最初こう続くはずだった
「それってあれでしょ。幸せすぎる時に感じる不安って奴。雑誌の読者相談コーナーとかに載っていたりするじゃない。『今、彼氏ととてもうまくいっているんですけど、ある日突然その幸せが崩れてしまうんじゃないかって眠れなくなる時があるんです〜』みたいな。はいはい、ごちそうさま」
けっ。
まさにそんな感じの言葉が当てはまりそうなくらいの口調で言い捨てられた。
「……由乃さん、それはあんまりだよ。どうしても聞きたい! って言うから話したのにそこまでひどい対応を取らなくたってさ。ねえ、志摩子さん?」
志摩子さんも口には出さないものの、眉をひそめて困ったわという顔をしている。
「はいはい、私が悪うございましたよ。まさかそこまでのろけられるなんて思いもしなかったんだから」
「……はい?」
「ああ、その自覚がないのがまた憎たらしいわ! ええ、いいわよ。私も正直に言えばいいんでしょ。私あの頃祐巳さんたちがすごくうらやましかったんだから。二人だけにしか入れない空間っていうかさ。ああ、私はその外にいるだけなんだなって」
「そうだったの?」
全然気づかなかった。
こういう表現がありなのか分からないけれど、私たち普通に親友をやっていると思っていたから。今だって、結構深いと言えないこともない話をしたわけだし。
「そうよ。うらやましいやら悔しいやら寂しいやら、もう思わずジェラジェラジェラジェラジェラって」
「……なにそれ?」
「恋の換気扇が回ってる音」
「ず、ずいぶん淀んでそうだね」
「そりゃ淀みたくもなるわよ。隙あらばイチャイチャイチャイチャ……」
「そんなことしていたっけ、私たち?」
「そんなつもりはないのだけど……ねえ?」
二人してまじまじと見つめ合う。由乃さんはさっきからずっとそう言うが、まったく身に覚えがないのだから仕方がない。
「ああ、もう! これだから自覚無しのバカップルどもは! だいたいこの態勢だってそうよ!!」
「態勢?」
いつものこととはいえ、今日はいっそう由乃さんの勢いについて行けない私たちである。
「そう! 四人用ボックス席になるとどうしていつも二人が一緒になるわけ!?」
「……ああ、そういえば」
「……言われてみれば」
言われて初めて気がついたとばかりに(実際そうだけど)思わず相づちを打つ私と志摩子さんに、もう我慢ならんと由乃さんは立ち上がった。
「ええい、もうやってられないわ! 私もそっちに混ぜろ!! ジェラジェラジェラジェラジェラ……」
「「こ、恋の換気扇!?」」
「恋の換気扇」の元ネタ。
ペデューサーPは最高です。結婚してくれ!
恋の換気扇はともかく
そこを除けば本当にもう少し詳しく書いた上で、後日談としてあの後ろにつける予定でした。
まあでもやっぱり蛇足ですよね。