綾波に最初に会ったのが、どこだか

正確には特定できない。

 

初めて、第三新東京に来たあのときかもしれない。

 

電話を終えた一瞬、確かに綾波を見た。

見知らぬ女の子がいると思った。

道路の真ん中に立ってこっちを見ている女の子がいた。

僕を見ていた綾波を、一瞬だけど、確かに見たから

幻のように消えてしまったあれは何だったのか

いまだ良く分かっていないけど

 

それとも、別のときかもしれない

 

もっとも前に会っていたのかもしれない

母さんが消えたあの時、すでに綾波はいたのかもしれない

 

あの最初に作られたEVAの中から、僕を見ていたのかも知れない

母さんが消えたその瞬間から

まだ幼いボクを

自分の母親が消えてしまった事に気付かない

でも気付いていたボクを

 

 

ハッキリ覚えているとき

お互いが顔を合わせたのは、初号機の前だった。

はっきりした出会いは、初号機のガレージでだった。

大怪我を負った綾波と、そこで、出会った。

今思えば、随分情けない出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

新世紀

第四話

「出会い、それから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あのとき、僕は打ちひしがれていた。

父さんに、淡い期待を裏切られて、絶望していた。

うじうじと、子供のように、いじけていた。

 

まぁ、実際子供だったけど

いまでも子供だけど、それにしても情けなかった。

 

いきなり呼び付けられて

それでも来たのに

ほとんど絶望していた、父さんがボクを見るかなんて

 

それでも、いくらか期待をしていたのに

 

もう一度、父さんと暮らせるようになると

 

だから父さんに会いに来たのに

 

 

ボクはガキらしい幻想を抱いていた。

 

 

だけど現実は違った。

僕は道具として呼ばれただけだった。

エヴァンゲリオン初号機のパイロットとして

子供だから呼んだ訳では無かった。

家族だから側に置こうとしたわけでは無かった。

一緒に住もうと言ってはくれなかった。

息子としてボクを呼んだ訳では無かった。

 

だから、寂しかった。

そして、悲しかった。

自分が、いらない子供に思えた。

やるせない想いで、胸がいっぱいだった。

 

 

あのとき、ボクは父さんしか見ていなかった。

 

僕は、隣にいた、ミサトさんの言葉も聞いていなかった。

反対側にいた、リツコさんの言葉も、聞いていなかった。

周りで作業していた人たちも、関係なかった。

 

ただ、父さんを見ていた。

 

 

ボクは、迎えに来た葛城三佐に保護され、NERV本部に来ていた。

途中、ミサトさんが迷うというアクシデントもあった。

が、赤城博士・リツコさんに案内され、無事に着く事ができた。

 

ボクは、何も知らないままに、案内されていった。

ボクは、知らないうちに、EVAの前に連れてこられた。

 

大きな空間に出た。

真っ暗で、ろくな照明も無かった。

だから、実際どのくらいのスペースがあるのかは、分からなかった。

そこには、赤い水が池のようになっていた。

その大きな池をボートで進んだ。

ある程度まで向かうと、やがて、金属製の小島に着いた。

そこで、いきなり照明が点いた。

目の前に巨大な顔があった。

緑と青、そして紫で彩られた巨人の顔だった。

 

「久しぶりだな、シンジ」

 

突然声が響いた。

随分と聞いていなかった声だ。

本当に久しぶりだった。

見上げると、父さんがいた。

初号機の頭上にあるガラス張りになっている部屋に、父さんがいた。

ボクを見下ろしている、父さんがいた。

 

しばらく目を合わせていた。

本当に長い間、会っていなかったから。

ついつい凝視してしまった。

 

急に、父さんの口元が歪んだ。

それで、我に返った。

そして、ようやく自分が、父さんと目を合わせている事に気付いた。

それが嫌で、ボクはすぐ目をそらした。

 

父さんと目を合わせているのが嫌だった。

自分を捨てた相手を見ているのが嫌だった。

父さんに必要とされたいと思っている自分が嫌だった。

父さんにすがっている自分が嫌で、僕は目をそらした。

 

すると、父さんがそれを見て笑ったような気がした。

何と無く父さんが笑ったのが分かった。

別に声が聞こえた訳ではないのに分かった。

 

その声を立てず笑う様子が、ボクの頭に鮮明に浮かんだ。

ただ口元を歪めて笑う様子が、ボクの頭にこびりついた。

だから、ボクは余計、父さんと自分を嫌悪した。

 

 

「出撃」

 

 

そんな事を考えていると、突然、声が響いた。

父さんの声が、スピーカーを通して広い空間に響き渡った。

それがボクを余計、萎縮させた。

その冷たい声に、ボクは余計に父さんを嫌いになった。

 

だからボクは拒絶した。

 

そのときだった。

ボクが彼女に出会ったのは

 

プラグスーツと血まみれの包帯で身を覆った

蒼銀の髪の少女

大怪我にもかかわらず、必死で起きようとする彼女

僕の手の中で怪我の痛みに震えていた少女

 

それが綾波との出会いだった。

 

 


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