リリン

◆第26話

11月23日(月曜日)、第3新東京市、シンジのマンション、
3人は朝食の後、リビングでテレビを見ていた。
『皇耕一会長は、先の北京近郊消滅事件について、中国政府と中国国民に対し謝罪し、補償と復興の為の支援を約束されました。』
「・・・多くの人が死んでしまったね・・」
「そうだね・・でも、使徒線で死んでしまった人の数から見れば全体の極一部に過ぎない・・・只、今までの間接的にではなく、直接的に・・・だけれどね。」
レイは黙ってジュースを飲んでいる。
『しかし、世界中で不透明な現在の体制に対し、情報公開を求める動きが活発化しており、これに対して』
シンジはテレビを切った。
「そろそろ行こうか」
「そうだね」
レイも頷き3人は立ち上がった。


ネルフ本部、総司令執務室、
いつもとは雰囲気がどこか違う。
「・・・計画の遂行を断念する。」
碇の絞り出したような声に、リツコはやはり驚いた。
「・・達成できない計画を進めようとする事は意味の無い行為・・・いや、失う者はあるが得る者は無い不毛の行為となる・・・」
「・・・」
「関係のする証拠の一斉処分を行うように・・・」
「・・分かりました。」
「以上だ」
「はい、では失礼します」
一礼してリツコが退室した。
「・・私も出るよ、」
「・・・済みません。」
冬月も執務室を出て行った。
「・・・何故こんな事になってしまったのだ・・・」
呟きはこの広い部屋に吸込まれて行く・・・
碇は抽斗から一つの大きめの箱を取り出した。
箱には厳重な封印が施されている。
その封印を外し箱を開ける。
箱の中には、ユイの事故以前の家族の写真などが収められていた。
「・・・ユイを取り戻す為に全てを捨てた・・・全てを利用しユイを取り戻す為に・・・・・・・しかし、計画は達成されない・・・結局・・俺は全てを失ったんだな・・・」
「・・・残っているのは罪と業だけか・・・・」
雫がシンジを肩車している写真に落ちた。


昼休みの休憩時間無人になったのを見計らって、マナがケージにやって来た。
修復が凡そ終わった伍号機を見上げる。
手を合わせて拝む。
(((((?)))))
それを階上から弁当を食べながら見ていた整備士達は一様に首をひねった。


第2新東京市、国際連合本部ビル、特別会議室、
耕一は中国から帰ってきて直ぐにここにやって来た。
ネルフとリリン、そして使徒に関する情報公開に関する会議である。
様々な情報が様々な経路から流出しているが、公式には沈黙を守ったままである。
強制力を持った国家権力などによる報道規制、東京帝国グループやゼーレ等による圧力によってマスコミを操作し極力目を背ける様にしていたが、もはやそれも限界に来ている。
特に、先の一件で直接多数の死傷者を出した事で背ける事が不可能になった。
「公開する内容ですが、既に東京帝国グループが原案を作製し送っています。御覧になったとは思いますが、」
首脳達は頷いた。
「何か、修正すべき点があるのではないか?或いは、公開そのものに対して意見があると言う方はいますか?」
この公開案は各国に事情にも配慮されている。
いまいちと言う所はあるものの決定的に拙いと言う事は無い。
特に意見を唱えるものはいない・・・、正確に言えば、下手に口を出して自分たちを不利には追い込みたくないと言うことなのだが、
「では、この原案通りに公表します。現在の状況を考える限り、早い方が傷口も小さいでしょうから、明後日で宜しいでしょうか?」
公表の日に関しては意見がつき、最終的には3日後の11月26日に公表される事と決まった。
その後、先のゼルエル戦等に関する被害の補償等について話し合われた。
只、もはや対使徒用の物には予備はいらない、何時になるのは定かではないが、アルミサエル只1体に対応できれば良い。
むしろ、その後の量産機が主力になると思われるゼーレ戦が問題なのである。
今、ゼーレ側が何体配備できたのかは定かではないが、ゼーレの元々の資産、碇家と碇財閥の資産をあわせれば、補完計画に必要なエヴァの建造費に対して十分量かはどうかは分からないが、何体かの配備は可能であろう。他にも大きな財源を見つけていれば、あるいは既に揃えているかもしれない。
それに関しては、ここで話しても紛糾するだけであり、悪戯に事を荒立てるべきではない、結果的に時間を食ってしまい準備が遅れるだけである。


