リリン〜もう一つの終局〜

◆第3話

10月31日(土曜日)、リリン中央病院、
意識が戻っておらずカプセルの中にいるとは言え、いや、逆にそんな状況だからこそ、シンジの前で泣きじゃくるわけにもいかずレイラは一人で空き部屋に入って泣いていた。
「・・お父さん・・・お母さん・・・」
そっと榊原が様子を見に来たが、その様子を見て、暫くはそっとしておくのが良いと判断し、その場を離れた。


ネルフ本部、総司令執務室、
「・・・ゼーレから結果の通達だ。」
「・・・二人が乗る別の機も撃墜したと言う事か・・・」
「・・これからどうなる?」
「・・・・・・赤木博士、職員の反応は?」
「先の噂を流したのと、リリンとの全面的な協力もあり、全体的に良好です。司令部への反感はかなり抑えられたと言えます。」
「・・・見通しが少し良くなってきたな。だが、一歩間違えれば崖から落ちる状況は変わらん。今の混乱に乗じて少しでも手を確保する」
「どうするつもりだ?」
「先ずは、3人の切り崩しからだ。婚姻新法は衆院を通過したが、参院では未だ審議中だ。これを否決させる」
「・・・なるほど、東京帝国グループからの無茶な圧力で通過したようなものだからな、その時の圧力に関しても暴露すると言う手もあるな」
「レイを再度我々の側に引き込む」
「では、その方向で準備をすすめます」
「あとは、混乱に乗じていくつか勢力を味方につける。技術提供を条件に予算を引き出す」
「では、それは俺がやろう」
「頼む」


東京、東京帝国グループ総本社ビル会長室、
蘭子は、ミユキやユナ達と様々な対応におわれていた。
ゼーレの動きは予想以上に速い、救也を始めとする最高幹部には各勢力に直接出向いてもらって勢力の確保に努めている。
「まずいわね・・・」
「勢力的には、微妙な地域が多いわね」
「国だけでなく、宗教団体や企業、その他の団体もありますわね」
「・・・救也さん達がどれだけ頑張ってくれるかに掛かっていますね」
中級秘書官達が膨大な量の書類を運び込んできた。
「これお願いします」
「・・・分かりました。」
主席秘書官に戻った蘭子は、かなりの部分で権限を使える。
しかし、問題は、蘭子の権限を越える書類が極少数だが混じっていたことである。
「・・・しかも、急がなければならないもの・・・最高議会を召集するわけにも行かない・・・レイラさんに・・・」
「どうしますか?」
「・・・誰か、第3新東京市に人をやらせて、レイラさん・・いえ、レイラ新会長にこれを届けて」
蘭子は十数枚の書類を封筒に入れた。


某所、
「・・・まさか、本当に皇耕一をやれるとはな・・・」
「ええ、私も予想外でした。」
「・・・だが、このことは極めて大きい、この混乱に乗じて全力で勢力を拡大する。」
「策が無駄になったが、まあ、それ以上の効果が上がった。これでいい」
「はい」
「更にもう一つ仕掛ける。エリザベート、お前が直接行ってきてもらいたい」
「どこにでしょうか?」
「東京帝国グループ勢力の中心東アジアの国家、朝鮮だ。」
「朝鮮・・・なるほど、反日感情も合わせれば確かに、」
「頼んだぞ」
「お祖父様、必ずや成し遂げて見せます」


第3新東京市、リリン付属病院、司令執務室、
司令代行になった榊原が様々な書類を片付けている。
医師がシンジの状態を報告にやって来た。
「これが、報告書です。」
榊原は報告書を受け取り目を通した。
移植された臓器の数は当初の予定よりも多い。
これは、損傷が大きく、臓器移植をするしかなかった臓器だけでなく、一応自己治癒が可能な範囲でも、ある程度以上の損傷を受けている臓器も移植された為である。
「11月の中頃には退院できそうです。」
「そうか」
「戦闘が可能になるのは、恐らくは11月末から12月上旬となると思いますが、可能と言うだけで、実際には中旬以降にする事を勧めますが・・・そうも言っていられないかも知れませんね・・・」
『榊原司令代行、東京から秘書官がお越しになられました』
「とうせ」
「では私はこれで」
医師と入れ替わりに中級秘書官が入ってきた。
「どうした?」
「・・これを」
秘書官は封筒を榊原に渡した。
「・・開けていいのか?」
「内容をお確かめください」
榊原は封筒から書類を取り出した。
「・・・レイラ様にか?」
「はい、新会長の決裁が必要ですので」
「・・・分かった。何とかしよう」
榊原は席を立ち執務室を出た。


