復讐・・・

◆第弐話

シンジは与えられた宿舎で休んでいた。
近い内に正式な居住先が与えられるらしい。
皇耕一・・・一体何者なのか、彼がこの変化の原因と考えて間違い無いだろう。
自分は過去に来たのか?或いは、別の世界に来たのか?
・・・・まあ、そんな事を考えても価値は無い。もはや戻る事はできない。
もはや、この世界、この時代こそが、唯一なのだから・・・
シンジは布団を被り、眠りにつくことにした。


翌日は、各部署への挨拶回りを済ませ、又、色々と紹介や説明があった。


次の月曜日から第3新東京市立第壱中学校に通う事に成った。
今、保安部の車で第3新東京市立第壱中学校に向かっている。
(・・・)
「着きました」
第3新東京市立第壱中学校の駐車場である。
シンジは車を降りた。


そして、今、シンジは教室のドアの前に待たされている。
「今日は皆さんに、転校生を、紹介します。入って来なさい。」
シンジはドアを開けて教室に入った。
愚かな者ども、自らの興味本位のみで動く、ケンスケはその最たるものに過ぎない、皆同じなのだ。
「・・碇シンジです。宜しく」
そして直ぐに質問攻めにあった。
「ねぇねぇ、彼女いるの〜?」
シンジはそう尋ねた女子にこう返した。
「どうして、そう人のプライベートに土足でずかずかと踏み入るような真似をする?」
そして、睨み付ける。
・・・教室が静まり返った。
「わ、私は・・そんな・・つもりじゃ・・」
シンジは与えられた自分の席に着いた。
(ん?この席)
横の窓際の席は空席・・・
レイの席である。
(・・まあ、他の奴等よりは遥かに良いか)
あの言葉が利いたのか、その後、シンジへの質問はさして無く静かで楽だった。


翌日は、与えられた部屋への引越し作業で学校を休んだ。
「・・・ここか」
ミサトの真下の部屋である。
「私はこの真上だから、何かあったら何時でも尋ねてきてねん」
プライベートモードに入っているようで笑顔を浮かべている。
「・・はい」
機械的に返す。
・・・・
・・・・
片づけが終わった。
「・・ふう・・あ、夕飯」
冷蔵庫の中は空である。
チャイムが鳴った。
ドアを開くと、ミサトが立っていた。
「夕飯の用意、何も無いでしょ」
「・・構わないで下さい、」
あんな物食べさせられたら・・・絶対に食べたくない。
少し汗が見える。
「ん〜、そんな事言わずにさ、」
ミサトはコンビニの袋を見せた。
「色々買ってきたから」
「・・・・」
シンジのお腹が鳴った。
「ほらね♪」
「・・・・」
「・・・構わないで下さいと、言った筈ですが?」
「折角買ってきたのに、どうしてそんなこと言うわけよ〜?」
ミサトは不満そうな表情で返した。
「餌付けで手懐け様って言うわけですか?」
「何、ですって?」
「優しいお姉さんを装い、自分の思い通りに動く様に手懐け様って魂胆でしょう」
「私は」
「葛城さんは、作戦指揮官・・・僕に命令を下す立場ですね。」
ミサトの言葉を遮って言った。
「・・それがどうかしたの?」
「場合によっては、死亡する可能性が非常に高い作戦を行えと命令される人から、プライベートでは優しくされるなんて・・・例え、それが純粋な善意であったとしても、辛いだけですよ、」
「・・・・」
露骨に表情を歪める。
「分かりましたか?」
「・・・取り敢えず、これは上げるわ、しっかり食べておきなさい」
「・・・必要ありません。」
・・・・・
・・・・・
・・・・・
暫く問答が続いたのだが、結局空腹には勝てず、ミサトの好意?を受ける事になってしまった。
「・・くそ・・・」
軽い屈辱を感じながらシンジはコンビニ弁当を食べた。


