リリン〜もう一つの終局〜

◆第12話

「…レイラ、いる?」
 色々とあって遅くなったが、夕方になってシンジとレイはレイラのもとを訪れた。
 ドアを開けて執務室にはいる。
「…シンジ君?」
「うん…レイラ、大丈夫?」
「シンジ君!」
 ソファーに横になって泣いていたレイラは、勢いよく起き上がりシンジに抱きついた。
「シンジ君!シンジ君!私…私!」
「…レイラ、」
 シンジは胸で泣きじゃくるレイラをそっと抱きしめ、そのまま泣かせてあげることにした…それが、今シンジにできる僅かなことの一つだったから…
 その一方、レイはシンジがレイを抱きしめているのをみながら、表現しづらい嫌な感情に曝されていた。
(…何…なぜ?…なぜ、不快なの?…なぜ嫌なの?)
 何故このような感情に晒されているのか分からない…だが、そのまま、その感情に晒されていることには我慢できなくなり、黙ってそっと特別執務室を出てどこへとも無く歩き始めた。
 二人が、レイがいつの間にかいなくなっていたと言うことに気付くには未だ暫くの時間を必要としていた。


 夜、ネルフ中央病院の病室の一つで、アスカが様々な機器に繋がれてベッドに横たわっていた。
 使徒の精神攻撃にもろに晒されてしまったアスカの精神が壊れてしまった…そして、今横たわっているアスカは目を開いてはいるがその焦点も全く結んでおらず、何をみているのかも分からない…
「…アスカ…」
 傍についていたレミがアスカに声をかける。勿論アスカは何の反応も示さない…
 涙が零れる…ある意味自分自身がやられたのである。
 レミはベッドの脇の椅子に腰掛け、涙しながらアスカとの様々な思い出を回想し、そしてアスカに語り始めた。


 ネルフ本部総司令執務室、
「これがマギの回答か」
「はい、」
「…タイムトラベラー、或いは平行世界からの訪問者か、」
「はい、それらの確率が17.5%と、最も高い確率です」
「…そして、綾波レミだけでなく、他の者もか」
「はい、誰が、と言うのは分かりませんが、最低でも他に1名いると考えられます。可能性が高いのは…彼ですが」
「…これからのことを、根本的に考え直す必要があるかも知れんな、」
「計画への支障は、読めんな…」
「はい、」
「で、これからどうする?情報の再収集を待っている暇はないぞ」
「使徒は残すところ1体、いよいよだな。心配は残るが…そろそろ計画の準備も行動にうつすしかないだろう」
「…はい、」
「うむ、そうだな…しかし、博打性が高いな…」
「仕方なかろう…我々に選べるほどの自由はない、先を知る者を相手にしていたとすれば、上出来なくらいだ」
「そうだな」
「…それと、直属の手勢を出来る限り集めておけ、傭兵でもかまわん」
「…傭兵を?」
「ああ、表向きは外敵の侵入に備えるためだ」
「…表向きはか、」
「いざと言う時に手駒は多い方がいい…」
「分かった。何とか予算を捻り出して見よう。しかし、予算以上に信用できる者を選別するのが苦労しそうだな」
「頼んだ」
「ああ」
「先ずは、リリン側の切り崩しを完璧なものとしなくてはな…綾波レミの九号機へのシンクロ可能確率は?」
「97.5%です。但し、戦闘が可能な確率は69.4%、重要戦力となる可能性は31.1%です」
「問題ない、明日の会談で要求する」
「分かりました。準備を行っておきます」
「上手く運びそうだな」
「ああ、後は…何かきっかけがあればいつでも取り戻す事が出来る」
「そのきっかけは?」
「多分、今の状況なら放って置いても起こるだろうが、起きそうになければ仕掛ける」
 そして、二人が退室した後、碇は電話を取ってどこかにかけた。
「…ああ、私だ。」
「少し調べてもらいたい事があるが、良いか?」
「ああ、そうだ。再度調べなおしてくれ、皇耕一がいなくなった以上、色々と綻びも出来ているはずだ」
「そうだ。頼んだ。報酬に関しては、我々が持つゼーレに関する情報をすべて出そう。もはや必要あるまい…それに、何か別の情報も2、3付けておこう」
「そのとおりだ。よろしく頼む」
 碇は電話を切った。


 東京、東京帝国グループ総本社ビル会長室、
 蘭子は大きな溜息をついていた。
 現地からの報告では、北京中心部は大きなクレーターに飲み込まれ、周辺部も凄まじい爆風で皆消し飛んでいた。
 死者は1000万人を超える可能性が濃厚であると言う…
「…どうすればいいのかしら…」
 中国は政府要人の多くが死亡し、中国は現在政府機能が停止している。
 救援には現地の東京帝国グループ関連や現地の東京軍が当たっているが…事実を知ればどうなるであろうか?中国は中立〜東京帝国グループよりだったが…これでどうなる事やら…
 蘭子は頭を抱えた。
 復興と保障のための予算はどう考えても足らないし、それ以前にも余りにも問題がありすぎる。
 そして…セカンドインパクト時も様々な問題を引き起こした各地の軍閥がどう動くやら…
「失礼します」
 ミユキがどこか慌てて入ってきた。
「どうしました?」
「各地からの報告です。日米中を除く主要諸国の軍隊に出撃準備が行われています」
「…なんですって?」
「それと…これから行われる安全保障理事会で、日本への各国軍隊の派遣が決議されると思われます」
「…対使徒ではなく、対日本・対東京帝国グループのための軍隊ですね…」
 眉を顰める…人対人の決戦が直ぐそこに迫ってきている。
「間違いないでしょうね」
「…日本政府は?」
「既に準備に入りましたが、戦力不足は否めません」
「…自衛隊の方は?」
「手を回しています。最悪でも中立にはもっていけるとは思います」
「各地の東京軍にも招集をかけるべきかしら?」
「私は専門家ではないので…」
「アメリカと中国は、呼び戻すわけにはいかないのだけれど…後で救也さんと相談してみるわ」
「はい」
「それと…レイラさんのサポートに回りたいのだけれど、余裕作れますか?」
「…そうですね…何とか調整してみます。レイラ様にはしっかりして頂かないと、」
「ええ…」


