リリン

◆第19話

10月23日(金曜日)アメリカで大統領選挙が告示された。
セカンドインパクト時、そして、その後の混乱等から発生した問題や、様々な者の、様々な思惑によって大きく選挙制度は変えられている。
例えば、セカンドインパクトによって沿岸部の州が壊滅した事や、その後の様々な事で各州の人口変動が余りにも激し過ぎ、しかもそれが長期間続いた事などから伝統的な各州毎の投票ではなく、連邦全体による投票である事。
そして、選挙の日程も、大幅に変更されている。
特に、告示から投票までも、当選から就任までも、それ以前の大統領選挙に比べると随分と短くなっている。
これは、使徒戦やその準備期間に於いてもぼろが出にくいと言う事で都合が良い事から、ゼーレが推し進めていたと言う事もある。
更に言うならば、東京帝国グループも裏でそれを進めるように色々と工作をしていたと言う事もある。
そして、今回ゼーレは民主党・共和党ともに、支配下に置きゼーレにとって都合の良い大統領を当選させようとしていた。
いずれの大統領が当選してもゼーレは困らない。
マスコミも支配下においており民衆の目を自分達に不利な点から目をそらせ、都合の良いように誘導していた。


ところが、ここに東京帝国グループが創り送り込んだ米国経済党が突然対立候補を立てて来た。
光可憐、日系の女性であり、東京帝国グループのアメリカでの最高責任者である。
民主党、共和党ともに、余りにも多過ぎるネルフへの出資予算、特に特別枠の臨時予算の為に大して身動きをが取れ無い状況をマスコミなどの力を利用して、誤魔化すような政策を掲げているだけであった。
2000万人近い失業者、経済を圧迫する重税、滞っている福祉関連予算、これらには殆ど手付かずであった。
そこへズバッと切り込み、グループ系のマスコミ各社を使い、彼らが隠そうとしていた物、彼らにとって不利な物を次々に日の下に曝し、国民の目を集中させた。
そして、失業者対策として、合衆国政府は東京帝国グループの大々的な支援を受け入れ
東京帝国グループ及び関連企業は200万人規模の新規雇用を行い、東京帝国グループからの融資で行う政府の公共事業と合わせ、波及効果まで含め1000万人の雇用を創り出す。
重税や福祉関連には、度重なる臨時予算の徴収で現在合衆国の予算の6割を超える国際連合への分担金を3割以下にし、更に通常の軍事費も大幅に減らす。累進課税を適用し、低所得者の支払う税金は現在の半額程度とし、全体で2割の減税を行い、残りを各政策に当てる。
と言う2本柱を中心とした物であった。
勿論これには一斉の大反発があった・・・東京帝国グループによる侵略に等しい。
だが、それ以上に、流れは強かった。
一般大衆に取っては、今のこの貧窮を改善してくれる者こそ好ましい、その為にはもはや方法には構ってなどいられない・・・・そして、東京リサーチグループの発表した速報によってそれは、証明された。
まあ、その発表している会社が東京帝国グループ系列なのはどうかとは思うが、世界で最も信頼できそしてされている東京リサーチグループの速報によると、何と可憐の支持率は63%に達しており、しかも、続々と発表されるマスコミ各社の支持率もそう大きく離れているわけではなく、それが正しい事を証明していた。
これに、私利私欲の為にゼーレ等に国を売り渡した者・・・将来の国益の為と言うのは真実かもしれないが、その為には方法を問わず、今の大衆の生活を犠牲にした者・・・詳しい事は分からずに、それらに加担していた者達は大慌てになった。


ゼーレ、
「東京帝国グループは、アメリカを乗っ取るつもりだ」
「ふざけた事を、」
「断じて許される事ではない」
「何かしかけてくると思い・・・色々と手は打ってはいたが、ここまでの事をするとはな・・・・」
「そんな弱気で困る」
「ここが正念場になる。」
「如何なる方法を持ってしても、今を乗り切らなければ成らない」
「先ずは、共和党と民主党の候補を一本化し、対抗する政策を打ち出す」
「財源はどうするつもりだ?」
「公約とは破る為にあるのだよ」
「その通りだ」
「選挙戦が終わるのは、使徒戦も終盤だ。それまでに補完計画の準備を完成させてしまえば良い」
「その通りだ。それまで、民衆の不満が押さえられれば良い」
「しかし、このままでは拙い、」
「左様、皇耕一、皇ルシア、碇シンジ、この3名が生きている限り、何も変わりはしない、」
「如何なる事をしたとしても所詮焼け石に水だ」
「どうする?」
「必然的にこの3名の息の根を止めなければならん」
「そう、例え、どんな手を使ってでも」
「そうだ、方法は問わん」


