
 検査を終えたヒカリがアスカと一緒に入ってきた。
「もう準備はできているわ、良いかしら?」
「ええ、で、何から始めるわけ?」
「最初はヒカリさんに一人で乗ってもらうわ」
「わかりました」
 ミサト、リツコ、マヤとアスカ、ヒカリの五人だけで順番に実験をこなしていった。
 結果、確かに、ヒカリはシンクロ率90%を越える高シンクロ率をたたき出すことができたが、アスカよりは低くしかもアスカと違って戦闘のセンスがあるわけではないのだから、これは意味がない。
 二人同時搭乗はいまいちの成果だった。最高値こそ150%クラスまで行って高いのだが、安定せず、乱高下してしまった。
 外部からの起動は上手く行った。距離の制限がある物の搭乗せずとも起動させ動かすことができた。
 ならばと更に実行した、起動しているエヴァの操縦を奪うというのは失敗に終わった。これは元々アスカの方がシンクロ率が強いからなのかも知れないが……量産機では果たしてどうか?動かしているのはダミープラグ……ならば可能かもしれない。
『葛城一佐、第二東京からA-801が発令されました』
「そう……もう来たのね。私も発令所に行くわ」
「ハッキングに備えるわね」
「お願い」
 一足先にリツコが発令所に向かう。
「洞木さん、一か八か……量産機が出てきたらその操縦を奪って」
「わかりました」
「私は行くわね」
「頑張ってきて下さい」
「……ありがと」
 ヒカリに見守られ実験室を後にした。


 ミサトが発令所に到着したときには既にマギがハッキングを受けていた。
「世界中のマギコピーを動員しています!」
「対策は?」
 下に降りているリツコに回線越しに尋ねる。
『予めマギ2を抑えておいたわ、適当なところでバグを流して混乱させた上で、防壁を展開するわ』
「分かったわ、お願い」
 マギでの勝負が付かなければ、次は軍隊による強襲……そちらはもはやいつ来るのかと言う段階である。
「動き出したと同時に攻撃を掛けて」
「はい」
 マップ上には箱根地方を完全に取り巻く様に部隊を示す点が表示されている。
 更にこのほかに航空部隊もある……戦力差は圧倒的である。
「仕掛けるわ!」
 モニターに表示されていたマギ2の色が赤から青に反転し、各マギコピーに攻撃を仕掛け始めた。
 それと共にリツコ達が第666プロテクト発動に取りかかった。
 きわどい勝負ではなかったが、これでこちらもマギの力をかなり封じられたと言って良い。ゼーレ側にとって最低限の成果は上げさせてしまわざるを得なかった。
 プロテクト発動とほぼ同時にマップ上の点が一斉に動き出した。
「攻撃開始します」
 こちらから先制攻撃を仕掛け、ミサイルやロケット弾などを部隊頭上に降り注がせる、同時に敵側からも攻撃が仕掛けられ始めたが、中心部へは面制圧兵器は使って来ていない様である。
(なめられているのか、第3新東京市自体が人質の効果を持っているのか)
 警報が鳴り響く。
『A2エリアに侵入者発生!』
 その一報を皮切りに次々に本部施設内に侵入を確認した。
「16のルートから進入を確認!」
(多いわね)
 警備は増やしておいたが、所詮正規軍相手には通用しなかった様である。
「第1層を破棄、第2層への進入ルートを限定し、そこで迎撃して」
「了解」
 先制攻撃を仕掛け、決して少なくない打撃を与えられたのだが、被害の情報が雪崩の様に入ってくる……予想されたことではあるが、やはり戦力差は圧倒的である。
「エヴァの発進準備は?」
「あと60秒でできます!」
 サブウィンドウに二人の顔が表示される。
「二人とも良い?」
『はい』
『OKよ』
「この戦闘は貴方達二人にかかっているわ、お願い」
「洞木さんは?」
 発令所に戻ってきたマヤにそっと聞いてみる。
「実験室で待機しています、量産機が出てきたら、彼女にも出てもらう予定です」
「分かったわ」
 ATフィールドが使えて自分の身を守れるとは言っていたから、万が一の事があっても命を落とすようなことにはならないだろうが、非常に宜しくない事になるのは事実。そうならないように本部内の戦闘も指揮していかなければいけない。
『第2層に侵入者発生!』
(……早いわね、)
 制圧されたブロックが多方面で増えていく。
 地上の交戦状況は更に酷く、サブモニターに表示されているサイトの映像が次々に砂嵐になっていく。
「本部内の戦闘課が交戦に入ります」
 ネルフ本部内にも戦闘車両を配備しておいた。正規軍が本気で叩きつぶしに来ている以上、それですらどれだけ持つか分からないが、少なくとも携行武器だけで戦うよりは随分マシだろう。
「エヴァ両機射出口へ移動」
