初めて会った初号機のガレージ

 

あの時は司令に捨てられる不安から碇君をうらんだ

そして第三使徒との戦闘の後病院で会った。

あの時、碇君に司令は話し掛けもしないでいた。

 

ワタシのほうを見ていた碇君は寂しそうだった。

もっとも、あのときのワタシにはそれが何故かも

そもそも碇君を気にかける心すら、ホトンドなかったのだけど

 

 

 

 

 

新世紀

第五話

あの頃は

その2








 

一度、碇君が家出をしたことがあった。

二回の使徒との戦闘で、精神的にかなりまいっていたようだった。

 

そして、多分甘えもあったんだと思う。

最後には、NERVを辞めて、第三新東京から出て行きそうになった。

結局、出て行くのを思いとどまって、電車のホームで立っていたところを、葛城一尉に迎えられて、元のさやに収まったのだが。

そして、帰ってきた。

 

すぐ後に、手続きに来た碇君に、たまたまNERVで会った。

そのとき、ワタシは思わず碇君に心のうちの苛立ちや憤りをぶつけそうになった。

 

”そんなに嫌なら帰ってこなければ!!”

 

思わず怒鳴りそうになったのを覚えている。

 

 

そして第五使徒との戦闘

まだ、実戦に耐えられない、零号機は、待機という事になった。

だから、ワタシも当然、出なかった。

 

初号機で出撃した直後に、碇君は、敵の荷電粒子砲の直撃を受けた。

そして、すぐにメディカルルームに直行した。

何故か、彼についていなければと想い、手術が終わるまで待っていた。

 

治療が終わり、意識が回復したとき、ワタシは、少しほっとした後、任務を伝えに彼のところに行った。

碇君は随分と弱気になっていたっけ

 

ワタシに向かって愚痴をこぼしたときは、思わず笑いそうになった。

あんまりおかしかったので、ちょっと意地悪をしてしまった。

 

碇君は、終始、弱気だった。

でも結局、作戦に参加した。

 

作戦の現場、双子山に来てから、ワタシ達は、作戦の詳細を聞いた。

そして、行動に移った。

 

ワタシ達二人は、作戦現場の野外用・移動式本部に来ていた。

と言っても、大型のバスと同じ大きさの車両に、とりあえず通信設備を取り付けた簡単なものだったが。

 

そこの一部を、ロッカーとして使っているのである。

そこで、着替え終わった碇君が、話し掛けてきた。

 

「これで死ぬかもしれないね」

 

そんな事を言っていたりもした。

言葉からは、不安も何も感じ取れ無かった。

感情を交えない声だった。

気力ややる気を全く感じさせない。

そんな口調だった。

 

あの時は、なぜかその言葉が、気に障った。

だからなのか、それとも他に何かあったのか、ワタシはその言葉に答えてしまった。

 

「あなたは死なないわ」

 

その言葉に、碇君がカーテンの向こうではっとして、こちらの方を向いたのを感じた。

 

ワタシは、何時もとは違う、確信に満ちた、力強い声で喋っていた。

 

「ワタシが守るもの」

 

今でも、なぜあの時、あのような事を言ったのか良く分からない。

ただ、碇君を守ろうと確かに思っていた。

あのときは特に特別な感情は無かったはずなのに

 

 

でも、共同作戦のときはなんとなく嬉しかった。

二人が何と無く似ているのが分かって

 

 

作戦の一時間前に、ワタシは碇君と話していた。

といっても、たいして口は利かなかったが

 

「綾波は、なぜこれに乗るの?」

 

いくらかたって、碇君がそう聞いてきた。

二人で、何とは無しに第三新東京の方を眺めていた時だった。

 

相変わらず、たいして、感情を感じさせない声だった。

 

ワタシは、そう聞かれた時、なぜかドキっとした。

なんとなく、心の奥底を覗かれたような

そんな気分になった。

 

”そんなはず無い”

 

ワタシは、そんな風に自分に言い聞かせた。

それで少しは落ち着いた。

落ち着いてみると、自分があまりその事を不快に思っていない事に気付いた。

 

”なんでだろう”

 

不思議ではあったが、慌てる事はなかった。

それが決して不自然とは思わなかった。

そして、随分と碇君が身近に感じた。

碇君の事は、ずいぶん昔から知っていたような

そんな気分にさえなった。

 

「絆だから」

 

ワタシは、碇君に自分を正直に出していた。

それまでの嫉妬や憤りが消えていくのが分かった。

そんな気持ちが、なんとなく気恥ずかしかった。

それで、思わずぶっきらぼうな口調になった。

 

「絆?」

 

碇君が、聞き返してきた。

 

「そう、絆」

 

碇君が、ワタシの口調もたいして気にしなかった。

それで、随分とワタシは気が楽になった。

それでも、愛想の無い口調で、ワタシは答えてしまった。

ワタシは、いつのまにか碇君に親しみを抱いていた。

碇君に対して、一種の甘えを抱いている事に気付いた。

 

「強いんだな、綾波は」

 

ワタシのそんな葛藤をよそに、碇君は、相変わらずの様子で続けた。

その様子に多少の落胆を感じた。

 

“何も気付いてくれないのね”

 

とそんな風に。

でも、それ以上に、ずいぶんと安心した。

自分の気持ちを、持て余していたから。

だから、ワタシは、平静さを保とうとした。

できる限り、いつもの何気ない様子で喋ろうと努力した。

 

「ワタシには、他に何も無いもの」

 

努力にもかかわらず、ワタシは、話し続けた。

自分でも分からないうちに、どんどん妙な事を口走っていた。

なぜか碇君に、自分の思いをそのまま伝えてしまっていた。

 

”なんで、こんな話をしてるんだろう?”

