リリン

◆第11話

リリンと日本政府はネルフに対して猛抗議した。
だが、ミサトの一言で黙らされた。
「じゃあ、どうやって倒すつもりだったわけ?」
まさか、同時にコアを叩けば良いと言うわけにも行かず、エヴァを巻き添えにした事を非難すると、リツコがATフィールドの展開と干渉、そして中和に関する、NN爆雷の有効性の向上に関するご説明を1時間に渡って続け、それなら何故エヴァが全て健在の段階でATフィールドを中和させ、NN爆雷を撃ち込まなかったのかと尋ねると、新しくホワイトボードを引っ張ってきた為両方とも折れた。
国際連合総会でも似たような戦術で、反対勢力を黙らせた。
碇の18番の情報操作はここで、凄まじい破壊力を齎した。まあ、無理が通れば道理が引っ込むとも言うかもしれないが・・・
国土に被害を出した日本政府は、ネルフへの支援を一切打ち切り、以後、ネルフが作戦の優先権を持つ限り、ネルフが作戦によって出した被害は全てネルフに補償してもらうと要求を付きつけた。
他の国は有効なカードが無く、行動には移せなかったが、なにかあればリリンに乗り換えようとする国は少なくは無かった。


8月17日(月曜日)、ネルフ中央病院のアスカの病室にミサトとリツコが説明に来た。
アスカはミサトを睨みつけた。
「・・遅かったわね」
「色々とね」
「で、どうしてアタシ達ごと焼き払ったわけ?」
二人は打ち合わせをし、更にマギの助言を得、アスカに対しては理屈で言い訳するよりも、敗北を攻めるという形で、尻拭いであると言い切った方が効果的と出た。
「貴女達が負けたからよ」
正確には敗北ではない、だが、同義であり、アスカは顔を顰めた。
「貴女達が何故、エヴァに乗って使徒と戦うかを忘れたの?」
「サードインパクトの回避、その為の最善の策よ、その為ならばこの程度の事は大した事ではないわ」
「・・・ふっ・・・もう寝るわ」
アスカは二人を鼻で笑い布団を被り込んだ。
二人はアスカの様子を怪しんだが、怪我人の睡眠を邪魔するわけにも行かず、病室を出て行った。
(・・何が、サードインパクトの回避よ、それを起こそうとしているのが、ネルフ、そして、ゼーレでしょうが・・)
アスカは布団の中で拳を強く握り締めた


東京、東京帝国グループ総本社ビル会長室、
耕一は、各国の財政の一覧票を見た。
もはや崩壊していない国を探す事が至難である。
「・・・」
「会長」
ミユキが声をかけた。
「・・・」
「これらの国をリリン側に引き込め」
ミユキは印のついた一覧票を渡された。
「・・・少し難しいかと」
数が多すぎる。
「そんな事は分かっている。最善を尽くせ」
「畏まりました」
ミユキは一礼して退室した。


8月18日(火曜日)、ドイツ、ミュンヘン、マーベル連合理事会、
2010年の時点で復興を遂げた日本や、既に復興も最終段階に入っていたアメリカに対し、ヨーロッパは、セベラート国際紛争や第3次世界大戦を中心とした戦争や、多くの内乱、民族紛争に巻き込まれていた為、国土の復興は進んでも、経済の復興は遅れていた。そんな中、2011年に、ヨーロッパの主要企業が自分たちの利益を確保する為に結んだ超巨大カルテル、それが、マーベル連合である。
現在、加盟しているグループ数は、大小合わせて123、実にヨーロッパのGDPの26%を支配している。尚、東京帝国グループが19%を支配していると言う話もあるが・・・まあ、これは置いておいて、東京帝国グループに対抗する勢力の中でもかなり大きいものである。加盟しているグループで、最大のグループですら、碇財閥には到底及ばないが、全てを合わせれば、碇財閥の凡そ4倍の勢力となる。
そして、今、碇と補完委員会のフランスとイギリスの代表が交渉を行っていた。
ネルフ・ゼーレ側は、シンクロシステム、人格移植OSの技術や、マギコピーを提供し、マーベル連合は資金を出すのである。
マーベル連合は、東京帝国グループや碇財閥のように一元化された組織ではないので、総資産の割りには動かせる予算は少ない、だが、今のネルフ・ゼーレには戦力を回復させるだけの予算が必要であった。
国際連合の勢力が過半数を切った事で、正論でなければ中立を引き込めず、議案は通らない。
理事達は、相談をしている。
ここでの結果は、今後のリリンとの対立だけでなく、下手をすれば、人類存亡そのものにも影響しかねない。
如何も、意見が割れているようで、相当長引きそうである。
3人は余計な情報を与えない為に一切口を開かずにじっと理事達を見詰めている。
少し離れている為に内容までは分からないが相当対立は激しいらしい、時々怒号や罵声が飛んでいる。