民主党代表は直ちに立候補を取り止め、民主党共和党で、候補を支持率の高い共和党のマイケル・ブラウンに統一する事に成った。


10月26日(月曜日)、朝、第3新東京市、シンジのマンション、リビング、
3人がテレビを見ていた。
『アメリカ合衆国大統領に立候補している。光可憐候補に物凄い批判が集中しています。しかし、東京リサーチグループによる速報では、支持率は63%と成っており、大衆は支持していると言う事に成っています。』
『これは、ですね、光候補への支持ではなく、現在の民主党も共和党も支持しないと言う事が、強いですね。もう一つは、直接的な失業者・経済対策が提示されています。これによる受益者が非常に多い、実際には・・・そうですねアメリカ合衆国の9割以上の者が受益者となるのではないでしょうか?』
『批判をしている者は一般大衆ではありません。既に地位を築いている者、一般大衆から甘い汁をすい続けて来た者達なのです。』
『とは言え、流石に・・・と言うのが、この支持率に現れていますね。まあ、女性と言う事で、女性の有権者からの支持は男性に比べて良いようではありますが、』
『ずばり、結果をどう見ますか?』
『そうですね、民主党と共和党が協力した事で、どうなるか、少なくともこのままの政策では話になりません。対抗する政策を出してくるであろう事は当然ですが、現在のアメリカの状況を見ている限り、かなりきつい事は目に見えていますね。そして、土壇場での大幅な方針転換、これへの不信感、』
「・・・会長こんな事・・・」
『それと、可憐候補の陣営がグループ系のマスコミ各社の協力も得て、今まで政府が必死に隠していた、現政府にとって不利な情報を大々的に公開した事で、現在のアメリカの悲惨としか良い様が無い状況を多くの国民が知る事に成った事でどう判断するのか、』
「・・・そう言えば、4年くらい前に、アメリカの大統領が汚職で失脚してたね・・・」
「あれは、これを狙っていたんだ・・・」
シンジとレイラは耕一の張った策に、只、呆気に取られるだけであった。
一方のレイは事情が良く分かっていないらしく首を傾げているだけだった。


ネルフ本部総司令執務室、
「・・・東京帝国グループは、とんでもない事を仕掛けてきたな・・」
冬月もどこか呆気に取られている感がある。
「・・・アメリカを乗っ取るつもりか・・・何かするとは思っていたが、ここまで、あからさまな方法で来るとはな、」
碇も流石にここまで・・・と言った様子である。
「そうなると危険です。」
「・・・今、安全保障理事会の勢力は拮抗している・・・もしアメリカが、東京帝国グループ、リリン側に回ったとしたら・・か、」
「はい、リリンが主導を握る事は間違いありません。場合によっては・・・」
ネルフの特務権限剥奪、解体もありえる。
「むぅ・・・」
「しかし、アメリカだけなら大丈夫だ・・ネルフを解体するなどと言った事には・・・」
冬月の言葉が途中で止まった。
「・・どうした?」
「副司令?」
冬月の顔は青褪めている。
「・・・どうした?」
「・・・・碇・・・・イギリス、ドイツ、フランス、ロシア・・・4大国全ての首脳部は、ゼーレを初めとした裏組織と繋がっているのだぞ・・」
「ですから、安心なのでは?」
「・・・そう、言う事か・・・」
分からないリツコに対して、碇はその意味が分かったらしい。
汗を垂らしている。
「どう言う事ですか?」
「・・・叩けば、いくらでも埃が出るということだよ・・・」
「あっ」
冬月の言葉でリツコは気付いた。
「・・・東京帝国グループの諜報能力なら・・既に失脚させられるくらいの情報は掴んでいるだろう・・」
これは、何もアメリカだけの問題ではない、何時でも、先に上がったような国でも起こせると言う事である。
「・・司令!」
「・・・ネルフとしてこれに干渉する事は出来ない・・・」
「我々にできることは、ネルフは不要ではないと言う事を見せる・・・それしかないな、」
「・・・老人達も何時失脚する事になるか分からん、問題となる証拠は出来得る限り掴まれないように処分しておけ」
「・・はい」
「・・・計画に重大な支障をきたしかねんな・・・」
「・・ああ・・」
とても問題無いと言う事は出来なかった。


