リリン

第28話

◆決戦

 予備ケージに回収された初号機は前面の装甲版がひどく破損している。
『修復急げ!時間は無いんだぞ!!』
 大急ぎで多くの職員が応急修理に取り掛かる。
 プラグから回収されたシンジとレイはレイラとレミの無事を聞き、ほっと息をつき、そして直ぐにでも飛んでいきたかったが、これからのことがある為そうも行かず待機室で休むことになった。
 初号機に施される応急修理は表面の装甲の換装である。内部装甲や素体の修復となると相当の時間を要し、又その間戦力が大幅に落ちることから、これはパスするしかない。その為戦力が本来の状態よりも落ちているが仕方が無い。


 発令所、
「付属病院はA棟の被害は大きいのですが、陰になったB棟は被害が軽微だったので二人はそちらに収容しました」
「そうですか、」
「ジオフロントの施設の被害状況は?」
「今のところ纏まっているものでは…ジオフロント中央部に位置するネルフ施設群に大きな被害が出ています。本部施設は勿論この程度では無事ですが、付属施設群が壊滅的打撃を受けています。リリン施設群は、ジオフロントの端に存在していると言うこともあってネルフのそれに比べれば小さい被害で済んでいます」
「…エヴァの自爆にしては比較的被害が小さいわね…中和に余ったATフィールドが爆発のエネルギーをある程度削いだと言ったところね」
「それはあり得ますね」
「さて…どうなりますか…」
 ウィングキャリアーが発進した秘密基地以外にも数カ所の基地が確認されており、今なお、それぞれから航空機の発進が行われている…


 ネルフ本部第1発令所、
「七号機と参号機は初号機よりも距離が遠かったため、素体への影響は軽微です。現在表面の装甲の換装作業を行っています。目標の到達までには間に合います」
「そうか、」
「もう直ぐ、東京から正式に発表がある筈だ。その準備を」
「はい」
 冬月は大きく息を吐いた。
「シベリアにすでに配備していたとは…欧米の方にあると思っていたからな」
「いつどうやって運んだのかは分からんが、流石といったところか…これで、間隔が予定していた時間よりも短くなったわけだ」
「ああ、混乱しないといいがな、」


 東京、東京帝国グループ総本社ビル最高総司令室、
 ウィングキャリアーを含め数カ所の秘密基地から発進した多くの航空機が日本を目指している。
「…極東の基地か…旧ソの基地でも利用しているのかな…」
「かも知れませんね」
「もう少し時間があるものと思っていたのだが、仕方ない…準備はどうだ?」
「各司令部経由で各末端部隊まで回線つながりました。いつでも可能です」
「よし、」
 耕一は立ち上がった。
「…先ずは、使徒戦の勝利を祝い、又同時にその為に戦った多くの者、そしてそれを支援する者の苦労、更には使徒戦のために望まずも散っていった多くの犠牲に対して感謝したい」
「それら多くの者の活躍によって世界人類は、使徒と言う有史以来初の人類全体の敵、そして人類全体の危機を切り抜けることができた」
「しかし、残念ながらまだ人類全体の危機は完全に回避されたわけではない」
「…残念ながら、次の敵は使徒ではなくわれわれと同じ人である。それはゼーレと呼ばれる5大国を、そして国際連合を裏から操っていた組織だ」


 ネルフ本部のチルドレン待機室ではアスカ、トウジ、ヒカリの3人が体を休めながら放送を聞いている。
『5大国は、エヴァを戦略的な兵器として使おうとしていた。これは周知の事実であると思う。だが、ゼーレはその5大国の企みを利用し、エヴァを作らせた。自分たちの為に、自分たちの望む世界の構築にエヴァを利用するために…』
『全ての使徒が駆逐され、そのゼーレが遂に行動に出てくるまでこのことが発表できなかったのは残念なことではある。しかし、使徒を駆逐すると言う点においては、利害が一致しており、ネルフなどを始めその点においては実質的には協力していた面もある』


 第1発令所、全ての者がいろんな思いを抱きなら話を聞いている。
 多くの者は作業の速度はやや遅くはなるが、手は休めはしないままだが、
『お互いの最終的な目的は異とするため、結局は対立する運命にあり、使徒戦が終了した時どちらが優位に立つための駆け引きを使徒戦のさなか…果てはその襲来前から繰り広げていた。そしてそれは使徒戦が終盤に近付くにつれ激しくなってきた』
『だが、決定的な全面的な争いには至らなかった。人類同士の決定的な対立によって使徒に対抗する力を失い、結果インパクトの発生を許せば、どちらにとっても本末転倒であったからだ』
『もし、ゼーレとその計画が公になってしまえば、多くのものはゼーレを潰しにかかり、又ゼーレはそれに必死に抵抗する。それは単なる組織同士の対立にとどまらず、大きな戦争へと発展しかねないほどのものでもあった。その為に、このような土壇場になってしまったことは、本当にすまない事だと思う』


 ケージでは技術部のメンバーがエヴァの修復をしながら耳を傾けている。
『今ゼーレが保有するエヴァ量産機9機と彼らの手にある軍隊が、彼らの野望を達成するために第3新東京市に向かっている。第3新東京市やその周囲に使徒へ対抗するためとの名目で展開されている軍隊の目的は、半分は使徒ではなくこのゼーレの野望を打ち砕くためなのだ』
『彼らがこの戦いに勝利した場合、世界をどうするつもりなのかは正確には分からない。だが、世界を裏側から操ろうとしてきた者達だ。それがエヴァを9機も保有し、更に大国に勝るとも劣らない軍事力を保有していれば、果たしてどういう行動に出るか…』


 東京、東京帝国グループ総本社ビル最高総司令室、
「これが人類全体の危機を切り抜けると言う意味ではおそらく最後の戦いになるだろう」
「皆の力無しにはこの事態を切り抜けることはできない。人類の未来の為にゼーレと戦って欲しい。ゼーレと戦うというものは、今直ぐにゼーレへの戦闘準備を取って欲しい」
 暫くして各部隊が戦闘準備を始めたという報告が次々に入ってきた。先ほどの話を決定付けるような証拠を提示する時間も無ければ、おのおのがその話を今ある事実に基づいて詳しく検討する時間も無い。雰囲気に流されるまま、あるいはあらかじめ事情を説明されていた上官などの指示に従ったと言う者も多いのであろう。
 耕一は軽く息を吐いた。
「目標は?」
「現在日本海上空です。およそ30分ほどで日本領空に入るとおもわれます」
「日本海側に配置されている各軍に護衛機を迎撃させろ、」
「了解、」