数日後、授業中、第3新東京市立第壱中学校、2−A、
シンジは耕一について調べてみた事を少し考えていた。
皇耕一、世界最大の企業であり、政治にまで大きな影響力を持つ東京帝国グループの会長である。
西暦2000年をを境に、会長婦人の皇ルシアと共に公の場から姿を消した。
しかし、2005年に再び公の場に現れ、東京帝国グループを爆発的に成長させる。
2010年には世界第1位の企業になり、その後も驚異的な成長を続け、影響力は、経済だけ無く政治にまで広がる。
2013年に、国際連合総会にて特務機関ネルフの総司令官への就任が承認される。
この際、碇と冬月は、それぞれ副司令と総務部長に降格している。
そして、現在に至る・・・
(・・・分からないな・・・)
その経歴も信じられないものだが、見掛けと年齢が全く一致しない。
ふとディスプレイを見ると文字が書かれた。
《碇君があのロボットのパイロットだって噂ホント? Y/N》
周りを見まわすと、やはり後ろ方の女子二人が手を振っていた。
《ねぇ、ホントなんでしょ    Y/N》
《NO》
即答した。
《嘘つかなくても良いから、私知ってるんだから》
《NO》
《だからほんとの事言ってよ》
《NO》
・・・
・・・
その後も延々と続き、くどいので通信ケーブルを抜いた。
・・・
・・・
・・・
休み時間になり、トウジが後ろの扉を開けて入って来た。
「鈴原!」
ヒカリやケンスケが走り寄って行く、
(ああ、妹さんが怪我したんだったかな・・変わってないのか)
・・・
・・・
次の休み時間に半ば無理やり、校舎裏に連れてこられた。
「聞くでぇ!お前があのロボットのパイロットやゆうんはホンマか!?」
トウジの目を睨みつける。
「・・・分からないな、なぜ君は初対面の相手をいきなり問い詰めるようなまねをするのかな?余りに失礼じゃないか、」
「妹がな、妹が、この前の戦闘で怪我したんや!敵がならともかく味方が暴れてどないすんじゃ!」
「・・だから?それが、こんな事をして良い理由になるのか?」
「おのれがパイロットか!?」
「さあてね、」
「はっきりせい!」
「はてさて、どうだろうねぇ」
あくまで惚けるシンジに、トウジは腹が立っているようだ。
いきなり拳を振り上げて殴り掛かって来た。
シンジはカウンターを取ろうとしたが、黒服の手によってトウジの拳は途中で止められた。
「な、何や!」
「・・・暴行未遂とは頂けないな」
「は、離せや!」
「・・・そうもいかない、私は、国際警察組織にも属している。君を暴行未遂の現行犯で逮捕する。」
黒服はトウジに手錠を掛けてしまった。
「ついて来い」
トウジは連行されて行った。
シンジはカウンターが不発した事でちょっと不満だった。
「ちっ」
近くにあった小石を思い切り蹴飛ばした。
小石は校舎の壁に当って砕ける。
暫くして別の黒服がやって来た。
「使徒が現れた。至急本部に向かってもらうが、良いね」
シンジは頷き、駐車場で保安部の車に乗り込み本部へと移動した。


ネルフ本部チルドレン待機室、
モニターで映像を見ている。
様々な攻撃が仕掛けられているが、シャムシェルは無反応である。
扉が開き、レイが入って来た。
怪我はかなり癒えている様だが未だ少し包帯をしている。
(そう言えば、未だ学校に来ていないな、)
「・・こんにちは」
シンジは一瞬少し戸惑った、レイから挨拶をされるとは・・・
「あ、うん・・・こんにちは、」
やはり、毒気が抜かれてしまう。
レイはシンジの横に座りモニターに目をやった。
・・・・
・・・・
「・・貴方はなぜエヴァに乗るの?」
シンジは黙り込んだ。
「・・・そう・・・」
勝手に解釈したようだ。
「綾波は?」
「・・絆を守る為、」
(前は乗る事自体が絆だったような・・)
「・・・父さんとの?それとも、司令との?」
「・・いえ、・・私と繋がる皆との・・」
「そう・・・」
モニターは無駄な攻撃が続けられている映像を映し出している。
部屋は静寂に包まれている。
「・・・司令は・・・綾波にとってどんな人?」
「・・・」
「・・大切な人・・・」
「・・・どんな風に?」
「・・私に様々な物を与えてくれた・・・」
前回のシンジが行った事であろうか、
「・・・そして、私が道に迷っている時に、新たな道を指し示してくれる人・・・」
(迷っている時?)
レールを敷くではないのか・・・
バルーンダミーが射出され、シャムシェルは触手で突き破った。
勿論派手に破裂して、シャムシェルの体がびくっと震えた。
びっくりしたようだ。
・・・・
・・・・
『シンジ君、初号機に搭乗して、出撃よ』
「・・・」
シンジは黙って部屋を出ていこうとした。
「・・碇君、」
しかし、レイに呼びかけられて、足を止めた。
「・・何?」
「・・・生きて帰って来て・・・」
「・・・・・・当然だ・・・」
シンジは部屋を出た。