東京、東京帝国グループ総本社ビル会長室、
耕一の元に、ユナが報告に来た。
「マーベルは如何なった?」
「額は分かりませんが資金の援助が決定したようです。」
東京帝国グループは、経営も正しく行われており、謀略や工作も、相手から喧嘩を売られない限り行わないし、それがよっぽど酷い事でもなければ卑怯な手段は使わない。
しかし、余りにも大き過ぎる力は妬み僻みの対象となり、そして、各地で、競争を繰り広げている。
国家をも遥かに超え、国際連合と並ぶ権力の大きさを、危険視する国も多い。今でこそ、リリン・東京帝国グループ側についているが、これは、ネルフ・ゼーレ側が酷過ぎるだけであり、使徒戦が終わればどうなるか分からない国や企業は山ほどある。
中立の立場にいる国や企業も実際には反東京帝国グループ感情は強い、これから、ネルフ・ゼーレはこれらにこれまでとは違い有償の援助を求めるであろう。
技術の開放、相手は今、切り札を一つ使っている。
「・・・そうか・・・」
次の使徒、サンダルフォン、そして、マトリエルの戦績次第では、再び、ネルフ・ゼーレ側が大きくなる可能性もある。この辺りは、ネルフがどんな失態を犯すか、そして、シンジ、蘭子がいかに動いてくれるかに掛かっている。
作戦指揮官たる葛城ミサトは作戦指揮能力は高いとは言えない。そして、熱くなると視野が狭くなると言うアスカと同じ、極めて重大な欠点がある。更に、ミサトの場合それに輪を掛け、戦っているのは自分だと錯覚するところがある。よって、使徒戦における指揮能力は皆無と言って良い。
だが、作戦立案に関しては優秀である。物量作戦を得意とする嫌いがあるものの、前回のヤシマ作戦・サハクィエル戦など、正に絶望的状況下を打破する超奇抜な作戦を立案できる。対人戦でのシュミレーションを見る限り、通常の作戦もなかなかのものであり、一歩引いたところから見詰める事が出来れば、全く変わるだろうが・・・
後もうひとつ、目の前にある情報でしか判断を行わないので、ミサトに多くの情報を与える人物が必要となる。日向では役不足か、まあ、決定権を与えなければ言いのだが
兎に角、現状では、ミサトが作戦指揮官であり、指揮権を持っている限り何らかの失態を犯すのは間違いが無いであろう。
それに気付くかどうか・・・
耕一は軽く溜め息をつき、席を立って、ガラス越しに第3新東京市を見詰めた。
耕一が仕掛けた最大の策の発動までは未だ時間が有る。
両陣営共に状況は予想よりも芳しくない、まあ、ネルフ・ゼーレ側の方が劣勢で助かっている。
そして、予算が持つかどうか、用意した予算の内、既に3分の1は使ってしまった。
これは、ネルフ・ゼーレがその被害を受け持ってくれているからであり、まだまだ、使徒戦はこれからだと言うのに・・・これからリリンメインに成った時、果たして、どれだけの予算が必要となるか・・・・


9月2日(水曜日)、第3新東京市立第壱中学校2−A、
久しぶりに学校に登校した面々であったが、アスカがいない事は、チルドレン達だけに留まらず候補生達にも暗い影を落としていた。
そして、ケンスケが死にかけた事、心肺停止にも一時陥った事・・・これまで、死とはどこかかけ離れた感じがあった為、単純に憧れていたが、死と隣り合わせであると言う事を漸く理解した今では、チルドレン選抜は恐怖の対象とさえなっていた。
そんな中、レイラがシンジに近付いた。
「おはよう、シンジ君・・放課後、屋上まで来て」
「・・あ、うん・・分かったよ」
レイラは自分の席に戻り、昨日の事を考えていた。


