リリン

◆第22話

11月11日(水曜日)、第3新東京市、ネルフ本部、総司令執務室、
「ふむ・・・アメリカは完全に東京帝国グループに押さえられたな」
「はい、」
「今のアメリカの状態は、いくら支持があるとは言え半独裁には変わりない、国際的には安全保障理事会の常任理事国しての権限は停止されるだろうが」
「理事会は拮抗状態にあった・・・アメリカを失った事でゼーレ側はかなり不利になった事になる」
「東京帝国グループは我々ネルフをどうするつもりだろうな・・・」
「ああ、今東京帝国グループは、ネルフ本部を潰すとまでは行かなくても、制限を掛けるくらいならいくらでもできる。」
「ネルフ本部は国際連合に対して反旗を翻したわけですからね」
「暫くは、向こうの出方を見る。」
「はい」


11月12日(木曜日)、東京、東京帝国グループ総本社ビル、最高議会室、
東京帝国グループの最高議会とはアジア、オセアニア、アフリカ、中近東、アメリカ、ヨーロッパのそれぞれの最高責任者と、日本の東京帝国グループ最高幹部が出席して行われる東京帝国グループの最高意思決定機関である。
可憐も通信回線で出席している。
今話し合われているのは、ネルフの処遇である。
ネルフ本部は、委員会と決裂したと言っても、ゼーレと繋がっているのは紛れも無い事実であり、表面上の事に過ぎないと言う事は掴んでいる。
更にはその証拠として、双方何ら対策と言う物を打っていない。
確かに、今のアメリカの政権は、正規の手続きによって誕生した政権ではない。
だが、投票数の90%弱が可憐への物であり、全国民の大多数が支持をしているのは事実であり、ゼーレ支配各国も、東京帝国グループの影響力と言うのもあり、可憐の新政権を認めざるを得なかった。
勿論、国際的には、議会の整備が整うまでは安全保障理事会の常任理事国としての権限を初めとして停止、又は制限付にはなるが、それでもゼーレ側はアメリカを失ったことで安全保証理事会の均衡が崩れた。
今なら、ネルフ本部は国際連合からの離反と言う、自らが創り出した理由で潰す、或いは色々と制限を掛ける事ができる。
最高議会開始から直ぐに場の雰囲気はヒートアップし始めた。
「自らの妻の復活の為だけに、世界を滅亡させよう等と言った愚かな考え、断じて許すことはできません!ネルフを解体し、全てを曝け出し、碇を衆目の目の前に曝し、そして、一気にゼーレも叩き潰すべきです!」
「その通りです!ネルフ幹部全てを徹底的に断罪すべきです!」
「罪を犯した者、罪を犯そうとした者にはそれ相応の罰が加えられなければ行けません」
出席者は口々にネルフ本部解体、そして、幹部の断罪を唱えている。
主に、加熱しているのは耕一の側近では無い者ばかりではあるが、
耕一は軽く目を閉じてそれらを聞いている。
側近は特に口を出さず耕一が動くのを待っている。
『会長?』
可憐が耕一に声をかけた。
「・・・」
耕一は目を開き、手でヒートアップして来ている皆を静止し、室内がシンと静まる。
「・・・私が、彼と同じ立場・・・即ち、ルシアさんを救うためなら、世界を犠牲にする事も厭わない。」
耕一の言葉によって場を重苦しい沈黙が支配した。
もしそうなったら、自分達は耕一を静止し、そして断罪するだろうか?
答えは『否』、耕一やルシアの為になら何でも差し出すその様な者、若しくはそれに近い者ばかりがこの場にいるのである。
「・・・・どうする?」
・・・・
・・・・
・・・・
誰も答える事が出来なかった。
「・・・彼らネルフが、その方法にはかなりの問題があるとは言え、使徒と戦いこれを殲滅する事で、これまで何度も人類を滅亡から救った事は事実であり、これからもそうだ。」
「かと言っても、それで全てが免罪されるわけではない。」
・・・・
・・・・
・・・・
「私は、今は未だどちらの決断を下すとしてもそれを正しいと思う事が出来ない。」
・・・・
・・・・
・・・・
「判断は保留と言う事ですか?」
「・・・そうだな・・・これからを見たい。これから、ネルフがどうするのか、どうしたいのかをな」
結果的には耕一によってネルフの処分は保留された。