第3新東京市、ネルフ本部、総司令執務室、
リツコも含めた3人が公表される内容を見ていた。
「・・・」
「・・・・随分とネルフにとって有利な公表だな、」
都合の良い面を中心に公表されている。
大きな損害を出したのは、ネルフが悪かったのではなく使徒が強かったのだと、そう解釈できる様にされている。
ネルフが反旗を翻したと言う事は、ほぼ主要国側に責があるようにされている。
只、エヴァを戦略兵器として利用しようと言う動きは一応今の所は明言は避け、様々な思惑の中で、主要国同士が意見の食い違いによって対立し、又米国などの件があるため、使徒に対して当たる為には現在の国際連合の元では支障をきたすとして、国際連合の元を離れた。
それに対して主要国は自分達に非があるとして過剰な干渉をしなかった。勿論これはゼーレの圧力によるものであるが、それを利用する事に成った。
勿論、それ相応の疑惑や批判が主要国には向けられるのであるが、元が元であるのでその程度は仕方ないと思ったであろうと言うのと、アメリカの様に国家ごと乗っ取る余力は今の東京帝国グループには無い、しかし、現政権を崩壊させる事くらいは極めて簡単である。
皆心当たりがあるのである。
そんなことからも、この案が決定されたのであろう。
「・・・計画と関連するものの破棄を始めた直後にこれか・・・」
「・・・・完全に筒抜けのようだな・・」
「・・ああ・・」
「どうされますか?」
「これを見る限り、東京帝国グループはネルフを潰そうとしているわけでは無さそうだ・・・」
「確かに、潰そうとするのならいくらでも方法はあるからな、」
「ああ・・・真意が読めない・・・何を知っているか・・いや、全てを知っているのかもしれんが・・何故知り得たかが重要だ」
「・・・分からんな・・それが分かれば、真意も読めるのだろうが・・・」


11月24日(火曜日)、第3新東京市立第壱中学校、2−A、
本当に久しぶりにシンジ、レイ、レイラの3人は登校した。
始業直前にも関わらずクラスはがらんとしており数人がいるだけである。
「・・・随分減っちゃったね・・・」
「そうだね、」
「・・珍しいな、」
窓際の机に腰掛けていたケンスケが声を掛けて来た。
「相田君・・・」
「エヴァ四号機の破棄聞いてるだろ・・・」
3人は頷く。
「まあ、これで俺も一般人って事だ・・」
「残念?」
「そうだな・・・まあ、残念と言えば残念だけど、仕方ない事さ・・・それよりもそろそろ、席についた方が良いぞ」ケンスケは自分の席に戻っていった。」
(・・・ケンスケもエヴァに拘りというか憧れが小さくなってるな・・・)
3人はそれぞれ自分の席についた。


東京、東京帝国グループ総本社ビル会長室、
耕一は予算票と睨めっこをしていた。
「・・・むぅ・・・」
使徒戦が予想よりも繰り上がった事で対使徒予算は減った。
しかし、復興予算が増え、更に補償の予算もでてしまった。
国際連合の方にも持たせはするが限度はある。持たせすぎれば元も子もない。
「・・・次のアルミサエル戦とゼーレ戦が安く上がってくれる事を祈るしかないか・・・」
「失礼します。」
ミユキが入って来た。
「ゼーレ側の金の動きですが・・・残念ながら殆ど掴めませんでした。」
「むぅ・・・」
「分かっている範囲から遡っていけばいつかは辿り着くでしょうが、かなり時間を要するものかと」
「・・・・仕方ない、時間は無いのだからな・・・」
「はい」
「グループ債の増発を最高議会にかけるから準備をしてくれ、それから、私の個人資産で売却可能な物の売却の準備もしてくれるか?」
「分かりました・・・、ちなみにいかほどで?」
「必要な分だ。グループ内や関連企業、国家等で大部分を売りさばいて一般の民間市場への流出は最小限に押さえたいが・・・・」
「分かりました。」
「・・・使徒戦が終わっても当分の間は苦しい状況が続くかもしれんな・・・」
耕一の口から呟きが漏れた。


