リリン

◆第20話

司令執務室、
蘭子と榊原は重い表情で向かい合っていた。
「・・・犯人は間違い無く、渚カヲルですね。ATフィールドを使って物理法則を捻じ曲げ、3キロと言う距離の狙撃を成功させた。更には、レイさんが張ったATフィールドを中和した。」
「・・・・」
「そして、ゼーレは、証拠隠滅も兼ね、NN爆雷で殲滅する・・・筋書き通りですね・・・」
蘭子は額を組んだ手につけた。
「・・・」
『・・長官の事で御報告が、』
蘭子はボタンを押して扉を開いた。
白衣を着た医師は一礼して中に入って来てファイルを提出した。
それを見た二人の表情が露骨に歪む。
「・・・残念ながら、心臓を始め複数の臓器の損傷が酷過ぎ・・・このままでは・・・」
「・・・方法は?」
「・・・臓器移植ですね。人工臓器で代用も出来ますが・・・必要とされる臓器の数は多く・・・人工にせよ他人のものにせよ、様々な弊害を伴います・・・」
二人は何度目かの大きな溜息をついた。
特に、エヴァとのシンクロに関しては重大な支障と成りかねない・・・
「・・・直ぐに臓器提供者のリストアップ、平行して・・東京中央病院と東京医療技術研究所に問い合わせて!」
「はい!」


緊急手術室の前で未だ、二人はじっと待っている。
「「レイ!!レイラ!!」」
話を聞いたミクとアスカの2人が走ってやって来た。
レイとレイラの表情は蒼白である。
・・・特にレイの肌の色は完全に病的な域である。
「「大丈夫?」」
「「・・・分からない・・・」」
「シンジの事は勿論だけど、アンタ達の事よ!」
ちょっと意外そうな表情をする。
「マジで、病人みたいよ・・・」
その時、緊急手術室から医師が出て来た。
「先生!シンジ君は!!?」
一気に詰め寄ったレイラと、声は発しなかったが同じような行動をしたレイ、二人のその迫力とに医師は恐怖混じりの驚きを感じた。
「あ・・ええ、えっと・・」
一息ついてしきり直す。
「・・・かなり危険な状況です。助かるには臓器の移植が必要です・・・現在リリンの総力をあげて提供者を探しています。」
「見つからなければ、人工臓器で代用となります、しかし、いずれにせよ様々な弊害があります。」
医師の簡単な説明が終わると、皆は長椅子に腰を下ろした。
そして、シンジが助かることを、臓器の提供者が見つかることを祈った。
だが、レイだけは小刻みに震えていた。
心当たりがある。
シンジとの親和性が高く、そして、エヴァとの親和性も高い、
更には、物言わず、自らの命が消え去ったとしても、それに対して文句一つ言わない存在・・・否、言えない存在・・・
素体である。
魂無き存在、そして、シンジの母親たる碇ユイをベースに作られた存在。
その決断を下す事が怖い・・・場合によっては、それは自分であったかもしれない。
本来下して良い決断ではないかもしれない・・・だが・・・・
・・・・
・・・・
シンジを確実に救い、更にはその後の使徒戦そしてゼーレ戦に勝利し生き残る為には他に手は無い。
決意したレイは顔を上げ、立ち上がり司令執務室へと足を向けた。
「・・レイさん?」
「碇君を守る。私が守らなくてはいけない。」
レイラが問おうとしたがレミが手で静止し首を振った。
レイの素体を今の肉体としているレミはその意味に考え至ったのだろう。
そして、そのレミを見てレイラとアスカもそれに気付く、
妙な沈黙に包まれてしまった。


レイは司令室執務室の前に立った。
『・・レイさん?』
ドアが開き、レイは中へと入った。
「・・何か?」
「碇君の臓器に、私の素体の物を使って下さい。」
2人は驚きとその手があったかと言ったものが交じり合ったような表情を浮かべた。
・・・・・
・・・・・
暫くの沈黙の後、蘭子はゆっくりと頷いた。