 

そんな疑問を抱いた。

そして、止めようと努力した。

それでもワタシは、話さずにはいられなかった。

 

「他に何も無いって?」

 

碇君が、今度はいくらか不審そうな、そんな様子で問い掛けてきた。

その表情も、それまでのものとはちょっと変わって、不思議そうな色が加わっている。

案の定、ワタシの言葉が碇君の注意を引いてしまった。

 

”それとも、これを望んだのかしら、ワタシは?”

 

そんな風に考えながら、ワタシはとまどっていた。

そう、ワタシは碇君の注意を引こうとしていた。

それほど、碇君に引かれていたのかもしれない。

 

そして、碇君に近いものを感じていたのかもしれない。

それでも、碇君にこれ以上、余計な事を喋ってはならない。

 

そのために、話を打ち切らなければならなかった。

 

「時間よ、いきましょ」

 

一方的にそう言って、会話を打ち切った。

これ以上、話していられなかったから

何を言ってしまうか解らなかったから

 

そして、

 

「さよなら」

 

そう言い残して、碇君から離れた。

というより逃げ出した。

 

あのときは、すこし自己嫌悪になった。

碇君が、呆然と見守る中ワタシは零号機に向かった。

碇君から逃げるようにして、ワタシはコクピットに乗り込んだ。

 

 

作戦では色々あった。

 

 

ワタシは、なぜか碇君を守るのに必死になっていた。

確かに、いつものワタシでも、同じように守っただろう。

 

任務だから

 

それが自分がいる理由だから。

 

だけど、あの時のワタシには、そんな事は関係なかった。

ただ、碇君が守りたかった。

ワタシは、何の疑問も無く、碇君の盾になっていた。

 

いや、疑問はあった。

どうして、碇君に対してそんな風に思えるのか解らなかった。

碇君が特別な人だと思うには、まだあまりにも彼を知らなさすぎた。

碇君を好きなのだと解るには、あまりにも自分を知らなかった。

 

何も解らないまま、ワタシは、碇君の盾となった。

零号機で持って、初号機に向かう敵の袈粒子砲を防いだ。

視界が白熱する中、ワタシは余計なことは一切考えなくなっていた。

ただ碇君を守ろうとした。

碇君の命を守るため、零号機と共に、その圧倒的な熱に耐えた。

 

そして、作戦は成功した。

 

零号機は、ぼろぼろになっていしまったが

 

 

「綾波!大丈夫!?」

 

ワタシの様子を確認しようとして、碇君がエントリープラグに飛び込んでき

そのとき、ワタシは呆気に取られた。

何故そんなに必死になるのか解らなかった。

どうして、そんなに心配なのか理解できなかった。

 

ワタシ自身、まるで他人事のように感じているのに

 

 

だけど、本当に嬉しかった

 

 

だけど、それ以前に、不思議でもあった。

 

”なぜ、こんなにも必死になれるんだろう?”

 

そんな風に疑問に思っていた。

ワタシは、自分でも間抜けだろうなと思うような顔で、いつまでも碇君を見ていた。

そんなワタシの前で、碇君は本当にほっとしているようだった。

そして、急に怒ったような顔になって

 

「別れ際に、サヨナラなんていうなよ」

 

と、そう言った。

その口調は、本当に怒っているようだった。

その顔は、安堵からいくらか緩んでいた。

そして、それ以上にワタシを責めていた。

 

「自分には何も無いなんて、そんなかなしいこというなよ。ぅぅっ」

 

そして、なぜか、泣き始めてしまった。

 

俯いて、ひたすら涙をこらえていた。

しゃくりあげていた。

こらえようとはしていたものの、泣いている様子を全く隠そうともしなかった。

ワタシは、しばらくの間、目の前で泣き始めた碇君を呆気に取られてみていた。

ただ不思議そうに眺めている事しかできなかった。

 

「何故泣いているの?」

 

やがて、ようやく話し掛けれるようになった。

そんなワタシの口から出た言葉は、間抜けな質問だった。

しかし、碇君は、そう聞いても泣き続けるだけだった。

そして、ワタシは、碇君が、答えないんじゃないことが分かった。

答えたく無いのではない事に気付いた。

答える事が無いんだという事をようやく理解した。。

そして、遅まきながら自分が何らかの反応を示さなければならない事にも気付いた。

 

”けれども、何と話していいものか解らない”

 

