NERVの、多分発令所のメンバーが集まって保安部員を使いつつLCLの湖の辺にいる。

ターミナルドグマの、もはやリリスのいない場所

 

シンジもワタシも、自分達が裸であることに気付いたのは、そんな中でだった。

  

我にかえって、体を隠すものを探したが、何にも無かった。

 

「あそこの船、なにか着るものがあるかもしれないよ」

「そうね」

 

どうにもできそうに無くて、お互い顔を見合わせて、どうしようかと思案し

結局未だにLCLの湖に浮かんでいた巡洋艦らしき船に乗り移って服を探すことにした。

 

あったのはいくつかの潜水服

そして士官服や水兵の服、いわゆるセーラー服

ホントウに色々と試してみた

サイズも合ったから

が、そんなお互いそんな様子がおかしくて、どちらからという訳でもなく、笑い出してしまった。

 

すでにワタシ達が船に乗り移ったことに気付いて、ゴムボートで乗りつけようとやってくる面々

彼らが呆気に取られて見守るみんなの前で、ひとしきり笑い合った。

 

そして、ワタシ達は、照れ隠しのついでにLCLの中に再び潜って、泳いだ。

 

みんなは、ワタシとシンジが、泳ぎながらじゃれ合うのをしばらく呆気に取られて見ていた。

 

本当のセーラー服は意外と水に浸かっても泳ぎやすいかと感心したりもした。

 

「泳ぐのは後でいいから二人とも上がってきなさい。」

 

 

やがて、いくらか機嫌の悪くなった副司令がこう叫んで、ようやくワタシ達はゴムボートのほうに行き、そちらに移ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新世紀
第9話


 

 

 

 

 

 

 

 

岸まで戻ると、青葉二尉がバスローブを渡してくれたので、それを着た。

ワタシ達は、ターミナルドグマから上の階層に上がるためモノレールに乗った後

大きな毛布を渡されたので、それに二人でくるまり寄り添って座った。

 

さすがに長い間この空調の利いたその地下空間でLCLをしたらせたまま濡れ鼠でいるには寒かった。

実はインパクト後、すぐにジオフロントは全機能が回復していたから

だから、二人身を寄せ合うと暖かかった。 

 

出発後、ワタシとシンジはまた恥ずかしさが戻ってきて、お互い照れ隠しに寝たふりをしていた。

 

ワタシ達は、モノレールに揺られながら、色々な事を考えていた。

 

 

 

 

「二人とも、よくやったな」

 

出発後、いくらかたってから、副司令がワタシ達にそういった。

この人はなかなか老獪でホントウの考えを老紳士した仮面で隠してしまう

しかし、なにも相手に必要以上警戒感を抱かせる必要も無いので、適当にうなづいておく

 

特に感情を押さえて話していたので、副司令がどのように思って話しているのかは解らなかった。 

ただ、この人が、様々な思いを抱いて、ここまでの計画を作り、実行してきたのは解っていた。

 

”すべてが終わって、この人はこれから何をするのだろう?”

 

なんとなくそんな疑問が湧いた。

そして“危険物”と判断しているだろうワタシ達をどうするのか?

これも気になる。

 

「シンジ君には、ずいぶんとつらい役を押し付けてしまったな。すまなかったね。そして、ありがとう」

 

ワタシがそんな事を思っているのとは裏腹に、随分と落ち着いたそして満足した口調で話している。

まぁ、一つ重荷がとれたことは間違い無いのだから、満足なのかもしれない

 

「それにしても、レイ。君が残ったのは少々意外だったな。君は形を失うか、碇らと共に行ってしまうかと思っていた」

 

大きな御世話である。

今度はワタシの想いなど考えもしないのか、そんな勝手なことをいい始めた。

何と言い返してやろうかしらと考えていたら、

 

「まあ、さっきの様子を見れば、何を考えて、誰のために、何を望んで残ったなんて、一目瞭然だったがな」

 

意味ありげに微笑んでワタシに言うのだ。

性格が変わったのではないだろうか、この老人は

言われて、恥ずかしくて思わずうつむいて、照れ隠しにシンジの胸に顔を埋めてしまった。

 

見上げてみると、シンジも随分と恥ずかしそうで、顔を真っ赤にしている。

 

「仲がいいことはいいんだが、これからはもう少し人目を考えた方がいいと思うぞ」

 

ワタシ達の様子をしてか知らずか、そんな風に行ってきた。

なんとなくからかわれている気がした。

いや、実際からかわれているのだろう

 

「副司令、あんまりからかうとかわいそうですよ。二人が」

 

副司令だけでなく、隣に座っていた伊吹二尉まで笑って言った。

 

”やっぱりからかっていたのね”

 

悔しかったが、それ以上にとても恥ずかしく

シンジとワタシはモノレールが着くまで、随分と肩身の狭い思いをした。

 

「それにしても、冬月さん。今回のことについて、随分と詳しそうだったけど」

 

シンジが、副司令にそんな風に質問をしたのは、モノレールがとりあえず医療用ルームのある階層に着いたときのことだった。

 