そして、数々の対抗する政策・・と、言っても根本的に予算源が足りない為に、そう大きな事ができるわけではないが、次々に発表された。


10月29日(木曜日)東京、東京帝国グループ総本社ビル会長室、
世界中がパニックに近い状況になっている中、この策を打ったその人物、皇耕一は少し厳しい表情をしていた。
「・・流石に厳し過ぎましたか・・」
「・・・うむ・・・」
ブラウン陣営は、様々な対抗する政策公約を立てて来た。
実現可能だが、する気の無い公約ばかりを。
まあ、現在のアメリカの状態では、それではまるで足りない、しかし、流石に反感、そして、不信であろうか、
色々と数字に出ている。
まあ元々、現状に不満があったと言う者が多かったのだ。東京帝国グループへの不信感や反感を合わせればまあ、当然と言える。
「・・どうなされますか?」
「まあ、予想できた範囲だ。少々低いが・・・これならば問題無い。選挙戦は長いからな・・・まあ、直ぐ終わるかもしれんが、」
扉が開かれ旅行トランクを持ったルシアが姿を表した。
「耕一さん、準備は出来ました。」
「予定通り、アメリカに飛ぶ・・・って、ルシアさん、気が早すぎますよ・・・」
二人は苦笑した。


第3新東京市、ネルフ本部中央病院、特別検査室、
漸く目を覚ましたカヲルは徹底的な検査を受けていた。
「あ〜あ、眠いよ・・・全く・・・なぜこんな事をするんだろうね・・・僕には分からないよ、」
『はい、次、大きく息を吸って』
『はい、息を止める』
『大きくゆっくりと吐く』
「全く退屈だね・・」
『私語は慎む・・はい、次は右を向く』
やれやれと言った感じでカヲルは指示にしたがった。


リリン本部、技術棟、シュミレーションシステム、
零号機:レミ・レイラ
初号機:シンジ・レイ
で、シュミレーションが行われていた。
「・・どうですか?」
榊原はジュンコに尋ねた。
ジュンコは直ぐにデータに目を通した。
「・・・そうですね、やはり、戦力差は絶対的ですね、この2機では波状攻撃のような連携は難しいでしょうね・・初号機が攻撃担当で、零号機がそのサポートと言う形以外は難しいかもしれません。」
「・・・まあ、仕方が無いでしょう・・・弐号機が欲しいですね、」
「・・そうですね」
「・・・しかし・・・アメリカの選挙は大丈夫なんですか?」
「さあてね・・・まあ、会長が居る限り大丈夫だとは思いますがね」
「・・・そうですか・・・」
ハルカも耕一を信用し信頼している。
しかしジュンコは耕一と言う人物を測りかねていた。


ネルフ本部、女子更衣室、
シュミレーションを終えてアスカ達は着替えをしていた。
ヒカリはトウジと約束でもしているのか軽くアスカに挨拶したくらいでさっさと帰って行った。
「ん?」
マナは椅子に座ったままじっと俯いて考え、いや、悩んでいる。
「・・・」
「・・・どしたの?」
「あ・・・ううん、何でも無いの、気にしないで」
「・・・」
レミから色々と聞いているので、今の世界の状況とが直ぐに繋がった。
マナはネルフとリリンどちらが正しいのか・・・いや、ゼーレと東京帝国グループどちらが正しいのか、それで悩んでいるのである。
いや、そうではない、何を基準にそれを判断したら良いか、それを悩んでいるのだ。
(・・・アタシが言っても無駄ね)
アスカがリリンと繋がっていると知っている以上、何を言っても無駄だろう、その言葉が本当なのか嘘なのかアスカは信用に足る人物なのかどうか、そして、それは何を基準に考えれば良いのか・・・それらの繰り返しになるだけ・・むしろよりいっそう悩ませてしまう。
「・・・・じゃあ、又」
アスカは、それ以上何も触れずに更衣室を出る事にした。


