ユウキの受難

◆第8話

第3新東京市立第壱中学校、2−A、
窓際の席で3人の美少女に囲まれながらど〜〜んと重い気分になっている少年がいた。
当然のごとく、碇ユウキである。
教室中から敵意の視線を浴びせ掛けられている。
そして、目の前でも火花が・・・
それぞれの心情を表すと、
(碇君の作ったお弁当は美味しい)
(ユウキ君、私が必ずこの二人から助け出してあげるわ、そして、二人でバージンロードを!)
(このスパイ女が、家の主夫に手ぇ出すんじゃないわよ!)
(・・・もう、放っておいてくれよ・・・)
そして、授業が始まった。
ユウキは、窓越しに空を眺めた。
「はぁ・・・」
(・・・父さんは、こんな状況を潜り抜けたんだ・・・)
(・・・僕は、もう・・・限界かな・・・)


そんなある日、ユウキの家で、アスカの誕生パーティーが開かれていた。
参加者は、ユウキ、レイ、アスカ、マナ、ヒカリ、リツコ、ミサト、マヤ、加持の通りである。
料理を作ったのは、やはりユウキである。一部レイも手伝ってはくれたが・・
パーティー開始から暫くして、今アスカとマナが、料理の取り合いをしている。
何かと激突したがる二人である。
加持がずっと機会を伺うような視線でユウキを見ている。
(な、なんですか〜、そんなにじろじろと〜)
しかし、ユウキの直ぐ横にはずっとレイが居座っている為にその機会は訪れていないようだ。
「・・・・碇君、御手洗いに行って来るわ」
「あ、うん」
レイが立ち退いたのを見て、マナが入りこもうとしたが、瞬間的にそれよりも早く加持がユウキの隣に腰を下ろした。
(何なんですか〜)
「やあ、ユウキ君、ちょっと話、良いかな?」
「え、ええ・・」
明らかにユウキの顔は引き攣っている。
マナはしぶしぶ引き下がった。
「・・・僕を探っても計画については何も出て来ませんよ」
ユウキは先手を打った。
ネルフはどうも裏の計画を進めているようである。なにか、物凄く遅れているらしいが、
加持の目が輝いた。
「ほう、どうしてだい?」
「おじいちゃんは僕には何にも教えて・・・」
ユウキは自分のミスに気付き、言葉を止めた。
(おじいちゃん?どう言う事だ?)
加持はその意味を考えている。
「・・いえ・・気にしないでください・・」
(ふむ・・これは調べ直す必要がありそうだな)
何とか難は去ったようである。
加持は立ち上がりアスカの方を向いて軽く首を振った。
そこで、アスカはすかさず滑り込もうとするマナを腕力でねじ伏せ、自分がユウキの隣に座った。
「・・アンタに聞きたい事があんだけど」
「・・何?」
「・・浅間山でなんでアタシを助けたわけ?あん時、アタシは、アンタを殺そうとしてたのよ」
「・・・分かってるよ・・・でも、惣流は僕にとって大切な人だから・・・絶対に死なせたくは無かった・・・」
アスカは火がついたかのように顔を赤くした。
「・・どうしたの?」
「な、何でも無いわよ!」
「だから・・・無我夢中で・・・」
その後、打ち解けたようで、それなりに談笑した。
トイレから戻って来たレイは、二人の談笑を見て溜まらない不安に駆られ、そして、決意し、リツコの元に近付いた。
「すぇんぷあ〜い」
「よしよし」
リツコはミサトが持ち込んだ酒に呑まれて酔っ払っているマヤをあやしている。
「レイ、・・どうかしたの?」
「・・・赤木博士・・・碇君にプラントを見せたいのですが・・・」
リツコは驚いてレイの顔を見た。
不安と焦りに包まれている。
「・・・そう・・・大丈夫よ、彼は貴女を受け入れてくれるわ」
リツコの言葉に僅かではあるがその雰囲気が和らいだようである。


