リリン

◆第27話

 12月2日(水曜日)、東京、東京帝国グループ総本社ビル会長室、
「今日中には、各軍の配備は完了します」
「うむ、ネルフと使徒の公開に関しては?」
 耕一は配備図を見ながら尋ねた。
「やはり、情報を絞ったこととマスコミの誘導が大きな効果をあげており、一般人のネルフへの反感はかなり小さく抑えられています。むしろ、ネルフを支援しようとする動きも徐々に出始めています」
「そうか、それは嬉しいことだな。まあ、妨害しようという動きがなければ良いわけだから、ある意味大成功とも言えるかもしれんな」
「はい…しかし、中国に関しては、かなりの反感が強まっています」
「直接の実害が出てしまったわけだからな、」
 仕方ないなといった口調である。
「はい、ですが会長自ら現地に直ぐに飛んで保障と復興を約束されたことは、緩衝材にはなっているようです」
「……そうか、政府を抑えることはたやすいが、民衆の反感を抑えるのは骨だからなぁ、考えて動くのではなく、感情で動くからな…それだけに難しい」
「はい、そうですね」
「ネルフとリリンは?」
「エヴァの準備は終わりました。対使徒用の支援兵器も必要なものは8割方そろいました」
「そうか、だが、もともと削ったものだからな…」
「…対ゼーレ用の支援兵器も7割は何とか」
「…全てはアルミサエルがいつ来るかにかかっている。…果たして、いつ来るかな?」


 リリン本部の特別会議室では両作戦部の幹部職員で対使徒と対ゼーレの作戦を練っていた。
 尚、ミサトは作戦案は提出しているが、会議には参加していない。
 アルミサエル戦とゼーレ戦の間隔はほとんどない、修復やその他をするほどの暇はない…いや、させてもらえないというべきか、
 日向と大空が作戦マップ上に表示されている点を見つめながら話をしている。
「大体は位置はこれでいいとは思いますが、使徒がどのような形でどのような能力を持っているのかどの程度の強さを持っているのか…そして、どの程度の被害をこうむるのか…予測し辛いですね」
「ええ、ゼーレの量産機は、リツコ博士の設計を元にしていますからその能力も推測できますが、使徒の方は分かりませんからね」
「最後の使徒は、少なくともこの前のようなのだけはごめんこうむりたいですね…流石にまたあれほどの被害を受けてしまえば勝つ方法がとても思いつきませんよ」
 日向はそう言ってからコーヒーが入った紙コップに口を付けた。
「そうですね、」
「それと、今日からネルフ側のチルドレンにもゼーレのことを知らせて対ゼーレの訓練を始める事になりますね」
「ええ、やはり、心苦しいものがありますが、しないわけには行きませんからね…むしろもう少し早くできればよかったのですが、」
「リリン側のチルドレンは知っていてその対応もしていますし、アスカが知っているので埋め合わせはできるでしょう。なんと言って初号機、弐号機、零号機の3機で戦力の大半を占めているわけですから」
「…まあ、そうかもしれませんね」


 ネルフ本部の総司令執務室にいる二人は、さまざまなところへの根回しや事務処理に追われていた。更には、リツコや日向も最善の動きができるようにと、二人の事務処理の一部も引き受けている。
「…碇、そっちはどうだ?」
「ああ、これはもう直ぐ終わる」
「そうか、こっちも後少しだ」
「…今日、チルドレンに知らされるな」
「ああ、」
「…チルドレンはどうおもうんだろうな?」
「どうだろうな…戸惑うだろうが、もはや迷っていることはできないと言うことも分かるだろう」
「まあな、だが、エヴァが心理兵器である以上戸惑いは直接戦力に響くからな」
「いまさらそれをどうすることもできん。現状での最善を考える方がよほど有益だ」
「それも、そうだな」


 シミュレーション司令室、
 ネルフとリリンのシミュレーションシステムをマギと東京システム経由で繋いで仮想空間上で零号機、初号機、参号機、伍号機、七号機の5体が連携攻撃の訓練を行っている。
 マヤの表情は少し重い…これからとる休憩の時に、使徒の次に戦うことになる相手を伝えなければいけないのだ。
『そろそろ休憩にしましょうか?』
「…そうね、」
 リツコはモニターのジュンコに返事をした。
「では、これで休憩にします。重要な通告があるのでチルドレンは休憩室で待機してください」