夕方、リリン本部長官室、
久しぶりにシンジはこの部屋に足を踏み入れた。
「シンジ君、これが公表されるものの概要よ」
シンジは蘭子から渡されたファイルに目を通した。
「・・・随分とネルフ側に有利な内容ですね・・」
「ええ、会長の御判断です」
「・・・・」
シンジは複雑な表情を浮かべた。
「・・・・どうして?」
「自分で考えるべき事ですよ、」
眉間に思い切り皺を寄せる結果となった。


作戦立案課、休憩室、
ミサトは缶コーヒーを飲みながら、考え事をしていた、
ネルフやリリンなどが公表されると言う事は既に耳に入っており、更に加持から公表される内容を知らされている。
ネルフにとって有利・・・そして、自分が起こした過ちも非常にやわらげられている。
「・・・・」
流石に自分の過ち関連が主であるとは思えない、当然副次的なものであろうが・・・・
そして、一部ではあるが、裏の事情も蘭子や榊原から直接知らされた。
それ以上の事は未だ教えられない。
ミサトが新たな不確定要素を発生させるのを恐れている事と、その身を案じての事である。
そして、真実の探求を続ける加持には伝えては成らないと、言う警告も受けたが・・・・いずれにせよ複雑な気持ちである。


夜、シンジのマンション、
シンジは部屋で考え事をしていた。
(・・・今回の事・・・どう考えても、ネルフをネルフの上層部を救う・・そう言う目的にしか思えない)
(・・・誰を・・・特に、父さん、冬月副司令、リツコさんの3人か・・・)
(・・・・何故?)
「・・・僕のため・・か・・」
今まで考える事を成るべく避けてきた部分でもある。今回のことはそれをしっかりと見詰め、答えを出せと言う事なのであろうか?
レイとレイラが入って来た。
「ん?そろそろ寝る事にする?」
そして3人はベッドにいつもの様に川の字になって眠ったのだが、シンジはなかなか寝つけなかった。


11月26日(木曜日)、ネルフ本部第1発令所、
ネルフやリリン、エヴァや使徒の事が公表され世界中が大騒ぎとなっていたが、一方のネルフやリリンは落ちついていた。
「・・・・公表されたな、」
「ああ、使徒の残りは1体、如何なる状況であったとしても、全力を尽くしこれを撃破出来れば良い・・それだけだな」
「世界は混乱しているが、それだって、ネルフへ何らかのアクションを掛けて来るまでには時間がかかる。それまでの間は、現状を維持し、最後の使徒への対応に励めば良い・・・そう言う事か?」
「まあ、そんなところだな。」
「最後の使徒はいったい何時来るのやら・・・」
「早すぎても困るし、遅すぎても困るな・・・」
「ああ、」


ケージでは、修復が完了した参号機の機体連動試験が行われていた。
「マヤ、どう?」
「はい、基本的には問題ありません。」
「そう・・・これで、参号機、伍号機、七号機、取り敢えず3機のエヴァが揃ったわね」
マヤは頷いた。
「・・・支援兵器は殆ど諦めた方が良いでしょうし、ネルフとしては一応は準備は整ったの考えられるわね・・リリンの方はどうかしら?」


第1ケージでは零号機も修復がほぼ完了していた。
ジュンコが調整を行っている中レイ、レイラ、レミ、アスカの4人が到着した。
「来たわね」
レイラとレミはプラグスーツを着込んでいる。
「今日は普通の機体連動試験よ、御願いね」
二人は頷いてプラグに入った。
「では、これより機体連動試験を行います。」
そして機体連動試験が行われ、結果の方は上々であった。


