リリン〜もう一つの終局〜

◆第11話

 第1発令所のメインモニターには衛星からの映像が映し出されていた。光る鳥のような姿の使徒アラエルが地球をバックに映っている。
 オペレーター達が各地の司令部等と連絡を取り情報を集める中、3人が発令所に入ってきた。
「これは、早過ぎるな…」
「赤木博士、現在使えるエヴァは?」
「…参号機と四号機、それと九号機の3体ですね」
「リリン側は、初号機と零号機両方出れますね」
「…戦力は5体か、」
「リリン、いえ、東京から通信です」
「何?」


 東京、東京帝国グループ総本社ビル最高総司令室、
「…アラエルですか…配備は?」
「展開率は87%、稼働率は69%です。」
「…69低いですが、仕方ないですね。発動準備を」
「「「「「了解」」」」」
 モニターに、無数の衛星が表示され、それらを結ぶ経路が示される。
「衛星移動開始、完了まで47分です」
「それまでじっとしていてくれればいいですが…」
 蘭子はモニターに表示されているアラエルをじっと見つめた。


 レイラもリリン本部の発令所で同じようにモニターに映っているアラエルと衛星に視線を向けていた。
「…アラエル用の兵器、利くんですか?」
「使徒の侵攻の予定が繰り上がっていますからね。それに、スーパー化されているとなった場合は、殲滅に至らない可能性もあります。もう少し時間があれば十分な破壊力を持たせられたのですが…」
 榊原は素直に所見を述べ、それに対してレイラは沈黙で返した。
「一応、長官にも待機していただきますが、宜しいでしょうか?」
 今度はレイラは顔を顰め、暫く迷ったもののゆっくりと頷いた。


 ネルフ本部の第1発令所ではみんなの視線はメインモニターに注がれていた。
 映っているのは東京が宇宙空間の使徒を迎撃する為に作った迎撃システム、宇宙空間に多数は位置されている特殊な衛星を介して弾を加速し標的にぶつけるというとんでもないものである。
(東京は大気圏外の使徒への対抗策を作っていたのね。ネルフも当然何らかの手を考えておくべきだったかもしれないわね。東京が、死海文書を手に入れているかどうかは分からないけれど、当然予測されるべき事だったわね。予算の関係からそれが実現不能だったとしても…)
(いえ…綾波レミのことから考えれば、しかし……。後でこれもマギに分析させる必要があるわね…今は結論を急ぐべきではないわ)
「マヤ、出来る限り情報を多く取ってね」
「はい、わかりました」
 マヤは入ってくるそれぞれの情報をマギに分析させた。


 ゼーレ、
「ついに、アラエルが襲来した」
「残すは2体、計画の実行も近い」
「この東京が用意した迎撃システム、アラエルを葬るのは容易い事だろう」
「となると後はアルミサエルを残すのみだな」
「エヴァの配備は?」
「やや遅れておる。アルミサエルの襲来時期いかんによっては間に合わなくなるかも知れんな」
「それは拙い…」
「だが、ここで言っていても始らん。予算と人員を重点配分する事とすればいい、遅れると言ってもそれは最大のチャンスを逃すと言うことであって、我々が優勢である限りは常にチャンスなのだ」
「左様ですな」


 司令塔の二人は迎撃システムの準備画面を睨みつけている。
「一体何時から準備していたのだろうな…」
「アレだけの衛星の数だ。少なくともサハクィエルの後からと言う事は無かろう」
「ではそれよりも前か…」
「…やはり、謎が多すぎるな」
「だが、答えを出すのは未だ早い。今出しても意味は無い」
「そうだな。今はただ見守るだけか、」
「ああ」


 リリン本部、発令所、
「準備完了まで5分です」
「宜しいですか?」
 榊原の問いにレイラはコクリと頷いた。
「良し、全衛星加速器作動準備開始、」
 榊原はモニターに映る使徒を睨みつけた。
(動かないでいてくれるといいのだが…)


 待機室でシンジ、レイ、レミの3人がモニターをじっと見詰めていた。
「…いけるの?」
「…分からないな、」
「まあ、アタシ達には祈ることしか出来ないっしょ」
「それもそうね」
「そろそろエヴァに乗って待機する?」
「シンジは大丈夫?」
「うん、大丈夫、いけるよ」
「じゃ、行きましょ」
 3人は待機室を出てケージに向かった。