11月13日(金曜日)、第3新東京市、リリン本部付属病院特別病室、
シンジはカプセルから出され普通にベッドに寝ていてレイ、レイラ、レミの3人が付き添っている。
暫くして、アスカもやって来た。
・・・最近学校行ってないのではないだろうか?
皆家、リリン(ネルフ)、病院が行動範囲に成っているようである。


ネルフ本部、技術棟、シュミレーション司令室、
最近、他の4人のチルドレンも学校に行かず、家とネルフの往復になっている。
今もみっちりと訓練を受けている。
「マヤ、どう?」
「・・・・3機の戦力は上昇してはいますが・・・」
「・・・七号機・・・か、」
「・・・はい、」
「・・・・・・」
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
「実験終了、お疲れ様」
「マヤ、後の処理頼むわ」
「はい」
リツコは司令室を出て総司令執務室に足を向けた。


総司令執務室、
「七号機のパイロット・・・か、」
「はい、ダミープラグは例え完成したとしても七号機は動かせません。」
「・・・」
「しかし、・・・現状のネルフでは新たにチルドレンを増やす事は出来ません。」
「では、どうすると言うのかね?」
「コアの交換を前提に、バックアップとするか、或いは・・・」
「・・・資金集め・・・と、言う事か」
「はい・・・いかがされます?」
「・・・今は、前者にしておけ、ゼーレがどうなるかみたい。」
「・・それと、東京帝国グループがネルフをどうしたいのかだな?」
「今は色々とできる筈ですが・・それすらしないと言う事は?」
「我々の行動を見ている、今は、我々がどう動くのかを見ているという可能性が有る。」
「・・・現時点から、我々の計画を進める方法と、その成功率を弾き出せ、」
「・・・分かりました。」
その時警報が鳴った。
「何?」
「・・使徒か、」


リリン本部発令所、
メインモニターには、第3新東京市上空にレリエルの影が浮いているのが映っている。
「さて、どうしますかね」
『避難、後7分掛かります。』
「・・・・」
蘭子は更衣室と回線を繋いだ。
「レリエル、どうやって倒しましょう?」
『・・・私が行く、私なら倒せる』
レイが答えた。
「・・・それしかないでしょう・・・あの使徒相手では・・」
当初の予定では史実通りシンジが初号機を暴走させて倒すつもりだったが、それは明かに不可能である。
と、なるとレイのリリスの力しかない。
「分かりました。では初号機を先行させ、零号機並びにネルフのエヴァはバックアップとします。」
「ネルフに出撃要請を出せ、それと、あくまでバックアップだと強調しておけ」
それは、ネルフの活躍を妨害する為ではなく、ネルフのエヴァが悪戯に無用な被害を受けない為の配慮である。


ネルフ本部、発令所
『俺達が、バックアップ?』
「ええ、」
『俺達は、正しい事をしているんでしょ!なのに!』
ケンスケは悔しがっている。
「リリン自身、純粋に正しい組織ではないと言う事よ、正しい事をするにも力がいるのよ、」
「アスカ、弐号機に搭乗しました。」
「では、各機射出口へ、」