 リリン本部の予備ケージでは急ピッチで作業が進められている。
 そんな中、シンジとレイがケージに戻ってきた。
「…もう直ぐだね」
「ええ」
 二人は暫くケージ上方から初号機を見下ろしていたが、プラグに向かうことにした。
 そして、プラグに乗り込む。プラグが初号機に挿入され下に降りていくような感じがする。
『エントリー開始します』
 行程が進んでいき、最終段階に入る。
『シンクロ率は193.14%で安定しました』
『どう?素体の破損の痛みは感じる?』
 シンジは、軽く体を動かしてみる。
「いえ…痛みは感じませんが、痺れてるような感じです」
『具体的な個所は分かる?』
「いえ…全体的にです」
『そう、残念だけれど、それが初号機の素体に受けたダメージよ、反応が鈍くなると思うけど、なんとかお願いするわ』
「…ええ、仕方ないですね」
『換装作業は5分で完了するわ』


 ロシア極東、秘密基地、司令室、
 エリザベートは、司令席に座ってじっとモニターを見つめながら考え事をしている。
(…もう直ぐ始まる…)
「日本領空まで25分です」
「航空自衛隊及び戦略自衛隊の航空部隊が向かってきます」
「戦闘態勢を、」


 東京、東京帝国グループ総本社ビル最高総司令室、
「東京空軍との交戦は、長野県北部になると予想されます」
「市街地上空での戦闘は避けたいのだが…」
『難しいでしょうね、彼らもそれはわかっているでしょうから』
 榊原が回答した。
「…ああ、山間部上空での戦闘を心がけろ、だが、それが不可能なときは、市街地上空でもかまわん。第3新東京市に到達させるな」
『『「了解」』』
 突然サブモニターのいくつかに爆発が映る。
「何事だ!?」
「事態把握まで暫くお待ちください!」
 更に続いて5つほどに爆発の映像が映る。
「大変です!各基地が攻撃されています!」
「何!!?」
「滑走路が使用できなくなったためいくつかの航空基地で待機していた航空機が出撃できません!」
「現在各基地は交戦状態に入っています!」
 かなりの数の基地が攻撃されているようである。
「多すぎるな…一体いつの間にこれだけの数を」
(全く無いとは思っていなかったが、これはまた随分多いな…国内に大きな協力者がいるか…)
「出撃可能な航空機と使用可能な航空基地・空港をリストアップしろ。同時に苦戦しているところには直ぐに救援を向けろ」
「「「了解」」」


 第3新東京市、ネルフ本部、第1発令所、
 作戦マップには多くの点が描かれている。
「かなりの大軍だな。良くこれだけ用意できたな…」
「だが、多くはデコイだ。実際に戦力になるのはそう多くは無い、各基地が攻撃を受けているようだが、それを考えても十分だろう。第3新東京市での戦闘の支援が目的だとすればな」
「…うむ、確かにそうだな」
「ん?」
 警報が鳴り響いた。
「どうした?」
「侵入者です!!」
「侵入者だと?」
「5、いえ8、9…10以上の経路から侵入されました!!」
「ゼーレか…一体どれだけの戦力を国内に忍ばせていたんだ?」
 冬月のまるで溜息のようにも聞こえる呟きがもれる
「警備課だけでは足らんな、作戦部の戦闘課を当たらせろ、それと東京軍にも応援を要請しろ」
「「了解!」」
「非戦闘員は第3層以下まで避難させるとともに、各装甲隔壁を緊急閉鎖、時間を稼ぐように」
 日向の指示が直ぐに実行される。


 リリン本部、発令所、
 同時にリリン本部も侵入されていた。
「直ぐにエヴァを地上に出しましょう。射出系統を制圧されては事です」
「そうですね。初号機と、武装を射出。ネルフにも知らせてください」
「「了解」」
「リリン本部はネルフ本部に比べて、ジオフロントからが圧倒的に短いですからね。ジオフロントで止めないと厄介なことになりますね」
「ええ、」
「初号機射出口へ移動、」
「第1から第22までの部隊を展開、接触まで120秒です」
「ジオフロントまでで侵入を食い止めろ、ネルフはジオフロントを破棄してでもといけるが、リリンはそうはいかない、東京軍の地上部隊にも協力を要請しろ」
「「了解」」
「…さて、これでどうなりますかね?」
「初号機地上に射出します」


 ネルフ本部、ケージ、七号機、
『エヴァ各機射出口へ移動、』
「…人対人の戦いか…」
 移動が終わった。
『発進!』
 瞬間的に大きなGがかかり射出される。
「きゃ!!」
 暫くして突然リフトが停止してしまった。
「な、ど、どうしたのよ!!?」


 第1発令所、
「大変です!!射出システムが停止しました!!」
「原因は!?」
「現在、調査中です!!」
「リリンの射出システムは?」
「…動いているようです」
「…碇、」
「…拙いな…」
「マヤ!?」
 マヤはキーを叩きながらモニターに流れている膨大な情報を読んでいる。
「今、調べています」
「第1層で戦闘が始まりました!」
 サブモニターに通路内での銃撃戦の様子が映し出されている。
『航空部隊、交戦開始』
 作戦マップでは両軍の戦闘機が交戦を始めているのが表示されている。
「激しくなってきたな」
「ああ」


 東京、東京帝国グループ総本社ビル最高総司令室、
「ネルフ本部の射出システム停止の原因はまだつかめません!」
「量産機が到達する前に回復させろ、」
(いくらなんでも、今の初号機1機では荷が重過ぎる。)
 メインモニターは分割されてサブモニターとあわせてさまざまな情報が表示されている。
 ちょうど中央には空中戦が表示されている。対空ミサイルが飛び交い、当たった機体が爆発し、まるで花火か何かのようにも見える。
 各基地の映像が映し出されているサブモニターに目をやると、戦闘が終わっているものが大半であるが、今すぐに出撃できなくなったものも見られる。そして、戦闘中に出撃できずに出遅れてしまった基地も…
「こちらは何とかなったと言えば何とかなったが…」
 陸上自衛隊と戦略自衛隊の対空部隊が大急ぎで配備展開されている映像がサブモニターに映し出されている。