 休憩室でアスカ、マナ、トウジ、ヒカリの4人のそれぞれがプラグスーツのまま缶ジュースを片手に休んでいるとリツコとマヤが入ってきた。
「楽にしていて良いわ、先ずは、先ほどの訓練のことについてから話すわ」
「先ず、アスカは流石ね、ただし、弐号機のときに比べれば少し落ちているわ」
「機体の性能が違うんでしょ」
 アスカは缶コーヒーを持った手の人差し指を伸ばしながら答えた。
「ええ、それも含んでね」
「……」
「理論上弐号機に比べシンクロ率も含めおおよそ7%の戦力ダウンになるわ、ところが11%もダウンしている。この4%が場合によっては命取りにもなりかねないわ、使い慣れた機体でないというのもあるのだろうけど、それで気が入らないというのは何とか改善してほしいわ」
「……分かったわ」
 ファイルをめくる。
「鈴原君と洞木さん、二人に問題点は特に目立ったものはないわ…ただ、少し気になるのは、反射速度が遅いことね、」
「反射速度でっか?」
「ええ、二人で動かしている以上仕方がない部分もあるんだけれどね。もう少し二人の意識をあわせてくれるかしら?」
 二人はお互いの顔を見…そして顔を軽く赤くして、視線をそらせた。
 それを見てリツコは軽くこめかみに指を当てながら、ファイルをめくった。
「マナは、特に問題ないわ、最近順調に伸びているし」
 そしてそれぞれに伝えていき、訓練のことが伝え終わってから今日の本題に入った。
「…皆には重要なことを伝えなくてはいけないわ、」
「「「「……」」」」
「5大国は、自分たちの国のために、エヴァを戦略的な兵器として使おうとしていた。これは知っていると思うけど、それを更に利用していた組織があるのよ」
 驚きを覚えるものの、黙って続きを聞く。
「ゼーレといわれる組織でね、自分たちの望む世界を作るために大国を唆してエヴァを作らせた組織が存在するのよ」
 アスカ以外は驚いたようだが、特にマナの驚きが大きい。
「そして…このネルフさえもそのゼーレが大国を唆せて作ったようなものなのよ、そのゼーレの望む世界を作るための実行機関としてね」
 それは更に大きな驚きを与えたようである。
 暫く待ってから続ける。
「委員会は大国の代表とはいえ、実際にはそのメンバーはゼーレの幹部によって構成されているの、ネルフが委員会に反旗を翻したというのは、大国の思い通りにならないという意味のほかに、ゼーレの思い通りにもならないということもあったのよ」
「じゃあ…」
「ええ、使徒を倒して人類の世界を守らなければいけない、そう言う意味ではゼーレや大国とも利害が一致していたから協力していたわ、でも、その目的が違う以上、意見の食い違いが起こりだんだん対立が大きくなってきて、今にいたるわ」
「…どうしてもこんな最後の使徒だなんて時に?」
 マナがたずねる。
「混乱を避けるためよ……下手に情報が流れれば憶測が憶測を生みさまざまな混乱が起きるわ、更に言えば行動に走りゼーレと戦ったらどうなるかしら?人類同士の対立で力を使い、その結果使徒に対抗する力を失いかねないわ。そんなことでは本末転倒、だから土壇場まで伏せておきたい、いえ伏せておかなくてはならないことだったのよ」
「…その通りでしょうね、だけど最近の事でこれ以上隠しておけば隠しておいた方がデメリットが大きくなると判断した」
 アスカがリツコが言いたい事を先に言った。但し、どこか棘のある口調だったために、リツコは少し眉をひそめた。
「…その通りよ、そして、ゼーレの主力はエヴァになるわ、」
「「「エヴァに!?」」」
「そう、但し、私たちが使っているエヴァとは違って操縦者はいないわ」
「「「え?」」」
「ダミーシステムと呼ばれる操縦者なしでエヴァを動かす技術、ゼーレはそれを完成させている…いえ、完成させなくては彼らの計画の実行は難しいわ」
「つまり、中に人はいないって事ね」
「ええ、思い切りやってもらって良いわ、いえそうして…もし戸惑えば自分がそうなっているわ」
「「「……」」」
「一つ聞きたいんだけど、ネルフはそのダミーシステムというのは作ってないの?」
 その言葉にマヤが心配そうな表情でリツコに視線を送る。
「…作っていたわ、レイに協力してもらってね。まあ、知っての通りレイはリリンに行っちゃって、そのせいで完全に暗礁に乗り上げ、今では破棄されたわ」
 皆複雑な表情を浮かべる。
「それが良かったのかどうかはまだわからないけれどね。ダミーシステムが完成すればエヴァをある程度効果的に運用できるようになり、戦力が上がることによって使徒戦とゼーレ戦においてはいい面があるでしょうけれど。その反面、その後、エヴァの戦略兵器としての価値が増してしまい、その後の世界の平和に心配を残すことになるわ」
「「「……」」」
「まあ、無くてすむならそれに越したこと無いものでしょ」
「ええ、ゼーレ側の技術は徹底的に抹消することが決まっているわ。ネルフ側の技術も平和利用に限定されることになっているわ」
「…まあ、何にせよ生き残ったときの話だけれどね…それは貴方達にかかっているわ、お願いするわ」
 リツコは軽く頭を下げた。その行動に多少ならずの驚きと戸惑いを感じつつも皆はうなずいた。
「午後からは対ゼーレ用の訓練をすることになるわ、ネルフやリリンが最も戦力を消耗し、又使徒によって世界が滅ぼされる心配が無い時、すなわち最後の使徒を殲滅した直後、それが彼らにとっての最大のチャンス、それを逃すはずが無いわ」
「…つまり、連戦になるってわけね」
「そう言うことね。だからこそ今訓練をしなければいけないのよ、ネルフとリリンの作戦部の幹部が共同で作戦を練っているわ。次の使徒で受けるであろう被害も考えて何十通りも、何百通りもの作戦案を考えているわ」
 そんなのとても練習できるはずが無い、みんなそんな表情を浮かべる。
「安心して、ある程度のパターンの組み合わせになるようにされるわ、そうでなければとても不可能、」
「何でも良いわよ、訓練はいつから?」
 皆は時計に視線を向けた。
 時計の針はもう直ぐ12を指す。
「午後1時からよそれまで、昼食をとるなどしておいて…じゃあ、1時に又会いましょう」
 リツコとマヤは部屋を出て行った。