初号機に搭乗しシャムシェルに関して現在分かっている事を一通り教えられた。
『本体自体の機動力は低いけど、あの触手には気をつけて、基本的にヒットアンドアウエィよ』
「・・了解・・」
初号機は射出され、手元にアクティブソードが射出された。
初号機はアクティブソードを取り構える。
シャムシェルは一定の距離を保っている。
『支援をするわ』
兵装ビルが開き、ミサイルがシャムシェルの頭部に向かって大量に発射された。
シャムシェルの頭部は爆煙に包まれる。
初号機は一気に間合いを詰め襲いかかる触手を交わし、斬り込んだ。
そして、いったん距離を取り再び接近し斬る。
数回繰り返すうちにシャムシェルの動きが鈍く成って来た。
「はああ!!」
そして、留めの一撃、コアへの突き、
これでシャムシェルは沈黙した。
ふと視界にあの丘が目に入った。
警告音が鳴った。
「え?」
画面が拡大されカメラを片手にはしゃぎまくるケンスケが映っていた。
(・・愚か者・・)
『司令、スパイの少年を発見しました。』
「・・・」
『直ちに逮捕せよ』
武装ヘリが飛んで行って、ケンスケを逮捕した。
『シンジ君もう良いわ、戻って来て、』
「・・・はい」


待機室に戻るとシンジの無事な姿を見てほっとしたのかレイは表情を緩めた。
ミサトが入って来た。
「おめでとう、」
「・・・いえ、」
「今日はレイラさんは遅くなるそうだからレイはシンジ君といっしょに私が送っていくわ、30分後に駐車場で」
「はい」
(レイラ?)
耳慣れない人物の名を疑問に思っている間にミサトはいなくなってしまい、ミサトの車で帰る事が半ば決定してしまった。
「・・・綾波、」
「・・・何?」
「自分で帰るって、葛城さんに言っておいて」
「・・・分かったわ」
シンジは待機室を出た。


諜報部、第6取調室、
ケンスケはパイプ椅子に手錠で拘束され、黒服に取り囲まれ涙を流していた。
「・・相田ケンスケ、13歳、第3新東京市立第壱中学校2−A所属、父親は相田サトシネルフ情報局副局長、これに間違いは無いな」
「でしょ!!でしょ!!スパイなんかじゃないでしょ!!」
「では、もう一度聞こう、なぜシェルターを抜け出し、戦場に現れた?」
「だ、だから、只、エヴァが見たかったから!」
「・・・分かった、秘事項を見ようとし、実際に見てしまったわけだ、一先ず監禁室に入っていてもらおう」
「そ、そんな!」
「連れていけ」
ケンスケは拘束を外され、3人掛りで連行されて行った。


総司令執務室、
ミサトが報告をしていた。
「以上が、早期報告です。」
「御苦労だった。・・ところで、スパイ容疑の少年は?」
「はい、父親がネルフ本部情報局副局長相田サトシ1尉でしたので、一先ず監禁室に監禁しています。」
「・・・分かった。チルドレンの事を頼む」
「はい」
ミサトは一礼して退室した。


シンジがマンションに着いた時、丁度轟音を上げてミサトの車が駐車場に滑り込んで来た。
「あら?シンジ君・・・乗ってけば良かったのに・・」
「・・・構わないで下さ・・・あれ?」
レイがミサトの横にいる。
「あれ?言ってなかったっけ?」
そして、そのままエレベーターで登り、シンジの隣の部屋で立ち止まった。
・・・表札を見てみると、
皇レイラ
綾波レイ
と、書かれていた。
「と、隣・・・」
「未だ、色々不自由だと思うから、色々と助けてあげてね」
レイはペコリと頭を下げた。
結局、ミサトの思い通りに事が進んでいる感じである。
(・・これは、自分の駒のメンテナンスに過ぎないんだ、騙されちゃいけない、)
シンジは自分にそう言い聞かせてから、部屋に入った。