 第3新東京市、地上で射出された初号機は待機していた。
 エントリープラグ内のモニターには、さまざまな情報が映し出されている。
『ネルフ側のエヴァはどうなるか分からないわ、まだ時間はあるから今のうちに少し動いて、感触をつかんでおいて』
 シンジは頷いて、モニターの情報表示を消した。
「綾波ちょっと動くよ」
 レイが頷いたのを確認して、シンジは初号機を軽く走らせた。
「うん、少し反応が鈍いけど、大丈夫そうだ」
 プログソードを手にとって振り回してみたり、軽くジャンプしてみたりしてみる。
「大きな支障はなさそうだね…今のところは、」
 表面の装甲版を貫かれたら直接素体にダメージがある…そうすれば直ぐに支障をきたすことになる。それは避けなければならない。
 元の位置に戻って待機に戻る。
「…無事だといいけど…」


 ジオフロント側部の通路では親衛隊を含むリリンの戦闘部隊とゼーレの部隊とが衝突していた。
 かなりの数の銃弾が飛び交う…弾の数自体はこちら側のほうが多いのだが……
「うっ…信じられない…」
 銃弾を受けた親衛隊員は血が流れる腕を抑えながらその言葉を口にした。
「大丈夫ですか!?」
「ええ、なんとか…でも、火力で負けているわね…そして、特殊プロテクター…」
 ライフル等だけでなくバズーカやロケットランチャー、そして、プラスチック爆弾などを併用してくる。そして、特殊プロテクター…こちらの銃弾が弾き返される。対抗できる火力を持った兵器は大した数用意されていない…上手くプロテクターの弱い部分を撃つのは至難の業である。
「大変です!D通路が突破されました」
「拙いわね…挟み撃ちになってはいけないわ、後退しましょう…」
「はい、」


 リリン本部、発令所、
「後退しています」
「…拙いな…東京軍の応援は?」
「現在交戦中です」
「…そうか、」
「…間に合いますかね?」
「間にあってもらわなければ困りますね」
「装甲隔壁は次々に爆破されています」
「ゼーレもやりますね…」
「エヴァやその関係の費用から見ればこの程度の特殊部隊を用意するのはたいしたことではありませんからね…とは言え、それすれも足りないと思われていたのに…」
「ゼーレの航空部隊が上陸しました!!」


 東京、東京帝国グループ総本社ビル最高総司令室、
「どうしますか?」
「…かまわん、攻撃しろ」
「了解、」
 市街地上空での戦闘が始まり、撃墜された戦闘機が落下し、ビルに当たって爆発する。流れ弾が町に降り注ぐ…町の各所から炎や煙が立ち上がる。
「……」
「民間人の避難は完了してはいしますが…」
「人のいるいないは別としても…気分のいいものではないな」
「そうですね…」
 基地の状態を映しているモニターに目をやると交戦中の基地はもう1つか2つ程度となっているが、第3新東京市の方はかなり大変な状況である。


 第3新東京市、ネルフ本部の発令所のモニターにはさまざまな情報が表示されている。
「東京軍の部隊との交戦状況から見て、ネルフ本部の中枢への到達は防げそうです」
「そうか、」
 その言葉にほっとした息が各所から漏れる。
「更に、時間を稼ぐためにベークライトを注入してくれ」
「はい、」
 戦闘部隊は撤退し直ぐにベークライトが通路に流し込まれた。
「…これで、幾分かましになるかな?」
「ゼーレと東京空軍がぶつかります!」


 東京、東京帝国グループ総本社ビル最高総司令室のモニターには激しい空中戦が映し出されている。
「敵損耗率43.6%」
 地上からも次々に対空攻撃が仕掛けられる。
「ふむ…」
 もう直ぐ山間部を抜け再び市街地上空へと入る。
「…リリン本部の方は?」
「現在交戦中、まだ分かりません」
「……」


 第3新東京市、初号機、
 シンジはじっと目をつぶって待っていた。
 皆を信じて待つより他無い。確かにエヴァを投入すれば戦局は大きく変わるかもしれない、しかし、戦艦や艦隊相手ではなく、個々の兵士や特殊部隊、しかも場所が建造物内、エヴァが活躍できるような場ではない。そして、もし何らかの方法でエヴァの戦力を減らされるようなことになれば本末転倒である。


 リリン本部発令所、
「突破されました!ジオフロント下部通路に侵入されました!!」
 その報告に司令塔の二人は顔をしかめる。
「本部内でも戦闘が起こりそうですね…非戦闘員を更に下げろ」
「了解」
「大変です!!一部の部隊が付属病院の方へ向かっています!!」
「レイラ様を狙っているのか!!?」
「付属病院にはどれだけの兵がいる?」
「20人ほどです」
「本部内にいる親衛隊員をすぐに向かわせなさい」
「了解」
「…病院との通路を一つ開放しろ、」
「了解」
「間に合えば…いえ、間に合わなくてはいけませんね」
「ええ…」


 東京、東京帝国グループ総本社ビル最高総司令室、
「…レイラ様は大丈夫でしょうか?」
「…大丈夫でなくては困る…」
 耕一はリリン本部のマップをじっとにらむ…侵攻はかなり進んでいる。かなり微妙である。
「…レイラ…」
 作戦マップに映っている反応を見ると、ゼーレの航空部隊は大きく3つに分断し、それぞれに攻撃を加えている。
「軍の方は潰せそうだな…支援がなければ、取れる手の範囲は絞られる」
「ええ…」


 第3新東京市リリン本部、
 戦闘服を着込んだ親衛隊員が付属病院に向かっていた。
 開放されているゲートを通り連絡通路を走る。
『病院内にいつ侵入されてもおかしくありません!』
 通信で悲鳴のような声が伝わってくる。
「もう直ぐ到着します」
『ほ』
 通信が途絶えた。
「く、全速力で行くわよ」
「「「はい」」」
 全員が全力で走りはじめた。


 発令所、
「付属病院内に侵入されました!!」
 二人は眉間に皺を寄せる。
 東京軍の応援はかなり深部までやってきており、敵の数も相当減っている…しかし、既に敵はもう直ぐそこまでやってきている。
「榊原さん、どうしましょう?」
「…武器は余っているか?」
「…はい、一応、」
「非戦闘員にも武器を持たせろ、拳銃では自分の身を守ることすらできない」
「分かりました」
「武器庫を開放します」