「発進準備完了!射出口開きます!」
「発進!!」
 準備完了と同時に間髪入れず両機がカタパルトで一気に射出した。
『強羅方面部隊損耗率68%突破!』
「強羅絶対防衛戦の兵装ビルは壊滅です!」
 強羅方面だけでなく、他の方面ももちろん危ない。
 各方面にそれぞれ指示を下していくが、入ってくる情報が多すぎる……
 マギのサポートを受けてはいるが、マギがプロテクト状態に入っているため不十分でこの発令所の指揮能力を超えてしまっている。
「シンジ君は東方面に!アスカは西方面の部隊を叩いて!」
 地上に出た両機に指示を下す。
 両機は指示通りに動き、先に交戦に入ったのは弐号機の方だった。
 降り注ぐ砲弾をATフィールドで弾き、ソニックグレイブで一薙……一瞬にして一部隊がこの世から消滅した。
 改めて見るエヴァの圧倒的戦力、次々に部隊を消滅させていく。
「……凄いわね」
 初号機の方も交戦に入る。アスカ・弐号機ほどの派手な物はないが、戦力としては通常部隊とは次元が違う。
 まるで戦場に降臨した破壊神のよう。ATフィールドの前にいかなる攻撃も通用せず、一方的に消滅させていく……その力に見とれてしまいそうになったが、そんなことが許される様な状況ではなかった。
「第二層持ちません!」
「第四層まで下げて、待避完了と同時に第三層にベークライト注入」
「了解」
 エヴァの介入によって地上の戦闘はこちらが押し始めたが、本部での戦闘はエヴァの様な決定的な戦力があるわけではなく確実に押され続けている。
「……双子山方面に高エネルギー反応!!」
 日向が叫ぶ。
 既に付近は完全に制圧されており映像が入ってこないが、直ぐに思い付く物があった。
「アスカ!陽電子砲に気をつけて!」
 技術や設計図はしっかりとコピーさせて頂き、ネルフ製の陽電子砲に生かされているが、本体は戦自研に返却している。
 予想通りだったが間に合わず、青白い光が弐号機に襲いかかり、巨大な光の柱に包まれる。
「アスカ!!」
 しかし一瞬後には、光の柱の中から弐号機が飛び出してきた。
 ATフィールドを貫かれ、ダメージもそれなりにあった様であるが、間違いなく健在している。
「弐号機との通信が取れません!アンビリカルケーブルも切断されています!」
 とは言え、状況はあまり思わしくない様である。
「通信回線が復旧出来ないかどうか試して、ケーブルをいつでも再接続できるように、あと支援できるものがあれば差し向けて」
 初号機の方は山の陰になっているから、撃たれる心配はないが……どうか、
 弐号機がビルの破片を拾って……ぶん投げた。双子山の方にコンクリートの弾丸となって飛んでいく。どうやら陽電子砲を破壊するつもりでいるらしい。
「弐号機との通信回線繋がりました!」
「アスカ!大丈夫!?」
『なんとかね……ち、うざいわね』
 陽電子砲を破壊されてなるものかと、利かないことは分かっているが、周囲の部隊が弐号機に集中攻撃を浴びせかけてくる。
 ビルを引っこ抜いて振り回し、また次々に部隊を壊滅に追いやっていく。
「高エネルギー反応確認!」
「アスカ」
『ありがと!』
 着弾する前に飛び退く、今度は躱す事ができた。
『危ないわね!この!!』
 戦車の砲身をつかんでぶん投げる。
『よっしゃ!』
「破壊したの!?」
『やったわよ』
『ミサトさん!』
 アスカが陽電子砲を破壊し、喜ぼうとしたところにシンジの方から通信が入ってきた。
「どうしたの?」
『みんな逃げていくんですけれど……』
「……間違いありません」
 作戦マップ上の点も、強羅絶対防衛戦の向こうまで退いていっている。同じように弐号機の方も……
「……やる気ね」
「大型爆撃機編隊です。高々度に確認しました」
 N2爆撃。しかも、単発ではない……複数使用でエヴァを消滅させるつもりなのだ。
「シンジ君!アスカ!N2爆弾を使うつもりよ!ATフィールドを全開にして防御して!」
『ええ〜!!』
『冗談でしょ!!?』
「N2爆弾投下されました!」
『くっ』
『ううぅ』
 数秒後、両機とその付近にあった物全てが爆発に飲み込まれる。
 電磁波の嵐に全てのモニターが砂嵐と化し、衝撃と震動が発令所を襲う。
(……無事でいて)
 回線が回復するまでミサトには、ただ祈ることしかできない。
 短い時間が長く感じられる時が流れる……
 しばらくして、サブモニターが次々に復旧し始めた。
 地上の情報が映し出されるまでには結構時間がかかったが、回線が復旧したとき両機とも健在している映像がメインモニターに表示された。
 そのことでほっとしそうになったが、同時に本部内の侵攻がさっきの間にかなり進んでいることもわかり、そう言うわけにもいかなくなってしまった。サポートを受けられなかった部隊が各個撃破されたと言うことだろうか……