 レイは再び一人で自分の部屋に篭っていた。
 アスカが精神崩壊し…レミはそれに付き添っている…。そして、シンジはあの時以上にレイラの傍にいる…
 結果、また一人になってしまった。
「…私…碇君とレイラさんが仲良くしているのを見ると不快に思うの…」
「…どうして?」
 その原因について、様々なことを思いを巡らせて考える…前回の歴史でのことから最近のことまで…
 そうやってどれだけの時間が経ったのか…遂に、一つの答えを導き出してしまった。
「そう…レイラさんを見ているときの碇君の目には私が映っていないからなのね……」
 そう、…そして、今はレイの姿は誰の目にも映っていない。
 リリンのみんなはレイラの事ばかり気にしているし、シンジもレイラを…そして、気にかけてくれていたレミも今はアスカのことで一杯だろう…今、レイを見ているものは誰もいない…
 レイはシンジの名を呟き布団をぎゅっとつかみ、身を丸くしてシーツを濡らした。


 11月22日(日曜日)、朝、リリン本部、特別執務室、
 結局、シンジはここに泊まり、ソファーで夜を明かす事になった。
 レイラは一晩中泣き続け、そうしているうちに泣き疲れて寝てしまっていた。
「…レイラ…」
 レイラの判断ミス、或いは判断が遅れたために、凄まじい犠牲を出してしまった。それだけでも十二分に大きいのに…アスカを…親友であるアスカの精神を壊してしまう結果に至ってしまった。
 レイラの心に掛かった負荷は凄まじいものがあるだろう。
「…僕がついてるから、」
 シンジはレイラのその茶色の髪の毛をそっと撫でた。
 ドアがノックされる。
「はい?」
「あ、あの、失礼します…」
 郁美が二人分の朝食を持って入ってくる。
「ありがとうございます」
「ど、どうも…ここに置いておきますね」
 郁美は机の上にトレイを置いた。
「…心の支えになって上げて下さいね」
「当然ですよ」
 シンジはその言葉にはっきりと即答した。


 トウジとヒカリがケンスケの病室を訪れていた。
「…ケンスケ…」
 アスカと同じようにベッドの上で横になっているケンスケに声をかけるが反応は無い。
「お前は、凄いやっちゃや…わしやったら…できんかったやろうな…」
「相田は立派だったと思うわ、私なんかじゃとても出来ない…」
 その後、暫く先の件について話し、そして、昔の思い出話へと語る内容が変わっていったが、そのいずれにもケンスケが反応を示すことはなかった。