 付属病院の通路を特殊部隊が走っていた。そして、その脇には医師や看護婦の射殺体が転がっている。
 やがて一つの班がレイラたちの病室があるフロアにまでやってきたその時、もの凄い勢いで剣を持った親衛隊員が走って来た。兵たちが反応し銃を撃つ前に剣が兵の体を斬る。次々に侵入者達は特殊プロテクターごと切り裂かれる事になった。
「…ふぅ…」
 戦闘が終わった後、辺りは血だらけになっていた。
「これはもう使えませんね…」
 最新技術を作って作られた特殊な材質で出来た剣であったのだが、先ほどの戦闘でもう刃がボロボロになってまるで使い物にならない状態だった。
 その剣を捨てる。
「そうね…使えそうな武器を確認して、レイラ様は絶対に守るのよ」
「「「はい」」」


 東京、東京帝国グループ総本社ビル最高総司令室、
「レイラ様たちを確保したとの事です」
 耕一はその報告にほっと息をついた。
 作戦マップに目を向けるとゼーレの航空部隊の残りはもう少なくなっている。
「敵損耗率80.9%」
「再び山間部に入ります」
「…甲府を抜けたか、流石にやるか…」
 米軍の空母に搭載されていた戦闘機がもう直ぐ接触しそうである。
「だが、十分と言えば十分だ…さて、どう出る?」


 ロシア、秘密基地、
 エリザベートは作戦マップをじっと見ながら眉をひそめていた。
 思ったよりも抵抗が激しく、十分にその能力を麻痺させられなかったようである。
「このままでは支援は期待できそうに無いわね…」
「はい、」
「エヴァを起動させなさい、」
「「「了解」」」
 モニターの一つにKAWORUと銘打たれたプラグが挿入されるのが映った。
「エヴァ各機起動、」
「SS機関起動を確認、」
「動作安定、問題ありません」
「量産機切り離し、第3新東京市に向けて先行させなさい、仕方ないわ」
「「「了解」」」
(まだ、手はあるわ)


 第3新東京市、ネルフ本部第1発令所、
「量産機が出てきました」
「支援は捨てたか、」
「これがどう出るかな?」
 量産機は翼を広げ空を飛んでいる。量産機にも多くのミサイルが飛んでいくが、ATフィールドに弾れダメージは全く与えられない。
「…SS機関も完成させていたのか、」
「SS機関を開発できなければ補完計画の実行は難しい、この状況下ではなおさらな」
「まあな…」
「場合によっては…先の事故…あれは偽装であったのかもしれんな」
「偽装?証拠の隠滅もかねてと言うことか…」
「米国は東京帝国グループに落ちたわけだからな…」
「だが、…いや、良いだろう…今となってはどちらであってもかまわん事だからな…問題なのは現実としてSS機関を搭載した量産機がここに向かってきていると言うことだな」
「ああ、」


 リリン本部、
「本部内に侵入されました!!」
 オペレーターのどこか悲鳴のようにも聞こえる声が響く
「どうします?」
 蘭子の問いに榊原は、考え込み直ぐには返すことが出来なかった。
「応援部隊も到着し、病院の方はなんとかなりそうとの事です」
「そうか…本部への東京軍の応援は?」
「間に合いそうにありません」
 侵入者はマップを見るともう直ぐそこまで来ている。
「宜しいですか?」
「…しかたありませんね」
「…会長、宜しいですか?」
『…ああ、止むを得ない、』
 続いて初号機との回線が開かれ、モニターに微妙な顔をしているシンジが映った。
 余計な情報を伝えて、悪戯に不安にさせていけないとの事で、今まで回線は切ってあった。
 これから伝えられることは良い情報か、或いは悪い情報なのか…そんな顔である。
「残念なことを知らせなければいけません…先ほどリリン本部内への侵入を許してしまいました」
 シンジの眉間にしわがよる。
「ただし、レイラさんたちの安全は確保できました」
 その言葉に少し表情を緩める。
「長官、指揮権をネルフに移行し、本部を破棄することの許可を頂きたいのですが」
『…分かりました』
「「すみません」」
 二人は頭を下げて回線を切らせた。
「エヴァ初号機を含むリリンの全戦力の指揮権をネルフに移行、全脱出経路を開放、現時刻を持ってリリン本部を破棄します」
「「「了解」」」
「非戦闘員を含む全職員に通告…リリン本部は破棄された。直ちに脱出するように。但し、どうしても侵入者と戦おうというものは止めはしない」
「…ふぅ…」
 榊原は一つ息を吐いた後、大型ライフルを手にとった。
「榊原さんは戦うんですか?」
「ええ、貴方は逃げてくださいよ…東京帝国グループにとって…いえ、人類にとって絶対に欠かすことの出来ない人なんですから、」
「……分かりました。又必ず会いましょうね」
「ええ…」
 オペレーターたちは多くの者が逃げる支度をしているが、一部戦闘の準備をしているものもいる。
 ジュンコは、サブフロアに存在する東京システムを見つめた。
「博士はどうされますか?」
「…そうね、私も戦おうかしら、」
 ジュンコはライフルを手にとった。


 ネルフ本部、第1発令所、
「リリン本部の破棄か…われわれを信頼しているからできることかな?」
「そうかも知れんな…」
「後3分で目標が第3新東京市に到達します」
 作戦マップを見てみると、ゼーレの空軍の方は殆ど壊滅状態になっているようだ。
 本部内の侵入者たちは、ネルフ本部の迷路のような構造、流し込まれたベークライト等によってその行く手を阻まれ遅々として侵攻は進んでいない。東京軍も追い付いて来ており、壊滅させるのも時間の問題であろう。
 これで、心配事は9機のエヴァ量産機、射出が止まってしまった弐号機等、リリン本部への侵攻の3つになった。
「射出システムは未だ復旧せんのか?」
「残念ながら…恐らくは侵攻中の部隊が何か仕掛けたのでしょうが…確信は出来ません。零号機自爆による関係かもしれませんし…侵攻されている現状では原因の追及や復旧は難しいと考えられます」
「むぅ…」


 東京、東京帝国グループ総本社ビル最高総司令室、
 耕一は一つの連絡を受けた。
「そうか…救也、後を頼む」
「…はい、」
 救也は突然のことに驚いたが、少しの間の後了承した。
 皆が不可思議に思う中耕一は司令室を出て行った。