 仮想空間上に5体のエヴァが現れた。
「…敵は?」
 9機の新型ウィングキャリアーがここに向けて飛んでくる。
「…ウィングキャリアー…それも9機も…」
 マナたちネルフ側のチルドレンはその数に驚きを感じている。
 9機のウィングキャリアーからそれぞれ量産機が投下され、量産機はその翼を広げて飛行をはじめる。
「そんな、飛ぶなんて…」
『量産機は動力機関を内蔵し、飛行を可能にしているわ、気をつけて』
 量産機はアクティブソードやソニックグレイブ等の旧型の装備を手にしているようだ。
 量産機が次々にこちらのエヴァに向かって急降下して来た。
「わっ!」
 伍号機はその攻撃をかわし、すぐさま反転し新型ソニックグレイブを振り下ろすが空を切る。量産機は空中からの急降下攻撃を繰り返してくる。第2撃は、よけきれず弾き飛ばされた。
「つ、くそっ!」
 再び攻撃に転じるしかし伍号機の動きでは量産機を捉えきれない。最初初号機を襲っていた4機のうちの1機がこっちにやってきて交互に次々に攻撃を仕掛けてきた。
「きゃ!」
 モニターに表示される伍号機の状態図が次々に赤色に変わっていく。
 そして、ついにモニターが赤く染まった。戦闘不能にされてしまったのだ。
「くそ〜」
 マナは悔しさからか声を漏らした。


 一方、アスカも梃子摺っていた。
「くそっ」
 伍号機がやられたことで伍号機に当たっていた機体が他の機体への攻撃に参加しているのである。
 今七号機は2体の量産機に挟まれている。
「このままじゃだめね…」
 量産機の一機が再び急降下攻撃をしてきたとき、ソニックグレイブをわずかに交わし、新型プログソードを振りかぶって振り下ろす、ソニックグレイブの軌道を変えられて、左手が切り飛ばされる。
「くらええ!!」
 新型プログソードによって斬られ量産機は真っ二つになる。
「よし、」
 背に迫っていたもう一気に体を向ける。
「でえやああああ!!!」
 思いっきり新型プログソードで斬り裂く、
「…厄介ではあるけど、戦力自体は意外に強くないのね、」
 そのまま片手ではあるが連続攻撃に持ち込んで始末した。
 あたりを見てみると、苦戦していた参号機は量産機を倒した初号機によって助けられ、又零号機も自分の分はきちんと倒していた。
「…ふぅ…」
 その後、いく通りかの条件を設定されて同じように訓練が行われた。