ネルフ本部、総司令執務室、
「・・・これは拙いな・・・」
「・・ああ・・」
「・・・委員会・・・いや、ゼーレめ、」
「・・・我々への通告も無しに行った・・・暴走し始めている。」
「そうだな・・・これは、職員の動揺が気になるな・・・赤木博士、」
「はい」
「どう見る?」
「・・・一般職員に関しては、サハクィエル戦の司令の演説が予想以上に利いている様で、委員会への反感が大きくなるだけでしょうが、チルドレンに関しては不信感がかなり上がると思われます。」
「まあ、チルドレンは聞いておらんし、聞けば、憤りを覚えるだけだろうな」
「はい・・・このまま放置すれば、拙い事になるかと・・・」
「・・・会長専用機撃墜の裏が明らかになれば、その様な委員会に従う我々に色々と不満・・いや、反感を感じるだろうな・・・チルドレンに至っては爆発するかもしれん・・」
「・・・うむ・・・司令部が委員会と対立状況にあるとの噂を流せ、」
「はい、」
「・・・応急措置にしかすぎんな、」
「・・・ああ・・・次の段階に移る事も考えておく必要があるな。」


リリン本部機密区域内、ダミープラント、
ネルフ本部から運び込まれたダミープラントの巨大な水槽に素体が浮いている。
その中から素体が一体取り出された。
レイは素体に近寄り、手を取った。
「・・ごめんなさい・・・」
涙が零れ素体の胸に落ちる。
「・・ごめんなさい・・・」
レミの場合とは訳が違う。この素体は死ぬのだ。
場合によっては、自分がこの素体であったかもしれない。
レイには只謝る事しか出来なかった。
2人にはレイに掛ける言葉が見つからず、只、じっと見守る事しか出来なかった。


手術室の前には重苦しい沈黙が流れていた。
皆どう言う事なのか、程度に個々の差はあるものの予測はついている。


その頃にはネルフ本部にもシンジ狙撃の報は既に届いていた。
シュミレーション控え室では、4人のチルドレンが話をしていた。
「・・こんなの・・・間違ってる・・・」
リリン長官、サードチルドレンの暗殺・・・使徒に対抗する貴重な戦力、それも最強の戦力を自らの手で消す。
目的が使徒の殲滅である筈がない・・・
マナの言葉に3人は応える事が出来ず黙ったままだった。
「ネルフっておかしいよ・・・」
「・・・せやな・・・英雄やって祭り上げても、結局は使い捨て扱いや・・・」
そんな時、部屋にリツコが入って来た。
「・・・リツコさん・・・」
4人の視線がリツコに集中する。
「・・今回の事は、ネルフの上位組織、人類補完委員会の独断による事・・・ネルフには一切知らされなかったわ、」
マナはじっとリツコの目を見詰めた。
嘘をついている目ではない。
「今、司令は委員会の委員達と対立状態にあるわ、力関係的には厳しいけ」
リツコが話を始めて直ぐに突然照明が一瞬消え、警報が鳴り響いた。
「なに!!?」