 第3新東京市、リリン本部
 本部内の通路では、銃撃戦が展開されていた。
 しかし、やはりそれ様の戦闘訓練を受けていない一般職員とではその戦力は歴然である。
 直ぐに後退していく…そのとき、横の通路からミサトが突っ込んできた。
 不意をつけたのか、近くまで接近しそのまま飛び蹴りを食らわして2人まとめてふっとばし、着地点の横にいた者のヘルメットにライフルをくっつけ、零距離射撃でヘルメットを貫通させる。
 直ぐにその場を飛びのくが、銃弾がミサトの足を打ち抜いた。
「ぐっ!」
 激痛が走りその場に崩れる。
 そして銃口がミサトの頭に向けられた瞬間、兵士の胸部を銃弾が貫通した。
 続けざまに他の者も打ち抜かれ、瞬く間に全員が倒れた。
「……」
「無謀なことは余りしない方が良い…」
「…司令補佐…」
 榊原とその他数人がミサトに歩み寄ってきて手を差し伸べてきた。
 榊原を含めた3人ほどが大型ライフルを手に持っている。
「大丈夫か?」
「あ、は…つぅ…」
 一般職員たちも集まって来る。
「誰か、葛城君と一緒に脱出してくれ、」
 その後、ミサトは2人の職員に肩を借りながら脱出することになった。


 地上、初号機、
 9機の量産機が視界に入った。
「目標を肉眼で確認、」
 初号機は先ずは陽電子砲を取り、撃つ。一直線に飛んでいった陽電子はATフィールドで弾かれる。
「まあ、当然か、」
 陽電子砲を置き、新型プログソードを手に取る。
 量産機が分かれ、初号機を取り囲むような形になり、ゆっくりと地上に舞い降りてくる。
「…日向さん、支援兵器は?」
『展開は終了しています。ATフィールドを中和し次第攻撃を開始します』
「…来るわ、」
 量産機が一斉に飛び掛ってくる。ATフィールドを展開するが、9機相手では中和しきれない、
「ならば、」
 地面をけり、いったん跳び上がって量産機の頭の上を跳び越える。そして反転し眼前の1機に狙いを絞り攻撃を加える。
 初号機によってATフィールドが中和されたために部隊が攻撃を仕掛け、それによって動きが静止しているところを、新型プログソードで縦に真っ二つにした。
 しかし、直ぐに自己修復を開始してしまう。
「…まだ生きてる」
「くっ」
 横にも切断し、更にもう一つ攻撃を加えようとしたとき、他の量産機が襲い掛かってきてそれを避ける為に攻撃できなかった。
「…まだ、」
 生命力はシミュレートしていたよりも遥かに強いようだ。
 今は、初号機との距離が離れてしまったため中和できず、部隊の攻撃はATフィールドによって弾かれている。
 4つに切断された量産機がゆっくりと繋がり再生をしている。
「くっ」
 顔を顰めながら、新型プログソードを再び構える。


 第3新東京市で激戦が行われているとき、耕一はシンと静まり返った町の中を車を飛ばしていた。
 そしてあるビルの正面で止めて、車を降りビルの中に入った。
 エレベーターに乗り最上階を目指す。
 目的の階に到着するまでの暫くの間、何を思っているのか天井を仰いで何か考えているようでもあった。
 到着しエレベーターを降りる。通路を見回し、奥に向かって足を進める。足音が他に誰もいない通路に良く響く…
 一番奥の部屋のドアの前に立ち、一つゆっくりと息を吐いてからを扉を開けた。
 モニターが並べられた部屋の中央にキールが椅子に座っていた。キールは目を閉じじっとしている。果たして眠っているのか死んでいるのか…
「…まだ生きているか?」
 耕一の声に反応したのかゆっくりと目を開いた。どうやら眠っていただけのようだ。
「…ああ、」
「…老いたな。もうその目も見えんか、」
「お前は老いていないな…わざわざ見る必要が無い」
「ああ、そうだな」
 モニターには第3新東京市での戦闘が映っている。
「…人類は本来の姿へと戻るべきだ」
「それも一つの選択肢だろう。だが私としてはそれでは非常に困るのでな、補完計画の達成はさせるわけにはいかん」
「世界を操るのか、」
「まあ、私にとっても都合のいい世界になる方向へと舵をとっていくつもりだがな」
「…人類は、被支配種族になるか…」
「ある意味そうかもしれんな」
「…まあ、その事をお前たちリリンがそれをどう感じるかは別の問題だがな、」
「偽りの幸せを享受する事に何の価値があろうか…」
「さあな…それはそれを受ける者自身が判断することだろう」
 暫く沈黙が流れる…どこか部屋に漂う空気が緊張しているようにも感じられる。
 やがて、ゆっくりとキールが口を開いた。
「…われわれ人類はそう簡単には屈せんぞ」
「…そうか、もう言い残すことは無いか?」
「はっ…全てをエリザベートに託したときより、ただの生きた屍だ…リリンの一個に過ぎない者の意思など無意味だ」
「そうか…その割にはずいぶんなことをしてくれたようだが…」
 モニターに目を向けながら言う。
「これは別に誰でも出来たことだ」
「そうか…私はそうは思わんがまあいい、」
 部屋に血の花が咲く。
「…リリンの1個にすぎない者か…補完計画、まさに悪魔の計画とも言えるかもしれないな。やはりリリンは真実を知るべきではなかったのだろう」
 小さく呟き、部屋を後にした。


 第3新東京市、ネルフ本部、
「七号機が最終安全装置を破壊、射出口内を隔壁を破壊しながら攀じ登っています」
「七号機が?」
「再び再生を開始、再生能力が異常ですね」
 マヤの報告にリツコは眉間に皺を寄せる。
(私の設計よりも、ずいぶんと機能が向上しているわね。30%を見ていたけれど…生命能力と再生能力は倍以上だわ、)
(ゼーレ側の技術者はかなり優秀なようね…でも…ゼーレには十分な予算はない、どこかに予算をケチったための弱点があるはずだわ、)
 リツコはマギに分析をさせるが、答えは出ない。
「「……」」
 司令塔の二人はじっとメインモニターを見詰めている。


 漸くリリン本部付属病院に東京軍が到着した。
 生き残っていた3人の親衛隊員はふっと安心して腰を血で塗れた床に下ろしてしまった。
「大丈夫ですか?」
「ええ…」
「病院内に侵入した者を掃討するには20分もあれば何とかなると思います」


