立場の違い2A

第16話

◆四人目の適格者

1月23日(日曜日)、国際連合人類補完委員会、
先の事件で、責任者たるミサトは、人類補完委員会に事情聴取の為召喚されていた。
本来は、シンジとアスカが召還されたのだが、心身の健康上の都合と言う事で、ミサトが代わりに出席している。
「先の事件の使徒の目的は釈然としない。」
「それに関しては、作戦部も同様の見解です。」
「使徒の目的はエヴァパイロットとの接触ではなかったのかね」
「両パイロットの証言から、それは否定されます。」
「何にせよ、エヴァのデコーダーは作動していなかったのだ、確定は出来まい」
「使徒同士の連携の可能性は」
「これまでの使徒の行動パターンから全て単独、よってそれも否定されます」
「これまではな」
「それはどう言う意味でしょうか?」
「君に質問の権利は与えられていない」
「はい」
「御苦労だった下がりたまえ」
「はい、では失礼します。」
ミサトの姿が消えた。
・・・
「使徒は進化している」
六分儀は導き出した答えを述べた。
「その判断は未だ早かろう。」
「単純に決め付けるには証拠が少な過ぎる」
「しかし、使徒が知恵を付け始めている事は確かなようだな。」
要するに、変化が進化といえるかどうか分からないといっているようだ。
「ええ」
「死海文書に記述されている使徒はあと5体。」
「バルディエル、ゼルエル、アラエル、アルミサエル、タブリス、の5体だ。」
「・・ところで、六分儀」
「何でしょうか?」
「碇博士の動きはどうだ?」
「?・・いえ、別段特に、」
「そうか、ならば良い」
「では六分儀君、君も下がっても良いぞ」
「・・・はい、」
六分儀の姿が消えた。


ネルフ本部、碇特別研究室、
モニターの一つに人類補完委員会の会議の様子が映し出されていた。
「・・・全く、言っても全然分からない人達ねぇ・・・」
ユイは、どこか呆れたような口調で言葉を発した。


1月24日(月曜日)、A.M.1:11、米国ネルフ第2支部、第1実験ケージ
白いエヴァ、制式型エヴァンゲリオン3番機、エヴァンゲリオン四号機がケージに固定されていた。
『これより第1次SS機関搭載稼動実験を始める、各所員は実験配置につかれたし』
放送と共に白衣を着込んだ職員達が慌ただしく動き始めた。


実験司令室にいる司令の横には、米国国防省の副長官が立っている。
「どうかな?」
「御安心を、これが成功すれば、アメリカは日本、ドイツに対して優位に立つ事が出来ます。」
「人類が夢見続けてきた半永久動力機関、それが遂に我々の手に入るのです」
司令の言葉に技術部長が誇らしげに付け加えた。
「実験を開始します」
司令は頷いた。
「実験開始、SS機関始動、」
ケージに凄まじいエネルギーが満ち始めた。
「エネルギー順調に上昇しています。」
パネルに表示されている数値やグラフがどんどん大きくなっていく。
「凄いですよこれは!」
嬉々とした声が次々に聞こえる。
だが、それも長くは続かなかった。
「ん?加速しています」
「減速命令、各圧力を減圧へ」
「加速停止しましたが、増え続けています。」
「どうした?」
副長官は、何かやばい事が起こっていると言う事は分かるがそれが何なのかはわからない。
「臨界点まで155」
「危険かもしれません」
皆の表情が変わってきた。
「制御板始動、エネルギー開放へ」
「臨界点まで120」
「エネルギー開放開始」
「依然エネルギーが上昇しています。」
「粒子反転開始」
「臨界点まで134、減速し始めました。」
「今度は信じられない加速度で減速していきます!」
「速度反転、」
「エネルギー開放停止」
「どう言う事だ?」
「分かりません!」
複数の悲鳴が聞こえる。
「エネルギー反転、マイナスエネルギー発生」
「ATフィールド反転!!!位相空間が反転します!!!」


A.M.2:45、ネルフ本部某所、
「第2支部が消滅!?」
ミサトの叫び声が響いた。
「ええ、完全に消滅したわ。」
「衛星の映像を」
モニターに衛星からの映像が映し出された。
「5、4、3、2、1、」
突如第2支部が光に飲み込まれた。
数秒後、光が消え去った後には、嘗て第2支部であった場所を完全に飲みこむほどの大きなクレータが存在していた。
「原因は?」
マヤはファイルを手に取った。
「タイムスケジュールからすると、SS機関搭載実験中の事故の様ですが、パーツの強度から破壊工作に至るまで・・組み合わせは10億通り余り、原因の追及はほぼ不可能です。」
「良く分からない物を使うからよ」
「永久動力機関の夢は潰えたわね。」
「SS機関は人の手には余りにも大き過ぎる・・・或いは、これで良かったのかもしれないわね・・・」
ユイの言葉が、沈黙を引き起こした。


