リリン〜もう一つの終局〜

◆第1話

司令執務室、
蘭子と榊原は重い表情で向かい合っていた。
「・・・犯人は間違い無く、渚カヲルですね。ATフィールドを使って物理法則を捻じ曲げ、3キロと言う距離の狙撃を成功させた。更には、レイさんが張ったATフィールドを中和した。」
「・・・・」
「そして、ゼーレは、証拠隠滅も兼ね、NN爆雷で殲滅する・・・筋書き通りですね・・・」
蘭子は額を組んだ手につけた。
「・・・」
『・・長官の事で御報告が、』
蘭子はボタンを押して扉を開いた。
白衣を着た医師は一礼して中に入って来てファイルを提出した。
それを見た二人の表情が露骨に歪む。
「・・・残念ながら、心臓を始め複数の臓器の損傷が酷過ぎ・・・このままでは・・・」
「・・・方法は?」
「・・・臓器移植ですね。人工臓器で代用も出来ますが・・・必要とされる臓器の数は多く・・・人工にせよ他人のものにせよ、様々な弊害を伴います・・・」
二人は何度目かの大きな溜息をついた。
特に、エヴァとのシンクロに関しては重大な支障と成りかねない・・・
「・・・直ぐに臓器提供者のリストアップ、平行して・・東京中央病院と東京医療技術研究所に問い合わせて!」
「はい!」


緊急手術室の前で未だ、二人はじっと待っている。
「「レイ!!レイラ!!」」
話を聞いたミクとアスカの2人が走ってやって来た。
レイとレイラの表情は蒼白である。
・・・特にレイの肌の色は完全に病的な域である。
「「大丈夫?」」
「「・・・分からない・・・」」
「シンジの事は勿論だけど、アンタ達の事よ!」
ちょっと意外そうな表情をする。
「マジで、病人みたいよ・・・」
その時、緊急手術室から医師が出て来た。
「先生!シンジ君は!!?」
一気に詰め寄ったレイラと、声は発しなかったが同じような行動をしたレイ、二人のその迫力とに医師は恐怖混じりの驚きを感じた。
「あ・・ええ、えっと・・」
一息ついてしきり直す。
「・・・かなり危険な状況です。助かるには臓器の移植が必要です・・・現在リリンの総力をあげて提供者を探しています。」
「見つからなければ、人工臓器で代用となります、しかし、いずれにせよ様々な弊害があります。」
医師の簡単な説明が終わると、皆は長椅子に腰を下ろした。
そして、シンジが助かることを、臓器の提供者が見つかることを祈った。
だが、レイだけは小刻みに震えていた。
心当たりがある。
シンジとの親和性が高く、そして、エヴァとの親和性も高い、
更には、物言わず、自らの命が消え去ったとしても、それに対して文句一つ言わない存在・・・否、言えない存在・・・
素体である。
魂無き存在、そして、シンジの母親たる碇ユイをベースに作られた存在。
その決断を下す事が怖い・・・場合によっては、それは自分であったかもしれない。
本来下して良い決断ではないかもしれない・・・だが・・・・
・・・・
・・・・
シンジを確実に救い、更にはその後の使徒戦そしてゼーレ戦に勝利し生き残る為には他に手は無い。
決意したレイは顔を上げ、立ち上がり司令執務室へと足を向けた。
「・・レイさん?」
「碇君を守る。私が守らなくてはいけない。」
レイラが問おうとしたがレミが手で静止し首を振った。
レイの素体を今の肉体としているレミはその意味に考え至ったのだろう。
そして、そのレミを見てレイラとアスカもそれに気付く、
妙な沈黙に包まれてしまった。


司令執務室、
一本の電話が掛かってきて、蘭子が出る。
「はい、」
「ええ、」
「え・・・・」
蘭子は受話器を落してしまった。
「・・どうしました?」
「・・・そんな・・・」
「・・・蘭子さん?」
「か、会長達が・・・」
「どう言うことですか?」
蘭子は榊原に、今回の作戦について説明した。
・・・・
・・・・
榊原は大きな溜息をつき上を仰ぎ見た。
「・・・会長・・・」
沈黙が流れたが、その沈黙を打ち破ったのはレイであった。
レイが入ってくる。
「・・・・・何か?」
「碇君の臓器に、私の素体の物を使って下さい。」
「・・・・分かりました。」
「手配を」
「ええ、」