 東京、東京帝国グループ総本社ビル最高総司令室、
「衛星軌道準備完了しました。」
「加速器も既に準備完了です」
「ロック完了。OKです。」
「いつでも実行可能ですね…」
「はい、レイラ様の命令が有ればいつでも発動できます。」
 蘭子はサブモニターの一つに映るリリン本部の発令所の司令塔の映像に映るレイラを見つめた。


 リリン本部発令所、
「いつでも発動できます」
「…発動してください」
「分かりました」
「発射せよ」
「カウントダウン開始、」
「10」
「9」
「8」
「7」
 カウントダウンが進んでいくが、アラエルは依然動かず全く反応していない。
「3」
「2」
「1」
「発射!」
 人工衛星から電磁加速された弾が発射された。
 弾は次の衛星に向かって飛んでいく…そして、次の衛星の加速器で方向を変えながら加速されて飛び出し、次の衛星に向かう。
「順調に加速されています。」
 3Dモニターに表示された地球の周回を加速しながらぐるぐると回っている。
 弾を加速した衛星がその反動で逆方向に吹っ飛ばされる。
 加速を重ねる毎にそれが大きく成っていき、衝撃で衛星が破損するようになる。
「後120です」


 第3新東京市、ネルフ本部、第1発令所、
「マギの計算上では十分に第伍使徒クラスのATフィールドをも貫通できる速度を持っています。」
「…動かないですね」
「そうね、」
「このまま動かないと言いんですけどね…」
 みんなの視線はメインモニターにくぎ付けである。
「目標移動を開始しました!!」
 マヤの声が響き、一気に緊張の度合いが膨れ上がる。


 リリン本部の作戦立案室でミサトは他の職員達と共にモニターをじっと見詰めていた。
 今回、作戦立案課はこの作戦が失敗した時の為にいくつもの第2案第3案を提出してきた。
 それらが使われる事無くこのまま一撃の元に殲滅できれば良いのだが…みんなそう言う風に祈っている。
「ん?」
 モニターの使徒が動き始めた。
 ボールペンを握る手に力が篭る。


 発令所、
「使徒が回避行動に入りました!!!」
「追尾開始!!!」
「使徒は高度を下げています!!このままでは地表に着弾します!!」
 発令所に緊張が走る。
「目標大気圏内に侵入!!尚も高度を下げています!!」
「レイラ様!宜しいですか!!?」
「え?」
 榊原の問いに一瞬何を聞かれているのか分からなくなる。
「このまま攻撃すれば地表に着弾します!場所によっては甚大な被害が出る事も考えられます!しかし、ここで止めを刺さないと厄介な事にもなりかねません!今すぐにご決断ください!」
 榊原は心臓を鷲掴みにされるような気持ちがするが、ここでどうしても決断して貰わなければならない。だから…敢えて言わなければならなかった。
「…そんな…」
「あと15!!」
 レイラは軽く目を伏せふるふると小刻みに体を振るわせる。
「レイラ様…」
「あと10!!」
「あと5!!軌道を変更!!緊急軌道修正回路に入ります!!」
 暫くしてから、ゆっくりと口を開いた。
「…榊原さん。攻撃してください…」
「分かりました」
「攻撃せよ!」
「了解再度軌道を修正!攻撃まで15」
 使徒は更に高度を下げていく、
 衛星を中継して戻ってきた弾は凄まじいまでの速度に加速されており、通過した瞬間に衝撃で衛星が爆発する。
 そして、最後の衛星を通過し、一直線に使徒に向かう。使徒は最後の瞬間に体をひねってずらし、避けようとする。弾がATフィールドを貫通し、赤い光が散っていく。
 プラズマと化した弾が地表に激突し瞬間凄まじい爆発が起こる。
「どこに着弾した?」
 調べていたオペレーターの顔色が変わった。
「どうした?」
「…北京です…直撃しました…」
 発令所がシンと静まる。
「使徒は!!?」
 榊原の一声で発令所に緊張が戻る。
「現在、落下中!」
「落下予測地点は…飛行を始めました!」
 片方の羽のような部分の先のほうがもげている為上手く飛べない、しかし第3新東京市に向かおうとしているようだ。
「拙い!」
「ネルフ側から全軍に攻撃準備命令が出ました!初号機ならびに零号機にも出動要請が出ています!」
「発進させろ!それに各部隊も攻撃準備を!」
「了解!」
「初号機及び零号機射出口へ」