ネルフ中央病院のアスカの病室に見舞いに来たレイラは、レミと鉢合わせた。
「あら?」
実を言うと、明日からの登校で、シンジとどう言った顔で接すればいいのか分からず、良かったら相談に乗ってもらおうとも思っていたのである。
暫く話をしていたが、遂に勇気を出して、相談に踏み切った。
二人はレイラの言葉を最後まで黙って聞いていた。
「・・・そうね、アスカはどう思う?」
「多分、レミといっしょだと思うわ」
「レイラ、貴女は戦わずに逃げるつもり?」
「逃げる?」
意味が良く分からずに疑問符がついた。
「シンジを掛けた恋の戦い、不利だからって逃げるわけ?」
同やら本当に同じ考えだったようでアスカもじっと答えを待っている。
「・・・でも・・」
「でもじゃないわよ、それとも、レイに遠慮でもしてるわけ?」
「・・・レイさんには・・・シンジ君しかないもの・・・」
「「アンタバカぁ?」」
二人の声が重なった。
「レイは不幸で何も持ってない、だから、それよりは幸せな私が男を恵んで上げましょう、そうとしか聞こえないわよ」
「違うわ」
「違わないわよ、アタシだったら怒るわよ」
「でも、シンジ君だって・・・」
それは正に真実でありレイラは再び声のトーンを落とした。
「なに?シンジが何なの?既にレイを選ぶ事が決まってるわけ?まだでしょ、だったら少々の不利ぐらい良いハンデでしょうが」
「・・・」
「レイからシンジを奪ってでもって気が無いのなら、さっさとシンジの事忘れちゃいなさいよ、そんな中途半端に思われるシンジの方が可哀想だわ、どっちを選んでも罪悪感を感じてしまう」
「・・・」
それが正論だと思ったのか、それとも・・・、
レイラは俯いた。


放課後、屋上で二人は暫く佇んでいた。
二人は視線を合わさずに、只、じっとどちらかが口を開くのを待っている。
やがて、決意を決めレイラが口を開いた。
「・・シンジ君・・」
「・・何?」
「私・・・・シンジ君のことが好き、いつも私を守ってくれるお兄さんとしてじゃなくて、男と女としてシンジ君のことが好きなの・・」
レイラの告白にシンジは眉間に皺を寄せた。
「・・・シンジ君・・・」
暫く沈黙が流れた。
日は西に傾き長い影が校舎に写った。
「・・・今、答える事は出来ない・・・・全てが終わった後に・・答えさせてくれるかな?」
「・・・・うん・・・分かった・・・」
レイラは小さく返すと小走りに校舎に戻って行った。
シンジは上を見上げ、大きな溜め息をついた。
「・・僕はどうすれば良いのかな・・・」


9月12日(土曜日)、ネルフ本部、技術棟、
カヲルが修復された六号機に乗り色々と実験を行っていた。
リツコがまるで貪るかのように膨大なデータにくらいついている。
「・・リツコって怖いわね・・」
ミサトはそう評した。
「・・先輩・・・」
一方、ウットリとした表情と声でマヤが呟き、リツコを見詰めている。


その頃、浅間山の観測所にジュンコがやって来ていた。
データの分析が行われている。
「これ以上は無理です!」
「後で、もっと良い奴買って上げるから、壊れるまで近付きなさい!」
「はい!!!!畏まりました!!!!」
そして、接触するまで観測機を近付けた。
最終的にはATフィールドによって破壊された。
「予想通りね、さてと、リッちゃんや司令はどうするかしら?」
「・・さとて、」
ジュンコは小切手に30億と書いた。
「はい、お代よ」
小切手を受け取り主任は飛び上がって喜んだ。


ネルフ本部、作戦会議室、
「先ほど、リリンから、使徒を発見したとの報告が来たわ」
サンダルフォンが映し出された。
「・・・さなぎ?」
「そうね、幼体ね、で、どうする?」
「今後の為にも捕獲できれば良いわね」
「特殊極地用のD型装備、用意できるのは1個だけよ」
「十分よ、動かない相手ならバカでも出来るわよ」
果たしてバカはどっちだか・・・
ミサトは総司令執務室に向かおうとした。
「ちょっとミサトどこへ行くの?」
「え?司令執務室よ、A−17の申請」
リツコは吹き出した。
「何考えてんのよ!!」
リツコはいきなり怒り出した。
「え?使徒捕獲の最優先特令でしょ」
流石に呆れ返った。
「・・・貴女、東京帝国グループと日本政府に全面戦争を吹っかける気かしら?」
「はえ?」
ミサトは間抜けな声を上げた。
「A−17は、日本全国への戒厳令と現有資産の凍結を含む、この意味がわかる?」
マジで喧嘩を売ると言う事である。
ミサトは青くなった。
もし、申請していたらその場で首を切られるところだった。
「・・・分かったわ、担当は9thと六号機で、行うわ、空自にNN爆雷を用意させて」
「サポートは?」
「参号機と七号機を向けるわ」


