立場の違い 改訂版

第8話

◆マギ

ネルフ本部、総司令執務室、
ミサトとアスカが呼ばれていた。
いつも通りレイはシンジの横にいる。
もう一人はナオコと共に南極に向かっているが、
「葛城1尉、これまでの、使徒戦に於ける功績を評価し、3佐とする」
「あの、司令、しかし、私は前回の作戦で失敗させてしまいましたが・・」
やはり、前回のことは利いた様だ、ミサトにしてはかなり珍しい。
「葛城3佐、君の仕事は何かね?」
「・・・使徒戦に於ける作戦指揮ですが、」
「そうだ、君の仕事は使徒を倒す事だ。正体不明の難敵、それも後が無い戦いだ。失敗の責任は問わない。だが、必ず倒さなければ成らない。」
「・・はい」
「倒したと言う事実を評価しての事だ。」
「はい」
ミサトは一礼し襟章を交換した。
「惣流1尉も同様に3佐とする」
アスカは頭を下げた。
「尚、レイも1尉に昇進している」
レイも軽く頭を下げた。


その夜、碇邸で昇進パーティーが開かれた。
第3新東京市立第壱中学校のいつものメンバーであるヒカリ、トウジ、ケンスケの他、ネルフ関係者からリツコ、マヤ、ミサト、加持が呼ばれた。
「あ、あの碇司令、」
マヤがキッチンで料理を作っているシンジに緊張しながら声をかけた。
「プライベートの時はシンジでいいですよ」
「え、えっと、シンジ君、何か手伝う事はありませんか?」
「敬語になってますよ。マヤさん」
シンジは苦笑しながら天ぷらを乗せた大皿を差し出した。
「これ、運んでもらえますか」
「うん」
・・・・
・・・・
マヤは、顔を赤らめながら料理を運んでいる。
「どうしたの?マヤ」
「シンジ君、可愛いんです」
主役3人は、みんなから拍手を送られている。
ケンスケが特に気合が入っている様である。
ミサトの襟章を見せてもらって感涙を流している。
レイの前には野菜の料理が多い。
「・・・シンジ君、あれ、取って」
「うん」
シンジは少し離れたところの料理を取ろうとしたが、アスカがさっと取って口に運んだ。
「う〜ん、これも美味しいわね」
レイはじと〜っとアスカを睨んだ。


一方、ネルフ本部では、日向と青葉が尋常ではない量の仕事を押し付けられ、残業をしていた。
「何でだ・・・」
青葉は書類の山を見上げた。
その横で、何故か借り出された六分儀が書類の整理をしていた。
「・・ふん・・・問題無い・・・」
思いっきり不満そうな表情である。
日向と青葉は、一応とは言え残業手当が出るのだが・・・六分儀はサービス残業である。


翌日、南極、旗艦展望室、
冬月とナオコが赤い海を見ながら話をしていた。
「南極、如何なる生命の存在も許されない死の世界、まるで死海だな。」
「そうですね、人の傲慢に対して与えられた罪にしては余りにも大きすぎますわね」
「知恵の実によって手に入れた科学、それを人類の力だと勘違いした。それが、この悲劇を生み出したのだ」
「ええ・・・」
「サードインパクトは防がねばならない」
「はい」
「しかし、碇・・・シンジ君は何を考えているの分からない」
「・・その事なんですが、」
「なんだね?」
「以前報告した、マギ0、どうも本部内に有るようです」
「何?」
「マギとの交信タイムが早過ぎます。ネルフ本部内にある筈です」
「シンジ君、何を考えている?」
空母の飛行甲板には100メートルはある巨大な棒状の物がシートを掛けられて置いてあった。


ネルフ本部、発令所、
「後42秒で軌道が交錯します。」
・・・
主モニターに妙な物体が映った。
「これが使徒?常識を疑うわね。」
突然画面が乱れ、映像が消えた。
「ATフィールドの新しい使い方ね。」


ネルフ本部、某所。
「え〜!!手で・・受け止める」
作戦を知らされた、アスカが叫んだ。
六分儀は顔を歪めている。
「そう、それしかないの」
「作戦といえるの?」
「・・・そうね、言えないわね。だから拒否することもできるわ。」
暫く4人とも黙っていた。
「一応、規定では遺書を書くことになっているけど、どうする?」
「別にいい、必要ないもの」
「私もいいわ」
「・・頼めるか?」
「わかりました」
「作戦、成功したら一流レストランで好きなもの奢ってあげるから。」
「本当!?」
「・・・」
「シンジ君の料理の方が美味しい」
「・・・じゃ」
ミサトは部屋を出て行った。
「レイ、ちょっとは気を使いなさいよ」
シンジの料理は本当に1流レストラン並みなので強くは言わないアスカだった。
「事実を言っただけよ」


エレベーター、
「初号機パイロットは、どうしてエヴァに乗ってるんですか?」
「贖罪だ、」
「贖罪?」
「・・全てを捨てた私の罪のな」
「シンジをですか?」
「シンジだけではない、ゲヒルン、世界の運命、様々なものをだ、そしてレイも」
レイが少し驚き顔を上げた。
「私も?」
「シンジの妹として育てていたレイも私は捨てた、今、その償いをしている。決して許される事は無い事も知っている」
その後目的の階につくまで、3人は無言であった。