第3新東京市市内、
避難も完了し、初号機がビルの陰から、レリエルの影を覗き見ていた。
(・・・碇君は私が護る。絶対に、)
レイは決意の言葉・・誓約を心の中で反芻する。
リリスの力を使う。
レリエルの能力が特殊であり、更にスーパー化しているとしても、リリスの力を全開にすれば行ける筈である。
いや、原理的には間違いなく行けるのである。
『各機作戦ポイントに付きました。』
モニター上に映し出されている各エヴァの位置を確認する。
零号機は斜め後ろのビルの陰に、ネルフのエヴァは、弐号機と参号機が使徒を挟んで反対側、四号機と伍号機は零号機の後方にいる。
初号機は新型パレットガンを手にビルの陰からそっとレリエルに近付いていく事にした。
別に隠れる必要など無い事は分かっている。だが、それを大っぴらには出来ない。
有効射程距離まで接近すると、一気に影に向けて撃った。
弾が着弾する直前、影が一瞬にして掻き消え、弾はすり抜けそのまま飛んで行く。
次の瞬間、突然初号機は何かに弾き飛ばされ強い衝撃を受けた。
「つぅ・・・何?」
周囲を警戒する。
『不明・・・分からないわ、警戒して』
零号機が近付いて来た。
ビルの影が零号機に向かって動いている。
「後ろ!!」
『『え?』』
影が突然立体化し零号機に体当たりした。
『『きゃあ!』』
零号機は衝撃を受けて初号機に向かって飛ばされて来る。
レイは、初号機で零号機を受け止めさせた。
『目標は影!気を付けて!』
「・・・能力が変わっている。」
『・・そのようね。』
二人の声には緊張が見られる。
再び影が立体化し飛び掛って来た事に気付いた。
しかし、死角からの攻撃にとっさには反応できない。
衝撃に備えたが、パレットガンから放たれた弾が次々にレリエルに突き刺さりその動きを変えた。
『ほら!何やってんのよ!』
アスカの顔がモニターに映った。
弐号機が中層ビルの上に上ってパレットガンを放っていた。
初号機は新型パレットガンを、零号機はスナイパーライフルをレリエルに向けて放った。
次々に弾が突き刺さる。
参四伍号機もパレットガンやライフルで一斉攻撃を始めた。
レリエルが小さくなり、影に戻った。
弾が地面に着弾し地面を抉る。
直ぐに攻撃を止めた。
「立体化している時のみ攻撃が有効・・・そう言うわけね」
『相互に警戒し合って!』
「・・・・」
次は参号機の背後の影が動き瞬間飛び掛った。
参号機はそのまま直撃を受けて吹っ飛ばされてビルに頭から突っ込む。
その直後4機からの集中攻撃を浴びせる。
しかし、直ぐに影に戻る。
『こんなの一体どうしたら良いのよ・・』
「・・今の武器では、決定的なダメージは与えられない・・」
プログソード、スマッシューホーク、トールハンマーなどならば一撃必殺のダメージを与えられるかもしれない、だが、速度、射程距離、連続性等が著しく失われる。
反応して移動しそれから攻撃をかけていては遅い。
「・・・・どうすれば・・・」
この市街地、都心では余りにレリエルが隠れる場所が多過ぎる。
それに相互に警戒するにも、ビルが邪魔で有る。
『きゃあ!』
アスカに悲鳴と共に、弐号機が初号機目掛けて落下して来た。
「あ」
『「きゃ!」』
初号機と弐号機は重なり合って地面に倒れた。
高層ビルの影から現れ中層ビルの屋上に居た弐号機を突き飛ばしたのだろう。
初号機と弐号機は起き上がった。
レリエルは、今のところ、決定的攻撃となる能力を見せていない。
はっきり言えば、鬱陶しく厄介だとは言え、戦力としては最弱の部類に入るだろう。
前回の能力の方が厄介で有る。これでは弱くなっていると言える。
何か隠しているのであろうか?
レイが考え込んでいる中、初号機は強い衝撃を受け吹っ飛ばされた。
「くっ」
レリエルに4機の攻撃が集中するが、直ぐに影となる。
『『あ〜〜〜!!鬱陶しいぃい!!』』
レミとアスカの声が重なっている。
第3新東京市内の兵装ビルに装備されている対地砲や対空砲、ミサイル陣などではこの市街地内を高速で動き回られてはとても攻撃は出来ない。
ATフィールドを中和していたとしても、まともなダメージも与えられずに悪戯に被害を増やすだけである。
「・・・」
弐号機の傍の影が動き、一気に弐号機に飛び掛った。
『きゃ!』
弐号機がそのまま初号機に向かって飛んで来たので、受け止める。
3機の攻撃が集中するが、直ぐに影になる。
「・・・どうすれば・・・」
『・・・一時退却して、このままでは、意味が無いわ、』
蘭子の声はやはり重苦しい。
「・・・了解・・」
初号機と零号機は退却し、同様にネルフ側のエヴァも退却し待機に入った。


リリン本部、発令所、
「・・さて、どうしますか・・・」
メインモニターには、再びレリエルの影が映し出されていた。
レリエルの影はゆっくりと第3新東京市上空をさまよっている。
まるで、無力な人類をあざ笑っているかのようにも思える。
「・・夕方になると拙いですね・・・日中のうちに蹴りをつけなくては」
「ええ・・・彼女を呼びましょうか?」
「そうですね、」


司令執務室、
「失礼します」
加持がミサトを連れてやって来た。
「良く来てくれました。」
「・・・」
当然と言えば当然だがミサトは複雑な表情をしている。
「既に、使徒に関する今分かっている情報は伝わっていると思います。今回貴女にも協力を御願いしたいのです。」
「・・・私にですか、」
「ええ、貴女の作戦立案能力には一目置くものがあります」
「・・ですが、」
「分かっています。貴女は対使徒の事となると、復讐によって視野が狭くなり総合的な考えができなくなっていた・・・しかし、そこにいる彼から色々と聞かされたでしょう。」
ミサトは軽く頷いた。
しかし、その表情は未だ自分の中では整理が付いていないと言う事を表していた。
「貴女には作戦指揮は任せられません、しかし、貴女の作戦立案能力を捨て置くのは勿体無過ぎます。」
「・・・・」
「既に何か作戦の原案くらいは思いついているのではないですか?」
「・・・はい、」