 ネルフ本部の特別会議室の前に榊原と大空の二人が到着した。
 今回の会談は、ここで行われる…そして、待っているのはおそらく碇と冬月…今までは、ある意味格下のミサトやリツコ・日向相手であった。だが…今回は格上が相手である上にいつも横にいた蘭子がいない。
「司令…」
「いや、気にするな。行くぞ」
「はい」
 会議室には既に碇と冬月の二人が待っていた。
 気持ちの問題なのだろうか…二人の姿が大きく見えてしまう…軽く首を振って気弱になりがちなところを振り切り、一言挨拶を述べてから二人は椅子に腰掛けた。
「早速だが…先の使徒戦において、リリン側のミスによって極めて大きな被害を出す結果となってしまった」
「…分かっています」
 正確に言うならば、リリンではなく東京帝国グループ自体…総会長であるレイラ自身と言うことになるのかもしれないが…それを言うことは出来ない。
「あの様な作戦を実施していなければ、色々と準備する時間があったであろうし。あるいは実施したとしても、あの様なことでなく、致命傷を与えることが出来ていれば結果も大きく変わっただろうな…」
「まあ、準備に関しては我々にも非がないとはとても言えんがね」
「…その通りですね」
 ある程度以上の結果をあげていれば…その作戦に依存し準備を怠ったと言えるかもしれないが、あからさま大規模人災を引き起こした上にさしてダメージを与えなかった。あの作戦でもたらされたものはマイナス要素しかない。
「…現在ネルフは、参号機、伍号機、七号機の3機しか戦力を保有していない状況となってしまった」
 囮を使う作戦をリリンが提案した。リリンが保有するエヴァは最強の初号機と最弱の零号機…初号機を囮にするなどと言ったことはとても出来ないし、零号機では囮にならない。攻撃役がどの機体になったとしても必然的にネルフが囮役を出し…1機エヴァを犠牲にしなければならなかった。
「こちら側の最大の戦力である九号機が使えなくなったことは極めて痛手と言えるな…」
「確かにそうですね…」
 そちらのことには触れず、九号機のことについてのみ言うのに一瞬不思議を感じたが…この後に何か来ると感じて身構える。
「そこで、リリン側から九号機のパイロットを補充したいのだがどうかね?」
「…リリンからですか?」
「ああ、零号機の操縦者である綾波レミを九号機の新しい操縦者として当てたい」
 榊原の眉がぴくりと動く。
(…真意は何だ?)
 色々な可能性が考えられ、直ぐには判断できない。
「…どうかね?」
 可能性を一つ一つ考察している時間を与えてはくれそうにない。
「こちらとしては、九号機と四号機、2機分の戦力を失っているわけだが…」
(…妙だな……まさか、気付かれたのか?しかし…)
「…エヴァは基本的に専属制ではなかったでしょうか?乗る機体を変えてしまった場合は…」
「資料を見る限り、綾波レミと零号機の相性がいいとは到底考えられない。ならば九号機に乗せてみるのも悪くはないだろう」
「まあ、機体に関しては色々とある以上動かすことは出来ないからな…今回は総合戦力を上げるという意味も大きい。総合戦力が下がる…と判断される場合は、なかったことにするのが妥当だろうがな」
「零号機に関してはその特性上初号機の予備、あるいは、初号機のパイロット二人をそれぞれ乗せるというパターンの方が有用に活用できると言う考え方も出来るな」
 気付かれてしまった可能性を疑える。しかし…だからと言って、この会談の結果にどうこう影響するわけではないが…
「各種試験や判断の時間も必要だ。出来る限り早く済ます事が望ましい」
 榊原は上手い切り抜け方が無いか考えたが…この二人相手に通用するような方法は思いつかなかった。
 小手先の事では通用するとは思えないし…場合によっては何らかの政治的な決着を図ってくるかもしれない。
 ここで拒否すれば、この後の状況が悪くなると考えられる。
「…妥当かもしれませんね。総戦力が下がるという場合は無かったことにすると言う訳ですし」
「しかし、彼女が今負っている役目は、単に零号機のパイロットという枠を越え、その他のチルドレンを心理的にサポートするというものも加わっています。単純に両機の能力だけを見て決めるというわけにも行かないのではないでしょうか?ネルフ側に移り、更にこれから各種実験・試験・訓練が詰まっていると言うことになれば、リリン側のチルドレンとの接触可能な時間は大きく減るでしょう」
「確かにそうだね。しかし、いくらエヴァが心理的な兵器だからと言って、心理的なサポートが無くなったから、即1機使えなくなる…と言ったことはないだろう。ある程度の目安を定めて、それよりも上ならばと言う風に条件を変えようか」
「…そうですね」
「シンクロ率75%でどうだ?」
「75か…九号機はSS機関搭載型だ、それだけの値を出せるのならば、他の機体のシンクロ率がよほど大きく下がりでもしない限り総合戦力は十分に向上するな…しかし、少し厳しすぎないか?」
「かまわんよ…確実に総戦力が増加するラインだ。最も、リリン側が、この数値を下げてくれるのならありがたいことだが…」
 75%…専用のコアを使わないのであれば常識では考えられない数値である。しかし…それを平然と言ってのける以上、分かっていっているのだろう…レミを九号機に乗せれば、80を軽く超える数値を叩き出すと言うことが…
 結局、ネルフ側の要求を飲むしか選択肢はなかった。
 その後今後の事に付いていくつか決めたが、確かに重要なことばかりであったが先の事に比べてしまえば些細な事でもあった。


 リリン本部の司令執務室にレミが呼び出された。
「…すまない、」
 榊原は書類をレミに見せる。
 謝られながらと言うことに、悪いことだと言うことは確定なので顔を顰め、読み始めた。
「…!…ネルフに?それも、九号機に!?」
 驚き…それが一番大きかっただろう。
「…気付かれたのだろうが…」
「でも…確かに、正論ね」
 根拠付けとしては十分だろう。
 蹴ろうとすればそれなりの理由付きで蹴れないこともないが、あの二人相手では後々非常に拙くなるだろう。
「ああ、」
「…で、いつからなの?」
「明日からだ。時間が無いと言う事でな」
「…そう…」
 榊原は頭を下げる。
「いいわよ、生き残るためにはこれが最善の方法なんだしね…」


 ネルフ本部のシミュレーション待機室でマナとヒロが訓練の開始を待っていた。
「…人が減っていくね…」
「…そうだね…」
 使徒戦はもう直ぐ終わりを迎える…しかし、仲間の数も減っていっている…ケンスケの見舞いに行っていたトウジとヒカリがやってきた。
「おはよう…」
「おはようさん」
「おはよう」
「おはよう」
 軽く挨拶を交わすが、やはり暗い…明るくなる方が変ではあるが…
 暫くしてリツコが入ってきた。
「おはよう、ちゃんと揃っているわね」
「二人の事は、残念なことだけれど…今、その事を考えていても仕方がないわ…振り返るのは全てが終わってからにしましょう」
 5人は一緒に待機室を出た。