発令所は、突然の汚染警報に続くハッキングにパニックに近い状況になっていた。
リツコが入って来た。
「如何したの!?」
「サブコンピューターがハッキングを受けています!」
「ハッキング?」
リツコはマヤの近くのモニターを覗き込んだ。
「疑似エントリーを展開します。」
「疑似エントリーを回避されました。」
この早さ、とても人間業ではない。
「防壁を展開します。」
「防壁を突破されました。」
(リリン?)
「疑似エントリーを更に展開します。」
「コリャ、人間業じゃないぞ。」
会長機撃墜、シンジ狙撃の報復であろうか?
「逆探知できました!!・・・この施設内、B棟の地下・・プリブローボックスです!!」
「映像出して!」
「はい!」
メインモニターにプリブローボックス内の壁面が赤く輝いている映像が映った。
「・・・何だ・・これ・・」
分析をしたマヤの顔が蒼褪める。
「・・当り?」
リツコの声にマヤは頷いた。
「・・・目標は使徒よ!!」
発令所に独特の緊張が走る。
「保安部のメインバンクにアクセスしています。パスワードを操作中、12桁、14桁、Bワードクリア」
「保安部のメインバンクに侵入されました!メインバンクを読んでいます、解除できません。」
「奴の目的はなんだ。」
青葉は使徒が接触している部分を見て驚いた。
「このコードはヤバイ、マギに進入するつもりです!!」
リツコの目が大きく開いた。
「IOシステムをダウン」
碇の命令で碧南と青葉が手動で電源を切ろうとしたが切れなかった。
「電源が切れません!」
「使徒更に進入、メルキオールに接触しました。」
「駄目です、使徒にのっとられます。」
画面表示の一部が緑から赤に変わった。
「メルキオール使徒にリプログラムされました。」
『人工知能メルキオールより自立自爆が提訴されました。・・否決、否決。』
「今度はメルキオールがバルタザールをハッキングしています。」
次々に侵食されていく。
「くそ!速い」
「なんて計算速度だ!」
「ロジックモードを15秒単位にして。」
「了解」
ロジックモードが変換され、使徒の侵食スピードがかなり遅くなった。
冬月が溜息をついた。
「どの位持ちそうだ。」
「今までの計算速度からすれば、2時間ぐらいは、持つかと、」
「マギが敵に回るとはな・・・」
リツコはじっと考えていた。


リリン本部の手術室の前は未だに重苦しい沈黙が続いていた。
職員の一人が慌てて走って来た。
蘭子は視線で内容を尋ねる。
「ネルフのマギオリジナルが使徒にハッキングを受けています。」
「・・・イロウルですか・・・飛龍博士には?」
「既に、」
「分かりました。」
蘭子は職員と共にその場を離れた。
そしてその場には更に重苦しくなった空気が残った。
只、皆、シンジの無事を祈ると言う事には変わりは無いが、


アメリカ、シカゴ、東京帝国グループアメリカ支社、特別室、
「ふむ・・・証拠は揃いました。これで行けますね」
「ええ」
部屋で話している2人・・それは、耕一とルシアであった。
職員が大慌てで走り込んで来た。
「・・どうした?」
「日本で、碇シンジ、リリン長官が狙撃されました!!」
「・・・何?」
事情を説明されると二人は司令室に向かった。
「どうして報告が遅れた?」
「それが・・・お二人の居場所がなかなか把握できませんでしたので・・」
「むう・・」
司令室から職員が出て来て、耕一達の姿を見つけどこかほっとして駆けて来た。
「今ネルフ本部の、マギオリジナルがハッキングを受けています。」
「・・イロウルですね。」
ルシアは頷き耕一の言葉を肯定した。
「・・・」
二人は職員達と共に司令室に入った。
そして、二人が司令塔に立つとほぼ同時に、モニターに映るリリン本部発令所と、東京帝国グループ総本社ビル最高総司令室の殆どのメンバーが、驚愕の叫び声を上げた。
耕一は悪戯が成功した時の悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
「驚いたか?」
そして、直ぐに真剣な表情に戻す。
「事態を報告しろ」
『『はい』』