大会議室、
リリンとネルフの作戦担当者と技術担当者が集まって、分析の結果が報告されている。
「詳細や原因は不明ですが、中和不能なATフィールのようなもので第3新東京市を覆い、それによって、空間を支配し、影に存在しているものと思われます。」
「影に存在いる間は、存在次元が異なる為、お互いに攻撃は不能です。」
「・・・つまり、攻撃できるのは、影が立体化し、この世界に目標が現れた瞬間と言う事ですか?」
「・・そう言う事、東京システムは、攻撃可能な時間は2秒弱と計算しているわ」
大空が尋ね、ジュンコが答えた。
「・・・2秒弱ですか・・・」
目標に対して砲口を向け、発射し着弾するまでの時間にしては余りにも短い。
これだけの機敏な動作はエヴァ以外では不可能で有る。
勿論、そのエヴァにしてもかなりキツイ。
そして、エヴァの刀剣や鈍器による攻撃であったとしても、移動しそれから攻撃を加えるので有る。
不可能に近い、では、5機を一箇所に固めるのか?
そこで攻撃を加えられたのなら、十分に攻撃できるだろう、だが・・・攻撃してくれるのか?
会議の中で、いくつか出た案の内、最後まで残ったのは、3つ。
第1案はマギや東京システムなどによって使徒の攻撃などの行動パターンを解析し、そのパターンに従い予測に基づいて致命傷を与えられるだけの一撃必殺の攻撃を加える。
第2案はネルフとリリンの支援兵器の目標を予め1箇所に固めてそこに誘導し、ATフィールドを中和した上でマギと東京システムによって一斉攻撃をしかけ全火力を持って消し飛ばす。
実はミサトの原案を元にしている第3案は、中心部から有る程度引き離しそこでNN兵器を使用しビル等を全て消し飛ばし、ありったけの照明弾等を撃ち影を全て掻き消し、隠れる場所を無くした上で、ネルフ・リリン両方のエヴァによる総攻撃により殲滅する。
まあ、最初のNN兵器で、致命傷を与えられればそれに越した事はないが、期待はしないほうが良い。
しかしいずれの案にするにしても、準備する時間は限られている。
日が高いうちに決着をつけなければいけない。
日が落ちるに連れて厄介になり、夜になれば恐らくお手上げで有る。
現時刻は11時42分。
「・・作戦決行はいずれにせよ急いだ方が良いわ、」
マギとスーパーマギが6者合議によって弾き出した成功率は、第1案が53.6%、第2案が49.7%、第3案は71.5%であった。


司令執務室、
会議の結果の3つの作戦案が提出され、それを二人が見ている。
会議は他の2案よりも成功率が高い、NN兵器を使用する第3案を推している。
だが、その被害は半端なものではない。郊外まで誘導できればその被害は相当押さえる事が出きるだろう、だが、郊外までの誘導は難しい、自分が不利になる地点には行かないだろう。と、すると中心部は外すとしても、市街内でなくてはならない。相当な被害が出る事だろう。
そこまでの事は作戦会議に与えられた権限では決定できない。
勿論、今のネルフにもその様な権限は無い。
「彼女の原案を元にした作戦が一番成功率が高い・・・でも、半端な被害では済みそうに無いわね・・」
「そうですね・・」
今回の作戦ポイントの候補と、それぞれで使用した場合の、成功率と被害額が表示されている。
「いくら、中心部を外すとは言え・・巨大都市の市街地でNN兵器の使用となると・・」
「会長の判断を伺いましょう」
「・・そうですね。」