 司令室、
「さて、今日はこれで終わりだけど、明日からは作戦の基本パターンに基づいた訓練を行ってもらうわ、」
 解散した後、チルドレンは夕食を取るために職員食堂に向かった。


 12月4日(金曜日)、リリン本部、司令執務室、
「…準備はかなり整いましたね」
「ええ、戦力も65%以上残せば量産機戦は勝利できそうですしね」
「でも、用心を怠ってはいけませんよ、侮りや自惚れは必ず付け込む隙を作り出しますし」
「分かっています。エヴァ以外のものを組み合わせて来るでしょうしね。それを排除する方法も検討中です」
「…子供達の疲労はどうです?」
「そうですね…蓄積してきていますが、まだ問題となる程度ではありません。とはいってもいつ実戦になったとしても、重大な支障をもたらさない程度に過度にならないように、又休養も織り交ぜ無くてはいけませんね」
「任せましたよ」
「ええ」


 夜、シンジのマンション、
 流石に、訓練の量が増えて3人も疲れているのか、さっさと就寝についていた。
 いつもの通り川の字になって寝ていたのだが…むくっとシンジは起きて二人を起こさないように気をつけながらベッドを抜け出した。
「………」
 ベランダに出る。
 夜空に月や星が輝き町を照らしている。
 今、第3新東京市の人口は極端に減っている。現在では一般人は殆どいない。
 ネルフやリリン、そして使徒が公開されたことと更に第3新東京市およびその周辺地域からの避難が進められていることによるところも大きい。
 勿論これまでの使徒戦、特にゼルエル戦の恐怖は大きいだろうが…
 人が減ったせいで夜の町が暗くなり、それによって月や星が美しく見えると言うのは皮肉なことでもある。
「…これからどうなるんだろう…」
 シンジの呟きが夜に吸い込まれていった。
 それは使徒戦、ゼーレ戦だけではなく、その後の世界全体、そしてその世界で自分の周りの者がどうなるのかという意味も含んでいた。レイ、レイラ、レミ、アスカ、耕一、ルシア……東京帝国グループ、ネルフ、リリンの皆…ユイ…そして、父である碇ゲンドウ…
「…碇君、」
「…シンジ君、」
 いつのまにか、後ろに二人が立っていて心配そうな声をかけてきた。
 ゆっくりと二人を振り返える。
「…シンジ君、先のことを考えるのはいいと思うけど先のことを心配しすぎるのはどうかと思うよ…」
 レイもコクリと頷き同意を示す。それに対してシンジは沈黙で返した。
「…最近、何か思いつめてる。エヴァにいっしょに乗ってればよくわかる。数値には出てなくたって、」
 レイはじっとシンジの目を見詰めてきた。
 暫くの間そのまま沈黙した状況が続く、
「…そうだね」
 再び夜空に視線を移す。
「…今まではこれからのことがこの10年間は見えていた。幅はあるものの起こることも結構予測できた。そして同時に目標も…でも、これからは何も分からないからね…」
「それが普通だよ、」
 軽く頷く、
「そうなんだよ…本来は…でもね…25年…それが僕の人生、でも実際に記憶にあるのは20年ほどかな、人生の半分は、予測できた範囲を走ってきた。だからこそ、分からないときに戻るのが不安なのかもしれないね…」
「いくらわからなかったって皆で協力すれば大丈夫よ、いっしょに生きていこうよ…」
「…そうだね、」
 シンジは軽く笑みを浮かべた。
「もどろうか?」
 二人はゆっくりと頷き、3人はベランダから中へと戻った。


 そして、着々とアルミサエル、そしてゼーレ戦への準備が進む中、遂に12月7日にアルミサエルが発見された。


 ネルフ本部第1発令所のメインモニターにリング状のアルミサエルが映っている。
「目標、強羅絶対防衛線まで150」
「先ずは、敵能力の調査ですね…できればですが」
 周囲に展開されている部隊が次々に攻撃を仕掛けたが、やはりATフィールドによってはじかれる。
「続行するように」
「…遂に来たな」
「ああ、」
「最後の使徒か…」
「そして、ゼーレの攻撃の狼煙でもある」
「うむ…」


 あるビルの一室で、キールがモニターを見つめていた。
「…いよいよか…」
「…時が着たら事を起こせ、」
「「はい」」
 傍に控えていたものが答える。
「…エリザベートよ、頼んだぞ…」
 キールはバイサーをとり、ゆっくりと目を閉じた。


