リリン

◆第8話

双子山、12式大型発令車、
リツコが中央に立ってデータを纏めていた。
ミサトが複雑な表情で入って来た。
「何?同かしたの?」
ミサトは、レミの言っていたことをリツコに話した。
「・・・エヴァに?」
リツコは意外そうな声で聞き返した。
「リツコ、あんた何か知らない?」
「知らないわ・・・私がネルフ、いえ、その前身であるゲヒルンに入ったときには、既に、レイは零号機操縦者として存在していたし、アスカも弐号機操縦者最有力候補だったし・・・・」
「リツコにも分からないか・・・・・」
リツコは少し考え込んだ。
「・・ただ、綾波レミは、実在しない可能性があるわ」
「は?・・・どう言う事?」
「レイの個人情報は削除されている事は知っているでしょ」
「ええ」
「そのレイの妹なんて存在すると思う?」
「でもそれは、見つかっただけじゃ」
「それならネルフの情報網に引っかかっても良いわよ、一切引っかかっていない・・・」
「それ、どう言う事?」
「・・・分からないわ・・・」
(母さんに聞いてみようかしら?でも、教えてくれるかしら?)


ネルフ本部、作戦会議室、
本部に戻って来たミサトとリツコが説明を行った。
「あの・・・・私はどうすれば?」
レイラが尋ねた。
「ん〜〜、弐号機に乗ってくれる?リツコ、副座を用意して」
「分かりました」
レイラは、助っ人として弐号機に乗って戦う事に成った。


リリン本部操縦者待機室、
レミが戻って来た。
「シンジ、ミサトに会ってきたわよ」
「どうだった?」
「べ〜つに、」
レイがシンジの裾を引っ張った。
「碇君・・お腹空いた」
「そう言えばそうだね・・・レミは?」
「ん、少し」
「じゃ、用意してもらおう」


人類補完委員会、
沈黙が流れていた。
「「「「「・・・・・・・・」」」」」
「・・・・・」
「・・・・・切り札ではなかったのですか?」
「「「「「・・・・・・・・・」」」」」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「碇君、9thはどうなった?」
「意識不明の重体、だそうです」
「「「「「・・・・・・」」」」」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「碇、リリンの動きはどうだ?」
「今回の作戦を多方面にて支援しています。今回の使徒は桁外れの強さです。少なくとも、エヴァ1機、使徒1体のATフィールドを同時に貫通するほどの力を持っています」
「「「「「・・・・・・」」」」」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・負けては何もならないか」
「・・・ええ」
ユイを心底嫌い・・いや、憎み、そしてシンジ・リリン・東京帝国グループを嫌う碇泰蔵も流石に今回は何も言わなかった。