 シミュレーション司令室、
「いつでも始められます。」
「よろしい、では早速始めて、」
「「はい」」
 オペレーター達が機器を操作し、モニター上に様々な表示が現れる。
「…先輩、これを、」
 リツコがマヤの手元のモニターを覗き込むと、3機のシンクロ率が表示されていた。
 アスカとケンスケを失った事が随分悪影響を及ぼしているのか、皆かなり下がっている上に少し不安定である。
「…困りましたね。」
「…ネルフ側の戦力は、相当に下がったと言えるわね…」
(…九号機と綾波レミのシンクロが上手くいけば戦力は整うのだけれど。後1体、何とかなるかしら?)
「…そうね、今日の訓練は、少しレベルを下げて回数も少し少なめにしましょう」
「分かりました」
 そして、今日の訓練が開始された。


 11月23日(月曜日)、
 そうして、レミはここネルフ本部の起動実験室にいた。その中央に拘束具によって動きを封じられたまま九号機が立っている。
 今…この九号機のコアに母キョウコが眠っている。
 だが、色々な意味で、この機体はアスカが乗るべき機体でありレミが乗るべき機体ではない。
 それなのに…自分が乗ることになってしまった。
「…仕方ない…か、」
 生き残るにはそれが最善の道なのである…レミは軽く天井を見上げ、そしてエントリープラグに乗り込んだ。
 様々な想いを抱きながらレミは起動実験に臨んでいるが、その想いを知らない者達が起動実験司令室で、起動実験の準備を行っていた。
「準備完了しました。」
「では、これより、九号機の起動実験を行います」
「実験スタート」
 リツコの指示でオペレーターが機器を操作し始める。
(問題は見当たらないわね)
 そして、行程は順調に進んでいく。
「凄いです…数値が軒並みアスカを越えています」
「そう、凄いわね…」
 モニターに表示されていた数値は殆どがアスカを超えている…この分ならば、シンクロ率も相当な値をはじき出すに違いない。
 しかし、リツコの反応はどこかあっけないものであった。
「絶対境界線突破します」
 いとも簡単にあっさりと九号機は起動した。
「SS機関動作安定、出力問題なし、」
「シンクロ率は…96.3%です!」
 司令室に驚きの声が漏れる。
「凄いわね…これはもう完全に主力ね」


 一方、その九号機の中で、レミは、久しぶりにキョウコとのシンクロすると言う感覚を味わっていた。
(…ママ…ごめんなさい…)
 特にアスカのことで兎に角キョウコに済まなく思え、無性に謝りたくなった。
 キョウコのことを意識してシンクロしたのは、今回を含めて2回…最後の決戦の時の僅かな時間だけだった…今、キョウコとのシンクロで、母を感じていたい…母に包まれると言うことを味わいたい…その一方で、様々なことを語りかけたい…そう思うが、それを実行しようと言う気にはとてもなれない…それだけの状況と言うことなのだろう。
 レミは一つ大きく溜息をついた。


 総司令執務室、
「今回の実験や各種検査の結果も会わせた結果、綾波レミ=惣流アスカが確定しました」
「そうか、」
「又、タイムトラベラーである確率も70%近くまで上がりました」
「…それが答えだな」
「しかし、これで大きな戦力が手に入った事になるな」
「ああ、更に、計画も1つ進んだ」
 碇はにやりと言ったような笑みを浮かべる。


 シンジはケーキを持って特別執務室に入ってきた。
「レイラ、ケーキを焼いてみたんだけど食べる?」
「…あ、うん」
 執務机でのろりのろりと書類を片付けていたレイラはゆっくりとシンジの方に視線を向けた。
(…かなり拙いな…)
 自分が犯してしまった罪への贖罪と言う気持ちで今仕事を進めているのだろう…そしてその仕事がら、その仕事をすることでどうしても自分のミスによって起こしてしまった被害のとんでもなさを知らずにはいられない…
 今、レイラの回りからテレビや新聞などは全て排されている。書類に記載されている文字や数字だけでもこれなのに、映像やら画像やらをレイラに見せると言うことはとてもできることではないから…
 そのため、シンジも今日初めて報道を目にしたのだが、未だ正式な発表がされていないからか、様々な憶測が垂れ流されていた。
(僕が支えてあげなきゃ)
 今、レイラをちゃんと支えてあげられるのは自分しかいない。だからこそ全力で支えるのだ。シンジは再び自分に言い聞かせてから口を開いた。
「レイラ、これ食べたら一緒に散歩でもしない?」
「…散歩?」
「うん、散歩」
 レイラは頷いた。


 そして、ケーキを食べた後、二人はジオフロントを散歩することにした。
 ジオフロントの中の林を歩いている。
 新鮮で涼しげな風が吹いてきて心地良い…だがシンジはなんと声をかけたらいいのかわからず、悩みながら歩いていた。
 果たしてレイラにどう言う言葉をかければ、レイラの状態がいい方向に向かってくれるのだろうか?そればかりをずっと考えていたが結局思いつくことはなかった。
(…会長かルシアさんがいてくれれば…)
 二人が…いや、一人だけでも生きていてくれたならば…このようなことにはならなかっただろうし、仮にそうなったとしても、レイラがここまで追いつめられてしまうようなことはなかっただろう…
 本当に今のこの状況はあのことから始まったのだ……
「……、レイラ、」
「…何?」
「ん…そろそろもどろっか?」
「…うん、」
(…失敗だったなぁ、せめてもっと考えてから誘えば良かった…)
 結局シンジも少し暗くなってしまいながら来た道を戻り始めた。


