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エピローグ

◆日常

決戦の翌日、シンジはネルフ本部内の病棟のベッドで目を覚ました。
「碇君」
レイが心配そうにシンジを覗き込んでいた。
「・・綾波・・・」
「良かった」
レイの嬉し涙がシンジの胸に落ちた。
シンジはそっとレイの頭を撫でた。
「・・碇君・・」
上半身を起こしてレイを抱き寄せる。
「・・終わったんだね・・」
「・・ええ・・」


別の病室では、回復したアスカがレナとお見舞いの品々を食べていた。
「う〜ん、このマンゴ美味しいわね。」
「こんなにフルーツが在るなんて・・・本当に良い時代ですね」
レナはメロンを食べながら呟いた。
「そっか〜、フルーツなんか手に入らないわよね」
「・・ええ・・お母さんにも・・・」
フルーツの山に目を向けた。
「・・・気にしちゃ駄目よ、未来のマヤは何を望んでいたの?」
「え?」
「レナ、アンタの幸せでしょ、アンタが幸せになることが何よりの贈り物なのよ」
軽く俯いて色々と考え、そして顔を上げて笑顔を見せた。


その頃、各地のネルフ及びゼーレ関連施設が戦略自衛隊によって占拠されていた。


ネルフ本部、総司令執務室、
「順調だな、」
「日本政府との交渉も上手く行った」
「漸くですね」
ユイは軽い笑みを浮かべた。
「ああ」
「ん〜、キョウコさんとミクちゃんのサルベージ計画作らなきゃね」


そして、数日の内にゼーレは殆ど根絶やしになった。
ネルフは本部を除き全て解体が決定したが、本部がどうなるかは決まっていない。


日本政府は、国際連合を経済と軍事両面からその影響力を使って仕切り、セカンドインパクト期に汚染されていった部署や機関を片っ端から破壊している。
更に、それ以前、大国が自らの利益の為に作った或いは変えた物もいっしょに破壊した。
現在は、国際連合は、その機能を殆ど停止しているが、難民・避難民対策関連機関等を初めとする中断できない機関は例外的に活動を続けている。
半年以内に、新制の国際連合が動き始められるように全力で動いている。
世界共通通貨や統一市場なども同時にその準備が進められている。


ネルフ本部急襲から2月後、キョウコのサルベージ計画が実行に移された。
キョウコの体は取り込まれていなかった為に肉体が再生できなかったので、レイの素体をベースにした体に入ってもらうことになった。


ネルフ中央病院、キョウコの病室、
「う〜ん」
流石にアスカも腕組みをして悩んでいた。
「まあまあ良いじゃないのアスカちゃん」
「う〜〜む」
どうも納得が行かないアスカを他所に、キョウコは若返ったと言って喜んでいた。
娘と同じ世代の体は問題あると思うが・・・・
区別がつかないのでは困ると、一応色素は変更された。髪を赤みがかった金に、目を青に変更した。
ノックがされた。
ドアが開きユイ、レイ、レナ、シンジが入って来た。
「お久しぶりです。」
「ええ・・すみませんね、娘さんの体のコピーを頂いて」
「いえいえ、本人も処分に困っていましたし」
「う〜ん、何か、綾波とアスカの中間ですね」
「そうね」
「う〜〜ん」
アスカは未だ悩んでいた。


そして、続いて初号機からミクがサルベージされた。


翌日、ネルフ中央病院、
ミクは目を覚ました。
「うう・・・・」
「めぇ、覚ましたのね」
「・・・げ!」
碇、ユイ、冬月、ミサト、ナオコ、リツコ、マヤ、シンジ、レイ、アスカ、キョウコ、レナが取り囲むようにミクを見ている。
勢ぞろい・・・
「・こ、ここは?」
流石にうろたえている様である。
「貴女は、初号機に取り込まれてしまったのよ、それで、サルベージを行ったわ、」
ユイが簡単に説明した。
「・・・・ゼーレは?」
「滅びた・・・話を聞かせてもらおうか・・拒否権は無い」
威圧しながら話す碇の頭をユイがスリッパではたいた。
「くはっ」
「さて、貴女のことを話して欲しいのだけど・・・」
ミクは軽く俯いて話を始めた。
「・・・サードインパクトで、世界は死の世界になった・・・知っているわね」
ミクは顔を上げてレナに視線を向けた。
皆は頷いた。
そして、シンジに視線を移した。
「・・・貴方が、何も望まなかったから・・・全てを拒絶したから」
怒りなのか怨みなのかは良く分からないが、黒い物がその言葉には混じっていた。
シンジはレイから伝えられた記憶を持っているだけだが、レイが関わっていた部分はおおよその事は分かる。後ろめたさからか、俯いた。
「って、まあ、言っても無駄ね・・・私は、ゼーレの生き残りが再構成したゼーレによって育てられた。再び補完計画をやり直す為に・・・ある時、私は全てを知る機会が訪れた、もっと優秀な者も生き残っていれば良かったんだろうけど、ゼーレは本当に総力をあげてタイムマシンを作っていたからね」
「全てを知った後も表面上は平静を装った。でも内心は怒りに燃えていた。そして、ゼーレの望む世界、補完された世界ではなく、私が望む世界、私が神となる世界を作るためにゼーレを利用してきた・・・」
「結果はまあこう・・・」
ミクは軽く自分を笑った。
「・・3人にしてくれますか?」
キョウコの申し出で、キョウコ、アスカ、ミクの3人が病室に残された。
「さて、」
すっとキョウコがミクに近寄った。
「な、何?」
そして、キョウコはミクを優しく抱き締めた。
「辛かったでしょう・・・でも、もう良いのよ、この世界は、生に満ち溢れている世界なのだから、貴女の幸せを求めれば良い、貴女の幸せを」
ミクはキョウコをじっと見詰めた。
「・・・誰?」
「惣流キョウコツェッペリン、貴女の祖母に当るわね、」
ミクは弐号機の事を思い出し、その意味を理解した。
「アンタ、アタシの事を母親だなんて思ってないでしょ、アタシもよ、産んだ覚えも無い同世代の娘なんて認めないわ」
アスカの言葉を聞いてミクは複雑な表情を浮かべた。
「でも、姉妹くらいの関係になら、なれるかもね」
ミクは驚きを表情にした。
「そうね、アスカちゃんが二人に増えたみたいで私も嬉しいし、」
「・・・私は・・・」
「嫌なの?」
「・・・・・」
ミクはアスカの問いには答えなかった。
「・・・」
「「・・・・」」
「ミクちゃん、どうする?」
ミクは悩んでいる。
それを受け入れてしまえば、今までの人生を否定する事になる。
「人生っていうのは何度でもやり直す事ができるのよ、」
ミクはキョウコの顔を見詰めた。
優しく微笑んでいる。
ミクの全てを受け入れてくれるような笑みである。
思わずミクは涙を零した。
「よしよし」
キョウコはミクの背中を優しく撫でる。
「うわああ〜〜〜ん!!」
堰を切ったかのように、大声を上げて泣き始めた。