夜、ネルフ宿舎、マナの部屋、
マナはテレビの報道を見ていた。
「・・・」
テレビ局によって言っている事が全然違う。
どれが正しい情報なのか、全く分からない。
「・・・・・」
中立的な報道は信用できるのか?事実のみの報道は信用できるのか?
答えはノーである。その中立とは何を持って中立と言えるのか、事実のみと言っても、情報は取捨されている。
マナはテレビを消した。
何を信じれば良いのか、そしてそれは何を基準にして判断するのか、全く分からない。


アスカのマンション、
レミはクッションを敷いて寝転がり、アスカクッションの上に座って東京第1放送局のニュースを見ていた。
『31日に、皇耕一・皇ルシア東京帝国グループ総会長夫妻は、訪米を行う見通しとなっております。』
「ねぇさ〜」
「あに〜」
『今回の選挙に関する、可憐候補の応援が主な目的と見られています』
「マナって分かるわよね」
「当然よ」
「随分悩んでるみたいよ」
「そう?」
『これに関して、東京帝国グループは、』
レミはテレビをきって上半身を起こした。
「・・・」
「・・・レミ〜、何とかして上げられないかしら?」
「・・・アスカ随分余裕が出てきたのね・・」
少し驚いているのかもしれない。
「ん?まあ、そうかもしれないわね」
「・・・正直言って、アタシ、マナには良い感情を持っていない・・・いえ、嫌いよ」
「・・・前回の戦自のロボット?」
「そう・・アイツは、シンジを誑かすだけ誑かして裏切った・・・最悪よ」
刺・・明確な鋭い刺が言葉に含まれている。
「・・・・」
「・・・そんな目で見ないでよ、この世界とは違う歴史を歩んでいる。同一人物だけど、別人でもあるのよ・・・」
「・・・分かっているわよ・・・でも、私は前の歴史を振りきっている訳じゃないのよ・・・アタシだって、14年間、その歴史を生きてきたんだから・・・」
人のイメージは第1印象が非常に大事であり大きなウェイトを占める。
しかも、レミのマナに対する物は、第1印象などではない、確かに一つの歴史に生きたマナその者、そしてその行動から来る印象なのである。
その印象はこの世界の今のマナには当て嵌まらないと言う事は分かっている。
だが、実際には否定できない。無意識のうちに肯定してしまい、否定できないのだ。
「レミ・・・」
「・・・寝るわ」
「そう・・お休み」
「ええ、お休み」
レミは寝室の方に歩いて行った。
アスカは大きな溜息をついた。
「・・難しいのね、」
この世界のマナとレミの世界のマナは同一人物ではあるが、別人でもある。
それは、アスカとレミにも言える事である。
以前の歴史を振り切る事は出来ない・・いや、振りきるべきではないかもしれない・・・しかし、誰かをその同一人物ではあるが、別人でもあるその者と重ねて見てしまう事は、重ねる側、重ねられる側、双方にとって不幸な事であろう。
無条件に自分の価値を認め救ってくれたレミ・・・今度は逆に自分が何とかしてあげたいとは思う。
だが、アスカにはその為にはどうすれば良いのか、分からなかった。


10月30日(金曜日)、ゼーレ、
「・・・明日、皇耕一が日本を発つ」
「アメリカで何かを起こすつもりだ。」
「何を起こすつもりなのかは分からん。」
「あの男は、余りにも危険過ぎる。」
「その存在だけでも危険、何か行動をされるとしたら、その危険性は、致命傷を負わせられかねんよ」
「だが、裏を返せば絶好のチャンスだ。」
「皇耕一と皇ルシアを亡き者にするな」
「・・・もはや手段は選ばん・・・いや、選んでいる余裕など無い」
「如何なる手段を持ってしてもな」
「左様、絶好であるとともに、最後のチャンスでもある。」
「失敗は許されん」