 ネルフ本部、第1発令所、
「各エヴァの配置は…」
「日向1尉零号機を最前衛に出せ、」
「…零号機をですか?」
「零号機は現時点のエヴァの中でもっとも戦力が低い、使徒が何か予想外の攻撃を仕掛けてきた事によってその戦力が奪われたとしてもその影響は最小限に抑えられる。更にデータを見る限り操縦者の危機回避能力も高く、予想外の事態が起こってもその被害を最小限に抑え中破までで止められる可能性が高い」
 碇にしては珍しく、かなり丁寧に理由を説明する。
「し、しかし、零号機はリリンの…」
「では、リリンの上位組織である東京帝国グループの総会長に許可を取ろう」
「え?」
「レイラ会長、零号機を最前衛に出そうと思うのですが宜しいですかな?」
『え?』
 モニターに驚いた表情のレイラが映る。
「零号機は現時点のエヴァの中でもっとも戦力が低く、使徒が何か予想外の攻撃を仕掛けてきた事によってその戦力が奪われたとしてもその影響は最小限に抑えられます。更にデータを見る限り操縦者の危機回避能力も高く、予想外の事態が起こってもその被害を最小限に抑え中破までで止められる可能性が高いので最適なのですが、如何でしょうか?」
 先ほど発令所のメンバーに行った説明をレイラに対して繰り返す。
 レイラはなかなか返答を返さない。と言うよりは、返せない。
『零号機はリリンの管轄です。会長の判断は必要とはしません。零号機はどこに射出すれば宜しいですか?』
 榊原が遮って返答してきた。
「あ、はい118番の射出口に」
「…えぐいな」
 通信が切れた後、冬月が呟いた。
「だが、これで、準備は出来た」
「後は、零号機、いや綾波レミが生贄となればいいわけか」
「それはどうかな?」
「ん?」
「使徒は九号機を狙うはずだ。SS機関を唯一搭載しているわけだからな、零号機も攻撃を受けるだろうが、大した被害にはなるまい、」
「…なるほど…」
 良くそこまで考える…と再度感心し直した。
「上手くいけば取り戻せる」
「分が悪い賭けが入っている部分が大きいが、まあ、それも仕方ないな」
「ああ、」
「目標第3新東京市到達まで80秒!」
「射程距離に入り次第全軍総攻撃を」


 地上、九号機、
「さて、配置に…ん?」
 配置ポイントに移動しようとしたとき、眼前が光に包まれた。
「え?…」
 心の中に何かが入りこんでくる…恐ろしいまでの不快感…
「ぐっ…う…ぐぐ…」
 心が侵食され、かき乱される。


『…きゃ、きゃああああああ〜〜!!!!』
 アスカの悲鳴が初号機のプラグに響く、
「アスカ!!」
「急ぐわ!」
 初号機は九号機に向かって駆ける。
『い、いやああああああ!!!!!』
「…精神攻撃が、強くなっている?」
「え?」
 レイの呟きにシンジは驚きを露にした。
『ああああああああ…』
 アスカの悲鳴が消える。
「アスカ!!」
「アスカ!」
 弐号機がその場に崩れ、アラエルは標的を間近に迫っていた初号機に変えてきた。
 横に飛んで光を躱しビルの陰に隠れる。
『物陰に隠れろ!』
 榊原の声で皆ビルの影に隠れる。
 アラエルは支援部隊の攻撃をATフィールドの弾きつつ、第3新東京市に向かってきている。
 シンジはぎゅっと拳を力強く握った。


「…ふむ、ここまではまさに筋書き通りに、いや、操縦者のみへのダメージなら筋書き以上に良い展開で進んでいるな」
「ああ、だが、これからが問題とも言えるな。被害はここで食い止めなければいかん、敵は未だいるのだ」
「そうだな、」
「目標が方向を変えました!!」
「何?」
「目標は、外輪山の外を回る旋回軌道に入ったとマギは分析しています」
「安全と判断できるまでは外輪山から内側に入らない気か」
「傷を回復させるという意味もあるようだな…」
 片方だった羽…もがれた羽も半分ほどの大きさにまで回復してきている。
「…準備する時間が出来たな」
「そうだな」