「両機ともダメージは小さいようです」
 弐号機は陽電子砲を既に食らっていたが、高シンクロ率のためATフィールドで防ぎきった様で、初号機はATフィールドを破られたがぎりぎりで、今までダメージを受けていなかった分装甲で残った破壊力を殺すことができた。
「くるわね……」
 陽電子砲にNN兵器でもエヴァを葬ることができなかった。通常軍では歯が立たないと判断すれば投入されるのは量産機、
「シンジ君、アスカ、市街地に戻ってアンビリカルケーブルを再接続して!来るわよ!」
「洞木さんにも準備して貰うわね」
「お願い」
 生き残っている射出システムを使ってヒカリにも地上に行って貰う。
『メインシャフト内に侵入者発生!』
 警報が鳴り響く。地上では撤退を進めていく……が、本部内の侵攻は止まらない。
「拙いわね……」
 小刻みな振動が続く。
「奴らやたら滅多に爆破始めやがった」
 隔壁を片っ端に吹き飛ばしていくつもりか……
「ウィングキャリアー確認!」
「両機の再接続は!?」
「弐号機は既に、初号機はまだ移動中です」
「VTOLを投入してきています!」
 メインシャフト内に、戦自の新型VTOL機が突入してきた。
「……拙いわね」
 量産機がウィングキャリアーから切り離される。
「アスカ!シンジ君の援護に回って!」
 アンビリカルケーブルの接続だけはさせなければ、SS機関搭載型の量産機相手にはあまりに不利。
 初号機がまだ接続出来ていないことを確認した量産機が一斉に初号機に向かって降下してくる。
「迎撃して!」
 生き残っていた部隊や兵装ビルから量産機に攻撃が仕掛けられるが、その程度の攻撃でATフィールドが破れるはずもなかった。
『うわああ!!』
「Cラインから侵入されています!!」
 巨大なブレードで初号機が斬りつけられる。
「シンジ君!」
『どおおおりゃあああああ!!!!』
 弐号機が高層ビルを引っこ抜いてぶん投げ、更に初号機に襲いかかろうとしていた量産機3機をその下敷きにした。
 更にビルを投げつけ瓦礫の山に埋もれさせる。
「アスカ!」
『シンジ早く接続しなさい!アンタらはこのアタシが相手よ!』
 弐号機が六機の量産機を前にプログナイフを構える。
「迎撃は!?」
「火力が違いすぎます!」
「ブロック単位で自立自爆させて!」
「了解、緊急待避命令発令!」
 両方同時に指揮を執っていることでタイミングが重なるといずれかがワンテンポ指示が遅れてしまう。
「エヴァの武器は!?」
「武装射出ラインは既に破壊されています!」
「ちっ!」
 弐号機に六機の量産機が次々に襲い掛かってくる。なんとかその優れた格闘センスと高シンクロ率で防いでいるが防戦一方である。
「D4ブロック自立自爆します」
「E1ブロック自爆カウントダウン開始」
 本部内で自爆が行われている振動と衝撃が伝わってくる。
「初号機アンビリカルケーブル接続」
「弐号機アンビリカルケーブル切断!」
 量産機の内の一機に電源ビルの近くのケーブルを斬られてしまった。
 それでも、一方的にやられているというわけではなく、弐号機がブレードを奪いそのブレードで量産機を攻撃する。
 そこへ更に初号機も戦闘に加わったが、劣勢であることには変わりない。
 瞬く間に初号機のアンビリカルケーブルも切断されてしまった。
 モニターに表示されている両機の内部電源が刻一刻と減っていく。
 その上、先ほどのビルの下敷きになっていた量産機がはい出してきた。
「拙いわ!」
 このままでは二対九……一層不利になってしまう。
 そうなったら流石に勝ち目は……そう思ったのだが、突然這い出した来た量産機の一機が別の量産機をブレードで斬りつけた。
 意味が分からない行動に、みんなの動きが一瞬止まる。
「何?」
 斬りつけた方の量産機のプラグがイジェクトされる。
「拡大して!」
 量産機の手を拡大すると、そこにヒカリが乗っていた。
 接触しなくても上手く操縦を奪うことができた様だ。
 プラグに乗り込む……状況に気付いた他の量産機がヒカリが乗り込んだ量産機を攻撃してきた。
 操縦を再開するよりも前だったのだろう。そのまま無抵抗に吹っ飛ばされる。
「アスカ!シンジ君!洞木さんがあの機体を乗っ取ってくれたわ!三人で力を合わせて!」
 直ぐに両機がヒカリの援護に回り、援護を受けている間にヒカリも体勢を立て直させた。
 二対九から、三対八へ、まだ数の上では大分劣っているが、質はこちらの方が高い。
 決して有利とは言えない。しかし、これまでと比べればまだ希望が大きくなってきた。