双子山山頂、
オフェンスの弐号機、ディフェンスの参号機、四号機、伍号機が仮設ケージに固定されていた。
アスカとレイラは、弐号機の仮設ケージの上に座っていた。
「洒落んなんないわね・・・」
「シンジ君やレイさんは・・・・あんな攻撃から生き残った・・・」
レイラは余りの破壊力に恐怖していた。
「違うわ」
レイの声が響き、2人は声の方を振り返った。
レイは二人に向かって歩いて来て、レイラの横に座った。
「ラミエルは強くなっている。」
「・・・そう」
暫く沈黙が流れた。
闇が町を包み込んでいる。
アスカはそっとその場を離れた。
レイラは二人だけに成った事を確認して、暫くしてから口を開いた。
「・・シンジ君は貴女を待ってた・・10年間ずっと・・・」
レイは目を閉じた。
それは肌で感じている。シンジは本当に自分に会いたかった。ただ、同化する前は、前回のレイと重ねて見てしまう事、所詮身代わり人形に過ぎないのか、それは、父、碇ゲンドウと同じではないかと、そう言う考えもありどこか喜びきる事は出来なかった。しかし、同化後は、真に求め続けた存在である今のレイとの再開を本当に喜んでいる。
「・・碇君は前回の私に様々な事を教えてくれた・・・笑う事、食事を楽しむ事、絆の多様性、感動、感謝、自ら考える事、疑いを持つ事・・他にも・・・・碇君は私の全て・・・・」
「・・・」
「今回の私も、碇君、そして、貴女に様々な事を教えられた。」
レイにとって、レイラも、大切な人なのだ。そして、今回に限ればだが、レイに教えてくれたものはレイラの方が多い。
「・・・」
「・・・」
「私ね・・・シンジ君の事ずっと憧れてたんだ・・・格好良くて、優しくて、強くて、賢くて・・そして、私を護ってくれるお兄さん・・・」
「・・・」
「でもね、そう言う憧れって、容易に恋愛感情に変化してしまうの・・・」
「・・・」
「私、シンジ君の事が好きになっていたの・・・当然よね、シンジ君みたいに良い人他にいる筈無いし・・・10年間も、会う事は愚か、声すら聞くことが出来ないレイさんを、只、想い続ける。」
「・・・」
「私、レイさんみたいに想われたかった。シンジ君に私のことを考えて欲しかった・・・」
「・・・」
「私ね、最初のチルドレンの顔合わせの時、レイさんが戻って来ていない事を知って、どこか喜んでいたの。レイさんは、所詮、前回のレイさんを写す虚像でしかないって、それならそんなに差はつけられていない、レイさんの心を成長させて、シンジ君に良いところを見せればって・・・打算的なところがあったの・・・」
レイラの語りはレイラの心の本音であった。
「・・・」
「・・・私ずるいよね・・・」
レイラは俯きそう言った。
「・・いいえ、そんな事は無いと思うわ、」
「・・・レイさんって凄いんだね・・・」
良く分からなかったのか、それとも意外だったのか、レイは少し首を傾げた。
「ここにいたんだ」
シンジがやって来た。
「・・シンジ君・・・」
「・・レイラ・・・」
「分かってる・・・・シンジ君は私を妹のように見ていて・・・・恋愛対象にはなり得ないと言うことも・・・・」
「・・・・・」
シンジは沈黙で返した。いや、言葉を発することを躊躇ったのだろう。
「私、ネルフに入る」
「・・・・・・分かった・・・・」
立ち去るレイラをシンジとレイは寂しそうな視線で見つめていた。


アスカとレミは、山の斜面の草原に腰を下ろした。
「レミ・・・あんた、アタシなのよね」
「そうよ」
「一応、あやまっとくわ」
「あのせいで、こっちは飢え死にしそうだったんだから当然よ」
二人は軽く笑い声を上げたが、急に重々しい表情と雰囲気になった。
流石は同一人物、完全に合わさっている。
「・・・・レミなら分かるんでしょ・・・」
エヴァに拘り過ぎている。それが悪い事だとはわかっている。
「当たり前よ」
「どうしたらいいの?」
「エヴァ以外の自分の価値を見いだしなさい、さもなければ、近い内に、心が壊れるわ」
それが、レミの前回のアスカとしての経験。
「・・・・そう・・・エヴァ以外のアタシの価値か・・・・」
「何言ってんのよ、その頭脳、容姿、身体能力、全部揃ってるのよ、努力すれば大抵のことは手にはいるわよ、それに、どんなことをしてもママは戻ってこないわよ」
「・・・・・」
アスカは俯いた。
「あ〜やだやだ、何おちこんでんのよ、私はあんたなのよ、それを忘れないでよ」
「・・・・そうね」
「アタシが、今を楽しんでるんだからアスカだって大丈夫よ」
「そうね、ありがと」
「何かあったら、いつでも相談に乗るわよ、」
「うん」
数年振りに年齢相応の笑みをアスカは浮かべた。


ネルフ本部作戦会議室、
マップ上に様々な兵器が表示されていた。
「ヤシマ作戦開始まで2時間です」
「勝率は1.3%か・・・・」
ミサトは呟いた。
リツコが入ってきた。
「良いニュースよ、リリンの秘密兵器が出てきたわ」
「秘密兵器?」
「これよ、」
リツコは書類の束をミサトに渡した。
「指向性NN兵器」
「質量ミサイル」
「マスドライバー」
「抗ATフィールド兵器」
「・・・・凄いわね」
「これらで支援してくれるそうよ」
「・・情報収集は?」
「万全、技術は共有しなくちゃね」
同じ事を日重や戦自あたりに言って技術を提供すれば如何だろうか。