30分後、ミサトが作戦の説明を行っていた。
「と言う事で、この使徒の捕獲を最優先に、担当は、9th貴方よ」
カヲルはサンダルフォンの映像をじっと見詰めている。
「この使徒は幼体、蛹のような物だと言われましたが、違うと思いますよ」
ミサトはむっとした。
「サンダルフォンは胎児を司る使徒、今の姿こそ成体だと思いますが、」
「データ上は、マギは幼体と判断したわ」
「既に碇司令の指示は下っています。作戦に変更はありません。良いわね」
全く聞き入れてくれない様子にカヲルは溜め息をついた。
「仕方無いですねぇ〜」


シンジのマンション、
シンジは電話でネルフの作戦の報告を受けた。
レミがシャワールームから出てきた。
「何?」
「ん?サンダルフォンの・・」
シンジは途中で言葉を止めた。
「あ・・エッチ!馬鹿!!変態!!!」
「ふご・・」
久しぶりにレミのビンタがクリーンヒットした。
理不尽である。物凄く理不尽である。
服を着ずに出てきたレミが悪いのだが・・・・ねぇ・・・


リリン本部、司令執務室、
「A−17の発令が申請されなかったと言う事は、葛城ミサト、余り侮り過ぎるわけにも行きませんね」
榊原はそう言うが、リツコに止められただけである。
「そうですね、会長には?」
「既に」
蘭子は少し考えた。
「スーパー化されてないと良いですが・・・」
ラミエルのスーパー化は予想外だった。
それによって当初予定されていたよりもかなり多い予算が掛かってしまった。


浅間山の待機室でレイラ、トウジ、ヒカリの3人が待機していた。
窓越しに、空自の重爆撃機が見えた。
「手伝ってくれるんやろか?」
「いえ・・後始末よ」
トウジの呟きにレイラが答えた。
「後始末?」
「・・作戦が失敗した時は、前回同様、私達ごと焼き払うのよ」
「なんでやねん!なんで!わし等ごと攻撃されやなあかんのや!」
チルドレンとその候補生は、ネルフによって、正義の英雄として祭り上げられた。
実際、ネルフの中層部以下では、チルドレンによって守られていると言う意識があり、そのように扱っていると言って言い。だが、肝心の上層部や直接指揮をするミサトにとっては単なる駒に過ぎず、チルドレンによって守ってもらっている等と言った気持ちは全く無い。
レイラを、所詮重要な駒の一つとしか考えずにここに寄越したのがその良い証拠である。
むしろ、空自の方が十分理解している。
重爆撃機のパイロットにはこう命令されている。
レイラ様の安全が保障されるまではいかなる事態が起ころうとも投下はするな
と、


アスカは退院を早めて本部待機となった。
(・・・ミサト・・・・場合によっちゃ、アンタを敵に回すわよ・・・)
アスカはぎゅっと拳を握り締めた。


浅間山火口内、
D型装備を着こんだ六号機はマグマの中を沈降していた。
そんな中、カヲルは違和感を感じていた。
「・・済みません、何か嫌な予感がするんですが?」
『データに変化はありませんが』
『問題無いわ、作戦を続行しなさい』
「・・はい・・」
カヲルは自分でも計器に目を光らせた。
「・・・暑いよ・・・これは、拷問だね・・・」
『だまらっしゃい!』
・・・
・・・
『限界深度ですが』
「・・サンダルフォンはいませんね・・」
『作戦続行、続けなさい』
「・・やれやれ、僕には人権とやらはないらしい・・」
『あるわけ無いでしょ』
カヲルはこめかみを押さえた。
・・・・
・・・・
安全深度、そして、限界深度を遥かに超えてもまだ、沈降が進められ、遂にD型装備が悲鳴を上げてきた。
「・・あの・・」
『各パーツに亀裂が入っています!これ以上は!!』
『目標依然確認できません』
『・・・仕方ないわね、ケーブルリバース、9thなんか如何でも良いけど六号機は大切よ』
流石にカヲルは涙を流していた。