第3新東京市、ネルフ本部第7作戦会議室。
「彼らはマイクロマシーン、細菌サイズの使徒と考えられます。」
リツコは報告した。
「その個体が集まって群を作り、この短時間で知能回路の形成に至るまでに爆発的進化しています。」
マヤがいつもの通りリツコの続きを言う。
「進化か・・」
碇が呟いた・
「はい、彼らは常に自分を変化させ如何なる状況にも対処するシステムを模索しています。」
「まさに生命の生きるためのシステムその物だな。」
冬月が言った。
「自己の弱点を克服、進化を続ける物に対する有効な手段何かあるんですか?」
日向が尋ねた。
「使徒が進化し続けるのであれば勝算はあります。」
「進化の促進かね?」
冬月が尋ねた。
「はい」
「進化の終着点は自滅、死その物だ。」
「ならば、進化を此方で促進させてやれば良いわけか。」
「使徒が死の効率的回避を考えれば、マギとの共生を選択するかも知れません。」
「しかし、どうやって?」
日向が尋ねた。
「目標がコンピューターその物ならば、カスパーを使徒に直結、逆ハックをかけて自滅促進プログラムを送り込む事が出来ます。が、」
「同時に使徒に対しても防壁を開放する事にもなります。」
マヤが回答した。
「使徒が早いか、カスパーが早いか、勝負だな。」
「はい」
「そのプログラム間に合うんですよね・・・カスパーまで侵されたら終わりですよ。」
「・・・・、大丈夫よ、」


リリン本部発令所、
「ネルフ側は、沈黙を守ったままです。」
「情報の収集を」
「「「はい!」」」
「飛龍博士、準備をお願いします。」
ジュンコは軽く頷いた。


ネルフ本部第1発令所、カスパーの前。
『R警報発令発令、R警報発令、ネルフ本部内部に緊急事態が発生しました。B級以下の勤務者は全員退避して下さい。』
リツコは、ロックを解除し、カスパーを展開した。
「これ読んでおいて」
リツコはファイルをマヤに渡した。
「何です?これ」
「マギの裏コードよ、システムを変更したから古いものは使えないわ、」
「え?こんなもの見てしまって良いんですか?」
「マヤの事、信用しているわよ」
リツコの言葉にマヤは笑顔を浮かべた。
勿論、第1理由は、非常事態だから仕方が無いだとは思うが、マヤの事を信頼し、そして信用しているのは事実であろう。
その後、カスパー内部の様々な回路を引出し、別のコンピューターに接続した。
リツコは中枢基部に回線を接続した。


地上には、弐号機、参号機、四号機、伍号機、七号機の姿があった。
弐号機と七号機のエントリープラグは空であるが、
4人は、通信で、ネルフとリリン、そして、委員会、5大国と東京帝国グループについて話し合っていた。
その結果は、委員会と5大国は間違っている。自分たちの利益しか考えていない。
ネルフは、分からない。スポンサーが悪いからと言って、ネルフまで悪いとは成るわけではない。だが、あからさまにスポンサーに逆らうわけにも行かないだろう。
東京帝国グループとリリンに関しては、情報が少ないため判断できない。
それに、外から得られる情報が実態を表しているとは考え難い。
しかし、アスカの事が気になる。アスカは実態を知った上で色々とリリンと関わっているのであろうか?
結局のところ、自分達の知りうる情報では殆ど真実は見えてこないと言う事を確認しただけに留まった。


リリン本部の手術室前は、未だに重苦しい沈黙に包まれていた。
職員が気を利かせて飲み物を持ってきたのだが、誰も手をつけてない。
手術中の赤いランプは灯ったままである。


ネルフ本部、第1発令所、
遂に、スクリーンのバルターザールの表示が全て赤色に変わった。
「来た!」
「バルターザールが乗っ取られました!」
『人工知能マギにより自立自爆が決議されました。』
リツコとマヤは全速で操作し始めた。
『起爆装置は3機一致の後、0.2秒で行われます。自爆範囲は、中緯度深度−280、−160、0フロアです。特例、582発動可の為、』
「バルタザール更にカスパーに進入!!」
「押されてるぞ」
「何て計算速度だ。」
『自爆装置作動まで後20秒』
「いかん!」
「カスパー18秒後に乗っ取られます!」
『自爆装置作動まで15秒』
「くっ・・拙い」
リツコは露骨に表情を歪めた。
『自爆装置作動まで10秒』
『8秒』
『7秒』
『6秒』
『5秒』 
『4秒』
「マヤ!」
『3秒』
『2秒』
「いけます!」
『1秒』
「押して!」
『0秒』
二人のキーボードのリターンキーが同時に押された。
発令所中に緊張が流れた。
『人工知能マギにより自立自爆が否決されました。』
「「「やった!」」」
発令所が湧き上る中二人は理解できない状況に混乱していた。
マギは、完全に制圧された。
自立自爆は、使徒自身が解除したのだ。
何の為に?
そして、これから何をしようと言うのか、