 11月24日(火曜日)、リリン本部付属病院、
 もうシンジ自身は大丈夫だと思っているが、だから受けないと言うわけにもいかず、こうして検査を受けていた。
「はい、以上で終わりです」
「どうですか?」
「そうですね…未だ激しい運動はすすめられませんけれど、日常生活的な運動なら問題ないですね」
「ありがとうございました」
 シンジは頭を下げた。


 そのころネルフ本部のシミュレーションシステムで、レミも加わっての訓練が行われることになった。
「綾波2佐、期待しているわよ」
『…そっ』
 余りやる気がないのか、反感からなのかは分からないがどこか素っ気ない雰囲気で返してくる。
「準備できました」
「では始めて、」
「はい、では、シミュレーションを開始します」
 仮想空間内で使徒と戦闘を開始した。
「すごいですね、綾波2佐って…でも…」
「そのことは機密よ、」
「…はい、」
 マヤは何かつぶやいてから作業に戻る。
 レミの能力はアスカを超えていた。
(…本当に強いわ…さすがアスカの将来と言うだけはあるわね)
 最後の使徒戦に向けて極めて大きな戦力が手に入った。四号機を失ったことはあるが、ネルフの戦力としてはそう大したマイナスにはなっていない。


 蘭子が、続々と日本やその周辺に向かっている艦隊や出撃の準備をしている艦船の衛星映像を見ていた。
 名目は使徒にそなえるための軍隊…しかしその実態は、使徒を殲滅した後ネルフ・リリン・日本・東京を攻撃するための軍隊である。
 別のモニターには日本を目指す無数の航空機が映っている。こちらに関しては4島上空への侵入は許可があるまで禁止すると言うことになったため、太平洋上の島や、千島・樺太、朝鮮半島、沖縄などで待機することになるだろうが…日本列島は完全に包囲された状況になる。
「実際に戦闘となるとまずいわね…」
 いくらこちらは最新の武装を揃えているとは言え、圧倒的に数が違いすぎる。自衛隊を除く国連軍も第1・3・4・5方面軍に、3大海洋艦隊と勢揃いである。
 実質的に機能している地球上の海空戦力の殆どが日本とその周辺に集結することになる。
 蘭子が溜息をついた時、ミユキが慌てて駆け込んできた。
「どうしたんですか?」
「ゼーレの配下の武装組織の隠れ場所が100を超える数で確認できました!」
「本当ですか!?」
「これを……」
 蘭子はファイルに目を通していく。
「…国内の拠点もかなり多いわね」
「はい、」
「……仕掛けますか?」
「ええ、そうね……一気にいける?」
「確認してみます。たぶん殆どを同時に攻撃することが出来ると思いますが」
「上手く行くことを願うわ」


 ゼーレ、
「各軍の準備は?」
「順調と言えるところと言えないところが有るようだな」
「揃えられるだけで良い、」
「エヴァは?」
「順調だ。間も無く全て揃う」
「後は、時を待つだけだ」


 11月25日(水曜日)朝方、ゼーレ配下の部隊が潜伏しているビルを東京軍と戦自の部隊が少し離れて包囲していた。
 5階建てだが少し広いビルである。
 やがて突入の準備が整ったようで、後は突入の命令が下ればいつでも突入できる状態となった。
 そのまま命令が下る…すなわち他の場所でも準備が出来る時を待つ。
 緊張した空気に包まれている…随分時間が経ち、いらいらしてきた隊員が出てきたころ漸く突入の命令が下った。
 催涙弾などを各階の窓を突き破って撃ち込み、号令とともに一斉に突入を開始した。
 敵の姿を確認すると同時に銃弾を放ち、次々に射殺していく…しかし、突入に対して準備がしてあったのか、直ぐに抵抗が始まり、大きくなった。
 奥の部屋から無数の銃弾が飛んできて奥に進めずに、今は何かの陰に隠れてこちらも反撃しながら様子をうかがっている。
「あちらさん随分頑張っているなぁ…」
 どこかのんきな口調で喋る戦自の隊員に、ちょうど隣にいた東京軍の兵士はやれやれと言ったような表情を浮かべる。
「まっ…このままじゃ埒があかないし…この壁ぶっ壊すか?」
 その言葉を聞いた者は部屋の壁を見つめた。


「…なかなか時間が掛かっているな…」
「随分抵抗が激しいようですね」
 戦自と東京軍のそれぞれの部隊指揮官がビルの外で様子を見ながら話をしていたのだが…突然ものすごい音が聞こえ、窓から火柱が飛び出した。
「なに!!」
「何があった!!?」
 次々に爆発音が響く…3階の窓の一つから戦自の隊員が火柱とともに外に吹っ飛ばされてきて…そのまま地面に落下する。直ぐに外で待機していた隊員達が駆け寄る。
「……相当厄介だな」
「状況知らせろ!」
 暫くして状況が把握できてきた…様々な罠が仕掛けられていて、それらによって被害を受けた上に、混乱したところに敵が突撃してきたため更に大きな被害を出してしまっていた。
 今は、罠の心配で迂闊に進めなくなり、膠着状態に陥っていた。
「こちらも十分に準備をするべきだったのだろうな…」
「…半日程度の準備期間で数十カ所を同時攻撃だから、無理があっても当然かもな」
「…よし、ビルごと吹っ飛ばすことにしよう」
「それが良いな」
「爆薬を仕掛けて退却だ」
 暫くして次々に隊員達がビルから退出てくる。
 戦闘がビルの中で行われていたが、それが無くなり中対外の撃ち合いになる…車などを遮蔽物にして窓を狙っていたが…バズーカー砲のような者をぶっ放してきた。
 車が爆発しそれを陰にしていた隊員達が吹っ飛ばされる。
「未だか!?」
「あと5名まだ中にいます!」
 センサーが隊員の反応を伝えている。
「建物の陰に隠れろ!」
 暫くして5名ともの反応が消えた。
「…爆破しろ」
 そして、仕掛けられた爆薬が爆発させられた瞬間周囲が光に包まれた。