ネルフ本部、総司令執務室、
「・・・これは拙いな・・・」
「・・ああ・・」
「・・・委員会・・・いや、ゼーレめ、」
「・・・我々への通告も無しに行った・・・暴走し始めている。」
「そうだな・・・これは、職員の動揺が気になるな・・・赤木博士、」
「はい」
「どう見る?」
「・・・一般職員に関しては、サハクィエル戦の司令の演説が予想以上に利いている様で、委員会への反感が大きくなるだけでしょうが、チルドレンに関しては不信感がかなり上がると思われます。」
「まあ、チルドレンは聞いておらんし、聞けば、憤りを覚えるだけだろうな」
「はい・・・このまま放置すれば、拙い事になるかと・・・」
「・・・会長専用機撃墜の裏が明らかになれば、その様な委員会に従う我々に色々と不満・・いや、反感を感じるだろうな・・・チルドレンに至っては爆発するかもしれん・・」
「・・・うむ・・・司令部が委員会と対立状況にあるとの噂を流せ、」
「はい、」
「・・・応急措置にしかすぎんな、」
「・・・ああ・・・次の段階に移る事も考えておく必要があるな。」


リリン本部機密区域内、ダミープラント、
ネルフ本部から運び込まれたダミープラントの巨大な水槽に素体が浮いている。
その中から素体が一体取り出された。
レイは素体に近寄り、手を取った。
「・・ごめんなさい・・・」
涙が零れ素体の胸に落ちる。
「・・ごめんなさい・・・」
レミの場合とは訳が違う。この素体は死ぬのだ。
場合によっては、自分がこの素体であったかもしれない。
レイには只謝る事しか出来なかった。
榊原は、レイを見守りつつ、これからどうすればいいのかを考えていた。


手術室の前には重苦しい沈黙が流れていた。
皆どう言う事なのか、程度に個々の差はあるものの予測はついている。


その頃にはネルフ本部にもシンジ狙撃の報は既に届いていた。
シュミレーション控え室では、4人のチルドレンが話をしていた。
「・・こんなの・・・間違ってる・・・」
リリン長官、サードチルドレンの暗殺・・・使徒に対抗する貴重な戦力、それも最強の戦力を自らの手で消す。
目的が使徒の殲滅である筈がない・・・
マナの言葉に3人は応える事が出来ず黙ったままだった。
「ネルフっておかしいよ・・・」
「・・・せやな・・・英雄やって祭り上げても、結局は使い捨て扱いや・・・」
そんな時、部屋にリツコが入って来た。
「・・・リツコさん・・・」
4人の視線がリツコに集中する。
「・・今回の事は、ネルフの上位組織、人類補完委員会の独断による事・・・ネルフには一切知らされなかったわ、」
マナはじっとリツコの目を見詰めた。
嘘をついている目ではない。
「今、司令は委員会の委員達と対立状態にあるわ、力関係的には厳しいけ」
リツコが話を始めて直ぐに突然照明が一瞬消え、警報が鳴り響いた。
「なに!!?」