リリン本部、発令所、
「プログラムの発動は成功しました。」
使徒を東京システムに引きつける事に成功した。
「来ました!!ネルフ、マギからのハッキングです!!」
ジュンコは猛烈な速度でキーを叩き始めた。
「・・・早いわね・・・でも、この程度なら、」
東京システムの力が注ぎ込まれ、押し返していく。
皆モニターをじっと見詰めている。
「・・・何かおかしい・・・」
暫くしてジュンコは違和感を感じ取った。
何か単調過ぎる。
その時、突然照明が一瞬消え、直ぐに点灯した。
発令所中の者が突然の事に戸惑った。
「・・・しまった!!」
突然ジュンコは悲鳴のような叫びを上げた。


手術室、
「ん?」
照明が消え直ぐについた。
「・・・何が?」
「先生」
「ああ、」
医師は手術を再開した。


手術室の前では、4人は少し戸惑っていた。
「・・何があったの?」
「・・・電源が予備に切り替わった・・・何があったの?」
「・・・・」
「・・・・」
レイは一瞬停電した事にも気づいていない様で、一心に祈りつづけている。


アメリカ、シカゴ、東京帝国グループアメリカ支社、司令室、
リリン本部との回線が落ちた。
「何が起こったんだ?」
「東京帝国グループ総本社ビル経由で接続します」
「・・・ルシアさん、ひょっとして拙いかもしれませんね」
「まあ、皆優秀ですから大丈夫でしょう」
「・・・」
「耕一さんはもっと自分の部下を信頼した方が良いですよ」
耕一はふっと表情を緩めた。
「そうかもしれませんね」
「そうですよ」
「接続完了しました。」


第3新東京市、リリン本部発令所、
リリン本部の4系統の電源のうち3系統を支配され、更に、一般通信回線の大半を支配されてしまった。
今は、最後の電源系統を防衛している。
「万が一に供え、手術室に発電機を」
「・・分かりました。」
一瞬、大変な事になりかけたが、何とか持ち堪えられた。
「・・そう来たか・・・」
ジュンコは袖を捲り、軽く舌なめずりをした後、今まで以上の猛烈な早さでキーボードを叩き始めた。


ネルフ本部、第1発令所、
「松代に連絡取れる?」
「あ、はい、回線繋ぎました。」
「使徒め、見ていなさいよ、」
更にリツコは松代経由で世界のネルフ支部に回線を繋いだ。
「世界中のマギで一斉制圧、見ていなさいよ」
リツコが作ったマギ・コピー、その総力でマギ・オリジナルごと制圧する。
マギ・オリジナルに最高機密は置いていない、だからこそできる事では有るが、


リリン本部、発令所、
少しずつ押されている。
「・・・ネルフ頼みになるとは・・・」
「相互に助け合い協力するのが本来の姿、なんですがね・・・」
ネルフがこのまま黙っている筈が無い、世界中のマギ・コピーを総動員する筈である。
ジュンコは思いきり顔を顰めていた。
やはり、どんな場合でも負けると言う事は屈辱である。


ネルフ本部第1発令所、
「準備できました。」
「何時でも直結可能です」
「始めて!」
リツコの声と共に、世界中の支部のマギ・コピーからここ、ネルフ本部のマギ・オリジナルにハッキングが開始された。
凄まじい早さで一気に防壁を侵食する。
「行けるわね」
使徒とマギ・オリジナルは東京システムともやりあっているのだ。
そこへこれだけの物を一気に投入したのだ行ける。
リツコはにやりと笑いを浮かべた。
瞬く間にマギ・コピ−達はメルキオールを制圧した。
東京システムも侵入を開始した。
「マヤ!」
リツコとマヤは自滅プログラムを送り込む準備をした。
「何時でも行けます!」
そして、後僅かでと言うところで一気に反転した。
「え!?」
「・・・第666プロテクト・・・」
第666プロテクトを発動し、マギ・オリジナルは完全防御体制に入った。