東京、東京帝国グループ総本社ビル会長室、
耕一は通信回線越しに2人と話をしている。
「・・・うむ・・・」
『如何でしょうか?』
「・・・」
やはり被害額が大きい・・・つまり、高層ビルが存在する地点ほど誘導しやすく成功率は高い。
とは言え、別の問題が発生するので流石に中心部は外されているが、
『・・・・』
耕一はじっと考えた。
未だ、バルディエル、ゼルエル、アラエル、アルミサエルと4体の使徒が残っている。
そして、どこでになるかは分からないが、ゼーレとの戦いも・・
既に当初の予定を上回る予算が掛かっているが、これからまだまだ予算が必要になる。
しかし、アメリカで行った公約を破るわけには行かない。
もし破れば今後東京帝国グループの信用を失墜させる事になる。
そしてそれは間違い無く、アメリカだけでなく世界中の経済の先行きを悪くさせてしまう。
「・・・」
蘭子、榊原、ミユキは、耕一の決定を待っている。
「・・・蘭子、お前は、どうしたい?」
『・・・使徒戦に後顧の憂いを残すべきではありません。最も、被害が大きいポイントではありますが・・・実行したいと思います。』
「・・・分かった、実行しろ。」
『・・はい』
「吉川・・・日本政府に支援を依頼する。準備を頼む」
「畏まりました。」


第3新東京市、リリン本部、作戦会議室、
リリンとネルフのチルドレンが集まって、大空から作戦を説明されていた。
「先ず、この作戦ポイントへと微速で移動し目標を引きつける。」
モニターに表示されているルートと作戦ポイントを支持棒で示す。
「作戦ポイントで目標が姿を表した瞬間に、周囲に仕掛けてあるNN地雷を一斉に使用し、その場からビルを全て消し飛ばす。」
「更に、エヴァ自身の影も消すために、ありったけの照明弾を撃つ。これで、目標は影に入れなくなるわ。そこを、5機のエヴァで総攻撃し殲滅する。」
東京システムが作り出したシュミレーション映像が流される。
「・・・作戦ポイントに辿り着くまでにかなりの回数攻撃を受けるわね、」
アスカが言葉を漏らした。
「各機平均して12〜15回の攻撃を受けると推測しているわ。」
「・・・あの攻撃・・・10回以上も受けるなんて冗談じゃないわよ、もっと早く移動しちゃ行けないの?」
「・・・作戦に気付かれない上での最善と判断した早さよ、」
「辛いだろうけど我慢して頂戴。」
アスカは軽く溜息をついた。
「・・分かったわ、」
「作戦開始は、本日14時丁度とします。」


作戦の準備が完了し、今5機のエヴァが、ある程度距離を取りながらレリエルの影の傍に立っている。
初号機はプログソード、零号機は新型ソニックグレイブ、弐号機も新型ソニックグレイブ、参号機はトールハンマー、四号機はプログランス、伍号機はスマッシュホークと、それぞれ新型パレットガンを手にしている。
『作戦開始』
榊原の声で、レイは初号機の持つ新型パレットガンでレリエルの影を狙撃した。
弾が着弾する直前、影が一瞬にして掻き消え、弾はすり抜けそのまま飛んで行く。
レイは周囲に警戒した。
モニターに種々のセンサーからの情報が送られてくる。
暫くして反応が真後ろに現れ、全力で回避しようとしたが、避け切れず弾き飛ばされた。
「くっ」
初号機は弾き飛ばされながらも空中で体の向きを変えて新型パレットガンを放ち、弾をレリエルに叩き込んだ。
しかし、レリエルは直ぐにビルの影の中に消えて行く、
いくら超高層ビルは戦闘形態の為収納されているとは言え高層ビルが並びその影がある地帯では圧倒的にレリエルが有利である。
「・・・」
初号機は警戒しながらその位置を移動させ、交差点で立ち止まり周囲を警戒する。
『ぐっ!』
『きゃ!』
参号機が狙われた様だ。
モニターに表示されているマップ上で、参号機の反応が移動していく。


リリン本部、発令所、
5機のエヴァの誘導や支援兵器の操作・支援はマギに任されていて、情報収集と分析を東京システムが行っている。
パターンを解析し、攻撃を予測する。
上手く行けば、その場で攻撃を加えられる。
それによって、目標の能力がより詳細にわかる。
時折、子供達の声が聞こえる。
エヴァ自身を子供達を囮にしなければ成らない・・・子供達の悲鳴を聞く度に自分達の不甲斐無さの認識を新たにする。今、特にする事がない分、よりいっそうそれを考え込んでしまう。
「・・・榊原さん」
「目を背けないで下さいね、リリンの司令系統は、貴女を頂点にしているのですから、」
「・・・分かっています。」
蘭子は軽く息をついた。
『くっ・・』
また、レイの声が聞こえた。