アメリカ、ワシントン、ホワイトハウス、大統領執務室、
大統領は電話で話をしていた。
「・・本当に・・・ですか?」
『そうだ、現在の状況、もはや他に方法は無い』
「し、しかし・・・これでは、全面戦争に・・・」
『我々ゼーレを信用できないと言うのか?』
「い・・いえ、そう言う訳では」
『何か不満でもあるのか?』
「・・いえ、」
『では問題無かろう』
「・・・はい・・」
『もう一度だけ言おう。他に方法は無い、チャンスは一度だけだ』
「分かっております・・・」 
大統領は電話を切り、天を仰ぎ暫く何か考えた後、意を決し電話を取った。


東京、東京帝国グループ総本社ビル会長室、
ミユキが入って来た。
「会長、クィントスからの報告です。」
耕一はミユキから報告書を受け取り、目を通した。
「ふむ、これで上手く行きそうだな」
「はい、」


10月31日(土曜日)、東京湾上空、
大型ヘリが多数の護衛ヘリや護衛機を引き連れて、東京湾に浮かぶ東京中央国際空港を目指していた。
耕一は窓から東京中央国際空港を見下ろした。
「・・どうしました?」
「・・・いえ・・・クィントスの報告通りゼーレが出てくるかどうか考えていたんです。」
第3滑走路には東京帝国グループ会長専用機が待機している。
付近の海上には、航空母艦が配備され同行する数十機の護衛機が待機している。
「・・・これだけの事をしていますからね」
耕一の視線の先には第4滑走路に待機している4機の大型戦闘機があった。
通常の戦闘機よりもかなり大きい。
東京帝国グループがその最先端技術を使い、更にエヴァテクノロジーも組み込んだ戦闘機である。
擬似ATフィールドを展開し、機銃くらいならば余裕で弾く、対空ミサイルでも何とか防げる筈である
搭載されている武装の種類とその数も桁外れで、まるで、何かのゲームで出てくる如何様なような戦闘機である。


耕一達が空港に到着して数十分後、多くの護衛機を引き連れて会長専用機は大空へと離陸した。


アメリカワシントン、ホワイトハウス、大統領執務室、
「・・・大統領・・・」
「・・・もはやこれしかないのだ、方法に拘る事は出来ない」
「・・・・・・」
「合衆国が合衆国である事を貫くにはこの方法しかない」
「・・・」
「・・・」
「・・・畏まりました。総力をあげて、この任務を成功させて見ます。」
「・・・頼んだぞ・・・もはや、後戻りは出来ないのだ。」


太平洋上空、
ルシアは窓の外を見ている。
「・・何か見えますか?」
「いえ・・・」
「・・・少しトイレに行って来ます」
「はい」
耕一は席を立ってトイレに向かった。
「・・・」
ルシアはこれから犠牲に成る者達の事を思い、複雑な心境であった。


第3新東京市、ネルフ本部総司令執務室、
「・・・碇、ゼーレは手段をえらばんつもりだぞ」
米軍太平洋艦隊が会長専用機を撃墜する為に、その進路上に集結している。
「・・ある意味当然だろうな、もはや手段を選んでいる余裕など無い、」
「・・・だがな・・・」
「・・・・問題あり過ぎだな・・・」


