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第12話

◆ネルフ

早朝、碇邸、
部屋に良い香りが充満している。
シンジが起きて来た。
「ん?・・母さんおはよう」
「あら?おはよう・・もっとゆっくり寝てれば良いのに」
「体に染み付いちゃって」
軽い苦笑を浮かべた。
「そう」
「手伝うよ」
「じゃあ、お願いね」
シンジは、キッチンで調理の手伝いを始めた。
それから暫くして、レイが起きて来た。
「・・おはよう・・」
かなり眠そうである。
「あら?おはよう、早いわね」
「おはよう、綾波」
「・・手伝うの・・」
「そう、じゃあ、食器を並べてくれる?」
レイはこくんと頷き、食器を並べ始めた。
少し危なっかしい動きだったが、食器を並べ終わり、ソファーに横になって再び寝息を立て始める頃、レナが起きて来た。
「おはよう御座います」
「あらあら、おはよう、敬語なんか使わなくて良いわよ」
「おはよう」
レナはレイの姿を確認するとくすっと笑った。
そして、調理が殆ど終わる頃に碇が起きて来た。
「ユイ、おはよう」
「おはよう」
「シンジ、レナ、おはよう」
「「おはよう」」
そして、碇が席に着き、暫くして、アスカが起きて来た。
「ん〜、おはよ」
「「「おはよう」」」
そして、食卓に料理が並んだ頃漸くレイが目を覚ました。
口々に朝の挨拶を投げかけた。
レイは目を擦り、そして、最初に視覚に捕らえたのは、碇だった。
「・・・おはよう御座います・・碇司令・・・」
碇が泣きそうな表情をしたので、皆は笑った。


その日、ゼルエルが襲来した。


ネルフ本部パイロット待機室、
「私が行くわ」
「綾波、気をつけてね」
レイは頷いた。


発令所、
「じゃあ、リツコちゃん、レイちゃんを初号機に、シンジを零号機に乗せてね」
「え?あ、はい?」
「言われた通りにね」
リツコは反論しようとしたが、特に、その根拠は見当たらず、仕方なく、指示を下した。
「エントリー開始、」
「各機起動・・・・先輩これ」
「・・・・信じられないわね」
「どうしたの?」
「初号機とレイのシンクロ率が100%なのよ」
「凄いじゃない」
単純にミサトは驚くが、リツコは首を捻っている。
ユイがいないのならば、むしろ下がった方が自然なのだが・・・何故?
「出撃させろ」
威圧感90%減の碇であった。
「了解、出撃!」
3体のエヴァが射出された。
(レイがコアを介さずにシンクロしている・・・・まさか!!!)
そして、一つの結論に至った。
ゼルエルが外輪山を越えた。
「各機攻撃開始!!」
初号機と弐号機が援護射撃をして、初号機が突撃した。
「速い!!」
ゼルエルが強烈な光を放ったが、ATフィールドに弾かれた。
「初号機のATフィールドが完全に弾いています」
(初号機のじゃない・・・レイ・・いえリリスのATフィールド)
(覚醒している)
リツコはその結論に恐れを抱き、汗を垂らした。
初号機はゼルエルのATフィールドを突き抜けコアに拳をぶつけ破砕した。
「目標沈黙!パターンブルーも消えました。」
「シンジ、レイちゃん、アスカちゃん、御苦労様、」
ユイがいるおかげでずいぶん発令所の雰囲気が良くなった。


赤木研究室、
リツコはレイを分析していた。
「間違いないわね、覚醒している。でも・・・・レイ、いえリリスは何を考えているの?」


総司令執務室、
「レイは完全に覚醒しているものと断定します。」
「うむ」
「問題ない」
「レイは私達の娘ですよ」
「し、しかし、リリスの力は危険すぎます」
「大丈夫ですよ」
「何か隠してませんか?」
「ええ」
ユイは笑顔で答えた。
「教えていただけますか?」
「う〜ん、簡単に答えを得ようとするのはいけない傾向よ、自分で答えを見つけなさい、ねえ、冬月先生」
「う、うむ」
「リツコちゃん、子供達に迷惑が掛からない方法で調べてね」
このまま聞いても何も教えてはくれまい、ここは自分で調べるしかないと言う結論至った。
「・・はい」
「処で、貴女にも聞きたかったんだけど」
「何ですか?」
碇が汗をかいている。
「私の主人がずいぶんご迷惑をおかけしたみたいで」
「え・・・・」
「・・・碇・・お前、まさか、赤木博士と・・」
碇の汗の量が増えている。
「碇、確か、ナオコ君ともそういう関係ではなかったか?」
「え?」
碇の顔から滝のように汗が流れ落ちている。
「・・・・リツコちゃん」
「は、はい・・」
「私の子供たちのこと宜しく御願いしますね」
「は、はい」
碇は涙を流していた。
「あ、そうそう、反省するまで、帰って来ないでね」
涙は滝のようになっていた。