A.M.4:36、ネルフ本部総司令執務室、
「委員会が又、厄介な事を言って来そうだな」
「構わんさ、実質的には本部以外は私の管轄外だからな」
「アメリカは今度の事で懲りただろう」
「ああ、死海文書に無い事も起こる。老人達には良い薬だ」
「今ごろはシナリオの修正に大忙しだろうな」
六分儀は面白そうに少し笑った。
「・・・しかし、SS機関はどうする?」
「問題無い、ドイツにデーターが残っている。研究の続行は可能だ」
「そうか・・、だが、我々にとってもプラスにはならんぞ」
「・・・・」
それには答えなかった。


A.M.10:15、第3新東京市市立第1病院、西塔、
トウジが妹、鈴原ナツの見舞いに来ていた。
看護婦達がトウジとナツの事に関して立話をしている。
トウジは病室の前で立ち止まり、少し目を閉じ、ナツの前で、極力明るく振る舞う為の心の準備をした。
そして、準備が終わるとドアをノックして病室に入った。
ナツは視線だけトウジに向けた。
「ナツ、調子は如何や?」
「・・うん、今日は少し良いよ」
「ほうか、今日は、水羊羹持って来たで、」
「ありがと」
トウジは袋から水羊羹を取り出して、スプーンですくってナツの口に入れた。
「ん、美味しい」
「そうか、まだあるでな」


トウジはナツを見舞いが終わると、いつも通り、広い中央ロビーの椅子に座り項垂れていた。
何故ナツがこんな目に会わなければ成らなかったのか、何故ナツなのか・・・
この憤りは変わっていない、
誰にぶつける事も出来ず、自分の中に溜め込み続ける。
結果は見えているが解決法を見つける事も出来ない。
トウジは、暫くそのままの状態であった。


1月25日(火曜日)、朝、ネルフ本部ジオフロント降下エスカレーター、
リツコとミサトがジオフロントを降下していた。
2人の話は、先の消滅事件の後の経緯である。
「それで、残った参号機だけど、家で引き取る事になったわ。」
「ちょっと、冗談じゃないわよ。参四号機は向こうが製造権を主張して来たんじゃない。」
例え、人類のためであり後が無い戦いであったとしても、本部に強大な力が集中する事をあの手この手で妨害し、そして、エヴァそのものも危険だと気付くと、今度は、本部に押しつけて来たのである。ミサトのお怒りもごもっともではあるが、そもそも、殆ど情報を流さないネルフ側にも責があるとは考えないようだ。
「仕方が無いわよ、あんな事件の後では誰だって臆病にもなるわ。」
それも事実、だがそれならば初めから主張しなければ良い、リスクが大きいものである事は予め分かっていた筈である。
「で、パイロットはどうするの?例のダミーシステムとやらでも使うの?」
「そうね・・・緊急選抜になるでしょうね。マルドゥック機関もそろそろ見つけないと、幹部の首が飛びかねないからね」
「そんなに都合よく見つかるものなの?」
「それは運を天に任せるわ。」
(既に候補生はいるのよ・・・)
リツコは、軽く顔をそむけた。


夜、技術棟の最重要エリアの一つに六分儀とリツコがいた。
「参号機のパイロットの事ですが・・」
「マルドゥック機関を通す必要は無い。」
「彼が、感付きましたか」
「ああ、」
「候補者の中にコアの準備が直に出来る者が1名いますが・・・」
リツコは言葉を濁した。
「誰でも良い」
「分かりました。」
二人の目の前には赤いプラグ、ダミープラグが宙にぶら下げられていた。
「ダミーは?」
「8割と言ったところでしょうか、未だ問題点が多すぎます。」
「・・・そうか、残された時間は少ない。これ以上は遅らせるな」
「しかし、それにはアスカを長時間に渡り拘束する必要が、」
六分儀は眉間に皺を寄せた。
「いかがされますか?」
「・・・それは問題だ・・・変則スケジュールを組んで、その影響は最小限に押さえろ、多少の遅延はやむを得ない」
「はい、」


1月26日(水曜日)、朝、ネルフ本部、技術部長執務室でミサトとリツコが話をしていた。
「で、候補者は見つかったの?」
「・・ええ、一応ね。」
ミサトは、リツコのノートパソコンを覗き込んだ。
「こ、この子なの?」
先ず驚き、次に最悪とは行かないまでも、かなり嫌な展開に顔を顰めた。
「ええ」
「・・・シンジ君に又、辛い思いをさせそうね・・・」
シンジにはこの事実をどう伝えれば良いのか・・・自分にはとても伝えられないであろう事は想像に難しくない。
「今日、第3新東京市立第壱中学校に行くけど、どうする?」
「止めとくわ。余り・・今は会いたくないわ・・・」
酒量が増えそうねと、二人は思った。