(先制攻撃は受けてしまったが、ここで相手の出方を見てみるのもいいかもね)

(ええ)

 

シンジの声無き声が、直接ワタシの頭に響く

ワタシは短く答えて、シンジとこの強かな老人の出方を見ることにした。

 

「随分詳しそうだったけど、補完のときのこと、覚えているんですか?」

 

それは、ワタシも気になっていた。

周りの面々は、何の事だか分からないといった顔をしている。

それはそうだろう

ここに補完計画のことなど知っているものなど、副指令しかいない。

そんな中で、この老人はワタシとシンジに向き直って言った。

 

「ワタシは、君たちが最後に何を考え、こう決めたのかは知らない」

 

口調はいつもの淡々としたものに戻っていた。

 

「ワタシは、最後にユイ君の幻を見た後のことは何も覚えていない」

 

他の者と同じだよ 

皮肉に付け加える

今度は少し自嘲気味だった。

 

「ただね、ワタシは十年前、ユイ君からどうしてEVAを作るのか、どうして自分が実験を行うか、彼女自身の意見を聞いていた」

 

昔を懐かしむように言い始める

まずいかもしれない

年寄りが昔を懐かしみ始めると長くなる

 

「だから、何と無く何があったもか解るのだよ」

 

(ほ)

(終わってくれたね)

(そうなの、年寄りの長話を聞かずにすんだの)

 

以外にもあっさり

再び淡々とした口調でそれだけ言うと、伊吹二尉にワタシ達のことをまかして、他の人たちと共に発令所に戻っていった。

 

なんとなく、しんみりとした気持ちになっていた。

 

ただ、葛城三佐が、こちらを睨むようにたまに見ること

そして伊吹二尉が色々と構ってくれるが、明らかに、隠そうとしているが明らかにおびえていることが気になった。

 

ともあれ 

一つの時が、確かに終わったのである。

 

これからがいったいどんな時となるのか?

 

そんな事に思いをはせていた。

 

 

が、あることを思い出してあきれた。

 

(それはそれとして、どうして発令所の主要メンバー全員がきてたの?)

(そうだね、何しに来たんだろ。忙しいはずなのに)

(それとも、どこか呆けたのかしら)

 

まったく呆れてしまったが、同時に嬉しかった。

ワタシ達が、少しは大事に思われているということを大いに実感できたのが

それがワタシの心を暖かいもので満たした。

 

たとえ、一時的な

あるいは表面的なことにせよ

 

 

 

 

 

それから、伊吹二尉が、いや臨時に昇進した伊吹一尉がワタシ達の健康状態をとりあえず簡単にチェックした後

ワタシ達に風呂に入るように行った。

どうやらワタシとシンジの世話係をまかせられたようだ。

 

ちなみに、医療ルームの奥の方を見てみると、セカンドチルドレンが、治療用のベットの上で眠っていた。

やはり検査にきていたらしい

心が回復したことは一時的なことだったようだ。

ただ、前に感じたような、廃人のような様子はそこには無かった。

 

随分と安らいだ寝顔をしていた。

 

二人静かにその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

ワタシは、最初、いつもどうり女湯の方に向かった。

いつものように、ロッカーの前に立って、服を脱ごうとした。

 

(そういえば、脱ぎ散らすのはよくない、シンジも気にしてた………)

 

とっさにそんなことを思った。

そして、あることを思い付いた。

ワタシは、服を脱がずに、女湯を出た。

 

そのまま隣にある男湯に向かった。

 

「一緒に入るの」

 

シンジがまだ風呂に入っていないのを確認して、ワタシはそういった。

シンジはすでにぬぎかけで、LCLに濡れたセーラー上下を脱ぎかけ

とくにズボンから脚を抜く体勢で固まった。

 

そんなことはお構いなく、ワタシは外に清掃中の看板を出し

諸所のカメラにはダミーの映像を流し

おまけでMAGIに気付かれない程度の弱いATフィールドで入り口を覆い

そしてシンジの服を脱がし、自分も脱いで

 

なんとなくそんな風に誘うのが恥ずかしくて、随分と顔が赤くなった。

それでも、どうにか動揺を隠そうとした。

 

「はやくするの」

 

そしたら、随分とぶっきらぼうな口調になってしまって、今度は自己嫌悪に陥っていた。

 

すると、

 

「そ、そうだね、一緒に入ろうか」

 

と言って、シンジが真っ赤になりながらも、ワタシの肩を抱いて、混浴の風呂の方に向かった。

 

「う、うん」

 

恥ずかしさと嬉しさで気が動転して

今までしたことも無いような返事をして、ワタシはしたがった。

シンジの体に触れているのが嬉しくて、ワタシはその肩に頭を預けた。

 

体を流したり、湯船に使ったり、全てが恥ずかしく、嬉しく

なにがなんだかわからなかった。

 

これは試練なの?

 

なんとはなしにそんなことを考えてしまった。

シンジと二人、背中合わせに並んで湯船に浸かりながら

 

こんな嬉しい試練なら、それもいいかも

 

おまけに、どうしてこんなに恥ずかしいのか良く分からなかった。


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