東京、東京帝国グループ総本社ビル会長室、
「やはり戸惑い、そして混乱かと」
「・・ふむ・・・まあ、アルミサエルを倒せば直ぐにゼーレは仕掛けてくるだろう。アルミサエル戦まで持てば良い、そうすれば少なくとも人類の命運を分けるような事態にはならんだろう」
「はい、」
「・・・ところで、対ゼーレ戦の準備は?」
「米軍の太平洋艦隊で戦闘可能な艦は日本に向かっています。明後日に新横須賀港に入港します」
「そうか、」
「自衛隊の国際連合軍との切り離し及び日本政府への作戦指揮権移行の準備も順調です。現在、日本政府が最終交渉中で、今日中には決定し、即日移行される運びになっています」
「東京軍は?」
「各地の東京軍の1部を日本に回しています。配備も数日中には完了します」
「12月の頭には準備は整うか」
「はい、」
「・・・まあ、今のゼーレに大軍を動かせる力は無い筈だ。問題に成るのは量産機だな・・・そしてそれは、アルミサエル戦に掛かっている」
耕一は立ちあがって窓の外に視線を向けた。
「・・・・どうなるかな・・」


リリン本部、長官室、
シンジは一人で考え事をしていた。
色々と・・・全てを、考えを整理している。
静寂に包まれたこの部屋で考えを整理する。
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
長い間考え続けたが、結局の所全てを整理する事は出来なかった。
「・・・ふぅ・・・」
時計を見るとそろそろ帰って夕食を作る頃合になっていた。
「そろそろ、かえらなきゃ」
シンジは椅子を立って部屋を出た。


司令執務室、
「悩んでいる様ですね」
「ええ、ずっと答えを出す事を、考える事を避けて来たことですからね」
「未だ、答えを出す事を急ぐ必要はありませんが、」
「そうですね・・・只、それなりに悩む、考えると言う事は大事な事でしょう」
「ええ・・・答えはゆっくりと出していけば・・いえ、ゆっくりと出していくしか方法はありませんからね」
「・・・ところで、会長が来られる日にちですが何時が良いですかね」
「・・・・そうですね、明後日辺りが良いのでは?良ければその方向で調整を進めますが」
「ええ、報告します。調整を御願いします」
「はい、それでは、」
榊原は部屋を出て行き、蘭子は東京に電話を掛けた。


11月27日(金曜日)、リリン本部、シュミレーションシステム、
初号機と零号機が仮想空間上で使徒や量産機と戦っている。
わざわざ蘭子が訓練に立ち会っていて職員達にも若干ながら緊張が走っている。
(・・・シンジ君の動きは落ちていないわね。)
シンジは今は思考を完全に或いは少なくとも支障がない程度は切り替えているようだ。
(・・・一応、流石と言えるのかしら?)
(・・・・明日会長が来られる。会長から言ってもらえれば良いかしら?)
「・・蘭子司令、」
ジュンコに声を掛けられゆっくりと振り向いた。
「次を最後にして訓練を終了しますが、宜しいですか?」
「ええ、」
「では、これで最後にします。プログラムのレベルを一つ上げて」
「はい」
モニターに複数の量産機に囲まれている両機が映し出された。


ネルフ本部、総司令執務室、
「・・・皇耕一本人が乗り込んでくるか・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・真意が未だに掴めない・・・だが、今回の来る目的としては時期的にも対ゼーレに関する事だろう」
「ゼーレか・・・補完計画用の量産機を揃えられたのかな」
「分からん。だが、揃えたと考えて損はないだろう」
「そうだな」
「・・・せめて、未来を残してやらねばな・・・」
「・・・我々の罪のせめてもの贖罪か・・・」
「ああ、と、いってもその手助けが精一杯というのは残念だな・・」
「・・そうだな・・」


11月28日(土曜日)、ネルフ本部付属へリポート、
多くの護衛ヘリを伴って大型ヘリがゆっくりと降りてきた。
日向とリツコが出迎えに来ている。
皇耕一・・・東京帝国グループの総会長・・・この世界の経済を支配している存在、
ヘリが着陸し中から秘書官達が降りてくる。
二人は唾を飲み込んだ。
その時、白いスポーツカーが走ってきて直ぐ傍で止まった。
(何?)
(何だ?)
そして、その車から耕一が降りてきたため、思わず二人はずっこけそうに成った。
耕一が二人に近付いてきたので二人は気を取り直して頭を深く下げた。
「・・・お待ちしておりました。」
「そうかね」
どこか楽しそうである。
二人は複雑な表情をしながら耕一を本部へと案内した。