 リリン本部発令所、
「アルミサエルですか…」
「遂にきましたね」
「ネルフ・リリン両エヴァ全機準備完了しました」
「よし、作戦ポイント配置しろ」
「了解、全機順次射出、」


 地上に次々にエヴァが射出された。
「…アルミサエルか…」
 零号機のレイの自爆が思い出される。
「…大丈夫、私はここにいるわ」
「…そうだね、」
 いやな記憶を振り払い、新型プログソードを手に取った。
『目標視界に入ります』
 山の陰からアルミサエルがゆっくりと姿をあらわした。
 軍隊が次々に攻撃をかけているがATフィールドに阻まれている。
 そのとき、突然アルミサエルの動きが止まった。
「…来る」
 レイの言葉発せられた瞬間、リングの一部が切れ、紐状になったアルミサエルが最も近い位置にいた七号機に襲い掛かった。
 七号機は横っ飛びでそれを交わし、新型ソニックグレイブで反撃に出たが、表皮が異様なまでに硬いのか弾かれる。
『くそっ!』
「行くよ!」
 シンジは初号機を七号機に向けて走らせた。
 軽く跳躍しそのまま全ての勢いを載せたままちょうど七号機に再び襲い掛かったアルミサエルを斬り付ける。アルミサエルは衝撃で吹っ飛び丘に叩きつけられた。
 しかし、煙が晴れたとき、そこには何も無かった。
「え?」
 レイも驚きから目を開く。
『きゃああ!!!』
 突如マナの悲鳴が響き渡る。慌てて振り向くと、地面からアルミサエルが生えており伍号機の背中側から侵食していた。
「くっ」
 皆伍号機に駆け寄る。
『でやああ!!』
 レミの声とともに零号機がアルミサエルに新型ソニックグレイブで斬り付ける。しかし、凄まじい火花が散るだけで殆ど斬れずに弾かれた。
『レミ!』
『分かったわ!』
 七号機が左から零号機が右からほぼ同じ場所に対して斬り付けた。
 流石に二人だけのことはある。
 アルミサエルの体が切れ、伍号機は倒れ、残りの部分は再び地面へ潜っていった。
『伍号機は戦闘不能、しかし、搭乗者は無事です』
 マヤからの報告でほっと一息つきたいところだが、そうはいかない。
 直ぐに4機のエヴァはその場を離れ、入れ替わりに回収班が伍号機に向かう。
「…地面を使うなんて…」
「…確かにあの体型なら、不可能ではないわね…」


 ネルフ本部、第1発令所、
「厄介系ですか…」
 日向の呟きがこぼれた。
「伍号機のパーツは生態融合で汚染され使い物にならない状況…厄介ね」
「地下のセンサーの数なんて知れてますからね…」
「25射出口に生体反応!」
 メインモニターに射出口のマップが表示された。
 赤い点が下に向かって動いている。
「装甲隔壁を閉鎖!」
「了解!」
「だめです装甲隔壁が破られています!!」
『ジオフロントへのルートを開放!エヴァ全機ジオフロントに後退させろ』
 榊原の指示が両発令所に響く、


