ユウキの受難

◆第6話

朝、ユウキの家、
食卓の上には、ユウキが作った料理が並んでいる。
アスカは味噌汁に口をつけた。
何故か物凄い緊迫した雰囲気が満ちている。
レイも箸を止めている。
「・・塩が足りない、豆腐も大きさが大き過ぎ、形も崩れているし大きさも揃っていない、出汁に使った鰹節はスーパーで売っている既に削られた物ね、作る際に削るのは常識。」
その後も一品一品に凄まじく辛口の評価を下した。
しかし、それが完全に的を射ている為、ユウキは全く反論できなかった。
ユウキが余りの辛口の評価に項垂れている中、レイは黙って食事を済ませた。


第3新東京市立第壱中学校、2−A、
レイとアスカに挟まれていっしょに登校したユウキは、男女を問わず殆どの生徒から敵視の視線の集中砲火を受けていた。
そんな様子を見てアスカはにやりと笑い、レイの方は良く分かっていないのか、それとも、気にしていないのか、全く干渉し様とはしない。


日曜日、第3新東京市市内、デパートのレストラン、
アスカは加持に買い物に付き合ってもらっていた。
「どうだい?ユウキ君の外堀は埋めたかい?」
「ん?もうちょっとよ、」
「そうかい、エヴァってのは心理状態に大きく左右される兵器だからな、孤立無援、四面楚歌になれば彼も今のままじゃいられないさ。」
「さっすがは加持さん、あったま良いわ」
どうやらアスカの変化は加持の差し金だったらしい・・・その方法は・・問題が有り過ぎると思うが・・・

翌日、ネルフ本部、技術棟、シミュレーションプラグ
『どうしたのユウキ君、最近シンクロ率が全く伸びていないわ、今日に至っては若干下降気味よ』
『す、すみません』
アスカはにやり笑いを浮かべた。


待機室、
ユウキは実験が終わった後、待機室で休んでいた。
ドアが開きレイが入って来た。
「・・碇君、大丈夫?」
「大丈夫って?」
「シンクロ率は、心理状態によって左右される・・」
「あ・・・うん・・・惣流の事で」
「・・弐号機パイロットね・・」
レイはくるっと踵を返して待機室から出ていこうとした。
「綾波どこ行くの?」
「弐号機パイロットのところ」
「何しに?」
「碇君を疵付けた罰を下すわ」
「い、いや、そうじゃないよ!」
ユウキは慌ててレイを止めた。
その後必死で、レイを諌めた。
ユウキが未だ小さかった頃、レイとアスカの婦婦喧嘩で家を立て直す事に成ったと聞いたことがある。
いったいどんな戦いだったのかは分からないが、絶対に食い止めなければ成らない事である。


夜、ユウキの家、
「あっつ〜〜い!!」
風呂の方からアスカの悲鳴が聞こえた。
その後、ユウキはアスカに怒鳴りつけられビンタをお見舞いされた。


翌日、ネルフ本部、総司令執務室、
ユウキは何故か召喚された。
「お祖父ちゃん、何のよう?」
「修学旅行には行くな」
「あ、うん、分かった」
「待機任務だ。他のチルドレンへの通告も任せた。」
「あ、うん、分かったよ」
ユウキは、アスカがエヴァのパイロットである事を誇りにしている事が分かったので、逆に、修学旅行に行きたがっている事の方が、そして、その説得が困難を極めるであろう事が分からなかった。
ユウキが退室した後、それを理解している碇はにやりと笑った。
「・・良く笑うようになったな」
「ああ、問題ない」
「・・・だがな・・・」
「冬月、辺りがすべて敵になった状態で、唯一味方がいたら如何なる?」
「・・・成るほどな、そう言う事か、」
「そう言う事だ」


そして、ユウキの家で、ユウキがアスカにその事を伝えた瞬間、
「ぬああんでぇすうってえええ〜〜〜〜〜!!!!!!」
アスカの絶叫が近所一帯に響き渡った。
「修学旅行に行けないですってぇえ〜〜!!」
「だっだって、待機任務が」
「きいい〜〜〜〜!!!!」
「待機待機って!!いっつも待機ばっかり!!たまにはこっちから打って出たら如何なのよ!!」
「・・・そんな事僕に言われても・・」
「うっさい!」
その後、アスカを宥めるのに、4時間も説得に時間を費やし、4万円近い物を買う嵌めに成り、更に、夕飯は6回作り直す事になった。