リリン本部発令所、
ジュンコは色々と裏コードを試していたが、既にリツコによって粗方潰されている様である。
「第666プロテクトか・・・まともに破るには・・・最低20時間は掛かりそうね・・・」
「でも、自己進化する使徒相手にそんな時間は待てないか・・・」
「そうね・・・結局私の切り札って、皆途中で使われちゃうのね」
少し愚痴を言う。


1時間後、技術部長執務室、
ジュンコとリツコが対面していた。
「今回の事は、私のミスよ」
「そんな事は無いわ、使徒がこのような行動に出ると言う事は予測できる事ではないわ」
リツコは軽く息をついた。
「肝心なこれからの事だけど、」
「従来の裏コードは殆ど潰した様ね」
「ええ、かなり大変だったけれどね、」
ファイルをジュンコに渡す。
「これが、今のコード」
「最高機密は置いてないとは言え良いのかしら?」
「司令の許可は取っているわ、」
「そう、じゃあ第666プロテクトを無効化するプログラム、これを今のマギにあわせて組み直すわ」
「無効化する?」
「ええ、第666プロテクトには穴があるのよ、一応ね」
ジュンコは微妙な表情を浮かべて言った。
「・・・」
「東京システムには対マギ用として、東京システムにとって第666プロテクトを無効化する事ができるのよ」
「それって、」
「ええ、東京システムと使徒の一騎討ちに成るわ、但し、マギのシステムを完全に解読しているし、最初の時よりも強くなっているわ」
使徒は自己進化する。
リツコは眉間に皺を寄せた。
「これが、東京システムのコードとか設定とか」
ジュンコはファイルをリツコに渡し、リツコはファイルをぱらぱらと捲った。


15分後、リリン本部技術部会議室、
リリンとネルフの技術部の精鋭が集まった。
今リツコが説明を行っていて、ジュンコは東京システムの環境の設定を行っている。
「以上よ、理解したかしら?」
一旦息を吐く、
「使徒は自己進化を続け強く成っていく・・いい、これは、時間との戦いになるわ、では、急いで!」
リツコも含め一斉に会議室を出てそれぞれの配置に向かう。


発令所、
グランドフロアに機器が導入されてネルフ側の職員がキーを叩いている。
中央サブフロアには、ジュンコ、リツコ、マヤの3人の姿があった。
今は、プログラムを組み直している段階である。
「かなりの物ですね」
「ええ、第666プロテクトを破るには一筋縄では行かないわ」
「こっちは大体終わったわね・・リッちゃんは?」
「後少しって所ね」
「こっちは終わりました。」
数分後プログラムが完成し、チェックを行いそれも終わった。
「皆、いよいよよ」
皆は表情を引き締めた。
『東京システムマギシステムに直結完了、第666プロテクトを無効化プログラム発動』
メインモニターには東京システムとマギシステムの概略図が表示されている。
今は東京システムが全て青、マギシステムが全て赤である。
「行くわよ!」
ジュンコの声と共に皆一斉にキーボードを叩き始めた。
一気にマギシステムへと侵食を開始する。
瞬く間に30%ほどを制圧したが途端に抵抗が強くなった。
使徒も、防衛に必死に成ってきたようだ。
今の所一番制圧しているのはメルキオールである。
「メルキオールに集中して!」
バルタザールとカスパーへの攻撃をメルキオールに集中する。
それによってメルキオールの制圧が一気に大きくなり、カスパーとバルタザールが押し戻される。
しかし直ぐに反応して来る。
「リッちゃん御願い!」
「マヤ!」
「はい!」
リツコとマヤは席を立ち、大急ぎでネルフ本部に向かった。
ジュンコは更にキーを打つ速度を上げた。