 準備が不十分だったことや、予想を遙かに上回る抵抗によって多くの場所で全体的に苦戦を強いられていたが…特に苦戦を強いられていたものの一つで、ビルごと爆破に踏み切ったところのモニターが消え、俗に砂嵐と呼ばれるものになった。
「何が起こったの!?」
「暫くお待ち下さい!」
 それが気になるが…他にものに視線を移す。
 現在も交戦が続いている場所は15カ所ほど…残っているものは抵抗が随分激しい。
「…どう?」
「先ほどのものは、不明だが…残る15所の内13カ所の制圧は時間の問題だな。残る2カ所に関しては応援を差し向ける」
「ええ、」
 暫くしてあの場所の映像が入ってきた…ビルがあったと思われる辺りはビルが破壊され瓦礫の海と化していた。
「…何これは?」
「かなり大規模な爆発があったと考えられます…部隊も大半が巻き込まれたかと…」
「それだけ大量の火薬を蓄えていたと言うこと?」
 暫くして、蘭子はふと分かった。
「最終手段は自爆よ!」
 蘭子が叫んだ瞬間一つのモニターが真っ白になった後砂嵐になった。
「自爆…ですか?」
「ええ…あれだけの爆発力があるだけの爆発物を保有しているのなら、もう駄目だと言うことになったらそれに火を付けるわ…」
 緊張が走る…残るは11だが…と思った瞬間又一つ光に包まれた。
「拙いな、直ぐに待避させろ、このままでは大変なことになる」
 救也によって退避命令が出されるが…まるで、逃がさんとでも言わんばかりに、次々にモニターが砂嵐に変わった。
「…残念ね……戦果と被害を纏めてくれる?」
「はい」
 作戦目標は達成することが出来た。
 しかし…その被害は予想していたものよりは遙かに大きな物となってしまった。


 ゼーレ、
「…諸君、先ほど日本とあちら側の国に潜伏していた部隊ががほぼ全滅させられた」
「何ですと?」
「そんな馬鹿な!」
「事実だ。どこから情報が流れたかはわからんが、このことで決戦時に平衡して何か事を起こすことが難しくなった」
「未だに、我々の方が単純戦力では大きいと言うことは変わらない。だが、これからもこのような形で情報が流れた場合は、経済力で劣勢に立たされている以上、不利な展開になってしまうかもしれない…そう言うことですな」
「具体的にはどう対策されるおつもりで?」
「当然裏切り者への粛正は必須でしょう」
「見当はついておられるので?」
「奴ではないのか?」
「…鈴か?」
「なるほど、奴ならばありえますな」
「しかし、奴であるとすれば、東京帝国グループあたりが既に保護しているのではないですかな?」
「日本の部隊はもはや殆ど動かせない以上、居所が分かったとしても、粛正できるかどうか難しくないですかな?」
「……裏切り者は、ほぼ間違いなく奴だろう。今まで良く役に立ってくれたが、今回の損失は、決して小さくはない。だが、逆に言えば奴はもう行動することが出来ない」
「なるほど、確かにそうなりますな」
「優位に立っている以上、下手に動く必要はない、だが、奴が持っている情報が役に立たないようにしなければならない」
「その通りですな」
「その対策だけで十分だ。どのみち未だこちらから攻勢に出られる場面でもないのだからな」
「…今日のところはこの辺りだ。特に何もなければ各々最善を尽くすように」


 東京帝国グループ総本社ビルの副会長室で救也と加持がソファーに腰掛け向かい合っていた。
「非常に上手く行った…ご苦労だったな」
「いえ、」
「…君の保護に関してだが、とりあえず、結果が出るまでは用意した場所に身を隠して貰う。その後は、それから考えよう」
「分かりました」
「…もう、あまり多重はしない方が良いぞ」
「ええ、分かっていますよ…僕の知りたいことはみんな分かりましたからね…もうこんなことをしてまで知りたいと思うことはないですよ」
「…そうか、なら良いが、」
「では、僕はこの辺りで失礼します」
「ああ、」


 ネルフ本部総司令執務室、
「…どうやらかなり良い方向に転んだようだな」
「ああ、ゼーレと東京帝国グループが争えば、漁夫の利を得ることになるのは我々だからな」
「しかし、良かったのか?彼は色々とネルフの機密も知っているぞ」
「かまわんよ…彼が知っている情報は、東京帝国グループにとっては大して役にはたたんからな」
「確かに、東京帝国グループが彼が知るような情報を使って今すぐどうこうすると言うことはでき無いかもしれんな」
「そう言うことだ。地理上、計画の性質、そしてネルフが持つ鍵からどうしてもそうなるからな」
「…我々の強みだな」
「ああ、皇耕一や皇ルシアが生きていればともかく、今の東京帝国グループ・リリンのメンバーとその力ではそこまでのことはできん」
「油断は禁物だが、彼らほどのことは出来ないと言うことは事実だな…能力的にも動かせる物としても」
「後は地盤を固め、作戦の準備を万全とし、最後の使徒を迎え撃つだけだ」
「ああ、」