太平洋上空を飛行していた会長専用機の行く手に、無数の戦闘機が確認された。
護衛機は専用機の周囲を固め、そして、戦闘の準備をした。
一斉に長距離対空ミサイルを発射する。
ミサイルは一直線に米国空軍の編隊を目指していく、散開しミサイルを交わそうとしたが、追尾されいつくもの戦闘機が空に散った。
専用機は高度を下げ始め、護衛機は二手に分かれ、20機ほどが専用機に付き、残りは加速して一気に米国空軍の戦闘機群に向かった。
専用機は、雲の中に入った。
やがて、雲を抜けたが、雲の下にはとんでもないものが待っていた。
アメリカ海軍太平洋艦隊、
各艦から一斉に対空攻撃を掛けて来た。
護衛機は散開し、対艦ミサイルを次々に打ち込んでいく、それに対し無数の対空ミサイルや対空砲の砲弾が飛んでくる。
数発のミサイルが専用機に着弾し、専用機が爆煙に包まれた。
しかし、その爆煙の中からその姿を表わす。
1つのエンジンが火を吹いているが、致命傷ではない、消化剤が噴霧され鎮火する。
それを見て艦隊はいっそう攻撃の手を強めて来た。
護衛機は次々に打ち落とされていく。
4機の大型戦闘機がここで攻撃に出た。
信じられない機動性でミサイルや砲弾を交わし、海面擦れ擦れまで高度を落とし変則的な動きで艦隊へと迫り、対艦NNミサイルを4発ずつ発射した。
小型のNN兵器であるが、1発で巡洋艦クラスを優に沈められる様にされている。
装甲を突き破り、一気に爆発、艦が光に包まれ大爆発を起こした。
これで8つの巡洋艦と3つの駆逐艦が沈められ1つの戦艦と1つの航空母艦が大打撃を食らい大破沈黙する事に成った。
専用機や多くの護衛機に対する攻撃を続ける一方で、残る全火力を大型戦闘機に向けた。
ミサイルが次々に着弾する。
しかし、その爆煙を突き破って、その姿を表し、レーザーを発射し次々に艦の装甲を切断していく、
そして、切り取った穴に向けて小型のミサイルを撃ち込む。
流石に艦内に直接ミサイルを撃ち込まれては被害は甚大である。
弾薬庫にでも引火したのか、突然戦艦が大爆発を起こした。
そして、再び対艦NNミサイルを発射する。
一方上空では、専用機についている護衛機は既に3機になっていた。
専用機も火災が発生し、火柱を吹き上げている。
更に、次々にミサイルが専用機に着弾する。
いくつかエンジンが爆発、停止し、推進力が落ち急速に高度が下がって来た。
そして、更に多くのミサイルが着弾し、遂に大きな爆発を起こした。
専用機は炎の固まりとなり急降下して行く。
最後の意地なのか、航空母艦に着弾し大爆発を起こした。
残された7機の戦闘機はその後も攻撃を続けたが、暫くして戦闘域を脱出した。


第3新東京市、シンジのマンション、リビング、
3人はテレビを見ていた。
当然、放送はアメリカの選挙の事ばかりである。
『・・・え!?』
ニュースキャスターの表情が驚愕で固まった。
「ん?」
「あれ?」
『え・・・え・・・あ、あの・・・・』
『・・さ、先ほど、旧サンフランシスコ沖で・・・東京帝国グループ会長専用機が、墜落したとの・・情報が入ってきました・・・』
「何だって!!?」
「お父さん!!お母さん!!」
「・・・」
レイは複雑な表情のまま固まっている。
どう表現したら良いのか分からないようだ


東京、東京帝国グループ総本社ビル最高総司令室、
「現在確認を急いでいます!!」
「米国政府は沈黙を守っています!!」
「弾道弾をワシントンとシカゴに撃ち込め!!!」
「それはやりすぎです!!」
最高幹部が騒ぎまくる中、ミユキはじっと黙ってモニターを見詰めていた。


ゼーレ、
「・・これで、アメリカと引き換えに東京帝国グループの勢力は大きく落ちる。」
「いや、未だ、残っているぞ、」
「左様、リリンの要も砕かねば同じ事」
「リリンの要、碇シンジ、」
「サードチルドレンも抹殺せねばならん。」


京都の郊外に広大な敷地を持つ碇家、
碇泰蔵は、倒れてから床から大して離れられないでいた。
今、布団の上で医師の診察を受けている。
一向に病状は良くならない・・・いや、寧ろ、悪化の一途を辿っている。
「・・・」
「総帥、米軍が、東京帝国グループの会長専用機を撃墜したとの事です。」
「・・・そうか、」
「で、サードチルドレンの抹殺計画を実行に移すとの事です」
「・・うむ・・・」
医師は診断を終えたようだ。
「下がれ」
「はい」
部下は退室した。
「・・・残念ながら、そう長くは持たないかと、」
「・・・・」
泰蔵は眉間に皺を寄せた。
「・・・」
「・・そうか・・・」
医師が帰って行った後、泰蔵はその見事な庭園に視線を移した。
「・・・補完計画か・・・」
ユイとの事で、委員会、そしてゼーレに協力して来た。
しかし、体調を崩してから、補完計画その物が・・・・
「・・・」
その後長い間考え続けた後、泰蔵は、部下を呼んだ。