シンジをガラス越しにレイは見つめていた。
「・・碇君・・」
レミがやってきた。
「レイ、」
「・・・レミ、」
「シンジは?」
軽く首を振る。
「そう・・・」
レミはレイの横に並んでシンジを見つめた。


地底湖付近のベンチにレイラとアスカが座っていた。
「・・・レイラ・・辛いだろうけど、気をしっかり持ちなさいよ」
「・・・うん・・・」
「アタシ達だって付いてるんだから」
「・・・そうね」
少しだけ元気が出たのかわずかに笑みを浮かべた。
そんな中榊原が近づいて来た。
「・・・レイラ様、少し宜しいですか?」
「・・・」
レイラは視線だけ榊原に移した。
「・・・こんな時にとは思いますが・・・これを、」
榊原は封筒を差し出した。
「・・・」
レイラは封筒から書類を取り出した。
「・・・会長の決裁が必要となる最高レベルの重要書類です。」
「アンタ!!」
アスカが叫ぶ。
「・・・この決裁が得られるか否かで、数十万と言う者の運命が決まります。遅れればそれだけでも数千のものが・・・」
アスカは押し黙った。
いまや、レイラは世界経済を動かす・・・動かさなければならない存在なのだ。
「・・・そうだね・・・前に大きな迷惑かけちゃったもんね・・・今、その借りを返さなきゃいけないんだよね・・・」


11月1日(日曜日)ネルフ本部、総司令執務室、
碇は一人である書類を読みながらこれからの計画を考えていた。
「・・・・・・」
その書類は、東京帝国グループの内部規定に関する書類である。
「・・・これでいけるな、」
碇は諜報部に回線を繋ぎ指示を下した。


シミュレーションシステム、
『いい、委員会・安保理の愚かな行動によってリリンの戦力は殆どなくなってしまったわ、そうなった以上我々ネルフが、単独ででも使徒を退けられるようにしなくてはいけないわ』
『その為には空いている時間を全て訓練につぎ込むくらいの事が要求されるわ、良いわね』
アスカはレイラのサポートをしてやりたいが、レイの状況も不安定であるとレミから伝えられており、現時点においては自分が人類の最大にして最強の戦力となっている。
そんな状況では、レイラのサポートを訓練よりも優先する事はできない・・・
アスカはしぶしぶながら従う事にした。


アメリカ、シカゴ、東京帝国グループアメリカ支社ビル司令室、
各地から情報が続々入ってくる。
米州東京軍と米軍との戦いは暴走し、指揮下にあるものも、戦闘に参加せざるを得ない状況であった。
既に、死傷者は、数十万にも登る・・・民間人の死傷者の数も10万をとおに超えている。
可憐は頭を抱えた。
(・・どうしてこうなってしまったの・・・)
合衆国大統領が死亡したと言う情報も入った。
自殺とも他殺とも言われそれもまた混乱を引き起こしている。
未だ、大規模なものは起こっていないものの、民間人同士の殺戮も小規模なものは起こっている。
なんと言っても銃社会、何か起これば、民間人同士でも殺し合いが容易に起きてしまう。
もはや治安は0に等しい・・・何かきっかけが起これば直ぐに爆発的に発展してしまうだろう。
セカンドインパクト以来の大混乱・・・いや、それ以上の大混乱に陥ってしまう・・


11月2日(月曜日)、東京、東京帝国グループ総本社ビル会長室、
各地に散った最高幹部から報告が集まってきていた。
ゼーレの手が及んでいない部分は大体固められた。
しかし、ゼーレの手が既に伸びてきているところはなかなか微妙な状況になっている。
「主席秘書官、これを」
又新たに大量の書類が運ばれてきた。
「・・ずいぶん多いわね」
「はい・・・やはり、関係機関から様々な申請等がありまして・・・」
「仕方ないわね」
そして、書類を片付けていくとやはり、レイラの決裁を必要とする物が混じっていた。
「・・・ふぅ・・・」
蘭子は大きな溜息をついた。
「・・・お願いするわ・・」