翌日、ユウキはレイに連れられてネルフ本部にやって来た。
「・・・碇君に見てもらいたいものがあるの・・・」
レイの緊張した表情にユウキは無言で頷いた。
中央エレベーターに乗った。
レイはIDカードを取り出すとスリットに通した。
パネルが開き、その中の一つのボタンを押した。
「それは?」
「・・目的地に行く為のボタン・・」
随分と時間が掛かる。
・・・
・・・
ユウキはレイが碇が言っていたレイの秘密を見せ様としていると言う事に気付いた。
(・・・母さんの秘密か・・いったい何なんだろ・・・)
やがて目的の階に到着し二人はエレベーターを降りた。
無言のまま長い通路を歩き、目的地まで辿り着いた。
(LEVEL−6?)
殆ど最重要機密区域である。
レイはスリットにIDカードを通した。
すると、ゲートが開いた。
ユウキはレイに続きダミープラントに入った。
人がすっぽり入れるような大きなカプセルが中央にあり、その後方に大きなガラス・・・水槽がある。
「・・・ここは?」
レイは震える手でリモコンを手に取った。
「・・・私の秘密・・・私が創り出された場所・・・」
「え?」
ユウキは耳を疑った。生まれたではなく創り出されたと言った・・・
「・・・」
レイはリモコンのボタンを押した。
すると、部屋の照明が次々に灯り、そして巨大な水槽の照明も灯り、その中に多くの人の陰が浮かび上がった。
「なっ!?」
ユウキは驚きで絶句し、その様子を見たレイは恐怖で全身を振るわせた。
「・・・・」
(・・・そうか・・・人工的に創り出された、と言う意味か・・・)
(・・・そりゃ、確かに、見られたくないし知られたくない秘密だな・・・)
(・・・・なるほど、母さんとお祖母ちゃんがそっくりなのは、母さんがお祖母ちゃんの遺伝子を基に作られているからか・・・)
思考を巡らせているユウキは先ほどから黙ったままで、それがレイに恐怖を与えている。
(・・・とすると、その遺伝子には人工的に変異が加えられていると考えるのが自然か・・・)
(・・・アルピノもそのせいだろうな・・・)
ユウキはガラス越しに、素体の瞳を見詰め、ガラスに映るレイの瞳に目をやり、そして、同じくガラスに映る自分自身の瞳を見詰めた。
(・・・この瞳の色も・・・)
「・・・私は・・・人で無い存在・・・使徒と碇ユイの遺伝子を・・・組み合わせて・・・創り出された存在・・・」
(・・・使徒か・・・)
「・・・碇君は・・・こんな私を・・・受け入れてくれる?」
レイの声はか細く震えている。
・・・
「先ず1点、使徒と人類の遺伝子の相違は、99.89%らしいね。使徒と人類の遺伝子を組み合わせたのなら、その相違は更に小さくなる。ところがね、人類は、個人差によって、およそ0.1%の相違を初めから持っているんだ。十分にこの幅に収まる。遺伝子学的には完全に人間だよ」
レイの恐怖は小さくなった。だが、不安は大きいままである。
「ねぇ、どうして僕の瞳は赤いと思う?」
突然尋ね返されレイは戸惑った。
暫くして、レイは首を横に振った。
ユウキはポケットから一枚の写真を取り出した。
ノートパソコンに入っていた画像を印刷したものである。
「・・・これが、答えだよ」
ユウキはレイに写真を渡した。
端から、ユイ、白髪の碇、アスカによく似た少女、アスカ、レイによく似た少女、レイ、シンジ、ユウキが並んでいる。
「・・・これは?」
理解の範疇を超えたものである。
これはいったい何なのか?
「・・・僕の瞳が赤い理由は、僕が、貴女の息子だからですよ」
「え?」
思わず間抜けな声を漏らしてしまった。
「・・僕は、西暦2022年3月11日、碇シンジと碇レイ、旧姓綾波レイとの間に生まれました。」
レイは一瞬何を言っているのかと言おうともしたが、表情や言葉が余りに真剣であり、とても冗談を言っていたり、嘘をついていたりしているようには思えなかったので、黙って最後まで聞くことにした。
「姉は、2人、長女が、2021年4月15日に同じく碇シンジと碇レイとの間に生まれた碇レナ・・・次女が同年8月21日に碇シンジと碇アスカ、旧姓惣流アスカとの間に生まれた碇ミクです。」
レイは写真に写る二人に目をやった。
「親は3人ともネルフの最高幹部であり、特に、父さん、碇シンジは、ネルフの長官です。」
レイは写真のシンジを見詰めた。
「2035年のある日、僕は、父さんと母さんにネルフ本部に呼ばれ、電車に乗り、ネルフ本部に向かっていました。しかし、居眠りをしている間に、この時代、2015年、同じく呼び出され、ネルフ本部に向かっていた、父さんと時間を越えて入れ替わってしまったようです。」
タイムスリップ、それが答えである。
「僕は、父さんも母さんも尊敬しています。でも・・・・」
「僕は、この時代で母さんを・・・いや、綾波を、一人の同年代の女の子として好きになってしまったんです。」
その言葉にレイはパアッと顔を綻ばせ、直ぐにユウキに飛び付いた。
「私も碇君の事好き」
ユウキはぎゅっとレイを抱きしめ、レイの唇に自らの唇を重ね合わせた。
レイはユウキの行動に驚き、そして、歓喜の涙をぽろぽろと零した。
「・・・碇君・・・」
「・・・綾波・・・僕は、今、綾波との、男と女としての確かな絆が欲しい」
レイは笑顔で泣きながら頷いた。


元人工進化研究所第3分娩室、
ここには一応とは言えベッドがあった筈と、レイがユウキを連れてくると・・・・綺麗に整理され、シングルのパイプベッドは、しっかりとしたダブルベッドに変わっていた。
何か、お祖父ちゃんの思い通りに進んでしまったなぁと、ユウキは苦笑した。


翌日、二人は帰路についていた。
「・・レイ、今日の夕御飯何が良い?」
「・・・カレー」
どこからとも無くベートーベン交響曲第9番の調べのハミングが聞こえてきた。
「・・ユウキ君・・」
レイがその対象に気付いたのかユウキの視線をそちらにやった。
銀髪の少年が公園の天使像の上に座りながらハミングしている。
「歌は良いねぇ・・・リリンの生み出した文化の極みだよ・・・・君もそう思わないかい?」
「・・碇ユウキ君」
赤い瞳の少年、渚カヲルがユウキの方を振り向いた。


一難去って又一難と言った所であろうか?
アスカやマナの問題に更に加持の問題もある。
彼の受難はまだまだ続くのであろう。
でも、この話はこの辺りで、