発令所は、突然の汚染警報に続くハッキングにパニックに近い状況になっていた。
リツコが入って来た。
「如何したの!?」
「サブコンピューターがハッキングを受けています!」
「ハッキング?」
リツコはマヤの近くのモニターを覗き込んだ。
「疑似エントリーを展開します。」
「疑似エントリーを回避されました。」
この早さ、とても人間業ではない。
「防壁を展開します。」
「防壁を突破されました。」
(リリン?)
「疑似エントリーを更に展開します。」
「コリャ、人間業じゃないぞ。」
会長機撃墜、シンジ狙撃の報復であろうか?
「逆探知できました!!・・・この施設内、B棟の地下・・プリブローボックスです!!」
「映像出して!」
「はい!」
メインモニターにプリブローボックス内の壁面が赤く輝いている映像が映った。
「・・・何だ・・これ・・」
分析をしたマヤの顔が蒼褪める。
「・・当り?」
リツコの声にマヤは頷いた。
「・・・目標は使徒よ!!」
発令所に独特の緊張が走る。
「保安部のメインバンクにアクセスしています。パスワードを操作中、12桁、14桁、Bワードクリア」
「保安部のメインバンクに侵入されました!メインバンクを読んでいます、解除できません。」
「奴の目的はなんだ。」
青葉は使徒が接触している部分を見て驚いた。
「このコードはヤバイ、マギに進入するつもりです!!」
リツコの目が大きく開いた。
「IOシステムをダウン」
碇の命令で碧南と青葉が手動で電源を切ろうとしたが切れなかった。
「電源が切れません!」
「使徒更に進入、メルキオールに接触しました。」
「駄目です、使徒にのっとられます。」
画面表示の一部が緑から赤に変わった。
「メルキオール使徒にリプログラムされました。」
『人工知能メルキオールより自立自爆が提訴されました。・・否決、否決。』
「今度はメルキオールがバルタザールをハッキングしています。」
次々に侵食されていく。
「くそ!速い」
「なんて計算速度だ!」
「ロジックモードを15秒単位にして。」
「了解」
ロジックモードが変換され、使徒の侵食スピードがかなり遅くなった。
冬月が溜息をついた。
「どの位持ちそうだ。」
「今までの計算速度からすれば、2時間ぐらいは、持つかと、」
「マギが敵に回るとはな・・・」
リツコはじっと考えていた。


リリン本部司令執務室、
「・・どうします?」
「幸いな事に、今回のことは極限られたものにしか知らされていません。暴走気味であるとは言え、会長機が撃墜された時から、それように動いています。」
「・・確かに、しかし、」
「ええ・・次が・・・なくなってしまいました・・・そして、それ以降も・・・」
「・・・ここは私が引き受けます。直ぐに東京に」
「ええ、お願いします」
蘭子が執務室を出て行き、暫くして職員が慌てて駆け込んできた。
「どうした?」
「そ、それが、ネルフのマギオリジナルが使徒にハッキングを受けています。」
「・・イロウルだと・・・飛龍博士は?」
「既に、」
「分かった。私も行く」


ネルフ本部第7作戦会議室。
「彼らはマイクロマシーン、細菌サイズの使徒と考えられます。」
リツコは報告した。
「その個体が集まって群を作り、この短時間で知能回路の形成に至るまでに爆発的進化しています。」
マヤがいつもの通りリツコの続きを言う。
「進化か・・」
碇が呟いた・
「はい、彼らは常に自分を変化させ如何なる状況にも対処するシステムを模索しています。」
「まさに生命の生きるためのシステムその物だな。」
冬月が言った。
「自己の弱点を克服、進化を続ける物に対する有効な手段何かあるんですか?」
日向が尋ねた。
「使徒が進化し続けるのであれば勝算はあります。」
「進化の促進かね?」
冬月が尋ねた。
「はい」
「進化の終着点は自滅、死その物だ。」
「ならば、進化を此方で促進させてやれば良いわけか。」
「使徒が死の効率的回避を考えれば、マギとの共生を選択するかも知れません。」
「しかし、どうやって?」
日向が尋ねた。
「目標がコンピューターその物ならば、カスパーを使徒に直結、逆ハックをかけて自滅促進プログラムを送り込む事が出来ます。が、」
「同時に使徒に対しても防壁を開放する事にもなります。」
マヤが回答した。
「使徒が早いか、カスパーが早いか、勝負だな。」
「はい」
「そのプログラム間に合うんですよね・・・カスパーまで侵されたら終わりですよ。」
「・・・・、大丈夫よ、」