休み時間、第3新東京市立第壱中学校、2−A
『2年A組鈴原トウジ君、至急校長室まで来なさい。繰り返します・・2年A組鈴原トウジ君、至急校長室まで来なさい。』
「又、何かやったのか?」
「いや、覚えないなぁ〜」
トウジは首を捻ったが、ヒカリが肩を怒らせて歩み寄ってきた。
「鈴原!貴方いったい何やったの!?」
「知らんわ!」
別に普段から問題を起こしているわけではないが・・・黒ジャージを着ている事だけでそう言った風に見られているのであろうか、だとしたらそれは偏見である。ああ、遅刻の常習犯だったか、
シンジ達は分からず首を傾げていたが、レイとアスカはじっと、トウジが出て行ったドアを見詰めていた。


校長室、
「鈴原です。入ります」
トウジはノックをしてから校長室に入った。


5限目、2−A、
授業が始まって暫くしてから、トウジが入って来た。
「・・遅れて、えろうすんません・・」
「話は聞いている。早く席に着きなさい。」
トウジの表情は何か思いつめているようであった。
シンジは不信には思ったが触れない事にした。


夜、ミサトのマンション、
アスカが、夕飯を食べに来ている。
「今日、トウジの奴なんかあったののかなぁ」
ふと食事中にシンジは、そう漏らし、アスカは箸を止めた。
「・・・アスカ、何か知っているの?」
「・・・確信はできないけど・・・」
「教えてくれる?」
「・・・・日曜に、アメリカの第2支部で事故があって、四号機が第2支部と数千の人間と共に消滅したの」
「・・・」
「それで、アメリカ政府と同じくアメリカある第1支部は、弱腰になって、本部に参号機を送ってくる事に成ったの」
「・・・参号機、」
そこから嫌な事が連想される。
「8割方、鈴原がフォースに選抜されたと見て良いんじゃないかしら」
「・・・フォース・・・」
シンジは表情を暗くして呟いた。
「でも、確信しているわけじゃないから、鈴原の方から言い出すまでこちらは何も変わらずに接するべきだと思うけど」
「・・・そうかもしれないね・・・」
「ええ」


1月27日(木曜日)、第3新東京市立第壱中学校2−A、
授業中も、ふと気付くと、自然にトウジに目が行ってしまう。
「・・・」
トウジは今日もどこか思い詰めている様であった。


昼休み、屋上、
トウジは昼食も取らずに、手すりに体を預けてぼんやりとしていた。
「鈴原君、」
何時の間にかレイがトウジの背後に立っていた。
「なんや、碇か・・・知っとんのやろ・・・・・ワシの事・・・シンジもしっとるようやし」
レイは軽く頷いた。
「・・・」
「・・・フォースになる条件に、妹さんの治療を出したのね、」
「・・せや、」
「私がお母さんに頼むから、今からでも遅くないから、取り止めて」
「・・・碇・・・お前、」
「・・・エヴァに関わる者は最小限で良いから・・・本当なら、二人も関わらなくて良い・・・そうなれば良いのだけど・・・」
レイの声は沈んでいる。
「・・・何でも自分でしょい込もうなんて思うもんやないで、」
「・・・・」
「そないな事しとったら、いつか潰れてしまうで、いつかな・・・」
「・・それは、鈴原君も同じよ、」
「・・・そうかもしれへんな・・・」
二人は軽く笑い声を漏らした。
「・・・ワシは、もうきめたんや、それに、少しでも碇やシンジらの負担が減らせるならそれで良いや無いか」
「足手まといは嫌よ、」
レイの一言にトウジは苦笑するしかなかった。
「碇はキツイなぁ」


放課後、教室でトウジが1人でパンを食べていた。
ヒカリが教室に入って行った。
廊下を老教師が歩いて来た。
老教師の携帯が振動した。
老教師は空き教室に入った。
「はい」
『フォースチルドレンの様子はどうだ?』
「そうですね、未だなんとも言えませんが」
『参号機の実験は明日なのだ、なんとも言えないでは困る』
「そうは言いましてもね、難しいもんですよ。」
「誰か来たみたいなので又」
老教師は電話を切り、教室を出た。
女子が数学の教科書とノートを持っていた。
「あ、先生、相似で少し分からない所があって」
「そうかね、じゃあ職員室で聞こうか」
「はい」

あとがき
アスカ「むぅ・・・微妙ね」
YUKI「そうですか」
レイ 「・・・」
アスカ「なんて、言うか・・・特に何も無いわね」
YUKI「次が、バルディエル戦ですね」
レイ 「・・ジャージはいや、」
アスカ「ヒカリの為にもそれは駄目よ!」
YUKI「お・・友人のことを考えている。」
アスカ「ふっ、勝者の余裕よ」
レイ 「む」
アスカ「くくく、シンジはアタシのものよ〜」
レイ 「碇君は物じゃないわ」
アスカ「アンタ馬鹿?意味が違うわよ」
レイ 「む」
YUKI「まあまあ」
アスカ「次回に期待しているわよ」
YUKI「はいな」