 リリン本部、作戦立案室、
「…まずいわね」
 皆作戦を考えているが、今ひとつ上手い案が出てこないようだ。
 ミサトも今までに提出した案に多少手を加えることで上手く行かないかと考えてみる。
(攻撃方法はロンギヌスの槍かATフィールドを中和しての接近戦、或いは陽電子砲か、ロンギヌスの槍しかないわね…しかしどうやってやるか…)
(…囮しかないわね…ならば、)
 ミサトは椅子を立ち上がった。
「…発令所に繋げるかしら?」
「ああ、今繋ぐよ」


 発令所、
「…ロンギヌスの槍を使う作戦か」
『はい、目標を効率よく倒すにはロンギヌスの槍の投射が最適かと』
「その成功率をあげるために囮を使うのか?」
『はい、一旦全てのエヴァを下げ、先ず囮のエヴァを射出攻撃が囮のエヴァに向かった直後、ロンギヌスの槍を持たしたエヴァを射出し、投射します』
「うむ…なるほど、悪い作戦ではないと思うが、攻撃役にを攻撃されると困ったことになるが」
『ある程度強い能力を持ったエヴァを囮、低いエヴァを攻撃役にすれば大丈夫かと…』
「…分かった。考える。ご苦労だった」
『…このような案しか思いつかず申し訳ありません』
 回線が切れた。
 榊原はレイラがいた場所に視線を向ける…レイラはとても耐えられなくなって発令所を出ていった。今は郁美などに付き添われてどこかで休んで…いや、苦しんでいるのだろう。
 ある意味、レイラのせいで…アスカがやられてしまった…アスカの悲鳴が響いていたとき、レイラは耳をふさぎがたがたと震えていた…。
「…ネルフ本部に回線をつなげ、」


 ネルフ本部第1発令所、
「…ロンギヌスの槍かね」
『ええ、他に手段がおありならば聞きたいですが、』
「いや、我々も槍の使用を考えていた。いかにして使用するかという部分を考えていたところではあったが…」
『…お願いします』
「……ああ、」
 回線が切られる。
「…下から行くとなると、零号機、七号機、四号機の順だな」
「囮はいずれにせよ、ネルフから出さなければならないわけだが…ネルフ管轄ではない零号機に槍を渡すわけには流石にいかん。そうなると、囮は四号機、攻撃が七号機と自然に決まるな」
「…しかし、未だ素人だぞ?」
「ロンギヌスの槍の特性を考えれば、狙って投げられればそれでいい」
「なるほど…確かにそうだな」
「マヤ、アスカの状態は?」
 マヤは回収された弐号機から下ろされ中央病院に緊急搬送されたアスカの状態に目を通す。
 顔を顰め、そして首を横に振る。
「…そう…」
「日向1尉、」
「…分かりました」


 初号機以外のエヴァに撤退命令が出された。
 初号機はビルの影に隠れて使徒をひきつけ、又警戒をさせ続けている。
 チルドレンが待機室に戻ってきて直ぐにリツコと日向も入ってきた。
「…皆、作戦を伝えるわ。」
「作戦ですか、」
 何か、二人の雰囲気からまともな作戦ではない事がわかり、緊張した空気になる。
「…この作戦には、囮役が必要なの、」
「…囮…ですか…」
「囮役が攻撃を受けている間に、攻撃役が攻撃をする。と言う、ある意味単純な方法だが…」
 日向が言った言葉の後は、更に強まった妙な緊張と沈黙がその場を支配する。
「囮役には……、相田くん、貴方になってもらいたいわ」
「…お、おれ、ですか?」
 当然囮に指名されケンスケはうろたえる。
「…この作戦では、囮役は攻撃役よりも、能力が高い必要があるの、」
「ある意味残酷なようだけれど、後の戦いでの敗北率を下げるためには、出来る限り強い戦力を温存しなくてはならないわ…」
「そうすると、下から順に、攻撃役が江風君、囮役が相田くんとなってしまうのよ…」
「…………、おれが、おとりですか…」
 1分弱の沈黙の後ゆっくりと言い、再び沈黙が続く、
「江風君、君が攻撃役ということは変わらない、準備をしてくれるかな?」
「あ…はい…」
 ヒロはゆっくりと長椅子から立ち上がって待機室を出て行った。
 長い沈黙が続く…
 みんな俯いているケンスケをじっと見つめている…その視線には色々な思いが混じっているだろう。
 どれだけ経ったのか…顔を上げる。その表情は見るからに作った笑顔である。
「…これでもほら、俺って、正義のために戦って犠牲になるとか、そう言うのに憧れていたんですよ〜、いや〜漸く夢がかなうんですね〜」
 明らかに、本心とは違う言葉…声が、そして体が震えているのが目に見えて分かる。
「…そう、では準備をしてくれるかしら?」
 ケンスケは身を震わせながらゆっくりと頷いた。