総司令執務室、
「・・・来るな、」
「ああ」
二人はルシアの時のあの威圧感というかなんと言うか、あの畏怖とでも言うべき存在を感じた時の事を思い出していた。
今度は、世界経済を本当に支配する存在である。
『皇耕一会長をお連れしました。』
ドアが開き3人が入ってくる。
「・・・」
「では、私たちはこれで、」
一礼して日向とリツコは退室し、執務室は3人だけになった。
「どうぞ、お座りください、」
「ああ、」
耕一は置かれている椅子に座った。
「・・さて、早速ではあるが・・・今回私が来た理由は、対ゼーレ戦に備えての対応の打ち合わせなのだが・・・協力してくれるかな?」
「・・勿論です」
「そう言って貰えると嬉しい・・・ネルフの協力が得られるかどうかということは勝敗に大きく影響するからな」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・そうそう、一つ言って置いたほうが良かったかな?」
耕一はまるでふと思い出したかのように言い、その仕草に二人は緊張した。
「・・・ネルフと君たちの処分についてだが・・・」
「「・・・・」」
「・・・君達が補完計画の推進に協力していたということは知っている」
「「・・・・」」
「しかし、ゼーレとは全く異なる目的であり、また最終的にはゼーレと袂を別つ予定であった」
「そして、目的が何であったとしても、使徒を倒し、人類の危機を救ったということ・・・確かにその方法はとてもベストな方法とはいえない、だが、事実は事実だ」
「だが、また君達が大きな罪を犯したことも事実だろう」
「「・・・・」」
「私は君たちを称え様とは思わないが、罰するのもどうかと思っている。功罪、足し引きでチャラというのはそもそもおかしい事ではあるがな・・・」
二人は黙って続きを促した。
「そこで、君たちには、これからの行為でその代わりとしてもらいたい。」
「・・行為?」
「君たちはたとえ称えられたとしても、それを素直に受け止められるような人間ではないだろう」
「今後の世界のために貢献することで罰せられる代わりにしてはどうかと思っているのだが、」
「・・・貢献、ですか?」
「ああ、具体的にはまだ決めてはいないがな・・・・君たちの罪を清算するには、単に罰せられるよりもずっと良いのではないかな?」
「・・・そうかもしれませんね・・」
碇の言葉に耕一は軽く微笑を浮かべた。
「・・・さて、それでは、ゼーレのことだが、アルミサエルを殲滅した後に政府、ネルフ、リリン、東京軍、戦略自衛隊、自衛隊、米軍の一部に対してゼーレと補完計画のことを発表するつもりだ」
耕一はファイルを鞄から取り出して二人に渡した。
その中には、公開される内容が書かれていた。
内容はできうる限りゼーレ側が不利になるように取捨選択されている。
「これで良いかな?」
「・・・問題ありません」
碇はファイルを閉じながら答えた。
「対ゼーレの作戦だが・・・主力が双方共にエヴァとなる分、アルミサエル戦が終わってからでないとはっきりとしたものは立てにくい、」
「・・だからこそ、アルミサエルの殲滅が確認されればすぐに動き出すでしょうな」
「そのとおりだな」
「・・・あらゆる状況を網羅することは不可能だ。だが、何段階かの段階に分けてそれぞれにあわせた作戦を基本とすれば、それなりの対応は取れるだろう」
「作戦部の連絡を密にするということですか?」
「そうだな、詳しくは蘭子や榊原たちと決めてくれ」
「・・わかりました」
「・・・今回はそのくらいだ。今日はこの辺りで失礼するよ」
耕一は椅子を立ち上がった。
「期待している」
耕一はそう言い残し執務室を出て行った。