地上、初号機、
レイは軽く頭を振った。
度重なる攻撃で少しずつダメージが蓄積して来ている。
素体がダメージを受けた場所が痛い。
初号機は全機の中で最も装甲も厚くその能力も最も高い。
それだけに攻撃された回数も他よりも若干多いとは言え、素体にまでダメージを受けている。
他のエヴァは大丈夫であろうか?
それに、未だ作戦は続くのだ。
モニターの反応が斜め後ろに現れ、初号機は全力でなんとかレリエルの攻撃を交わした。
「行ける!」
一気に反転し、プログソードで斬りかかった。
プログソードがレリエルに直撃しレリエルから赤い血が噴出す。
レリエルはビルの影へと移動していく。
それを追い再びプログソードを振り下ろす。
しかし、それは避けられカウンターの体当たりを食らう結果になった。
「くっ」
初号機は吹っ飛ばされてビルに直撃した。
「つぅ・・・」
起き上がり周囲を見た時には既にレリエルはその場にはいなかった。
初号機は、作戦を続行する為に次の交差点に移動した。
『今のダメージがどう影響するか・・・重要ね』
蘭子の呟きにレイは頷いた。


零号機、
「レイがダメージを与えたって・・アタシ達もやるわよ!」
レイラは頷きで返した。
プログソードでダメージが与えられる。
それだけで勝てると言う見込みに実感が出て来て、皆のやる気が出る。
モニターに反応が映し出された。
パターンの把握から反応が検出されるのが少し早くなっている事もあるが、零号機は今までと違い比較的楽にかわせた。
「動きが鈍ってるわね!」
新型ソニックグレイブを振り下ろしたが、かすっただけだった。
「このぉ!」
次々に連続して攻撃を繰り出すが交わされてしまった。
「きいいい〜〜〜!!!」
更に連続攻撃を加えるが結局影の中に逃げ込まれた。
「熱くなっちゃ駄目よ・・」
「そ、そうだったわね・・・」


弐号機、
「さてと、アタシんとこに来たら、殺ってやるわ」
『ぐあっ!』
ケンスケの声である。
いくらその能力が低下しているといっても、シンクロ率と操縦者の技能を考えれば初号機、零号機、弐号機の3機以外では、有効なダメージは与えられないだろう。
・・・・
・・・・
『きゃあ!!』
マナ、
・・・・
・・・・
『きゃ!』
『ぐお!』
トウジとヒカリ、
・・・・
・・・・
『くっ・・外した・・』
レイ、
・・・・
・・・・
『でりゃああ!!うりゃうりゃうりゃ!!』
ミク(とレイラ)
・・・・
・・・・
『きゃ!』
又マナ、
・・・・
・・・・
「きいいい〜〜〜〜!!」
モニターに反応が現れた。
「さっさとアタシのぶげっ!!!」
弐号機は吹っ飛ばされ頭からビルに突き刺さった。
『・・アスカ・・冷静になりなさい・・』
こめかみを押さえたリツコがモニターに映った。


初号機、
漸く、作戦ポイント付近にエヴァが集まって来た。
『行きます。』
モニターの光度が一気に下がり、レリエルの影が実体化した瞬間複数のNN兵器が炸裂し全てが光に飲み込まれた。
ATフィールドを全開にしているが、凄まじい熱と衝撃が走る。
「くぅうう」
多くの照明弾が次々に打ち上げられ、眩いほどの光が照らし始めた。
やがて爆煙も晴れ視界が開けると、レリエルは影に入り込む事が出来ずにもがいている様だ。
光度は落としているがそれでも少し明る過ぎるくらいである。
「行ける」
レイは初号機をレリエルに向けて一直線に加速させた。
レリエルは反応しきれていない。
「はああ!!」
プログソードを一気にレリエルに振り下ろし、プログソードがレリエルに食い込み血が吹き出る。
それに続いて零号機と弐号機がそれぞれ新型ソニックグレイブで切り裂く、
更に参四伍号機が新型パレットガンをレリエルに向けて放つ。
1分もしないうちにレリエルは散り散りになり動きを止めた。
『パターンブルー消滅』
「・・・ふぅ・・・」
レイはほっと息を吐いた。

あとがき
レリエルの能力は変化しました。
どちらも厄介な能力ですが、鬱陶しい反面、対処法が考案できる分、少し楽になったかもしれませんね・・・
とは言え、被害自体は、明らかに増加していると言えますし、良かったとも悪かったとも言い難いかも知れません。
そして、残す使徒も数少なくなってきました。
両陣営共に、様々な問題を抱え、打てる手が少なくなってきました。
これからどうなるのでしょうね。