 レイラは椅子に座って顔を執務机に伏せていた。
 郁美が複雑な表情で脇に立っている。
「……郁美さん…私…私…」
「き、気にする必要はないですよ…」
「でも、でも……」
 レイラの目からぽろぽろと涙が零れる。
「…私のせいで…私のせいで…」
 悔やみ自分を責め苦しむレイラに対して郁美は掛けるべき言葉が見つからなからず、上を仰いだ。


 ネルフ本部のケージでは、再出撃の準備が進められていた。
 今頃ヒロは七号機でメインシャフトを降下しているのだろう。七号機の姿がケージにはない。
 ケンスケは自らの機体、四号機の前のアンビリカルブリッジに立って、四号機を見上げた。四号機には精神防壁の役割を果たす特殊な装甲が張り付けている。時間的にも大したものがあるわけではないし、気休め程度かも知れない。
「……俺が…囮、か…」
 伍号機の修復が後一歩という段階であり、未だ完全でなかったため今回出撃はなかったが、作戦の事を聞いたマナが近づいて来た。
「…相田くん、」
「…霧島か…聞いたのか?」
 振り返らずに返したケンスケに対してマナはゆっくりと頷く、
「…良いの?」
「俺しかいないんだろ…俺しか…」
 震えながらそんな風に言うケンスケに掛けるべき言葉は見つからなからなかった。


 そして作戦準備が整い、それぞれ機体に搭乗した。
 念のために他の者も搭乗しての待機となる。
(…囮作戦…か、)
 誰かの犠牲を…今回はケンスケの犠牲を前提とする作戦…
「…僕が…」
 ぎゅっと拳を握る。
 テストパイロットになった時…正式に10thチルドレンとなって日本に来た時。そんな時にはまさか今回のような事になるとは思わなかった。
「…でも、僕がやるしかないんだ」
 もし、ここで自分がやらなければ、攻撃役はケンスケに…そして、囮…犠牲役はトウジとヒカリになるのだろう。
 そして、被害はそれだけにとどまらないかもしれない、参号機が使用不能になるということは、全体の戦力の低下を招く。そうすれば、次の使徒でさらなる被害を出してしまう可能性が高くなる。
 今、ここで自分が役目をしっかりやり遂げる事が、最も被害を小さくする方法なのだ。
 そして、自分の役目は、犠牲を…被害を出さないようにする事ではなく、それを小さく少なくすることなのだ。
 そう考えれば、ここで必ず役目を全うしなくてはいけない…そう自分に言い聞かせる。
『準備はいい?』
「…はい、」
『では、作戦を開始する。初号機を56番のルートから高速回収、同時に四号機を射出!』
 日向の声で作戦が始る。
『四号機地上に出ました!』
『目標四号機に攻撃を仕掛けてきました!』
『七号機射出!』
 Gがかかり一気に地上に向かって射出される。
『最終安全装置解除』
 肩の最終安全装置が外され、間も無く地上に出、そのまま空中へと打ち上げられる。
 アラエルの姿を確認する。
「でえええぇぇい!!」
 ヒロは叫びながら、アラエルに向かってロンギヌスの槍を投げさせた。
 ロンギヌスの槍は途中で向きを修正しながらアラエルに向かって飛んでいく、アラエルは四号機に放っていた光を止めてATフィールドに集中する。ATフィールドが肉眼ではっきりと捕らえられるほど強力なものになる。
 しかし、その協力になったATフィールドさえ、いとも容易く打ち破りロンギヌスの槍はアラエルを貫いた。アラエルの体が消滅していき、解放された四号機がその場に崩れ、七号機が地面に落下する。
 ロンギヌスの槍はそのまま天空へ登っていった。