 初号機、
「……」
「……」
 二人は黙ったまま初号機は高速回収されている。ただ高速回収といっても射出時のような速さではない。そう言う設計にはなっていない。予測していなかった。このジオフロントで止めなくてはならない。確かにネルフ本部のターミナルドグマにあるのはアダムでは無くリリスである。しかし、侵入させて良い物ではない…
 そして、ジオフロントに到着する。ジオフロント内部の支援兵器はさして破損していない、予算不足から完成を見ることは無かったが、
『第1段として、ATフィールドを中和した上での圧倒的火力による攻撃、』
『第2段は、エヴァの連携による連続攻撃、』
『第3段は』
 榊原は少し間を開けた。
『エヴァ1機を囮とし、自爆攻撃』
 皆に緊張が走っているだろう。特に、シンジとレイは、いやでも前回の零号機、レイの自爆を思い起こさせられてしまう…
『目標ジオフロントに進入します!』
 ジオフロントの壁面に開いた穴からアルミサエルが飛び出してきた。アルミサエルは一直線にエヴァに向かってくる。初号機が広範囲なATフィールドを展開し、アルミサエルのATフィールドを中和する。
『攻撃!!』
 榊原の声とともにマギと東京システムによって制御されたジオフロント中に設置されている支援兵器が火を噴く。次々に砲弾やミサイルがアルミサエルに直撃する。しかし、アルミサエルの動きは止まらない。
 エヴァは次々に回避する。そして、初号機もATフィールドを中和しつつ回避した。
 支援兵器からの攻撃は尚も続けられるが大きなダメージは与えられているようには見えない。
『距離を取ってくれ!』
 日向の指示に従い皆アルミサエルから離れ、初号機も中和距離ぎりぎりまで下がる。
 モニターが光度を大きく落した瞬間、ジオフロントに凄まじい火柱が上がり、衝撃波に襲われた。火柱は天井都市にまで到達し、ビル郡の一部を破壊していき、ジオフロント、そしてその周囲全体が揺るがされる。
「やったかな?」
「…いえ、来るわ」
 レイの言葉の直後、煙の中からアルミサエルが飛び出してきた。表面は流石に劣化していたり破損していたり焦げてはいるが、致命傷とは到底思えない。
『第1段は失敗、第2段に移る』
 近くの武器用の射出口から射出された新型プログソードを手にとる。
 襲い掛かってきたアルミサエルをよけ、斬りつける。しかしやはり切断はできずに吹っ飛ばすだけに終わる。
「くっ」
『『アタシ達に任せなさい!』』
 零号機と七号機がアルミサエルに向かう。
「…だめ!」
 何か嫌な感じがしたレイが叫んだが、再び両側から新型ソニックグレイブで攻撃し切断した。
 しかし、その直後、片側は地面に落下したが、もう片方が零号機に襲い掛かった。腹部にめり込み生態融合を始める。
『『きゃあ!!』』
「レミ!!レイラ!!」
 七号機が新型ソニックグレイブで攻撃するが無意味、
「はああ!!」
 初号機が全体重をかけて、斬りかかる。七号機はそれに下からあわせた。初号機の振り下ろした新型プログソードは、七号機の新型ソニックグレイブごとアルミサエルを切断した。
 しかし、今度は切断した部分が地面に落ち、アルミサエルの零号機への侵食は止まらない。
「くそっ!!」
 これでは、前回のアルミサエル戦と変わらない、
 ただ、搭乗しているのが、レイからレイラとレミに変わっただけである。
 レイの方もぎゅっと拳を握っている。
『ATフィールドの中和に専念するように!!二人は自爆装置を作動させた後プラグごと射出!!』
 榊原の指示が聞こえる。
(…自爆…)


 零号機の中では二人は猛烈な気持ち悪さに襲われていた。二人の体には妙なラインが無数に浮き出ていてプラグスーツ越しでも分かる。
「…自爆だって…」
「私がやる…」
 レイラは、何とか立ち上がって、操縦席後方にあるレバーを引いた。モニターに自爆装置作動の文字とカウントが表示される。


 初号機の中では二人はどこかぼうっとしていた。
 思考がどこか止まってしまったのかもしれない。
『…何をしている?』
 モニターに碇の顔が映った。
『二人がATフィールドを中和しなければ使徒のATフィールドを中和しきれない…救える仲間を見殺しにするつもりなのか?』
 二人はどう返答すれば良いのかわからず複雑な表情を浮かべる事になったが、直ぐにATフィールドの中和に専念した。
 零号機以外でのATフィールドの中和が確認されると直ぐに零号機からプラグが射出された。その瞬間一気に零号機の侵食が進む。
『3、2、1』
 そして、全てが光に包まれた。


 ネルフ本部、第1発令所、
「回線回復しました」
 メインモニターには全てが破壊し尽くされたジオフロントが映っていた。
「エヴァ参号機、七号機…初号機も確認しました」
「…とりあえず、勝利はしたが…被害は甚大だな…」
 冬月が溜息のような声を漏らした。
「ああ、」
「零号機のプラグの回収を確認!二人とも無事です!」
「3機のエヴァも回収作業に入ります」
「東京空軍から報告!ロシア極東に秘密基地を発見、現在9機のウィングキャリアーが発進された模様!」
 メインモニターに衛星からの映像が映し出された。
 山の一部に開かれた穴から滑走路のようなものがせり出している。
 そして、作戦マップに9個の赤い点が表示された。
「…早いな、」
「ああ」

あとがき
今回でついにアルミサエルまでの使徒を倒す事に成功し、次はいよいよゼーレとの決戦、人対人の戦いになります。
果たして終局は変えられるのか、又、変えられたとして一体どのような終局となるのか、それはこの戦いに掛かっていますね。