リリン本部、発令所、
「各質量ミサイル配置完了しました。」
「マスドライバーは間に合いそうにありません」
「マスドライバー班は、指向性NN兵器に回れ」
「了解」


そして、作戦の準備が完了した。
弐号機が狙撃し、それを守る参号機、四号機、伍号機、目標を逸らすために、リリンがエヴァ以外の兵器で総攻撃をかける。


双子山山頂付近、12式大型発令車、
「アスカ、準備は良い?」
『いつでも良いわよ』
「よし、作戦スタート!」
「第1から第2688区まで送電開始」
東京帝国グループの存在によって、日本の総電力発電量は、前回の凡そ2倍、更に、リリン側の要請で、日本政府は全国の蓄電所をほぼフル充電していた。
前回のヤシマ作戦をはるかに上回る電力が注ぎ込まれている。
更には、日本の主用地域を結ぶ電力幹線の建設などによって、前回よりも遥にロスを少なくする事によって、今回は、病院や、各地方の公共施設の一部に電力を残すだけの余力まで生み出していた。
攻撃は問題無い。問題は、防御である。
3体のエヴァと3枚の特殊な盾、前回のラミエルの砲撃なら合計1分近く持つ、だが、今回は果たしてどうか、
「第2次接続」
「全加速器始動」
「冷却機全開」


リリン本部、ケージ、初号機、
射出口は、ラミエルの直ぐ脇にセットしてある。
かなり危険だが、シンクロ率300%を越える今ならば、何とかなるかもしれない。
シンジは緊張の余り小刻みに震えていた。
「碇君」
横からそっとレイがシンジを抱き締めた。
「・・綾波・・」
「大丈夫、」
今のレイならば、前回のラミエルならば素手でも倒せる。
今回のラミエルでも、シンジと初号機がつけば勝利は間違い無い。
だが、それは、レイの人間としての生活に終止符を打つ。
「駄目だよ、それは駄目だよ」
「・・でも・・・」
「今、僕達に出来る事は祈る事だけだけど・・・」
「・・そうね・・」
二人は、作戦の成功を祈った。


第3新東京市、
ラミエルをほぼ全方向から巨大なパラボナアンテナのようなものをつけた車両が取り囲んだ。
ラミエルを光が包み込み、若干ATフィールドが弱まった。
サキエルやシャムシェルクラスのATフィールドならば掻き消している筈であるが、このラミエルの能力は桁外れである。
町中からネルフの支援兵器、リリンの支援兵器が一斉に火を吹いた。
ラミエルは、ATフィールドで防御しながら、加粒子砲を発射した。
着弾した地点は根こそぎ蒸発していく。
無人戦闘機が空中からミサイルを次々に放った。
対するラミエルは一つ一つ消滅させていく。
加粒子砲は遥か上空にまで飛んでいく、凄まじい射程距離である。
環状線を独12式自走臼砲を含む列車砲が走ってきて、一斉に攻撃を加えた。
指向性NN爆雷が投下され、ラミエルは凄まじい光と高温に包まれた。流石に、これには加粒子砲で撃ち返す余裕は無い様である。
外輪山から質量ミサイルが発射され、凄まじい速さにまで加速されラミエルに着弾した。
ATフィールドを大きく歪ませ、1発は貫きラミエルのボディに直撃した。
しかし、ボディは凹んだだけで致命傷には至っていない。
ラミエルは再び加粒子砲を連射し始めた。


双子山、弐号機、
『第6次接続完了』
『誤差修正開始』
アスカは舌なめずりをした。
『誤差、+0.00012』
『第7次最終接続、全エネルギーポジトロンスナイパーライフルへ』
『誤差、+0.00005』
マークが中心に集まって来た。
ラミエルの砲口がこちらを向いた。
マークが中心に揃った。
「くらえぇええ!!!!」
弐号機が引き金を引き、青白い光が一直線にラミエルを貫いた。
ラミエルは爆発炎上しながら最後にして最大の加粒子砲を放ち、眼前が全て光に包まれた。