 ネルフ本部、第1発令所、
「回収及び中央病院への搬送急いで!」
 ケンスケの精神パルスはほぼ0を示している。
 マヤはモニターから顔を背けていた。
「ロンギヌスの槍はどうなった?」
「あの速度ですと、宇宙空間を彷徨う事になりそうです」
「…そうか、」
「これで、老人達の計画は難しくなったな」
「ああ、一歩又駒を進めることが出来た。しかも、いい形でな…四号機を失ったが、まあその程度の被害ならば許容範囲内だろう」
「あともう少しだな」
「ああ、あともう少しだ…ユイ…」

あとがき
冬月 「……少し冷えてきたかな?」
冬月 「全く…冷房代もばかにならん。
    最近は必要不可欠な経費を捻出するのも苦労するというのに」
冬月 「…ぶつぶつぶつぶつ…」
アスカ「……」
ケンスケ「……」
冬月 「……ん?」
冬月 (ごしごしと目をこする)
アスカ「……」
ケンスケ「……」
冬月 「…な、何かようかね?」(汗)
アスカ「よくも…あんな事してくれたわねぇ」
冬月 「あ、あんな事?」(汗)
アスカ「分かって犠牲にするなんてねぇ…まあ、それも未だ使徒を倒すためってんならわかんない訳じゃないけどさぁ」
冬月 「う、うむ…」
アスカ「勝手な計画のために、犠牲にされる者の事は考えたこと無いのかしらねぇ」
ケンスケ「考えたことがあるなら、よっぽどのバカか悪人じゃなきゃとてもできないだろ」
アスカ「さって、いったいどっちなのかしらねぇ〜」
冬月 「考えたことかね…」(汗)
アスカ「そう、副司令はどうなのかしら?アタシ達の身にでもなってみる?」
冬月 「…、ごほん、それは遠慮しておくが…、考えることは良くする。だが、それを思わないようにしているな」
アスカ「どういう意味よ」
冬月 「うむ…その事を考えはするが、それに特別な感情を抱く事を出来るかぎり避けている。
    それを始めてしまうと何もできなくなってしまうのでな」
アスカ「何も考えてないのと同じじゃないのよ」
冬月 「そう思われるのも仕方ないかもしれんな」
アスカ「だから?」
冬月 「言ったところで何か変わるわけではあるまい」
アスカ「いくら思わないようにしているって言っても、謝罪の言葉もないわけ?」
冬月 「謝罪か…言葉だけの謝罪を受け取ってそれでいいものかな?
    どこかの誰かのように言葉だけの謝罪をしても意味はなかろう。
    本人はその事を何とも思っていないわけだから、
    当然その後の行動には何も反映されないしな」
アスカ「むぅ…確かに、その通りかもしんないけど、そのものズバリ言われるのもむかつくわねぇ」
冬月 「確かにそうかもしれんな…」
アスカ「かといって、言葉だけの謝罪で全然反省してない!って後で成るのもむかつくし…」
アスカ「結局、アタシを犠牲にするって決めたのが悪いのよ!」
冬月 「違いない…君が納得がいくかどうかは別として
    その事が何らかの解決を見るのは、いずれにせよ何らかの前提が崩れたときだろうな」
ケンスケ「あのさ…二人ともさっきから俺の存在忘れてない?」
アスカ「あ、ごめん。すっかり忘れてたわ」
冬月 「すまん。これからはこのようなことはないようにする」
ケンスケ「まあ、そう言うなら良いけどさ…」
アスカ「まあ、暗くなるからこの話を置いて置いて、話の方に話を移すと…
    今回は100%アラエル戦だったわね」
冬月 「そうだな…挿入シーンは入っているが、結局はアラエル戦だな」
アスカ「しっかし、司令ってえぐい事するわねぇ…
    どんだけレイラを追いつめたら気が済むのやら」
冬月 「あの男は、私以上だからな…必要とあれば本当に何でもするだろうな」
ケンスケ「全く…とんでもない奴だよ」
アスカ「とは言ってもこれからが心配ねぇ…全体的な戦力だけじゃなくてネルフ側の戦力もがた落ちだし、
    厳しくなればなるほど、無茶な手を繰り出してきそうだし…」
冬月 「違いない…だが、既に戦力はあまり落ちないような対策は考えてある」
アスカ「アタシを犠牲にしたのも考えてたからって事な訳?」
冬月 「そう言うことだろうな…計画を成功させるためには必要な賭けだった、
    まあそもそも初めから賭けだらけだったみたいな」
アスカ「しっかし、その賭ってなんなわけ?」
冬月 「それをここで言うわけにはいかんが…まあ、ヒントだけなら良いかな」
アスカ「ふんふん」
冬月 「そうだな…この賭は、そんなに分が良いものでもないが、
    裏目に出なければ、計画にとって何らかの利益はあるな
    しかし、使徒戦に置いては、短い範囲で考えれば益になることもあり得ないとは言えないが
    長い目で見ればどう転んでも損だろうな」
アスカ「全然わかんないわよ」
冬月 「そうかね…まあ、答えは直に分かる
    まさに計画のために全体を益を損なった賭けだな」
ケンスケ「あのさ…」
アスカ「たくっ…冗談じゃないわよ」
冬月 「まあ、さっきと同じだな…あの事故から全てが始まった
    どこで間違えたのかな…」
ケンスケ「あのさ……」
アスカ「ん?」
冬月 「む?」
ケンスケ「又、俺のこと忘れてない?」
アスカ「……ごめん」
冬月 「……すまん」
ケンスケ(…これが、言葉だけの謝罪って事!?)(涙)
ケンスケ「もういいよ……で、俺はどうなるわけ?」(悲)
冬月 「…結果的に殲滅するのに必要だった。そう言うことだな」
ケンスケ「…惣流は計画のためで、俺は使徒殲滅のため?」
アスカ「でしょ、」
冬月 「そう言うことだな」
ケンスケ「…なんか、扱いが全然違うんじゃない?これも、殆ど二人で喋ってるし」
ケンスケ(二人とも忘れるし、俺には言葉だけの謝罪をするし…)(涙目)
アスカ「まあ、それが、アタシと相田の差って事ね
    使徒戦のことを考えたらアタシを潰すのはマイナスにきまってんでしょ」
ケンスケ「おれは、マイナスにならないって?」
冬月 「ならんことはないが、そんなに大きくない、切ろうとすればいつでも切れるというところだな」
ケンスケ「………」(泣)
アスカ「まあまあ、そのうち良いことあるわよ」
冬月 「そうだ、希望を失ってはいかんよ」
アスカ「そう言う事ね、まあ、言いたいことは山ほどあるわけだけど、そのうち迎えに来るわね」
ケンスケ「必ず、迎えに来ます…絶対に…絶対に…」
冬月 (迎え?)
冬月 「う、うむ…ではまたな」
すうぅっと二人の姿が消えた。
冬月 「……なっ!!」
影も形もない。
碇  「…ふ、冬月…さっきから何一人でぶつぶつ言っているんだ?」(汗)
冬月 「なに?碇いたのか…それよりも、さっきここに惣流君と相田君がいたはずだが…」
碇  「……すまん、幻覚を見るほど過労だったのか…
    お前ももう歳だしな…負担を掛けないように気を付けることにする」
冬月 「……迎えに来る?」
冬月 「…お迎え?」
冬月 「………」(滝汗)


