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第9話

◆血を引きし者

ネルフ本部副司令執務室、
冬月は一人で考え事をしていた。
(恐らくは、天城ミクは碇と接触しているはず、下手に動かないほうが良い)
(そして、天城ミクは私に接触しようとするはずだ・・・どうすれば良いかな?)
『副司令殿、天城少佐ですが少しお時間を宜しいですか?』
「ああ・・構わんよ」
扉が開き、ミクが入って来た。
「盗聴の心配はありませんか?」
「ああ、この部屋の外に音が漏れない限り心配ない」
「そうですか、宜しいですか?」
「ああ」
ミクはソファーに座った。
「君に質問があるのだが」
「どうぞ、」
冬月はミクの資料を机に上に置いた。
「この資料・・・どう言うことかな?」
既にレナによってほぼ間違いが無い答えは齎されている。
「DNA鑑定はしたのでしょう?」
「ああ、だから聞いている。」
「では、お答えしましょう。」
「うむ」
ミクは一息ついた。
「2016年、サードインパクトが発生しました。」
「ちょっと待て」
「最後までお聞きください。」
「う、うむ」
「全ての人間はLCLに還りました。そして、LCLから人の姿に戻ったものは世界で6万人程度だと言われています。」
「そして、サードインパクト調査団は、サードインパクト発生地点を調査し、ネルフ本部から伊吹マヤを含む7名のネルフ職員と4名の戦略自衛隊員を発見します。」
(ここも同じか)
「そして、もう一つ、極秘にされましたが、地上で碇シンジと、惣流アスカラングレーの遺体を発見し、サードインパクト解明の為に冷凍保存します。日本での最終的な生き残りは699人でした。そして、本部と松代のマギの解析から、使徒の復活が判明しました。マギは使徒再来は2030年若しくは2031年と6体が判断しました。」
(ここも)
「歴史改造のため、伊吹マヤ率いる技術部は、冷凍保存されていた碇シンジと惣流アスカから私、ミクを作り出します。私の養父は、日本代表、現国際連合事務長官天城タイゾウです。」
(ここからが異なるな)
「そして、2028年、歴史改造計画が発動し、私は2014年にとび、先ずは、天城タイゾウと接触しました。そして、いくつかの事実を話すことで、彼を信用させ、国際連合軍に入り、漸く歴史の中心、ネルフに来る事が出来ました。」
・・・
ミクの話は終わった。
・・・
「そうか・・・で、私にそれを信じろと言うのか」
「はい」
「証拠は無いので、事実を話し、信用していただくしか有りません」
「・・・・」
「では、話してもらおうか」
「そうですね・・・何を話せば良いのでしょうね・・・私が過去に戻った影響からか、既にかなりの差が生まれてきていますからね」
「使徒の予言くらいでは、ゼーレのスパイとしか思えんからな」
「・・・」
「そうですね、あなたに会うのが少し遅すぎたようです。私の言っている事が本当かどうかは、私の行動を見て判断してください。」
「・・・分かった。」
「処で、碇には会ったのか?」
冬月は疑問をぶつけて見た。
碇の変わり様はミクの事では全てが説明がつくとは思えないが、関連性くらいは有るのではないか
「いえ、あの人は、真実を知っている者を殺しかねませんから」
それは、間違い無く真実である。
自分がその立場ならば、碇とは接触しない。
「そうか・・・・」
(違うと言うのか・・・では、何だ?)


マンション、
「「「頂きます」」」
「頂きます」
何故かワンテンポ遅らせるレイであった。
「うう〜美味しいよ〜」
本当にレナは幸せそうである。
ここまで喜ぶ者も少ない。
「アンタ一体どんなもん食べてたわけ?」
「え?保存用のペーストばかりです」
あれは美味しくない。
最近はそうでもない物も多いが、少なくとも食事を楽しむと言う事はありえない。
「・・普通の食事は・・年に一回、私の誕生日にお義母さんが・・・」
レナは俯きながら呟くように言った。
食卓の雰囲気が一気に暗くなった。
「・・レナは大切にされていたのね・・」
レナは顔を上げて軽く笑みを浮かべて頷いた。


夜、ネルフ本部ケージ、
碇が作業員を全て閉め出し初号機の前に立っていた。
「ユイ・・もう直ぐだよ、もう直ぐ、レイを処分できる。」
「そうすれば全ての願いがかなう、」
碇の視線は、初号機ではなく、その中のユイを見ているようだった。
足音がした。
碇は、足音の方を振り向いた。
其処には、ユイが立っていた。
「ふふ、待っていますわ」
ユイは微笑んだ。
「ああ、約束の時は近い、もう直ぐだよ」
「ええ、頑張ってください、貴方」
ユイの姿がゆっくりと掻き消え、碇は意識を失いその場に倒れた。
その後、一つの足音がケージの外へと消えていった。


翌日、第3新東京市東病院、病室、
ヒカリは、退院し、自宅と言っても新居だが、まあ、自宅療養する事になった。
トウジが荷物を纏めるのを手伝っている。
「委員長、他に荷物はあらへんか?」
ヒカリは病室を見まわしてから頷いた。
「ほな、行こか」
ヒカリは軽く頷き、二人は荷物を持って歩き出した。
トウジは女に荷物を持たせるわけには行かんと言い出したが、両手一杯に抱え、それでも足りなかったので、口でくわえようとしたが、流石にそれはと言う事でそれはヒカリが持つことになった。