待機室で六分儀は、遺書を書いていた。
冬月、シンジ、レイ宛にそれぞれ1通ずつ、合計3通。
ミサトが入って来た。
「・・これだ」
六分儀は3通の、遺書をミサトに渡した。
ミサトは、宛名を確認した後、内ポケットにそれらをしまった。
「少し、聞きたい事があるのですが、」
「・・何だ?」
「貴方は・・貴方は、何故、エヴァに乗るのですか?」
「・・・ふぅ・・・」
またかと言った気持ちが少し現れている。
「贖罪だ」
「・・贖罪、ですか」
「ああ・・・私は、ユイの事故の後、全てを捨てて逃げた。シンジもレイもネルフの前身ゲヒルンも・・使徒を倒し、人類の未来を護ると言う役目も全て・・・」
ミサトは黙ったまま、続きを促した。
「・・・今、その罪の償いの為に、戦っている。」
「しかし、例え、全ての使徒を打ち倒したとしても、シンジやレイを捨てたと言う罪が消えるわけではない。」
「この先死ぬまで、背負っていく・・背負っていかなくては成らない罪なのだからな・・・」


発令所、
シンジはモニターで待機室の様子を見ていた。
話が終わり、ミサトが待機室を出て行ったのでモニターを切って、先程の話の内容を思い出しながら、色々と思案を巡らせた。
「司令、そろそろ」
「・・ああ」
エヴァは地上に上げられた。


零号機、
(あの人は、私をシンジ君の妹のように育てたと言った、記憶に無い)


弐号機、
(エヴァに乗る人間か・・・理由は様々なんだ・・・)


初号機、
(・・私は死ねば許されるのだろうか・・)
(ふっ・・・許されるわけが無いな・・・私は、罪を背負って生きていかなくてはならんのだな・・・)


ネルフ本部、発令所、
シンジはメインモニターをじっと見ている。
今回の作戦の成功確率は、10.6%、第3新東京市及びその周辺の全ての住民には避難命令が出されている。
「今回の、使徒は、ATフィールドを考えずに、ただ、自由落下させただけでも、水爆並みの破壊力だ、その上にATフィールドの相乗効果がある。君たちは逃げたまえ」
シンジが思い遣りと取れる指示を出した。
「司令!」
「私達は、子供達に守られてばかりです!子供を戦場において大人が逃げると言う事は出来ません!」
六分儀が含まれるかどうかは微妙だがミサトが叫んだ。
「・・そうか・・」
シンジは軽く笑みを浮かべた。
オペレーターたちがチャットで話をしている。
《司令丸くなったよな》
《そうね、可愛いし》
《でもさ、本当に苦労をさせられてるのは、レイやアスカじゃなくて司令なのかもしれないな》
《そうね》
「目標、落下を始めました!」
「作戦スタート!」
3体のエヴァが一斉に走り出した。
「誤差修正開始!」
「範囲縮小!」
「距離20000!」
「あと52!」
「誤差修正!」
「範囲更に縮小!」
突然マギがハッキングされた。
「「何ぃ!!!!」」
「な、」
二人が叫びを上げる一方でマヤは絶句していた。
「・・も、目標着弾点判明!」
初号機に一番近い位置が表示された。
「間に合う!?」
「一番最初に初号機が到達します。14秒後に零号機、更に4秒後に弐号機が」
「目標対流圏に突入!!」
「距離8000!!」
「マギ追尾を続けています!」
サブモニターの一つをじっと見ているリツコの表情は蒼白で軽く身を震わせていた。


地上では初号機が落下地点に達した。
「うおおおお!!!」
六分儀は叫び声を上げATフィールドを全開で展開した。
サハクィエルのATフィールドが接触し凄まじい衝撃が伝わる。
「ぐああああああ!!!!」
初号機のパーツが悲鳴を上げ、力に耐えられなくなった装甲が次々に割れていく。
「ぐおおおおおおお!!!!」
関節部位が破損していく。
「ぎゃあああああ!!!!」
悲鳴に変わった。
そして、サハクィエルが地面まで落下した一瞬後地面が光った。
初号機の咆哮が周囲一帯に響き渡たりサハクィエルの巨体が押し上げられていく。
零号機が到着し下に潜りこんだ。
初号機は、殆どの装甲板が崩壊し全身から血を吹き出しながらも、その素体を凄まじい早さで修復している。
零号機はATフィールドを全開してサハクィエルを更に押し上げた。
弐号機も参加し、遂にサハクィエルに上向きの加速度がついた。
再び咆哮を上げ初号機がサハクィエルを上空に弾き飛ばした。
零号機と弐号機は同時に跳び上がり、弐号機がATフィールドを中和し、零号機がプログナイフで、コアを破壊した。
膨大な光が放たれ、サハクィエルは上空で爆発した。
・・・
・・・
残骸で一番大きな塊が活動を停止していた初号機の上に落下した。