ネルフ本部、技術棟、赤木研究室、
リツコは報告を受けてマギに分析させていた。
「・・・どう言う事?」
「・・使徒が消えた・・」
マギは回答不能を提示している。


ジオフロント周回道路を高級車がシンジ、レイ、レミを乗せて、リリン本部を目指していた。
「サンダルフォンもスーパー化されていると見たほうが良いね」
「・・ええ・・」
「でも、前回のマグマの中よりは楽よ」
「・・・どうだろう?」


リリン本部のケージでは、初号機の出撃準備が進められていた。
同時に零号機も臨出撃体制にされた。


ネルフ本部、総司令執務室、
「リリンは、初号機の出撃準備を進めています。」
「・・赤木博士、君の見解は?」
「・・・・浅間山の使徒が消えた事から、使徒は既にここを目指していると推測したか・・或いはその証拠となるようなものを掴んだかと思われます」
「・・・」
突然激しい振動が施設を襲った。
「地震か?」
「いえ、これは!」
ジオフロントの壁面が破られ、サンダルフォンが姿を表した。
「あれか!」
「拙い、弐号機と伍号機を」
「はい!」


ケージではアスカは大急ぎで弐号機に搭乗していた。
「早くして!」
『リリンが防衛出撃しました!!』
流石にここで優先権がどうのとかは言っていられない。
本部が襲われているのだ。


ジオフロント、
初号機はプログソードを構えてサンダルフォンの前に立った。
「あれが、サンダルフォンか・・」
完全な成体になったサンダルフォンは、2枚の黒い羽を持ち、どこか虫のようでもある。
「・・どんな能力持っているか分からないな」
『支援兵器展開まで50秒です』
サンダルフォンは羽を広げた。
「・・来る!」
レイが叫んだ瞬間、サンダルフォンは無数のエネルギーの弾を放った。
「ATフィールド!」
シンジは直ぐにATフィールドを展開して防御した。
それ以外の弾は、周囲に振りそそぎ、次々に施設を破壊した。
「くう」
サンダルフォンは、方向を初号機のみに絞り指向性を持たせた。
かなりの圧力を受け初号機がじりじり後ろに押されている。
「私が代わるわ」
レイはATフィールドを斜めに展開した。
エネルギー弾はATフィールドに弾かれ上へと飛んでいく。
「駄目だ!」
シンジの叫びでレイはATフィールドを解除した。
上へと飛んでいったエネルギー弾は天井都市を破壊した。
破壊されたビルが落下してきた。
そして、それは、ジオフロントの中心に存在するネルフ本部へと落ちていった。
弐号機と伍号機が射出された。
弐号機は上を見上げた。
ビルの残骸が弐号機と伍号機に降り注いだ。
「くっ」
「・・・ごめんなさい・・・」
レイは済まなさそうに謝った。
支援兵器が一斉攻撃を掛けた。
しかし強力なATフィールドの前に殆ど無効である。
中和も仕切れていない。ジオフロント内での戦闘は、ゼルエル以降を想定していた為未だ配備率が低い。
轟音と共に瓦礫を弾き飛ばし弐号機が飛び出し、一直線にサンダルフォンに向かって駆けた。
サンダルフォンはエネルギー弾の一部を弐号機側に流した。
弐号機はATフィールドで防いだが、足を止められた。
両機共に動けず、じりじり体力と精神力を削られていく、支援兵器は通用しない。
このままでは拙い。


リリン発令所、
「・・エヴァ2機を縦に並べましょう」
榊原は作戦を思い付いた様だ。
「ネルフ発令所に回線を回せ」
「了解」
メインモニターにネルフの発令所が映し出された。
「特務機関リリンは、特務機関ネルフに対して、使徒殲滅における作戦を提案します」
『拒否する』
両発令所がざわめいた。
「し、しかし、碇司令殿・・」
内容も聞かずに拒否するとは・・・・流石に榊原も汗を垂らした。
其処まで毛嫌いする必要があるのか?
『問題無い、使徒殲滅における優先権は我々ネルフが持っている。口出しは無用だ』
「で、ですが・・」
「成るほど」
蘭子が呟いた。
「蘭子さん、何か?」
「・・・レミさん、零号機に搭乗して下さい」
「しかし・・・そう言う事ですか」
「ええ」
レーダーは、3機のウイングキャリアーを捕らえていた。