ネルフ本部第1発令所、
3体のマギ全てが展開され、様々な機器に繋がれていた。
メインモニターにはリリンの物と同じく、勢力の概略が表示されている。
メルキオールはほぼ青、他の2体は完全に赤になっている。
リツコとマヤが到着し、メルキオールの周りに展開されている機器の最終準備をした。
今、制圧している速度は、徐々に遅くなってきている。
使徒が強くなってきているのだ。
「・・際どいわね・・」
皆、東京システムが勝つ事を祈っている。
そして、遂にメルキオールが全て制圧され、直ぐに開放された。
「行くわよマヤ!」
「はい!」
二人は猛烈な速度でキーボードを打ち始め、メルキオールがバルタザールにハッキングを仕掛けた始めた。
同様に東京システムも、
圧倒的な勢いで勢力を押し広げていく、
「行けるわ」
リツコはにやりと笑い更にキーボードを叩く速度を上げた。
そしてバルタザールも制圧したが、カスパーに侵入する頃には使徒の勢力がかなり強くなり、殆ど勢力が動かなくなった。
リツコは第666プロテクト解除のプログラムを起動させた。
『人工知能メルキオールより第666プロテクトの解除が提案されました。』
『賛成2反対1、可決されました。』
「よし!」
発令所の空気が一変してホッとしたものになる。
第666プロテクト解除と同時に世界中のマギ・コピーが一斉にハッキングを開始した。
僅かな時間で制圧しそして、マギ・オリジナルはを開放された。
その後、リツコは自滅プログラムを使徒に送り込み殲滅した。


ジオフロント、地底湖畔、
ジュンコが立っている。
リツコが近づいて来た。
「・・来たわね。」
「・・ええ、」
「リッちゃん、今日は御苦労様」
「母さんこそ御苦労様」
「・・・座る?」
ナオコは近くのベンチに視線を向けた。
「ええ」
二人はベンチに腰掛けた。
暫く二人はじっと黙ったまま地底湖に視線を向けていた。
「・・・リッちゃん、」
「・・何?」
「・・・あの人に熱を上げるのは別に構わないと思うわ・・・私もそうだったしね」
リツコは眉間に皺を寄せた。
「・・・でもね、結果的には、貴女がつらい目に会うことになるわよ」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・分かっているわ。あの人はユイさんしか見ていない・・・私は計画の為に・・利用されているだけよ・・・」
「・・・・・・・」
「・・・でも、私は・・・・私はあの人に・・・あの人が好きになっちゃったんだから・・・」
「・・涙を流すことになっても良いの?」
「・・・仕方ないわ・・・分かりきっていたことだから・・・」
「・・・そう、辛くなったら私のところに来なさい、話ならいくらでも聞くわ」
「・・ありがと、母さん。」
・・・・
・・・・
「そろそろ行くわね」
「ええ、じゃあ又ね」
二人は別れそれぞれの本部へと歩いていった。


数時間後、リリン本部、手術室前、
長かった手術が終わったのか、赤いランプが消えた。
蘭子を含めた5人は立ち上がって中から人が出て来るのを待った。
ややあって、扉が開かれて、医師達が出て来た。
そして、それに続いて医療カプセルに入れられてシンジが、
「手術は成功しました。もう、問題ありません。」
皆一斉に安堵の溜息をつき、長い緊張が解けたためが力が抜けて、座り込んでしまった。

あとがき
結果こうなりました。
今回は、対イロウル戦のネルフとリリン、そして赤木親子の競演でした。
ある意味夢の競演ですね。
この話から後編になる為、これまでとは雰囲気が変わってくると思います。

掲示板を新設しましたが、書き込みが少なくて残念です。
TTGで公開されている作品を呼んだ方、簡単でもいいので感想等を書き込んでくれると嬉しいです。