発令所で、皆が喜びの声を上げる中、リツコはじっと考えていた。
(間違いない、)
《MAGI−0》
(・・でも・・一体何?)
「・・先輩・・」
「・・・・」
マヤの呼び掛けには答えなかった。


夜、発令所
「先輩、あのMAGI−0って言うのは?」
落ち着いたところで再び尋ねた。
「分からないわ」
「分からないって、マギはあんたが作ったんでしょ」
「違うわよ、これを作ったのは母さん、でも、MAGI−0は母さんじゃない、ユイ博士の作品なの」
「ユイ博士?」
皆は自分の辞書を検索している。
「碇ユイ博士、エヴァを作った稀代の天才、そして、司令のお母さんで、初号機パイロットの元妻」
「な、何でそんな人のマギが」
「分からないわ、ユイ博士の理論に基づいたマギを誰かが作ったとしか」
「いったい誰が?」


セントラルドグマ最深層のある部屋にレイとシンジの二人が立っていた。
部屋に照明が点り、2人以外に3人の姿が浮かび上がった。
3人はレイと同じ顔をしている。髪は茶色で、目は黒い、髪形は皆異なる。
「有り難う、レン、レナ、レミ」
「「「はい」」」
3人のレイと同じ顔の少女が微笑んだ。
この3人がMAGI−0の正体、最高のコンピューターである人間の脳を使っているのである。
「でも・・マギも酷い事をするよ、3人の力が無かったら大変な事に成っていたよ」
落下範囲は箱根全域であるが、落下確率は異なる。
初号機が最も早く到達する範囲に落ちる確率は74%だった。
「いえ、」
「明日から、第3新東京市立第壱中学校に通うようにして、但し、僕達とは知り合いではないと言う設定で」
「「「はい」」」


翌日、第3新東京市立第壱中学校、
「今日、転校生が来るらしいぞ」
「ほお」
「それも、美女の三つ子らしいぞ」
「三つ子?」
「そうそう、」
又、トウジとケンスケが転校生の事で話をしている。
・・・・
・・・・
やがて、ホームルームに成った。
「今日は、皆さんに、転校生を紹介します」
3人が入って来た。
「長女の飛龍レンです」
「次女の飛龍レナです」
「三女の飛龍レミです」
男子の溜め息が漏れる。
「宜しく御願いします」
3人が揃って頭を下げた。
早速3人が揃って質問攻めにされている。
瞬時に飛龍3姉妹の噂は学校中に広まった。
上級生や下級生も集まって来ている。


昼休み、屋上でいつものメンバーが昼食を取っていた。
やっぱりケンスケだけはパン。
暫くして、レミがやって来た。
「あ、あの、これ、受け取ってください」
レミはなんとケンスケにラブレターを渡し、頬を真っ赤に染めて、戻って行った。
ケンスケとシンジを含めて全員呆然としている。
放課後、ケンスケはトウジに人生の喜びに付いて語ったらしい。


夕方、碇邸、
「シンジ君、どうして、レミは相田君が好きになったの?」
「う〜〜ん、僕も知りたいよ」


飛龍3姉妹の家、
「え〜!!じゃあ、もう告白しちゃったの!!」
「そ、そんな、レミ、あなた、あんなのが趣味なの」
「あんなのって何よ!相田君は素敵なのよ!」
同じ顔の少女が同じ声で口喧嘩していた。


ネルフ本部、副司令執務室、
南極から帰ってきた冬月が六分儀を労った。
六分儀は、包帯を巻いている。
「お手柄だな」
「ああ、」
「これから飯でも食いに行くか?」
「ああ、そうしよう」
二人は部屋を後にした。
どこに行くかは知らないが、二人はどう映るのだろうか?


夜、第3新東京市、スカイツインタワー展望レストラン、
ミサトの驕りで、1流レストランに食事をしに来ている。
「取り敢えず世界のグルメコースで」
「・・大僧正コース・・」
「・・スープだけで良いです・・」(涙)


第3新東京市市内、ラーメン屋台で
「・・塩バターラーメンを」
「・・にんにくラーメンチャシュー抜きだ・・」
「あいよ」
と言う事が有ったのかどうかは不明である。

あとがき
アスカ「おい、」
YUKI「何かな?」
アスカ「前回の更新が2月26日・・・2月経ってんじゃないのよ!」
YUKI「色々と忙しくてねぇ」
アスカ「ふん、まあ良いわ」
YUKI「そうかい」
アスカ「まあ、あいも変わらず、追加シーンは髭関連ばっかりね」
YUKI「そうだよ、言っただろ」
アスカ「・・・まあ・・そうだけどさぁ・・・もちょっとくらいこの、
    惣流アスカラングレー様を大活躍させるべきじゃないかしら?」
YUKI「ちょっと・・大活躍って・・」(汗)
アスカ「じゃ、頼んだわよ」
YUKI「おい」
アスカ「ん、じゃねぇ〜」
YUKI「行ってしまった・・・」
YUKI「うむ・・・・まあ良いか」