 シミュレーション司令室、
 リツコはモニターを見つめながらじっと考えていた。
 この調子ならば、十分にこれから来る使徒とも戦うことが出来るであろう。しかし、これからの敵はそれだけではない…どこかで、量産機戦を想定した訓練を行う必要があるが、果たしていつからそれを開始すればいいのか…ゼーレ側には、切り札として上位組織としての手段がいくつか存在する。
 ゼーレ側が一気に有利になるようなネルフのトップを全てゼーレ派にすげ替えるようなことは東京帝国グループ側が絶対にさせないであろう。だが、明らかすぎる非常に大きな問題があれば、ゼーレ側の人間には出来ないまでも、少なくとも首脳部を纏めて解任するくらいは出来ると思われる。そうすれば、ネルフ自体はともかく、今の首脳部は終わりである。
 いつ、どのようにしてゼーレ戦を準備させるのか……
「先輩?」
「あ…何?」
 リツコは、マヤの言葉ではっと気づいた。
「あ、いえ…レベルをあげましょうか?と聞いたんですけど…」
 素早く表示に目を通す。
「ええ、2つあげて」
「はい、分かりました」
(……司令に聞いてみることにしましょう)


 秘書室についているキッチンでシンジとレイラがプリンを作っていた。
「シンジ君、出来たよ」
「うん、じゃあ後は、冷蔵庫で冷やせばできあがりだね。出来たら一緒に食べよ」
「うん」
 その光景を、郁美が何かを思いながら見つめていた。
「結城さん」
「あ、は、はい!」
 秘書官から声をかけられて驚きうろたえる。
「くすっ、どうかされたんですか?」
「あ、ううん…そ、その気にしないでね。で、な、何かな?」
「はい、今日の分が届きました」
「…そ、そう、」
 郁美はレイラの決裁を必要とする書類の束が入った封筒を受け取り、じっとその封筒を見つめる…そして、机の上に置いた。
(…後で良いよね…)
 今の二人を邪魔をしたくない…いや、邪魔できなかった……


 ネルフ本部の総司令執務室では、リツコがいつ対ゼーレ用の準備を本格的に始めるのかについて相談をしていた。
「難しいな…早すぎると、ゼーレ側の攻撃の理由を作ってしまう」
「かといって遅ければ、対応できないまま、最悪の場合は全く何もしないまま決戦にもなりかねん」
「それも避けねばならんな」
「…最後の使徒からゼーレとの決戦までどのくらいの時間があるかな?」
「わからん…使徒がいつ来るのか、又その被害はどれほどか、量産機の完成具合によっても大きく変わる」
「まもなく世界中の軍隊が日本に集結しますしね…」
「…いつが最適かな?」
「こればかりは賭だな…」
「はい、」
 碇はじっと考える…果たしていつが最適なのか…最終的には勘に頼るしかないが…ある程度は絞り込んでおきたい。
「…今週いっぱいはこのまま続けろ、来週から順次対策を始める事とする。だが情報の流出には重々気をつけろ」
「分かりました」
「…長引いたら負けだな」
「ああ、だが…最後の使徒戦の後は、ゼーレ側は出来うる限り時間をかけたくないはずだ。東京帝国グループとの事があるからな」
「…賭が上手く行くと良いな」
「ああ、」
 
 
 レイは昼間であるにもかかわらずマンションの部屋に閉じこもったままであった。
「…碇君…レミ……」
 クッションをぎゅっと抱き寄せる。
 シンジもレミもレイの回りからいなくなってしまった…今、レイは本当に孤独というものを味わっていた。
「…寂しいのね…私……辛いのね…私…」
 抱き寄せていたクッションに滴が落ち小さなシミを作る。
 かつてならば、孤独というものは感じなかっただろう…時には近付いてくる者は心を乱す存在でしかなかったこともあった。だが、今はこの状況を孤独で淋しいと感じている。
 人のぬくもり…人と人とのつながりを感じてしまったからなのか?だから、こんなにも辛いのだろうか?
 クッションをしめらせ続けるレイがいる部屋のカーテンは、昼の明るい光を遮ったままであった…