リリン本部、長官室、
シンジはソファーに座って耕一がくるのを待っていた。
ネルフの両司令との会談が終わった後、ここに来る事になっている。
『いいかな?』
耕一の声が聞こえた。
「はい・・どうぞ」
ドアが開きゆっくりと入ってくる。
そして、そのままシンジの対面のソファーに座った。
「久しぶりだな。レイ君やレイラとはどうだ?」
「あ、はい、まあまあ」
「そうか・・・それはよかった」
・・・・
・・・・
「・・・あの、ネルフのことですが・・・」
「ああ、何か問題があったかな?」
「・・いえ・・問題があるわけではありませんが、」
「父親である碇のことか」
シンジはゆっくりとうなずいた。
「全てを捨てでまで母さんを求めたというのはわかります。全てを納得できるわけではありませんが、」
「うむ、」
「でも・・・」
シンジは表情を暗くしてうつむいた。
「・・・碇が自分のことをどう思っているのかわからないか」
「・・はい、」
「・・・・私は碇の気持ちがそれなりにわかっているつもりだ」
「・・・・」
「程度問題はあるが、私と彼は似ているからな。もし、同じ状況になったら同じ事をする可能性は高いと思う」
「・・・」
「碇はシンジのことを愛していた。だが、ユイ君を取り戻すためには、シンジを切捨て利用しなければならなかった」
「・・・・」
「そうなったらどういう行動をとるのか?ユイ君を取り戻すというのが前提ならば、」
シンジは少し考えたがはっきりとは分からなかった。
「求められても答えるわけにはいかない・・・ならば、むしろ恨まれた方が良い・・・そんな風に考えたのかもな」
シンジはゆっくりと顔を上げた。
「まあ、リリン設立後はいろいろあったからそれだけでもないだろうが、それ以前、あるいは、シンジが体験した歴史ではそうだったのではないかな?」
そのことを考えてみる。
・・・・・
・・・・・
(・・・わからない、けど、否定はできない・・・)
・・・・・
・・・・・
「・・・それを今直ぐに認めることはできないだろう。だが、全てが終わったら、それを確かめてみてもいいんじゃないか?」
「・・確かめる?」
「まだまだ人生は長い、それを確かめ、そしてそれから判断し行動する時間は十分にあるんじゃないか?」
「・・・そうかもしれませんね」
シンジは微妙な表情を浮かべた。
「・・・さて、この後、レイラと会っていこうと思うんだが、どうする?」
「あ、僕も帰ります」
「そうか、送っていこう」


第3新東京市の市街地を耕一の白いスポーツカーが走っている。
シンジは助手席に乗って窓から空を眺めている。
(・・・)
「・・・どうした?」
「・・いえ、」
「・・そうか、」
再び二人は黙り車内は静かになった。
・・・・・
・・・・・
やがてシンジのマンションに到着し、二人は車を降りた。
そして、玄関をくぐって中に入る。
「おじゃまするよ」
「お父さん!」
レイラが慌てて奥から出てきた。
「久しぶりだな。元気にしているか?」
レイラは笑顔でうなずいた。
耕一は視線をレイに移す。
レイの方は初めて会う相手にどう接すれば良いのか戸惑っているようだ。
「直接会うのは初めてだね、レイラの父の耕一だ。宜しくな」
「・・宜しく、」
「いつもレイラが世話になっている」
「・・いえ、」
「会長、夕食はどうしますか?良かったらいっしょにどうです?」
「そうだな、御馳走してもらおうかな、」
「じゃあ、直ぐに用意しますね」
シンジは早速キッチンに向かった。


11月29日(日曜日)、地中海に浮かぶ島に建てられている1軒の別荘の周りに銃器を持った兵士達が立っている。
ヘリが飛んできて、別荘の近くの開いた場所に着陸した。
そして、ヘリの中から長い金髪を持った女性がヘリのローターの起こす風によって靡くその髪を押さえながら降りてきた。
兵士達は女性に対し敬礼をする。
女性はそのまま兵士達の間を抜けて別荘に入り、奥の部屋へと進んだ。
「・・・エリザベートか?」
奥の椅子に座っていた老人、キールローレンツが声をかけた。
「はい、」
「補完計画用のエヴァの準備が整いました」
「そうか、」
「只、予算と時間の不足からそれぞれの機体の質を下げる事に成ったのは残念ですが、」
「仕方の無い事だろう・・・で、」
「はい、アルミサエル襲来直後に発動します」
キールはゆっくりと頷いた。
「頼んだぞ」
「はい、」
ゆっくりと椅子から立ちあがり、窓から空を見上げた。
「・・・約束の時は近い・・・」

あとがき
みなさんはこのことに関して色々と思うところがあるかもしれませんが、今回、遂にネルフの計画の破棄が決定しました。
一方でゼーレ側の計画は準備が整い、後は決戦を挑むだけになったようです。
全ての鍵を握っているのは、アルミサエルになってきているのかもしれませんね。
そのアルミサエル戦は次の第27話の予定です。