碇邸、
「あれ?おじ様は?」
「忙しいんじゃない?」
「今、反省中よ」
「は?」
ユイは紅茶を飲んでいる。
「レナちゃん」
「はい」
「レナちゃんの戸籍はどうしたら良いの?」
「そうですね・・・伊吹姓を名乗るのはちょっと」
「碇レナになっても良いけど」
「う〜〜ん」
レナは悩んでいる。
「まあ、直ぐに答えを出す必要は無いわ」
「はい」
「同じように、どちらが碇姓になるかもね」
シンジとアスカが吹き出した。
「母さん!」
「ユイさん!」
「あらあら、どうかしたの?」
確信犯碇ユイ、
レイは真っ赤になって俯いていた。


ネルフ本部、天城ミクの執務室、
ミクは巨大かつ複雑なフローシートをなぞっていた。
「おかしい、どう考えてもおかしい」
「私の影響があるはずの無い事までが変化している」
「人類補完計画、難しいか・・・」
「私は神になる!その為に今を生きている!こんなところで挫けてはいられない!」
「でも、どうしてだろ?」
「・・・・まさか他にも戻ってきている奴がいるの?」
気付くのは遅過ぎただろう。


翌々日、第3新東京市立第壱中学校、2−A、
授業参観日である。
ヒカリも、後は心の問題だけなので、一般社会にいた方が良いと判断され、今日から復帰している。
ヒカリの不便さをトウジが補っている。
父兄が集まって来た。
セカンドインパクト以前は殆どが母親であったが、片親が多いため3割ほどが父親である。兄や姉の場合もある。
そして、ユイが教室に姿をあらわした。
「うお〜、綺麗な方や〜」
ヒカリは怒鳴る代わりにトウジの耳を引っ張った。
「・・・・綾波の姉か?ひょっとして?」
ケンスケ以外もそう思っているものがいる。
「シンジ、綾波に姉なんかいたのかよ」
「え?綾波のお姉さん?」
シンジは一人目の事を考えた。
「おい、どうしたんだそんな変な顔をして?」
「いや、如何してそんな事思うのかなって?」
「だって、あの人、綾波の姉だろ」
「え?」
ユイが手を振っている。
「あ、僕の母さんだよ」
「「ナニィ!!!」」
「シンジ!どう見ても!20くらいじゃないか!」
「・・・一応、戸籍上は30後半なはずだけど」
「馬鹿な!」
教室中の視線がユイに集まっている。
ユイは微笑んでいるだけである。
「綾波に似すぎだぞ」
シンジはわざと声を落として寂しそうに言った。
「一応、母親が同じだから・・・」
トウジとケンスケはこれ以上聞く気にはならなかった。
(作戦成功)
老教師が入って来た。
「起立!」
「礼!」
「着席!」
ヒカリの声代わりのトウジが号令をかけた。
「では、・・・・あれ?」
「ひょっとして碇さんですか?」
「お久しぶりです先生」
ユイが頭を下げた。
((((((((((どう言う関係?))))))))))
ほぼ全員が気になっていた。
「22年ぶりですかね」
「ええ」
「相変わらずのようですね」
「ええ、子供たちがお世話になっています」
「息子さんは優秀ですよ」
完全に世間話に突入中である。
「おい、委員長?とめんでええんか?」
ヒカリは頷いた。
「それは、私の大切な子ですから」
「そうですね、貴女は、桁が飛び抜けて優秀でしたからね」
「そんな事は有りませんよ」
「謙遜するところも変わってませんね」
「アインシュタイン博士には及びませんから」
((((((((((おい〜〜!!!!))))))))))
「私は、碇さんの方が上だと思ってるんですけどね」
((((((((((ちょっとまてぇええええ!!!!))))))))))
「いえいえ、そんな事は有りませんよ」
「そう言う所変わってませんね」
「御自分の主張を変えないあたり、先生も相変わらずですね」
「そうですね、碇さん、以前のように貴女が授業をやってみませんか?」
「いえ、それはちょっと・・」
「そうですか?残念です。あのクラスの平均偏差値が72まで上がったのは、碇さんのおかげだったんですが」
((((((((((何い〜〜〜!!!))))))))))
「私なんかじゃ時代遅れですよ」
「貴女なら時間の超越くらい出来ますよ」
「先生そんな事を言っていないで、子供達に授業を受けさせてあげてくださいよ」
「そうですね」
老教師は1息ついてから授業をはじめた。
そして終わった。
「碇・・・とんでもない親を持ったな」
「・・・・うん・・・・どっちもね・・・」
ミクは終始ユイを睨んでいた。