あとがき
マナ 「何よこれ〜!?」
アスカ「へ〜、アンタでもそう思うんだ」
アスカ「まったく…あれもこれも全てこの惣流アスカラングレー様があんな目に遭っちゃたからねぇ〜、」
マナ 「そんなのはどうでも良いわよ」
アスカ「あ゛?」
マナ 「別に惣流さんが死のうが生きていようと関係ないよ」
アスカ「ほ〜、アンタ良い根性してるわねぇ〜」(ポキポキ)
マナ 「そんなどうでも良い事じゃなくて、
    どうしてこのオフィシャルシンジ恋人
    私の出番が殆ど無いのよ!!!」
アスカ「あ〜そうねぇ〜そう言えば、今度でる鋼鉄のガールフレンド2ndでも出番ないみたいねぇ」(笑)
マナ 「これは差別よ!差別!差別反対〜〜!!!」
アスカ「元々原作にでてないゲームだけの一発キャラと区別してるだけよ」
マナ 「だったら、レイラさんなんか、元々存在してないじゃない!」
アスカ「そういやそうねぇ、」
マナ 「でしょ!」
アスカ「あ〜なに、そんなの問題ないわよ」
マナ 「ん?」
アスカ「だって、こんだけ、やばい状況になってきてんのに、
    自分の出番のことでぐだぐだ言っているような者よりはずっと良いから」
マナ 「むっ」
アスカ「ま、このアタシはやっぱり、メインキャラだからね、時には寛容な心を見せておかないと」
マナ 「ふ〜ん、そうなんですか、惣流さんがシンジに断罪されている作品が結構あるらしいですけど〜」
アスカ「あによ!そんなの関係ないじゃないのよ!」
マナ 「そんな直ぐに無気になって、惣流さんは寛容なんじゃないんですか?」
アスカ「むっ…」
ユイ 「まあまあ、二人ともそんな喧嘩してないで」
アスカ「あ、小母様」
マナ 「あ、お義母様」
アスカ「むっ」
マナ 「ふっ」
ユイ 「貴女みたいに可愛い子にそう呼んで貰うのも悪くないけれど、そう呼ぶにはまずシンジが認めないとね」
アスカ「だ、そうよ〜、ま〜せいぜい頑張りなさいよ〜」
ユイ 「アスカちゃんも、キョウコさんがみたらなんて言うか」
アスカ「う…」
マナ 「お知り合いなんですか?」
ユイ 「まあね。キョウコさんこっちでもでてくる様な展開になれば良いんだけど」
アスカ「表ではエピローグだったわね」
ユイ 「弐号機のサルベージが行われると言うことはそれだけ余裕がある展開と
    言うことにも繋がるし、そうあって欲しいものね」
ユイ 「アスカちゃんだって、今はああなってしまっているけれど、絶対に復活しないと言う訳でもないし」
マナ (む〜…お義母様の前じゃ、本音は言えない)
アスカ「小母様は司令達が何を考えているのか分かるんですか?」
ユイ 「そうね、少し前に話してもくれたし、あの人の考えていることはだいたい分かるわよ」
アスカ「流石ですね、アタシもシンジのことをそのくらい分かるようになりたいなぁ〜」
ユイ 「ふふ、頑張ってね」
マナ 「むっ…。ユイさん、それ少し教えていただけませんか?」
ユイ 「あら?どうして?」
マナ 「だって、シンジのためにも良いじゃないですか、父親が何を考えているのかと言うことを知れば…
    そこまで行かなくても、何かを得ることができたら、二人の間が改善するかも知れませんし」
アスカ「むむっ」
ユイ 「駄目よ」
マナ 「え」
ユイ 「二人の間のことは本人で何とかしないと、私たちはそのサポートはしても、
    直接それに関わっちゃ駄目よ」
マナ 「確かにそうですね…」(しゅん)
ユイ 「でも…二人ともそのサポート、お願いできるかしら?」
アスカ&マナ「「勿論です!!」」
………
………
アスカ「全く、小母様に取り入ろうとして、見苦しいったらありゃしない」
マナ 「そんなの惣流さんも同じでしょ、それどころか、貴女の方が見苦しさは上よ」
アスカ「一発キャラがよくそんな大口叩けるわねぇ」
マナ 「ふふふ、私はシンジの恋人だからね!」
アスカ「くどいわね!」
マナ 「惣流さんがくどいから仕方ないわねぇ」
アスカ「あんですってぇ〜!」
マナ 「ふふふ」
アスカ「この〜〜……、あ、司令」
マナ 「げ!」
碇  「……」
アスカ「ふ〜ん、シンジのお父様に、げ!ですって〜」
マナ 「う、うぐぐぐ…」
碇  「……」
アスカ「司令、司令に対して、げっ!!とか言う様な女が
    シンジの相手に相応しいと思います?」
マナ 「ぐぐぐ…」
碇  「関係ないな、私に対してどう接するとしても、
    それがシンジとの関係に直接影響することはあり得ない」
マナ (ほっ…)
碇  「しかし…さっきの口論はシンジの件か」
アスカ「あ…はい…」
碇  「ふむ……」
二人をじっと値踏みするように見つめる。
二人 ((うう…))
碇  「ふむ…シンジはもてるな」
碇  「私は、シンジを幸せにしてやることはできない」
碇  「最終的にシンジが誰を選ぶのかは分からない…
    だが、誰を選んだとしても、君たちもシンジが幸せになるように協力してくれると嬉しい」
アスカ「…司令…」
碇  「シンジを辛い目にあわせようとしている私が言うなど…この上なく勝手なのだが…」
アスカ「司令!アタシ、シンジが幸せになるように協力します!」
マナ 「あ、わわたしも!」
碇  「そうか…君たちが協力してくれるなら、シンジもきっと幸せになるだろう」
マナ 「そうですね、と、いうことで、惣流さん、私がシンジに選ばれたときも協力してくださいね」
アスカ「あ〜ら、そうねぇ、兆が一、そんなことになったら協力してあげるけど、
    逆の時も当然、協力して貰うわよ、くくく」
マナ 「ええ、良いですよ、京が一、そうなったときは協力しますよ、ふふふ」
碇  「………」
二人 「「ふふふふ」」
碇  (シンジは苦労するかもしれんな…)