 榊原は通路の陰に隠れ様子をうかがっている。
 銃弾が飛んでくる。
「…きついな、」
 ライフルの残弾を確認する。
「…4発か、」
 一瞬だけ通路の影から顔を出し、ライフルを撃ち直ぐに隠れる。
 壁に銃弾が次々に当たる。
「…どうするか、」
「司令補佐、」
「…うむ…」
 銃撃戦の音がする。
「ん?」
 そっと覗いて見ると侵入者達が東京軍の部隊と撃ちあいをしていた。
「間に合ったようだな…」
 みんなの表情にほっとしたものが見える。
「よし、行くぞ」
「「「はい」」」
 榊原達は一気に飛び出し侵入者達を挟み撃ちにした。


 地上、初号機、
「はぁあ!!」
 何度目になるのか…再び量産機を一刀両断にする。しかし、どれだけ攻撃しても倒すことができない。
「くそっ」
 ふと気づくと完全に包囲されている。
「しまっった!」
 量産機は動きをあわせながらゆっくりと迫ってくる。
「く」
『どおりゃああ!!』
 アスカの叫び声とともに、射出口の蓋になっているシールドと量産機の1機が吹っ飛んだ。
『はぁ、はぁ、このアタシを放っとくんじゃないわよ!』
「「アスカ!」」
 量産機は直ぐに二手に分かれてそれぞれに襲い掛かって来た。
『どおりゃああ!!』
 七号機は射出口の蓋を投げつけ2体吹っ飛ばす。一方の初号機も七号機側にいったん引き、その上で反転して斬りかかった。
 ATフィールドが中和されている量産機に周囲の部隊から次々に攻撃が仕掛けられる。七号機が加わったことでATフィールドの中和が容易になり、ものすごい勢いで攻撃が加えられる。
「これなら何とかなる」
 シンジはぎゅっと拳を握り、初号機を量産機に向けて走らせた。


 東京、東京帝国グループ総本社ビル最高総司令室、
 耕一が戻ってきた。
「「「「お帰りなさいませ」」」」
「…状況は?」
「リリン本部は東京軍が突入し、既に侵入者の殆どを排除した模様です」
「…そうか、」
 メインモニターには第3新東京市でのエヴァ同士の戦闘が表示されている。
「敵空軍は全滅させました」
「これで、残すところは量産機だけか、」
「はい、」
「参号機は射出口を上っていますが、今しばらく時間がかかるのではと」
「…後は、見守るだけかな…エヴァに対して有効なものを搭載している兵器は?」
「既に第3新東京市に集結させてあります…今展開されているものが全てです」
「そうか…」


 第3新東京市、ネルフ本部、第1発令所、
「リリン本部の侵入者の排除に成功したそうです」
「そうか、」
「しかし…倒せませんね…」
「そうね…生命力と回復力がまるで異常だわ…どこかに弱点があるはずなんだけど…」
「現在のところ何も…」
 司令塔の二人も同じように弱点を考えているが思いつかない、
「…プラグも貫通したはずなんだがな…」
「起動に必要なだけで後は必要ないということかもしれんな…プログラムに従って動くだけ、破壊され尽くすか、補完計画を発動されるまで止まらん、もはや止められんのだろうな…ゼーレにも」
「制御の予算を削ったということか…」
「それだけでは到底足りん。何かある筈だ」
「それを見つけなければ、勝ち目はないか…」
「ああ、だが…見つけられる保障は無い」
「…どうするつもりだ?」
「生命力や再生力を無視する武器…槍を使えばいい」
「だが碇!ロンギヌスの槍を奪われでもしたら!」
「このままではジリ貧になる可能性が極めて高い、参号機が地上に出しだい、リリンの射出システムを使って七号機をおろす」
「…そうだな、」


 地上、初号機、
「はぁ…はぁ…」
 疲労からシンジは荒い息をついている。このままではミスを犯してしまうのも時間の問題のようにも思われる。
「…碇君、私が代わるわ、」
「……あ、うん」
 少しためらったものの疲労が酷かったため、シンジはメインをレイに切り替えた。
「はっ」
 量産機の攻撃をかわしながら斬る。
 初号機は二人で戦っているので大丈夫であろうが、七号機はそうはいかない…疲労が蓄積してくる分このままでは不利である。
「…くっ」
 再び量産機を斬る。
『参号機が地上に出ます』
 何か凄い力で下から突き上げられた。
「うわ!」
「きゃ!」
 初号機は何とか着地する。
 射出口を突き破って参号機が地上に出てきた。丁度初号機が真上にいたようだ。
『はぁ…はぁ…待たせたのお』
『七号機は66番の射出口から緊急回収、ネルフ本部内ターミナルドグマに向かえ』
「え?」
「…ロンギヌスの槍を使うの…」
『…了解、』
 七号機は量産機の攻撃を躱しながら射出口に向かい、リフトに乗って回収されていった。
 参号機は装備を受け取るために部隊の所に向かう。量産機の攻撃を躱して斬る。直ぐに戻ってきた参号機がトールハンマーで量産機を粉砕した。
 しかし、たちどころに修復されてしまう。
「ロンギヌスの槍なら確かに消滅させられる…でも、」
 ロンギヌスの槍はゼーレにとって見れば武器ではなく、神具、補完計画の引き金であるのだ。
「刃がこちらに向くことにならなければ良いけど…」
 参号機は元気いっぱいトールハンマーを振り回している。


 東京帝国グループ総本社ビル最高総司令室、
「ロンギヌスの槍か…仕方な…ん?」
「どうしました?」
「いや、一瞬モニターに変なものが映ったような気がしてな…」
「お疲れでしょうか?」
「うむ…」
 どうやら誰も気づかなかったようである…本当に疲れていただけなのか?…耕一は顎に指を当てて軽く首を傾げた。


 ロシア、秘密基地、
「有効距離に入りました」
「準備は?」
「既に、」
「宜しい…何とか間に合ったわね」
 エリザベートは細く笑んだ。


 第3新東京市、初号機、
 突然何かがモニターに映りもの凄い勢いで初号機と参号機に向かっている。
「ATフィールド!」
 両機はその何かをATフィールドで弾こうとした。物体はATフィールドに接触し空中に静止する。
「何?」
 そしてその姿を二股の槍へとかえる。
「「ロンギヌスの槍!!?」」
 初号機は何とか全力でATフィールドを突き破ってきたロンギヌスの槍のコピーを回避する。
 しかし、回避しきれず左肘の辺りを貫通された。
「きゃあああ!!!」
「ぐああああ!!!」
『ぎゃあああああ〜〜!!!!!』
『きゃああああああああ〜〜〜!!!!!』
 参号機は胸部を貫かれそのまま吹っ飛んだ。
 4者の悲鳴が木霊する。
 参号機は地面に落下する前にプラグが緊急射出された。一方の初号機も左肘から先をもがれてしまった。発令所の側で既に神経接続が切られたらしく痛みは小さくなったが、痛めた神経が痛みを伝えつづけている。
「そんな…」
 シンジは痛む左手を押さえ、2本のロンギヌスの槍のコピーをその戦力に加え大きくパワーアップした量産機達をにらんだ。