リリン本部発令所、
「ネルフ側は、沈黙を守ったままです。」
「情報の収集を」
「「「はい!」」」
「飛龍博士、頼みましたよ」
ジュンコは軽く頷いた。


ネルフ本部第1発令所、カスパーの前。
『R警報発令発令、R警報発令、ネルフ本部内部に緊急事態が発生しました。B級以下の勤務者は全員退避して下さい。』
リツコは、ロックを解除し、カスパーを展開した。
「これ読んでおいて」
リツコはファイルをマヤに渡した。
「何です?これ」
「マギの裏コードよ、システムを変更したから古いものは使えないわ、」
「え?こんなもの見てしまって良いんですか?」
「マヤの事、信用しているわよ」
リツコの言葉にマヤは笑顔を浮かべた。
勿論、第1理由は、非常事態だから仕方が無いだとは思うが、マヤの事を信頼し、そして信用しているのは事実であろう。
その後、カスパー内部の様々な回路を引出し、別のコンピューターに接続した。
リツコは中枢基部に回線を接続した。


地上には、弐号機、参号機、四号機、伍号機、七号機の姿があった。
弐号機と七号機のエントリープラグは空であるが、
4人は、通信で、ネルフとリリン、そして、委員会、5大国と東京帝国グループについて話し合っていた。
その結果は、委員会と5大国は間違っている。自分たちの利益しか考えていない。
ネルフは、分からない。スポンサーが悪いからと言って、ネルフまで悪いとは成るわけではない。だが、あからさまにスポンサーに逆らうわけにも行かないだろう。
東京帝国グループとリリンに関しては、情報が少ないため判断できない。
それに、外から得られる情報が実態を表しているとは考え難い。
しかし、アスカの事が気になる。アスカは実態を知った上で色々とリリンと関わっているのであろうか?
結局のところ、自分達の知りうる情報では殆ど真実は見えてこないと言う事を確認しただけに留まった。


リリン本部の手術室前は、未だに重苦しい沈黙に包まれていた。
職員が気を利かせて飲み物を持ってきたのだが、誰も手をつけてない。
手術中の赤いランプは灯ったままである。


東京、東京帝国グループ総本社ビル会長室、
ミユキは考えを整理するために、最高総司令室を抜け出して会長室のソファーに座っている。
耕一の席に視線を向ける。
もう、その席に座るべきものはいない、
「・・・会長・・・」
ドアが開く音がする。
「え?」
振り返ると蘭子が会長室に入ってきたところだった。
「蘭子さん・・・」
「・・・戻ってきたわ、」
「・・・どうすれば・・・」
「アメリカに回線を繋いで、」
「はい」
回線が繋がれ、モニターに可憐が映った。
『・・蘭子さん・・・』
可憐の顔は少し青ざめている。
「・・・後悔するよりもこれからのことを考えましょう。そちらの状況は?」
『・・・失敗しました。上層部の心理的な動揺が原因です。』
「・・・」
『米州東京軍の統制も60%程しか取れず、残る部分は完全に暴走し、各地の米軍と交戦状態に陥りました。』
「・・・・そうですか・・・・・今回の事は伏せ、会長機撃墜を前面に出しましょう。悪戯に混乱を増やす必要はありません」
『ええ、そうですね』
「私たちは勢力の確保に努めます。可憐さんは米国をお願いします」
『はい』

あとがき
耕一 「・・・ふむ・・・今のところ、話の流れに大きな変化は無いが、米国のことも含め、
    本編どおりに進むとは思えないですね・・」
ルシア「ええ、そうですね・・・」
耕一 「・・・ふむ・・・ネルフがどうするのかが話的には見ものですね・・・」
ルシア「色々と手を打ってくるでしょうね」
耕一 「ええ、」
ルシア「う〜ん、でも、レイラ達幸せになるんですよね」
耕一 「・・・そうだと良いですが・・・とりあえず今日中に第2話が更新されるそうです。
    本編からの流用部が多いとの事で・・・第3話からを見てみないと
    これからの事に関してはなんともいえないかもしれませんが、」
ルシア「早く見てみたいですね」
耕一 「・・・YUKIのところに行きますか?」
ルシア「そうですね、早く続き書いてもらいましょう♪」