ネルフ本部、発令所、
警報が鳴った。
「何事だ!」
『第3新東京市上空に謎の移動物体を確認!現在警報発令中!使徒とは確認できません』
レリエルである。


そしてケージ、
「どうするの?」
「私が中から倒す」
「大丈夫?」
「通常の使徒の作り出せる空間くらい簡単に破壊できる」


第3新東京市市内、零号機、
「作戦配置につきました。」
『零号機が先行、残る2機はそれを支援』
碇が直接命令を下した。
「「了解」」
『了解』
そして、零号機が攻撃した瞬間、影が消え、警報が鳴り、本体が零号機を飲み込み始めた。
『レイ!』
レイはシンジとアスカに笑みを向けた。
『レイ!早く逃げて!!』
『レイ!!』
ミサトの叫び声が消え零号機はほぼ完全に飲み込まれた。
「!」
レイは最後の発令所の映像に驚愕した。
叫ぶミサト、焦るリツコ、冷静な天城、心配そうな冬月・・・・そして笑っている碇
「碇・・・司令・・・」
零号機は完全に虚数空間に消えた。
「司令は、何を考えているの?私が勝つと確信しているの?分からない・・・でも、今は」
レイは12枚の羽を広げた。


地上、
影が内側から12枚の翼によって切断された。
翼が消え、影と本体が消滅し、零号機が影から落下し着地した。
『作戦終了、使徒を殲滅しました。』
レイは発令所の様子を見た。
碇はポーカーフェイスに戻っていた。


マンション、
「碇司令の様子がおかしい」
レイの意見に、シンジ、アスカ、冬月は同意した。
「取り返しがつかなくなる前に、お母さんをサルベージしたほうが良い」
「しかし、それでは、初号機が動かなくなるぞ!」
「初号機には私が乗ります。私なら操れます」
「僕は?」
「碇君は零号機に乗ることになるけど」
「暴走したんじゃなかったけ」
「確認しなければいけない」
「零号機に乗ったことがあるのか?」
「ダミープラグ開発の過程で」
「そうか・・・しかし、どうするのだ?」
「レナ、協力して」
「はい」
「私達はサルベージの草案を作ります。」
「しかし、直接操れるとすればリリスの覚醒に気付く者もいると思うが」
「碇司令に暴走されるよりは良いと判断します」
「だな」


そして、翌日、ネルフ本部、技術棟、
機体互換テストが行われていた。
「零号機起動しました。」
「シンクロ率は、大きく変動しています。」
零号機、
シンジは零号機の魂に触れた。
(母さんじゃない・・・でも、綾波でもない・・・・・2人?2人がいる)
(どっちも意思はない・・・コピーって事か・・・)
(・・でも、2人とも本人が現実にいる方が良いよね)
『シンクロ率80.69%で安定しました。』
『初号機ほどではないけど十分な数字ね』


夜、マンション、
「これでサルベージが可能になったな」
「はい」
レイとレナが協力してプログラムを組んでいる。
完成し次第実行に移せる。
冬月はユイが戻ってくるのが間近に迫っている為どこか嬉しそうである。


翌日、第3新東京市市内、展望公園、
レナが一人で散歩をしていた。
「ふぅ・・・綺麗ね・・・」
レナは景色を眺めた。
赤き空、赤き海、黄色や茶色の大地、サードインパクト後の死の世界とはまるで違う、青き空、青き海、緑の大地、生に満ち溢れた世界である。
妙な足音が近付いて来た。
「?」
レナは足音の方を振り向いた。
ペンペンがいた。
薄汚れ、羽は痛んでいた。
「・・ペンギン?」
「クァ」
「?」
レナはペンペンの視線がバスケットにそそがれている事に気付いた。
「ん?一緒に食べる?」
ペンペンは何度も頷いた。
その後一人と一匹はベンチに座ってお弁当のサンドイッチを開いた。
「私のお父さんとお母さん、本当に料理上手なんだ。はい、上げる」
レナはシーチキンと卵とレタスを挟んだサンドイッチを1つ取ってペンペンに渡した。
ペンペンは涙を流して食べた。
「うわ〜、ペンギンて涙まで流すんだ・・・私も食べよ」
レナは、卵とコロッケを挟んだサンドイッチを頬張った。
「美味しい」
レナは、良い景色を見ながら、美味しい食事をする楽しみを満喫した。
ペンペンは、久しぶりのまともな食事、それも、かなりの高レベルの食事にありつけて歓喜の涙を流し喜んだ。


夕方、マンション、
レナはペンペンを連れて帰って来た。
「お帰り〜」
アスカが先ず声をかけた。
「お帰り、夕飯はもうちょっと待ってね」
シンジの声がキッチンから聞こえる。レイもいっしょにいる筈である。
「ん?ペンペン?」
アスカは、ペンペンに気付いた。
一方ペンペンは、何故自分の名前を知っているのかと驚いた。
「ペンペンじゃん」
「アスカさん知ってるの?」
「ミサトんちの温泉ペンギン・・シンジ〜!ちょっと来てみなさいよ」
・・・
「何?」
シンジはエプロン姿で出てきた。
ここまでエプロンが似合う男子中学生はそうはいまい。
「ほら」
「あれ?ペンペン?」
ペンペンは又吃驚した。
・・・・
・・・・
ペンペンは綺麗に洗われ、いっしょに夕食を取った。
「なでなで」
「つんつん」
レイとレナがペンペンと戯れている。
二人とも妙に可愛い。
「腐界から逃げ出してきたのね」
アスカは其処まで評した。
「このマンションペットOKだし、ペンペン頭も良いから問題無いね」
「お父さん、飼っても良いの?」
「うん、でも、一応ミサトさんに聞いてからね」
ペンペンは顔色を悪くしてぶんぶん首を振った。
「・・知られたくない・・・家出なのね」
ペンペンは頷いた。
「でも駄目、碇君の望みはかなえられなければ成らない」
ペンペンは激しく羽根をばたつかせて抗議した。
シンジとアスカは苦笑した。
「良いよ、黙っておいてあげるよ」
ペンペンは笑顔になって跳び回った。