双子山、
大きく抉り取られた山の斜面に、ぼろぼろになったエヴァと殆ど融解している盾が3つずつ、そして、その後ろで、装甲が解けている弐号機が存在していた。
動くものは何も無い、ネルフとリリンの救援部隊のヘリが急行し、それぞれのエヴァのエントリープラグからパイロットを救出した。
奇跡的に、パイロット達は火傷を負っただけで命に別状は無かった。


ネルフ本部、総司令執務室、
「各エヴァの状況ですが、弐号機は小破、後の3機は全て大破です。」
「修復にはどのくらい掛かる?」
「生体パーツを使用する予算がありませんので、自己修復となると1月は」
「あと、レイラ2佐から、ネルフへの移籍の申請が出されていますが」
「内偵か?」
「いえ、恋沙汰の拗れの様ですが」
碇はにやりと笑みを浮かべた。
横に立つ冬月は、人の恋沙汰を笑う暇があったら、己の拗れに拗れているものを何とかしろとでも言いたげだ。
「問題無い、何かと使えるだろう」
「しかし、碇、彼女は、あの二人の娘だぞ、侮るわけには」
「所詮は子供だ、どうにでもなる」
リリンの長官は君の子供だが・・・


7月12日(日曜日)リリン本部長官室、
シンジは、先の戦闘の被害を見ていた。
ネルフ側の支援兵器の被害だけで7兆円近い、リリン側の支援兵器は15兆円近い被害を受けている。そして、エヴァ4体の修復費用は12兆円近い。更に、第3新東京市が受けた被害は8兆円余り。更に、電力の総徴発などに於ける被害は推定5兆円。結果、47兆円もの巫山戯た予算が掛かってしまった。
これは、当初予定していたラミエル戦の予算の約3倍である。
シンジは頭を抱えた。
「蘭子さん、ネルフとの共同作戦を補完委員会を交えた場で話しましょう」
「しかし、委員会には、あの碇泰蔵が」
「・・・・そうですね・・・・」
とんでもない父親だけでなくとんでも無い祖父を持った不幸を嘆き、そして、同じとんでもない父と夫を持ったユイに同情した。
「ネルフのプールは?」
「殆ど空です」
「・・・・拙いな・・・」
「弐号機・・・レイラ様のことを考えると止めた方が良いですね」
「・・・・」


人類補完委員会は、支援各国から徴収する臨時予算の他に、難民対策予算と後復興国援助予算、更には復興途上国援助予算を当てた。
これにより、4000万人を越える失業者と3億人近い餓死者がでることが決まった。
勿論、これですら全然足りない。 


東京、東京帝国グループ総本社ビル会長室、
耕一は、人類補完委員会の決定を見て、机を思い切り叩いた。
机が木っ端みじんになった。
「会長・・・」
ミユキが心配そうに見ている。
「奴らは3億人もの命を何だと思っているんだ」
「奴らにとって有色人種は人間ではないと言うのか」
「予算は安全保障理事会を通さなければなりません」
「・・・そうだ」
耕一は地図に目をやった。
常任理事国、日本、アメリカ、ドイツ、フランス、イギリス、ロシアの内、日本以外は全て赤色である。
理事国、中国、ブラジル、カナダ、サウジアラビア、メキシコ、インド、イタリア、スウェーデン、スペインの内、中国、カナダ、メキシコ、インドは青色、ブラジル、サウジアラビアは黄色、イタリア、スウェーデン、スペインが赤である。
「ブラジルとサウジアラビアのトップに繋げ」
「はい」
「吉川、現地の責任者をイタリア、スウェーデン、スペインの説得に当たらせろ」
「はい」


リリン本部、司令執務室、
「蘭子さん、今、動かせる予算はどのくらいですか?」
「・・・・補うには足りません・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・困りましたね・・・」
「・・ええ・・」


そして、東京帝国グループの根回しの結果、夜に開かれた安全保障理事会で、補完委員会の出した臨時予算案は否決された。

あとがき
はてさて、スーパーラミエル君強いですね。
これからもスーパー使徒が現れるのでしょうか?元々スーパー使徒に近かったゼルエルなんかがスーパー化したら勝つ事って出来るんだろうか?
予算が尽きたネルフはどう言った行動に出るのでしょうか?
一応これで前編は終わりです。
これからレイラがどうなるか、中編の始まりですな。
今年中に第10話まで行けたら良いですね。
では、又。