 東京帝国グループ総本社ビル最高総司令室、
「大変です!!」
 メインモニターが特殊な映像に切り替えられると、上空を1機の大きな航空機が飛んでいるのが分かった。
「光学ステルスか!!」
「……やられた…」
 これで、参号機と初号機の戦力の一部を失い、更に敵に大きな武器を手にさせてしまった。
 しかも支援兵器や部隊の攻撃が少なくなってきている。ミサイルや砲弾等が足りなくなってきているということもある。
「…くっ、打ち落とせ!!」
 直ぐに対空攻撃が仕掛けられ、撃墜することには成功した。
 しかし…もはや役目を果たした機を落としたとしても戦力差は変わらない…


 第3新東京市、ネルフ本部、第1発令所、
「やられたな…」
「ああ、」
「まさか、あんな手を使ってくるとは…」
「うむ…」
 七号機はジオフロントを通って、今ネルフ本部に到着しメインシャフトを降りようとしているところである。
「メインシャフト全装甲隔壁解放、」
「…間に合うか?」
 メインモニターに映る戦闘は初号機がかなりの劣勢…ただ逃げるしかない。


 地上、初号機、
 回避を続けていると突然動きに強いブレーキがかかった。
 見るとアンビリカルケーブルが伸びきっている。
「なっ」
 勢いは止まり切らずアンビリカルケーブルが切断され、内部電源に切り替わった。
 急いでプラグをはずす。
「くっ」
 追撃してくる量産機達から更に逃げる。
「綾波!」
「…アスカを待つしかない、」
 ロンギヌスの槍のコピーを持っていない量産機は大きな問題ではない、だが、もっている2体はそうはいかない。
 量産機の攻撃をかわしながら新型プログソードで足を斬り、次の他の量産機の攻撃を躱す為に直ぐにその場を離れる。
 内部電源はどんどん減っていっているがもはや支援攻撃は殆ど無意味で再接続をする余裕は無い、圧倒的に不利である。


 ネルフ本部、セントラルドグマ、メインシャフト、
 モニターには地上での戦闘の様子が映し出されている。
「…シンジ、レイ…」
 ぎゅっと拳を握る。
 メインシャフトを高速で下ろされているが、ターミナルドグマまでは長い、
「…まだなの?」
 いらつきが言葉に出てしまう。
 初号機の内部電源は刻一刻と減っている。再接続をする余裕はとても無い、
「…まだ!?」
『もう直ぐだ』
 下に空間が見えてきた。漸くターミナルドグマに入った。
『ヘブンズゲート解放、急いでくれ』
「当然よ」
 七号機は途中で飛び降り、ターミナルドクマ最深部に向かった。
 最深部に入ると、巨大な十字架にリリスが磔になっているのが目に入った。
「…これが…」
 七号機はリリスの胸を貫いているロンギヌスの槍に手をかけた。力をこめて一気に引き抜く、その瞬間リリスの下半身が生まれた。
「…急がなきゃ、」
 七号機はロンギヌスの槍を手にもって大急ぎでリフトに戻り、飛び乗った。


 地上、初号機、
 モニターの表示に寄れば七号機はようやく折り返し地点、内部電源の残量からすればとても間に合わない、
「…綾波…SS機関を制御できる?」
「…できるわ、でも、」
「そのままで、」
「…シンクロ率が下がるかもしれないけれど、」
 量産機の攻撃を避けさせながら答える。
「お願い、」
「分かったわ、」
 シンジをメインに戻す。
「はっ」
 量産機の攻撃を躱しながら斬る。
 レイが目を瞑って、SS機関を動作させその制御に集中する。
『SS機関起動を確認、同時に初号機のシンクロ率が120%前後まで落ちました』
 体が重く感じる。
(…これは、厳しいな、)
 ただでさえ、全身の反応が鈍っていて、左肘から先が無いのに…
 量産機の猛攻を何とか凌ぐ、
「つっ!」
 ロンギヌスの槍のコピーが掠った。
 シンジは痛みを感じるが、レイへのフィードバックは切った為にレイは痛みを感じず、集中力が低下してSS機関の制御が乱れるようなことは無い。
(アスカ、早く来て!)


 ロシア、秘密基地、
「七号機がオリジナルの聖槍を持って上がってきているようです!」
「良いわ、それまでに初号機を倒しなさい」
「…どうやら、SS機関が作動しているようですね」
「電源切れを狙うのではなく、直接倒しなさい」