ケージ、零号機、
レミはシンクロをスタートした、多少システムをいじったおかげで20を僅かに超えている。
「行くわよ!」
ゲートが開き、ジオフロントに飛び出した。
零号機は直ぐに初号機の背後に回りこんだ。
「シンジ!、レイ!加勢するわ」
『分かった!ATフィールドを補強して!』
「OK!」
シンクロ率20とは言え、ほぼ平衡状態に合ったのである。零号機とのATフィールドの共鳴によって少しずつ前に進めるようになった。
一方、弐号機の方は動きが取れないようだ。
「どのくらいなら行ける?」
『200メ−トル以内なら1撃で』
「頼んだわよ!」
そして、その200メートルに到達した。
「ATフィールド全開!!」
零号機が全力でATフィールドを張り初号機が一気に跳び上がった。
零号機のATフィールドは直ぐに貫かれ次々に被弾し、レミの身体に痛みが走った。
初号機はプログソードでサンダルフォンの両翼を切り落とした。
攻撃が止み、弐号機が走り出し、零号機はその場に膝をつき、初号機はサンダルフォンを一刀両断にした。


9月13日(日曜日)、人類補完委員会、
「ゲンドウ君、リリンに出し抜かれたままではないか」
「このような醜態を晒す為に、君にネルフを与えたわけではないぞ」
「・・承知しております。次の使徒こそはネルフが独力で殲滅致します。」


ネルフ本部の会議室では、ネルフとリリンの会議が行われていた。
ネルフ側は、リツコとミサト、リリン側は、蘭子と榊原が出席している。
議題は、伍号機を含めた先の戦闘での被害に関して、
只、出席者に一つ大きな問題がある。
階層的に言えば、蘭子と榊原は勿論、碇と冬月に当たり、ミサトやリツコよりも上の階層の存在であり、対等な交渉とはなかなか行かない。
「ですから、明らかにこの行動は、リリン側の失策です。」
「・・しかし、だね、君達ネルフは射出位置や、その正確な時間を通告してこなかった。あそこにエヴァがいたのは偶然としか言いようが無いね」
「ですが!」
「まあまあ、葛城さん落ち着いてください。我々リリンに非が無いとは言いません。しかし、元を正せば、浅間山の火口の中にいる間にさっさとNN兵器でも使用して処理しておけば良いものを、わざわざ捕獲しに行き、その隙をつかれる貴方達ネルフの愚考が問題なのでは?」
「ぐ」
蘭子の指摘にミサトは言葉を詰まらせた。
「・・・今回のサンプルに関しても何故コアを完全に処分されたのですか?」
「使徒の復活の可能性は完全に消す為です。どこかの研究機関がコアを元に新たな使徒を作り出さないとは限りませんからね」
これは、量産型エヴァを念頭に置いた皮肉であるが、流石にその意味では通用しない。
交渉の結果、ネルフ本部と小破した伍号機はリリンが、天井都市はネルフが受け持つ事になった。


夜、シンジは自室でレイラの事を考えていた。
レイラとはどう接すれば良いか、単純に損得だけで考えれば、レイラをリリン側に引き戻すのが一番良い。だが、それは、父、碇ゲンドウ、と同じである。レイラを重要な駒として見てしまう。今、リリンとネルフの争いが微妙な時期である。自分はリリンの長官である。サードインパクトの防止の為、更には強くなってしまった使徒への対策、こんな時期では、人を駒と見てしまうのはしかがないとも言える。だが、そんなことは出来ない。レイラの尊厳の侮辱もある。自らのプライドもある。そして、レイの事もある。
はたして、これからどうすれば良いのだろうか・・・・
その夜、結局答えを出すことは出来なかった。

あとがき
新年明けましておめでとう御座います。
本年も宜しくお願い致します。
さて、次々に中立勢力を取りこみ、何とか凌いでいるネルフ、いったいいつまで持つのでしょうか?
今回、レイラが遂にシンジに告白しました。
これで、シンジとシンジを取り巻く少女達に変化が起きる事は必死。
物語が盛り上がって来ました。
何と無く収拾がつくのかどうか・・・辛いかも・・・
実家から戻って来て極めて重大な事を発見。
一部テキストファイルをフロッピーに入れ忘れていた事が発覚・・・・
・・・毎日更新ピーンチ!
では、また・・・