技術部長執務室、
3人の天才がユイが煎れた紅茶を飲んでいた。
「これで、終わったわね」
「ええ、」
「そうですね」
「私は1線は退くつもりだけど、ナオコさんは?」
「そうね、この歳では、1線に残るのは、ちょっとキツイかしら?」
「・・・」
リツコは黙って紅茶に口をつけた。
「リツコちゃん、」
「・・・はい」
「後をお願いして良いかしら?」
二人はリツコをじっと見ている。
今までこの二人に追いつく為に様々な事をしてきた。それこそ人道に大きく反する事さえ厭わずに・・・
その二人から自分が後を託される。
「・・・私なんかが出来ますか・・?」
「当然よ、私の自慢の娘なんだから」
「ええ、リツコちゃんなら出来るわよ」
二人は自分の価値を認めてくれた。最も認めて欲しかったが、叶わなかった二人に・・・
リツコは涙を流した。
「あらあら、リッちゃんは泣き虫ね」
ナオコの言葉に泣き笑いで答えた。



・・・・・1年後・・・・・・
第3新東京市天井都市の再建は断念され、ジオフロントに都市を築き、新第3新東京市としてその建設が進められていた。 碇邸、 「シンジ〜レイ〜、御飯ですよ〜!」 朝からユイの声が響いた。 二人は、ベッドの中で、抱き合いながら心地よい睡眠を貪っていて、ユイの声が聞こえていない 「全く・・」 ユイはやれやれと言った表情を浮かべ、食卓で、新聞を只読み続ける碇に視線を移し、 「はぁ〜〜」 そして、溜息をついた。 インターホンが鳴った。 『ユイさんおはよう御座います』 レナが迎えに来たのである。 二人がなかなか起きてこない事があるので、いつもかなり早い目に来ている。 「ごめんなさい、二人未だ寝てるのよ、今から叩き起こして来るから、ちょっと待っててね」 ユイは2階へと上がり、二人の部屋に入った。 二人は気持ちよさそうにベッドで寝ている。 掛け布団を掴み一気に引っ張った。 「きゃ!」 「うわ!」 二人はベッドから折り重なるように落ちた。 「シンジ!レイ!さっさと服着て学校に行きなさい!レナちゃんはもう迎えにきているのよ!」 二人は寝惚け眼を擦りながら、のろのろとした動きで活動を始めた。 ・・・・ ・・・・ 「「「行って来ます」」」 「はい、行ってらっしゃい」 3人は学校に向かって歩いて行った。 「さ〜てと、掃除に洗濯始めますか」 ユイは3人を見送った後、軽い笑みを浮かべて中に戻って行った。 惣流家、 「さて、行きましょうか」 「そうね、」 キョウコとアスカが学校に向けて歩き出す。 「ちょっと待ってよ!」 それをミクが慌てて追い掛けた。 「遅いわよミク」 「そんな事言ったって、2人が早過ぎるのよ」 キョウコ文字通り、そしてミクも人生をやり直している。 3人は良い感じである。 新第3新東京市立第弐高等学校、1−2 「起立!」 「礼!」 「着席!」 声を取り戻したヒカリの声が教室に響く。 ヒカリは、皆の通う第壱高校ではなく、トウジと同じ第弐高校に進学した。 ヒカリの成績は、勿論第2位を大きく引き離してのトップで在るが、恩返しと口では言っているが、ヒカリの熱心な指導で、トウジの成績も着々と上昇している。 「いよ〜諸君、おはよう!」 そして、このクラスの担任、加持ミサトの陽気な声が響いた。 そして、大きな再編成を受けて、その技術の活用の為の組織に生まれ変わったネルフ、 その特別顧問室では、碇と冬月が将棋を打っていた。 二人の仕事はもう大して無い。 長官室付属研究室では、ナオコが、自分の趣味の研究をしている。 そして、ネルフの中核、技術開発部の大研究室では、リツコの指示が飛んでいた。 その横で、マヤがそれをサポートしている。 リツコの表情は生き生きとしている。 今成果を次々に上げていて、そのたびに、二人の天才から誉められている。 他人の評価もそれに連れて上がり、3大天才として、並び称されるまでになって来ている。 死の世界とはまるで違う、生に溢れ平和に満ちた世界。 そして、そんな世界で日常が流れていた。