 リリン本部の予備ケージに到着すると七号機は射出用のリフトに飛び乗った。
『発進!』
 強いGが掛かり一気に射出される。
 地上に出る前に肩の最終安全装置がはずされた。
『まもなく地上にでます』
 その地上では初号機が追い詰められていた。
「くっ」
 完全に包囲され、ロンギヌスの槍のコピーを向けられる。
 襲い掛かってきたのを、新型プログソードを思い切りに振り回し、払おうとしたが、ロンギヌスの槍のコピーと接触し、凄まじい火花を上げていたが、鈍い音を立てて、新型プログソードが折れた。
「……」
「…碇君…」
 レイはSS機関の制御を止め、その為に電源が内部電源に切り替わった。
 ゆっくりと間合いを詰めてくる。
 七号機が射出口から飛び出した。
『どおおりゃあああ!!!!』
 量産機の内6機は七号機を向くが、3機が初号機に攻撃を加えてきた。
 ロンギヌスの槍が初号機の腹部を貫く。
「ぐああああ!!!!!」
「きゃあああ!!!!」
『神経接続!!』
 二人は意識を失い、初号機のプラグが緊急射出される。
 一方の七号機はロンギヌスの槍を持って急降下攻撃を仕掛ける。量産機を貫きそのまま横に切り裂く、ロンギヌスの槍で傷つけられた部位は再生しない、
「でえええええ〜〜〜いいいい!!!!!」
 ロンギヌスの槍を振り回し、量産機を切り刻む。
「1体!」
 別の量産機の攻撃を躱して、左手で頭をつかんで右手でロンギヌスの槍を振るい、真っ二つにする。
 量産機の半身を近づいてきた量産機に投げつけ吹っ飛ばす。
「2体!」
 すぐさまその場を飛び退く、
 高速移動で引っ掻き回し、眼前の量産機が1機になったところで、一気に間合いを詰めてロンギヌスの槍で貫く、
「はあああ!!」
 引き抜き切り刻む、
「3体!」
 羽を広げ空中から急降下攻撃をしてきた量産機はロンギヌスの槍コピーを持っている。
 オリジナルをぶつけて弾く、そして背中側に迫っていた量産機を槍の反対側で貫くき、そのまま回転させ、胸部から頭部に向けて切り裂く、そこへ横回転しながらもう一撃、
「4体!」
 再び高速移動で引き離す。
(背中側に2機まとめて)
「どおりゃあああああ!!!!!」
 ロンギヌスの槍を横に大きく振り、2体まとめて胴を両断する。更に返しそれぞれを切り刻む。
「6体!!」
 こっちに向かってきている量産機に向けて走る。
 そのままロンギヌスの槍で真っ二つにし、急旋回し再び斬る。
「7体…残すは…」
 ロンギヌスの槍のコピーを持った2機と対峙する。
 いくらコピーであるとはいえ、極めて殺傷力の高い武器であるという点は変わりはしない、オリジナルであろうとコピーであろうと、相手がエヴァであれば武器としての力は十分すぎる。
(…くっ、)
 間合いを取っての睨み合いが続く、
『NNを使用する。その隙を突いてくれ!』
「分かったわ!」
『カウント、5、4、3、2、1』
 モニターの光度が落され瞬間丘の方で大きな火柱が上がる。
 衝撃波が、量産機の体勢を崩す。
「どおおりゃあああ!!!」
 七号機が一気に間合いを詰め、1機の胸部を貫く、更に横へと斬り、返して縦に斬る。
「ふん」
 後ろから迫っていたもう一機の攻撃を避ける。
 しかし、そのままロンギヌスの槍のコピーを投げつけてきた。
「な!?」
 ATフィールドを貫いてくる。
「くっ!!」
 なんとか体を捻って躱そうとするがわき腹を貫かれた。
「きゃああああああああ!!!!!!」
 激痛が走る。
 暴走気味なのかシンクロ率が普段よりも高くなっているために、よりそれは大きく伝わる。
 あまりの激痛に意識が霞む。
「ぐっ、どおりゃあああ!!!」
 最後の力でこっちもロンギヌスの槍を投げつける。オリジナルのロンギヌスの槍はATフィールドをいとも簡単に貫き量産機に襲い掛かる。
 しかし、量産機は何とか避け様とした結果、右肩から先を消滅させられただけですんだ。ロンギヌスの槍は天空へと上っていく。
「ああ…そんな…」
 絶望というものを感じながらアスカは意識を失った。
 七号機が崩れ落ち、一方の最後の量産機は立っているのを見て、全ての者が絶望に包まれる。
 そのとき、空からロンギヌスの槍が舞い戻ってきた。槍の追尾能力というものであろうか?
 それに気づいた量産機は翼を広げて空へと飛び逃げようとする。しかし、ロンギヌスの槍はそれすらも追尾し、量産機をいとも簡単に貫いた。
 ばらばらになった量産機が地面へと落ちていき、ロンギヌスの槍は再び天空へと登っていった。


 ネルフ本部、
「敵味方ともに、全てのエヴァの起動反応消滅、」
「初号機のプラグの回収も確認、七号機には回収班が向かいます」
 青葉の報告に発令所が一気に沸き返る。
「やったのね…」
「はい、やりましたね先輩!」
「ええ…」
 さまざまな思いがある、だが今はただ喜びたい。
 リツコは笑みを浮かべた。


 ロシア、秘密基地、
 一方のこちらは皆脱力しその場にしゃがみ込んでいた。
(…お祖父様、申し訳ありません)
(…全ては私の力不足です…人類の未来、正しい方向に向けることができませんでした…)
 辺りを見回す。
(……しかし、まだ諦めてはいけませんね)
 エリザベートは大きく息を吸い込んだ。
「何をしているのですか?」
「確かに、今回の補完計画は完全に失敗に終わりました」
「しかし、人類の未来を正しい道へと進ませるという私たちの使命は、消えたわけでも完全に不可能になったわけではありません」
「再び、新たな人類補完計画が発動できるだけの力を蓄え実行するのです」
「その為に私たちは生き延び実行、例えそれが不可能になったとしても次代の者にその使命と方法を受け継がせる義務が私たちにはあります」
 皆ゆっくりと立ち上がる。
「今は逃げ、生き延びなければいけません」
「そして、使命を実行或いは伝えるのです。例えいかなる方法をもってしても、」
「さあ早く、敵が包囲する前に脱出しなさい、使命のために」
 皆暫く考えをめぐらせた後、次々に駆け出していく、
「…ふぅ…」
「エリザベート様、我々も」
「ええ、」
 エリザベートは自分の言葉で生気を取り戻した直属の部下とともにその場を離れた。


 東京、東京帝国グループ総本社ビル最高総司令室、
 こちらも喜びに沸き返っていた。
「よし、極東の秘密基地を制圧しろ」
「了解、」
 各軍に出撃の命令が出される。
「…勝ちましたね」
「ええ、」
 いつの間にそこにいたのか、耕一の脇にいたルシアが返した。
「まだまだ問題は山積していて、大変ですけどね」
「そうですね…でも、これから漸く全く新しい歴史が始まるんですね」
「ええ、ある意味これからと言うことかもしれませんね」


ネルフ本部、第1発令所
「終わったな…」
「ああ、」
「…そして、ある意味始まりでもあるかもしれんな」
「…そうだな、業は極めて大きい…一つけじめはつきはしたが、本当の償いはこれからだな」

あとがき
遂に、ゼーレとの決戦が勝利を持って決しました。
次回はいよいよ最終話となります。
漸く、完結が目前に見えてきましたね。
思えば、結構長かったですね。
さて、新しい歴史の始まり、果たしてこれからどのような歴史をそれぞれが歩んでいく事になるのでしょうね。