第3新東京市、ネルフ本部、総司令執務室、
碇が電話で話をしていた。
「ああ、そうだ、」
・・・・
・・・・
「・・・ああ、それ相応のものを用意してある。その点は問題ない」
・・・・
「頼んだぞ」
碇は電話を切り、書類を片付け始めた。
冬月が入ってきた。
「参院で否決された。衆院で3分の2取るのは不可能だろう」
「そうか、これで、一つ駒を進められたな」
「ああ、あと、資金援助を取り付けた企業だ」
冬月はリストを碇に見せた。
「・・・ご苦労だったな」
「ああ、本来ならばここで一休みといきたいところだが、そうもいかん、明日又第3新東京市を離れるよ」
「頼んだぞ」
「分かっている」


リリン本部、特別執務室、
レイラの執務室が用意された。
一人になれる空間と言う意味もあるのだが・・・
秘書課長の結城郁美が入ってきた。
「失礼します。」
レイラはソファーの上で丸まっていた。
「・・・郁美さん?」
「は、はい」
「お仕事?」
「はい・・・」
郁美は東京から送られてきた封筒を執務机の上に置いた。
レイラはのろのろと起き上がり執務机につき封筒の中から書類を取り出した。

あとがき
どこかのラーメン屋台、
親父 「らっしゃい」
耕一 「唐揚げ醤油ラーメン、メンマ大盛り、後コーン追加」
親父 「あいよ」
ルシア「私は・・・そうですね・・・にんにくラーメンチャーシュー抜きでお願いします」
親父 「あいよ」
耕一 「・・・レイの真似ですか?」
ルシア「ええ、真似してみました」
耕一 「そう・・・と、誰か来たみたい・・・・」
キール「・・・・」
エリザベート「・・・・」
ルシア「・・・・」
耕一 「・・・・」
親父 「何にします?」
キール「鱶鰭チャーシュー大盛り」
エリザベート「私は、ねぎ味噌ラーメンを」
親父 「あいよ」
ルシア「アスカさんの真似でしょうか?」
耕一 「いや、そう言うわけではないでしょう」
キール「・・・自分の好みだ。」
エリザベート「あら?」
碇  「・・・・・」
冬月 「・・・・・」
耕一 「・・・・・」
ルシア「・・・・・」
キール「・・・・・」
エリザベート「・・・・・」
親父 「何にします」
冬月 「私は味噌ラーメンを」
碇  「・・台湾ラーメンだ」
親父 「あいよ」
・・・・・
・・・・・
・・・・・
親父 「へい、お待ち」
・・・・・
・・・・・
・・・・・
・・・・・
・・・・・
キール「・・ところで、東京帝国グループはずいぶんと大変のようですな」
耕一 「いや、家の者は優秀ですから、私がいなくても問題はないですな」
碇  「しかし、随分と脆い面が出ているようでも有りますね」
耕一 「いやいや、ネルフやゼーレのように悪事はしてませんから、土台は頑丈ですよ」
4人 「「「「・・・・」」」」
碇  「まあ、どれだけ土台が頑丈でも、大黒柱が抜けては大変ですな」
耕一 「・・・」
エリザベート「優秀すぎる者と言うのは大変ですね・・・いなくなった後、
       それに代わるようなものが存在できなくなりますからね」
耕一 「・・・まあ、その内に、結果は出るから、楽しみにしておくんですな」
キール「本当に楽しみですな」
エリザベート「ええ、」
冬月 「確かにな」
碇  「問題ない」
ルシア「あ〜、美味しかった。おかわりお願いします♪」
5人は盛大にすっこけた。
ルシア「そうそう、次回は新キャラが登場しますよ、10thチルドレン、
    リリン本編には登場しなかった〜もう一つの終局〜だけの登場ですね。」
耕一 「確か、九号機もいっしょに来るんだったかな?」
碇  「SS機関搭載型だな」
キール「我らゼーレの技術力の賜物だ」
冬月 「しかし、本編では事故を起こしたような・・・」
エリザベート「どうでしょうね。果たして本当に『事故』だったんでしょうかね」
・・・・・・
・・・・・・
耕一 「・・・っと、そろそろ時間です。帰りましょう」
ルシア「分かりました」
キール「エリザベート、我々も帰るぞ」
エリザベート「はい、お祖父様」
冬月 「碇、我々も帰るか」
碇  「ああ」