リツコ「司令…副司令のことですが、」
碇  「どうした?又か?」
リツコ「はい…それが、明日比叡山からえらいお坊さんが来るそうです…」
碇  「お札やお守りを大量に集めていたが…遂に坊主まで呼び始めたか…」
リツコ「他の寺社にも色々と打診しているそうです…
    私見ですが教会やモスクにもそう言う話がいっているのではないかと…」
碇  「そうか……」(深い溜息)
碇  「この10年、冬月には負担を掛けすぎたのかもしれんな…」
リツコ「特に最近は各地を飛び回っていましたからね」
碇  「うむ…これからも冬月には負担を掛けなくてはやっていけない…
    だが、それは最小限にしたい」
碇  「赤木博士、協力してくれるか?」
リツコ「はい、私も出来るかぎりで協力します
    マヤにももう1ランク高い機密にまで関わらせようと思います」
碇  「彼女も貴重な人材だ。無理はさせないようにな…勿論君も」
リツコ「司令も、同じですよ」
碇  「そうだな…まだ、これからが正念場だからな」
碇  「決戦には冬月の力がかかせない…そのためにも暫くはゆっくりさせてやろう」
リツコ「マギのバックアップ体制を整えておきます」
碇  「宜しく頼む」
リツコ「はい」

その後暫くの間、副司令執務室からは様々な臭いや声や音が聞こえてきたそうな。