そんなある日、浅間山でサンダルフォンが発見された。


ネルフ本部作戦部会議室、
モニターにはサンダルフォンが映っている。
「これを捕獲するのか今回の任務よ」
「・・・幼体ですか・・」
「ええ、蛹のような状態よ」
「捕獲には反対です」
「どうしてかしら?」
使徒戦で楽な戦いは無かった、何事も無く捕獲できるとは思えない。
ユウキは何か適当な理由を考えた。
「・・・そうですね、1番は直感ですが、この使徒が成体で無いと言う保証がありません。」
「マギは幼体と判断しているわ」
「使徒の形態に統一性はありません。これが、人間の常識からすれば幼体に見えるからと言って、使徒にとっても幼体であるとは限りません」
「憶測に過ぎないわね」
「しかし、もし、この憶測が当たった場合、この高温高圧下で、エヴァを使徒の前に曝け出す事になります。」
「可能性に過ぎないわ」
「リスクが大き過ぎます」
「いずれにせよ、もう作戦に変更は無いわ」
「司令部に直訴します。宜しいですね」
「良いわけないでしょうが!」
先ほどから、頭ごなしに話を進められて不機嫌なミサトが介入した。
「アンタ何様のつもり?」
その上、アスカにまで睨まれた。
アスカだけが、栄光の、エヴァンゲリオンの操縦者であり。ユウキとレイは末端のパイロットに過ぎないとでも思っているのだろうか?物凄く自分にとって都合の良い考えである。
「直訴が許可できないのなら、中間管理職であるミサトさんには、上層部に現場に赴く者の意見を上申する義務があると思います。直ちに上申して下さい」
「この作戦部長の私を含め、司令部と技術部も承認したのよ、議論の余地は無いわ、と言う事で、捕獲担当はアスカ」
「やった〜!」
「ユウキ君とレイは初号機と零号機で火口にて待機、万が一に備えて」
「万が一の備えが必要ならば初めからしないで下さいよ」
ユウキが愚痴った瞬間、アスカに背筋が凍るような視線で睨まれた。
「・・アタシの活躍の舞台取ったら、殺すわよ・・」
アスカは周りに聞こえないようにユウキの耳元で囁いた。


その後、D型装備と耐熱スーツでもめまくったアスカによって何発も八つ辺りの蹴りを入れられた。


浅間山の火口で初号機と零号機が待機している。
弐号機がゆっくりと潜っていった。
暫くは何も無かった。
だが、使徒が予測出現地点にいないと言う事が起こった。
ユウキは何か起こると確信し、いつでも動けるように気を配った。
そして、プログナイフを落とすと言う事態が起こりユウキは直ぐに初号機のプログナイフを火口に投げ入れた。
『何をしているの!?』
「武器を失うわけには行きません」
『・・でも、弐号機両手塞がっているから無駄では?』
「あ・・・」
マヤに冷静に突っ込まれ黙るしかなかった。
そして、接触、捕獲し、皆が緊張を解く中、ユウキだけは更に緊張を強めていた。
警報が鳴り、使徒が羽化をした。
「やっぱり!」
そして、マグマの中で苦戦するも、受け取った、プログナイフでパイプを切断し、低温冷媒を吹きつけて倒した。
ユウキは漸くほっと一息ついたが、弐号機のケーブルが切れた。
「くっ!」
ユウキは初号機を火口の中に飛び込ませた。
『碇君!!』
「ぐああああ!!!」
沸騰する風呂に飛び込んだような感じである。
弐号機のケーブルを掴み、現行命令でホールドモードにした後、ユウキは意識を失った。


ネルフ中央病院、
ユウキは目を覚ました。
全身がひりひり痛む。
「・・碇君・・」
レイが目に涙を浮かべている。
「・・ごめん・・」
「・・もう・・あんな事はしないで・・」
レイはユウキに抱き付いて来た。
ユウキはそっとレイを抱き締めた。
「・・ごめん・・」
ユウキはこの愛くるしい少女は絶対に守らなければ行けない、命だけでなく、その心も守らなければならない、そう感じていた。


総司令執務室、
碇は病室の映像を見ながらにやり笑いをしている。
「シナリオを次の段階に遷すか」
「・・何をするつもりだ?」
「地下のあれをユウキに見せる」
「な!?し、しかしそれでは!」
「何をうろたえている。ユウキはシンジではない、レイの息子だ」
「う、うむ、だが、しかし」
「全ては順調だ」
「・・・そうか・・だが、補完計画の遅延を再三再四突付かれるのもな・・・」
「ふん、老人どもには、何もできんさ」