アメリカ、ワシントン、ホワイトハウス、大統領執務室、
「は、話が違うではありませんか!!」
『・・何がかね?』
「東京帝国グループとの全面戦争に陥ってしまうではありませんか!!」
既に、東京帝国グループが様々な方面で動き出している事が伝わっている。
米州東京軍の空軍と陸軍がワシントンに向かっていると言う確かな情報から、東京軍の艦隊がアメリカに向けて出撃したと言う未確認の情報まである。
ゼーレから何からの働きかけがあるものと思っていたが、何も無い。
「今の合衆国の力では全面戦争には勝てません!!」
空軍と太平洋艦隊が壊滅的打撃を受けたと言う事は分かっている。
『だからどうした?』
「え?」
『アメリカ1国で、人類の未来が守られるのならば安いものだ』
「まっ、まさか!!はじめから!!」
『今ごろ気付いたのかね・・・まあ、そんな事はもはやどうでも良いが』
「くっ!只では終わらんぞ!!」
『愚かな』
「何がっ!!」
大統領の頭部が弾丸によって貫かれ、机に血の赤い花が咲いた。
『・・道具は道具で居れば良いのだ。』


第3新東京市市内の公園にある天使の像に登りカヲルが腰掛けていた。
カヲルは目を閉じじっと何かを聞いているかのようである。
どれだけの間かその状態が続き、カヲルは目を開いて立ち上がった。
「・・・分かりました。」
「・・・実行すれば良いんですね」
誰に話しかけたのであろうか・・・
「ええ、御心配なく・・・」
カヲルは像を飛び降りた。
「・・・リリン・・君達は愚かだよ・・・」
「・・・まあ、僕はもっと愚かだけれどね・・」
カヲルは自嘲して公園を後にした。


リリン本部に3人は車で向かっていた。
3人とも重い表情で黙ったままである。
耕一とルシア、二人を失ったとしたら、東京帝国グループの影響力は大幅に下がる。
反東京帝国グループ系は一気に仕掛けて来るであろうし、親東京帝国グループ系の中からも中立や反に回ったりする者も出てくるだろう。
信号で車は停止した。
・・・
・・・
・・・
「長いな・・」
遥か遠くのビルの屋上で何かが光った。
それに気付いたレイがATフィールドを展開しシンジを守ろうとした。
遠くから発射された弾丸は信じられないほど早く、そして正確にシンジの胸を目指して飛んで来る。
ガラスが貫かれる。
間一髪でレイのATフィールドが間に合った筈だった・・・
しかし、弾丸はATフィールドを中和し、すり抜けシンジの胸へと突き刺さった。
「ぐぶぅ!」
シンジの体が衝撃で浮き上がり、レイラが受け止めた。
「碇君!!」
「シンジ君!!」
胸から凄まじい勢いで血が噴出している。
「シンジ君!!」
「駄目!」
レイはシンジの体を揺すろうとしていたレイラを静止し直ぐにシンジの胸をATフィールドを使って押さえた。
弾丸は貫通していないから、体内に残っているようだ。そして、この出血量では、かなり危険である。
車は信号や制限速度など無視しリリン付属の病院を目指し全速力で走った。


遥か遠くのビルの屋上では、狙撃を成功させたカヲルがライフルを下ろし、ふっと一息ついた。
「・・・取り敢えずは、任務成功と言ったところかな、」
「・・・流石にこれ以上この町に居る訳には行かないな・・・・ん?」
カヲルは何か違和感を感じ取った。
「え?」
瞬間NN爆雷が爆発し、周囲一体と共にカヲルはプラズマ化した。


リリン本部付属病院、緊急手術室前、
手術中のランプが灯っている。
「・・シンジ君・・」
レイラは長椅子に座り、只じっとシンジが助かる事を祈っている。
折角上手く行きそうなのに・・・それ以前に、シンジが死んでしまっては全く意味が無い。
その横でレイは膝の上に置いた拳をぎゅっと痛いほどに握り締めている。
((・・死なないで・・))
二人の祈りは届くのであろうか?

あとがき
リリン中編の最後です。
第20話から後編に入ります。
さて、とんでもないことになって来ましたね。
これからどうなるのでしょうか?
それでは、