総司令執務室、
「そろそろ、話すべき人には話しておいたほうが良いと思うんだけど、」
「赤木博士か?」
「いえ、彼女には課題で与えましたから、ミサトちゃんとマヤちゃんね」
「君たちはどう思う?」
「加持さんにも話しておいても良いとおもうけど」
「ミサトはセカンドインパクトのトラウマ持ってるのよ、話したら、それこそ、おじ様を殺しかねないわよ」
「あら、それは自業自得よ」
「ユイ〜〜!!」
そして、2名が呼ばれた。
「来たわね、」
「はい」
「これから貴方達には真実を話します」
「え?」
「でも、先輩は?」
「一応逆上するといけないから拳銃は預からせてもらうわ」
「はい、どうぞ」
ミサトは拳銃を取り出してユイに渡した。
『すみません遅れました。』
加持が遅れてやって来た。
「加持、あんた司令部からの直接の呼び出しに遅刻するなんて」
「すみません」
加持は深く頭を下げた。
「加持さんに前に話した事とかなりダブルと思うけど、まあ聞いてて」
「了解した」
「さてと、セカンドインパクトの事は、あなたから話して貰いましょうか」
「わ、私がか」
「当然です」
「し、しかしだな」
「ふ〜ん」
「わ、分かった」
碇は一呼吸置いた。
「では、話そう・・・話は、1977年に遡る。」
その後話された内容は、次のような物であった。
死海文書を発見したゼーレはその解読を進め、そして、時代が下ると共に死海文書の記述を信じ、そして、2005年に迎える最後の終末を回避する為に動き出した。
1998年ゼーレに所属していて死海文書や裏死海文書のさわりを知った碇は、出世欲から優秀な人材をゼーレに引き入れる為にユイに接触、その後色々あり、ユイはゼーレに入り碇は大幅な出世を遂げたが、次第にユイの考えに感化されて行く。
そして、元は、ゼーレの研究者だった葛城博士は、セカンドインパクト、我々が言うところのサードインパクトを阻止するために、南極で発見された第壱使徒アダムのコピーを作り、使徒を倒すつもりだった。
が、一方碇を含め当時のゼーレ幹部は、2005年などには決して間に合わないと初めからその計画ではなく、アダムを卵まで還元し、使徒の覚醒を遅らせる計画を進めていた。
葛城博士とユイ達はアダムのコピーの原型を作り上げる技術を開発した。その際に、アダムのコピーをコントロールするのに特定の条件を満たした子供が操縦者に選ばれた。
葛城博士は、ユイの反対を押し切り、娘の葛城ミサトを被験者として、2000年に葛城調査隊を南極のアダムの元に向けた。
碇はそれに同行し何度と無く説得を試み、ユイも説得の為に訪問したが遂には受け入れられず、搭乗実験は失敗し、アダムが覚醒すると推測した碇は、アダムの還元がいつでも出来る状態にして、資料をもって日本に戻った。
その日にセカンドインパクトが起こった。
「ミサトちゃん、葛城博士は、こう言っていたわ。娘には、自分で未来を切り開く機会を与えたい。自分で未来を切り開く力をつけた強い子に育って欲しいってね」
最後にユイが付け加えた。
「次は、使徒に関して私が話すわ。」
レイが使徒と補完計画について語った。
「ここからは、私が話すわね。」
ユイが引き継いだ。
その内容は次のような物であった。
2000年9月20日、東京に使徒が現れ、ゼーレによって使徒の存在を知らされていた当時の首脳達は、核兵器とNN兵器を併用し、東京は消滅した。
後になって、それがリリスであった事に気づいたゼーレは大慌てに成ったが、運良くリリスは生き残っており、直ぐに、ここに作られていた研究所に運び込んだ。
そして、アダムだけでなくリリスのコピーも使えるようになりE計画は大幅に楽に成った。
ユイは、パイロットとしてリリスに近い存在が必要と考え、自らの遺伝子と組み合わせてレイを創り出し、娘としてシンジと一緒に育てる。
そして、コアに擬似人格を当て、人が乗れるようにして、最初に被験者にユイは志願し、結果エヴァのコアに取りこまれた。
その後、コアは初号機に移され、零号機にはコアのコピーを当てた。
「さて、私が話をしますね」
「レナちゃん?」
「暫く黙って聞いてください。」
レナが未来での出来事を語った。
「そして、歴史が変わった原因の一つが私、私は、サードインパクトの惨状に恐怖した。碇君が望む世界に出来なかった。だから、やり直したい、そう思って、過去に飛びました。そして、直ぐに歴史に干渉しました。」
「あと、天城ミクは、その、シンジ君とアスカ君の娘だ。彼女も私を説得して来たが、もともと、ゼーレとの関係を疑っていたため内容は信用しなかった。」
「あ、あの、」
「何かね?」
「その、レナちゃんは私が引き取る事になるんですか?」
「現状では、親子と言うよりは姉妹といった程度しか歳は離れていないし、レナ君が良いと言うならば、任せる」
「私はどちらでも良いです」
「私も・・・」
「養女は不可能だろうしわざわざ戸籍上の妹にする事も無い、保護者を頼む。」
「はい♪」
マヤは可愛い妹が出来たと言ったような感じで微笑んだ。
「適当な苗字を考えておいてくれ」
「はい」
「これからどうするんです?」
「補完委員会はもはや役立たずだ。ゼーレを潰すだけで良い」
「そうは行きません。自衛隊を敵に回すことになります。ネルフは、使徒のような単独の敵には強いのですが、軍隊に対しては脆く弱いですよ。」
「うむ」
「天城には何もできんだろうがな」
「マギの自立防衛だけはしておきます」
「そうだな」
「戦略自衛隊を味方につけよう」
「そうだな、もはや、エヴァテクノロジーを隠す必要もあるまい。」
話が進む中、ミサトは只じっと黙ったままだった。