「ごめんなさい。こんな時どういう顔していいか、解らないの」

 

思いが、そのまま口に出てしまった。

本当に、思ったまんまだった。

だから、言ってから、すぐにしまったと思った。

それでもワタシは、碇君の方を向いて、返事を持っていた。

もう、端とかそんな事は一切関係なかった。

些細な事は忘れていた。

ただ、碇君の様子だけが気になっていた。

ワタシはとにかく、碇君の返事を待っていた。

 

「笑えばいいと思うよ」

 

碇君が、顔をようやく上げてそういった。

そのとき、ワタシは、なぜかその言葉に全く疑問を感じなかった。

ただ、

 

”ああそうだ”

 

とだけ、感じた。

 

その言葉を、そのまま受け入れた。、

ワタシは、碇君に微笑んだ。

そして、無理なく笑えた。

そんな、自然な笑みをワタシは浮かべていと思う。

あの時、ワタシは心から笑えた。

あれほど、喜びをともなった笑顔は、それまで顔に浮かべた事は無かった。

 

あれから、碇君を自然に受け入れるようになった。

 

 

 

 

学校の三者面談のときは、面白かった。

三者面談は三回目だが、あんなのは初めてだった。

 

ワタシは、碇君の勧めで、葛城三佐に付き添ってもらった。

本当のところ、そんなものが必要とは思わなかったけど、なんとなく嬉しかった。

 

二号機パイロットが来たときは、少しいらいらした。

碇君と仲がよさそうだったのが羨ましかった。

だから、ユニゾンの訓練のときはしてやったと思った。

 

そういえばあの人は随分とワタシにつっかかて来た。

人形に見えるワタシが嫌だったようだ。

実際、ワタシはあの頃、碇司令の人形のようなものだったが。

そして、あの人もかつて、誰かの人形だったのかもしれない。

かつての自分と重なるところのあるワタシが、嫌だったのかもしれない。

 

そして。

あの人も碇君が好きだったのか?

 

それでも、何度か作戦を共にするうちに、なんとなく仲間意識を抱くようになった。

何より、碇君が結構大切に思っているようだったから

碇君の事では、良くいがみ合いもした。

 

 

あの人が自信を失うまでは。

それまで、結構上手く付き合っていけたように思う。

そう、あの人が自分を見失うまでは。

 

第十四使徒の襲来は、すでに崩れかけていたあの人の自信に、追い討ちをかける形となった。

 

あの人の心がボロボロになっていく。

何もでき無かったのがつらかった。

もっともワタシのいたわりや忠告はあの人の神経を逆なでするだけだったが。

 

第十五使徒との接触で、あの人の心は、ずたぼろとなった。

心の奥を覗かれて

 

忘れていた過去

忘れていたかった辛い思い

目を背けていた真実

 

それらを、心の奥から無理矢理引き出され、そして見せつけられ、あの人の心の糸は切れてしまった。

糸の切れた操り人形のように、あの人のEVAは動くのを止めた。

あの人の心は、暗く固まり、沈んでいった。

 

そして、あの人はこの舞台から去ってしまった。

この、仕組まれた、悲惨な舞台から

 

 

第十六使徒の襲撃は色々な意味で大きな転機だった。

 

 

あの時、ワタシは初めて自分の寂しいという気持ちを理解した。

そして、初めてワタシは、自分の気持ちに気付いた。

使徒によって気付かされるのはちょっと皮肉だったけど。

 

碇君と一緒になりたい

碇君に抱かれたい

碇君と一つになりたい

 

あんな形でじゃなくて、自分の口で伝えたかった

今は心の底からそう思う。

 

また、あの時は初めて自分の事について知った。

 

だから、碇君と会えたとき、素直になれなかった。

 

全く別人の真似をした。

 

碇君に自分をこれ以上見られたくなくて

 

人でない自分を

 

もっとも碇君にはすぐ解ったみたいだった

そして、ワタシの正体に点いても、あの後、赤城博士がばらしたようだった。

 

だから、碇君はワタシを避けるようになった。

予想はしていたけど、つらかった。

 

碇君は追いつめられていた。

ワタシの事もまた、碇君を苦しめていた。

助けになるどころかつらくさせている。

その事も随分とつらかった。

 

 

最後のシシャが来たとき、ワタシはなぜかそれが誰なのか解らなかった。

 

ワタシと同じ人。

 

彼はそういった。

それがどういう意味かどうしても分からなかった。

 

それが解ったのは、彼が行動に移った後だった。

使徒として、彼はワタシ達の敵として行動した。

そして望む物を手に入れた。

死という安らぎを。

碇君の手にかかって彼は死んだ。

それは碇君を更に追いつめた。

 

 

最後のとき、ワタシは全て決断していた。

これからどうするか全てを

 

碇君の方は、完全にまいっていた。

多くのつらい出来事が、碇君の心を確実に蝕んでいた。

それでも、碇君によって事は起こされた。

 

そしてワタシ達は補完を完了させた。

 

あの時ようやくワタシは自分の思いをかなえた。

ようやく碇君と一つになれた。

 

 

 


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